D+S FF-D New!夢物語


38 思いの丈を



 空が赤く染まり日が落ちるころ、セシル一行はトロイアに着いた。
 トロイアの街では、そこかしこで青々とした木々が生い茂り、あちこちで花が咲いている。それらは陽の明るい時間だとなおのこと美しいだろう。さすが森と湖の都と言われるだけの事はある。
 一行は宿を取り、旅の疲れを癒すことにした。そろそろ城も門が閉まる時刻だ。いくら急を要する旅とはいえ、クリスタルの事は明日に回さざるを得ない。
 テラとヤンは「疲れた」と早々に部屋へ引っ込み、シドは整備のためにエンタープライズに戻った。残されたセシルとアンは、揃って街歩きをする事にした。セシルは過去に仕事のために何度かトロイアを訪れていて、以前立ち寄ったパブへアンを連れて行こうとしていた。

「アンは、トロイアは初めてかい」
「はい。きれいなところですね」

 アンはキョロキョロしながら歩いていた。建物も、道の様子も多少古びているが、それが趣きとなっている。
 トロイアの街並みはどこか円みを帯びて女性的な美しさがあった。対してバロンは街も城もどこかゴツゴツして武骨だと、この時アンは初めて感じた。
 目の前の湖が夕日を受けてキラキラと光っている。見るものすべてが美しく、アンは楽しくて仕方がなかった。セシルも浮かれたアンを見ているのが楽しく、時折質問してくる彼女に彼の知る事は案内してやった。

 街を歩いていると、他の物よりも一回りは大きな建物の前に差し掛かった。造りは他の建物と同じだが、どこかけばけばしい。こういう建物は、バロンでは見かけない。アンは不思議そうに窓の奥を眺めた。
 建物の中では派手な衣装の女が、デレデレと鼻の下を伸ばした男にしなだれかかっている。似たようなカップルが他にも何組か見えるが、ただならぬ雰囲気を感じてアンはぱっと目を逸らした。

「セシルさん。ここはなんですか? レストランでもなさそ……あれ? 」

 アンはセシルを振り返った。けれど、そこに目的の人物はいない。代わりに派手な色のシャツを着た、妙なほど洒落た男が立っていた。
 アンはようやくセシルとはぐれたことに気がついた。

「お姉さんかわいいねえ。店に興味あるの? 」

 男は身を乗り出すようにしてアンに近づいた。強引にぐいぐい来る男に、アンは思わず後退りする。男と距離を取り、眉をひそめて不快感を露にした。けれど、男は全く動じない。わざとらしいほど優しい顔付きで、しきりにアンを誘い続ける。アンは目でセシルを探すが、全く見当たらなかった。

「せっかくだから見て行きなよ。ねえ」
「嫌。行かない」

 しつこい誘いをアンがはっきり断ると、男の顔つきが急に変わった。男は苛立った様子でアンの腕を掴むと、彼女にいきなり黒いカツラをばさりと被せた。

「あ! ちょっと、何を……! 」
「知り合いにバレるのが嫌なら変装したらいいんだよ。誰もわからないって、ほら」

 アンが驚いているうちに、男は片手で器用にカツラを整えた。黒いロングストレートヘアの出来上がりだ。
 その時、アンの腕を掴む男の手が、別の手で掴まれた。その手が更に男の腕を捻り上げると、男は小さく呻いた。

「僕の連れに気安く触らないでくれ」

 アンの日頃聞き慣れた声が男を咎めた。それはいつもより幾分低く、ドスが利いている。声を荒げることはないものの、男に怒りを伝えるには十分だ。

「セシルさん! 」

 アンはホッとしてセシルを見上げた。助かったと心から安堵する。
 セシルのお陰で腕が自由になった。被せられたカツラを無造作にはずし、男に投げ返す。その間に男は青い顔をして腕を擦り、店の中へ逃げていった。

「行こう」

 セシルは一言告げると、アンの手を引いて歩き始めた。普段並んで歩く時よりもスピードが早いが、早くここから抜け出したいアンは必死でついて行く。
 アンの手を握るセシルの手は優しい。けれど、彼は一度もアンを振り返らなかった。

 二人は目的のパブに入り、店の奥のカウンター席に並んで座った。セシルはミルクを2つ注文し、並んで飲む。だが、お互いに何も話さない。アンは気まずさから少し緊張していた。
 いつもなら、アンはセシルとの話題に悩むことはない。けれど今はセシルの雰囲気が硬く、ピリピリしている。アンが知る限り、これは珍しいことだ。
 アンが無理やり話題を捻り出そうとしていると、唐突にセシルが口を開いた。

「さっきは、大丈夫だったか? 」
「は、はい。驚きましたけど、大丈夫です。ありがとうございました」

 アン返事するとセシルは「そうか」とだけ言い、また黙ってしまった。沈黙が妙に気まずくて、アンはそわそわしている。

「僕は……」

 セシルがまた口を開いた。彼は言葉を選ぶように、言い淀んでいる。歯切れは悪いが表情はどこか吹っ切れて、決心を固めたような強さがあった。

「僕はずっと、君を探していたみたいだ。アン」

 セシルはミルクのグラスを置き、アンの方へ身体を正面に向けた。アンは口に含んでいたミルクをごくりと飲み込むと、じっとグラスの中のミルクの淵を見つめる。
 アンは今、とてもセシルの顔を見る余裕はない。恥ずかしいのと、黙っていた罪悪感が今さら涌き出てどうしようもなかった。

「瞳がよく似ているとは思っていたんだ。でも、さっきのカツラで確信した」

 セシルはアンの横顔をじっと見つめる。アンは顔が熱くて堪らない。隠すものが何もないので、うつむくしかなかった。

「君だろう? 収穫祭でぶつかったのは」
「……はい」

 アンは一言返すと、ちらとセシルの顔を盗み見た。彼は穏やかで、とても嬉しそうな瞳でアンを見ている。

「一目惚れだった。あの瞬間に」

 真剣な面持ちで静かに語るセシルに、アンもゆっくり顔を向ける。グラスも置いた。

「けど……いつからだろうな。黒髪の娘にもう一度会いたいと思っていたはずなのに、君が心から離れなくなった」

 セシルは「どちらもアンだったようだけれど」と言って優しく微笑んだ。そして彼は、アンの右手に彼の左手を重ねる。
 セシルの手のひらは暖かい。むしろ熱いくらいだ。アンは心臓をドキドキさせながら、セシルの次の言葉を待った。

「僕は、アンが好きだ」

 セシルはアンを見つめた。熱のこもった視線でアンをまっすぐに捉えている。アンの瞳はセシルのそれに吸い寄せるれるように向かい、しっかりと視線が絡んだ。

「どうかこれからも、いつもそばにいてくれ」

 アンは完全にノックアウトされた。胸がいっぱいで、もう何も考えられない。ときめいていたのは自分だけでなかった事が、とにかく嬉しかった。女の自分を恨んだ事すらあったのに、今や女で良かったと心から喜んでいる。

 セシルの顔がアンにゆっくり近づいてきた。彼の大きな手がそっとアンの左側の頬を包む。アンはごく自然に、瞳を閉じた。
 唇が、セシルの熱に覆われる。やがて離れると、彼はまだ名残惜しそうな表情をしていた。
 アンの頬から離した手で彼女の髪を優しく梳き、今度はその髪にも口付けた。

20190716

遂に!やってしまった!決定打!
不自然でなければいいんだけど
しかしなんでパブでミルク
実はカクテルとか?笑
個人的にセシルさんは下戸ではなさそうと思ってる
明日は登城するし……飲まないでおこう、とか笑
なーんてな



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