D+S FF-D New!夢物語


37 空へ



 吹き抜ける風が心地よい。天気にも恵まれて、どこまでも見渡せるほど空は澄んでいる。
 シドの最新鋭、エンタープライズに乗り込んだセシルは、全身で大空を感じていた。久しぶりの空の感覚が、震えるほど嬉しかった。上機嫌で傍らのアンへ視線をやると、やはり彼女もいつもより表情が明るい。一時は二度と戻れないと覚悟していたが、空はもはや彼の一部だ。シド自らが操縦する挺は、乗り心地も抜群だった。

「ああ、やっぱり空は良い」

 セシルが思わずそうこぼすと、隣で地図を見ていたアンがセシルを見上げてにっこり笑った。

「はい。やっぱり、セシルさんは空の上でないと」

 アンの言葉に、セシルは声を出して笑った。セシルは自分でもはしゃいでいることを自覚しているが、やはり嬉しいものは嬉しかった。
 赤い翼はゴルベーザに奪われてしまったが、飛空挺が手に入ったのは大きな前進だ。
 セシルとアンがまた視線を進行方向の空へ向けた時、彼らの視界に別の飛空挺が表れた。セシルもアンも見まごう事はないそれは、間違いなく件の赤い翼だ。

「早速お出ましじゃな! エンタープライズの威力、とくと見せてやるわ! 」

 鼻息荒く捲し立て、シドは大砲の照準を合わせ始める。だが、赤い翼は一向にこちらへ攻撃する素振りがない。様子が変だと感じたセシルは、シドの肩を掴んで動きを止めた。

「シド、待て」

 アンは操縦桿の脇に掛かっていた双眼鏡を取り出した。赤い翼を観察する。

「あれは……白旗」
「白旗じゃと? 」

 テラは訝しがって眉をひそめる。ヤンも腕を組み、じっと相手方を見つめていた。互いの挺はだんだん近づいている。
 セシルは赤い翼の前方に人が立っているのに気付いた。竜騎士の鎧を着こんだその人は、兜の奥からでも分かるほどの冷たい視線でセシルを睨み付けている。
 シドは可能な限りギリギリにエンタープライズを赤い翼に寄せた。互いの機体からプロペラの音が響く。
 もう、双眼鏡は必要ないほど近い。セシルは彼の名を呼んだ。

「カイン」
「生きていたか。セシル」

 カインは表情のない冷たい声で返事した。セシルの顔が悲しそうに曇る。それを間近で見ていたシドは、大声でカインを怒鳴りつけた。

「カイン、どういうつもりじゃ! 」

 しかし、カインは答えない。無言を貫き、マスクから見える口元が少し歪んだ。

「ローザは無事だろうな」

 セシルの問いを、カインはふんと鼻で嗤った。その瞬間、アンはカインからぞわりとするほどの殺気を感じた。

「やはり心配か」

 そう言ったカインの醸し出す雰囲気がより冷たく、鋭くなった。

 妙なほど殺気立つカインに、アンは一つの仮説を立てた。ファブールでクリスタルを奪われた時も、先ほどセシルがローザの安否を気にした時も、カインはローザが絡むと調子が狂う。
 ローザがカインの弱みだとしたら──しかし、アンの考えはそこで打ち消された。カインの提示した事に、アンは耳を疑った。

「ローザの命が惜しければ、トロイアの土のクリスタルと引換えだ」
「……何? 」

 カインが出した条件にセシルは驚愕した。仲間たちも到底受け入れられない。テラは顔を真っ赤にして怒り始めた。

「卑怯な手を……! 」

 じろりと睨み付けるテラをさらりと無視し、カインは赤い翼の操縦士に何やら指示を出した。すると、近い距離を保っていた赤い翼が、エンタープライズからゆっくりと離れ始める。

「お前たちがクリスタルを手に入れたらまた連絡に来る。いいか、必ずだ。ローザの身を案ずるならば」
「貴様……! 」

 ヤンは目を怒らせて、今にも飛びかかりそうだ。アンも悔しそうに唇を噛んでいる。だが、離れ行く飛空挺の上ではどうにもならない。
 このままではいけない。そう思ったアンは、カインを引き留めようとした。それとほぼ同時に、セシルも彼に向かって声を張り上げる。

「カインさん! 」
「目を醒ませ! カイン! 」

 アンの言葉はもちろんのこと、セシルの言葉にもカインの反応は無い。ただ鋭い表情と視線で対峙しているだけだった。

「話す事はそれだけだ」

 カインは表情を変えずに冷たく言い放った。くるりと踵を返し、そのまま甲板を歩いて挺の内部へと姿を消した。

 アンはふと、ミストまでの旅路を思い出した。カインは無口で、人当たりも決して良くはなかった。けれど、こんなにも冷たいと思ったこともなかった。短い付き合いではあったが、彼の変貌ぶりがアンには未だに信じられない。
 セシルはカインの姿を見えなくなるまで追った。そして、その後ろ姿が消えると辛く渋い表情をして、思い詰めるように目を閉じた。

「セシル殿……」

 ヤンはセシルを気遣った。かけるべき言葉は出てこないが、彼も同じようにうつむいた。

「カインの奴……」

 シドは未だ納得のいかない表情で操縦桿を操る。
 つい最近まで仲良くしていたはずの幼馴染達が敵対している不条理に、シドの思考はまだ追い付いていない。彼らを幼少から知る者としては、全く信じがたい事が起こっていた、

「トロイアに行こう。シド、舵を北西へ……」

 セシルは落ち着いた声で指示を出した。気は進まないが、選択肢は他になかった。

20190714




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