D+S FF-D New!夢物語


39 砂漠の王子



「ダムシアンの生き残りが流れ着いている。本人は王子と名乗っているが、証拠は何もない」

 そう言ったのは、自分がその男の担当だと話す兵士だった。
 トロイア城で八人の神官たちとの謁見を済ませたセシル一行は、城の中で噂を聞いた。
 ダムシアンの生き残りで王子とくれば一人しかいない。だが、遠く離れた異国で、着の身着のまま流されている。身元の確認をするのは難しいだろう。一行はその人物が本当にギルバート本人かどうか、確認しに行くことにした。

 担当の兵士だという者に「知り合いかもしれない」と申し出れば、喜んで応じてくれた。いつまでも身元不明では気の毒だが、王族だと言われるとその名を騙る者にも警戒が必要になる。
 兵士は一行を目的の人物の元へと送り届けた。本人かどうか、セシルもアンも少し緊張した。

「失礼します。面会です」
「ああ、ありがとう。どなただろう」

 パーテーションの向こうから、聞き覚えのある声が聞こえた。セシルはアンと目を合わせると、互いに微笑んだ。テラとヤンも顔が綻ぶ。シドは初対面だが、彼らの表情で正しく知り合いだろうと察しをつけた。

「ギルバート! 」

 セシルはパーティションから顔を出すと、にっこり笑った。失った人が多い中、ギルバートの無事がとても嬉しかった。

「セシルか……無事だったんだね。よかった。僕も、戦うよ……」

 ギルバートはそう言ってベッドに腰掛けようとする。けれど、実際にはバランスを上手く取れずにもがいていた。立ち上がるどころかベッドから落ちそうになっていて、セシルが咄嗟に助けに入った。
 落下を免れたギルバートが冷や汗を拭っていると、テラが呆れたように咎めた。

「そんな身体で何が出来る! 大人しく寝ておれ! 」
「テラさん……すみません。僕がアンナを殺したも同然です……」

 ギルバートの言葉に、テラは言葉を失う。彼は今、アンナの事を攻めたつもりではなかった。だが、ギルバートとて無かった事にはできない。

「本当に、うう……」

 ギルバートは呻いた。落ちそうになった衝撃で、傷が開いたと彼は言う。アンはずり落ちたシーツを拾い上げ、ギルバートの足元に掛けてやった。

「ギルバート殿、今は養生せねば」
「ヤン、君も無事だったのか。じゃあ、リディアも? 」

 ギルバートの質問に、ヤンは苦い顔をしてうつむいた。リディアはここにはいない。

「面目ない」
「そうか、可哀想に」

 ギルバートも悲しい顔をして、シーツの端をぎゅっと握った。そして、はっとしたようにアンの顔を覗きこんだ。

「アベル? 君、女の子に戻ったんだね……そうだろう? 」

 ギルバートは嬉しそうに、少し興奮してアンに問いかけた。手を伸ばして、本当ならアンの肩にでも置こうとしていたのだろう。だが、彼の傷だらけの身体ではそれもままならない。
 アンは微笑んだ。

「ありがとう。本当の名前は、アンなの」

 アンが少し恥ずかしそうにそう言うと、ギルバートはさらに喜んだ。

 ギルバートが知るアベルは無理して男装していた上に、声まで失っていた。彼はとても心配していたが、しばらく会わない内にすっかり元通りになっていた。
 その時、セシルは少し焼きもちを焼いていた。ギルバートが既にアンの性別を知っていた事も、アンと秘密を共有していたことも面白くない。
 セシルはそっとアンの手を握った。彼やアンの背後にいるテラやシドからは見えない位置で、且つギルバートには見ようと思えば見える位置だ。
 何て子供じみたことをしているんだ、僕は──などとは思いながらも、何か示しておきたい気持ちがセシルの中でむくむくと沸いている。

「そうか、よかった。それに、アン。君は、とても……幸せそうだ」

 そう言うギルバートの視線は、一瞬だけアンの手元に向いていた。セシルは目を逸らしているが、アンの手はセシルの手としっかり繋がれている。
 アンがはにかんで頷くと、ギルバートは満足そうに笑った。

「ギルバートは、知っていたのか? アンのことを……」

 セシルが尋ねると、ギルバートはセシルに顔を向ける。

「うん。知っていたよ……仕草を見てればすぐにわかった。本人は必死で隠していたから、黙っていたけどね」

 ギルバートの答えに、他の男性陣は驚愕した。
 アンの性別は他の誰もわからなかった。なのに、彼はあっさり見破っていた。その上アンを庇っていた事実にすら気付かなかったのだ。
 驚きで沈黙する男たちに釣られて、部屋に静寂が訪れる。ギルバートは話を元に戻した。

「……皆が戦っている時に、僕は情けないよ」

 そう言ってため息をつくギルバートに、シドはどんど自身の胸を叩いた。

「大丈夫じゃ! このシドとエンタープライズが付いとる! 聞けばセシルやローザが世話になったそうじゃ。 ワシに任しとくんじゃな! 」
「あなたがシド? じゃあ上手く飛空艇を──」

 ギルバートはそこで言葉を切った。話しの途中で、メンバーが一人足りない事に気付いたのだ。

「ローザは? 」

 ギルバートがセシルの顔を見た。二人とも、硬い表情をしている。

「このトロイアの土のクリスタルと引換え、ということに……なってしまった」

 ギルバートの表情が歪む。彼が健康なら、拳のひとつでもベッドに叩きつけそうな勢いだ。

「でもクリスタルは、今はダークエルフに取られてしまっていると神官さんたちが仰ってた」

 アンがそう言うと、ギルバートは考えを巡らせる。記憶の糸を手繰るように、何か思案している。

「ダークエルフ……磁力を操る力を持っていたはず……」

 ギルバートはしばらく独り言を言いながら考えをまとめると、枕元に措いていた小さな袋から一枚の葉を取り出した。そして、その手をセシルに伸ばす。けれど彼は上手く動けない。セシルの方から近づいた。

「セシル、これを持って行ってくれ」
「これは? 」

 ギルバートは手のひらほどの大きさの葉をセシルの手のひらに乗せて、軽く握らせる。

「僕の代わりさ。持って行ってくれ。きっと、必要になる」
「わかった。ありがとう、ギルバート」

 セシルは葉を腰に下げている道具袋に仕舞った。ギルバートもそれを見届けると、仲間たちにそれぞれ視線を向ける。

「ローザを、必ず」

 ギルバートに一行は強く頷いた。

 話が終わると、ギルバートは力尽きた。ズルズルとベッドにへたり込み、シーツがまたズルリと滑り落ちた。アンが再度拾って、またかけ直す。
 怪我をして、海に流されて衰弱し、故郷やアンナのことで心労もあった。もとからあまり丈夫ではないギルバートは正に満身創痍で、トロイアの医師からは絶対安静を言い渡されている。
 仲間たちに会えた高揚感と義務感、罪悪感に奮い立たされていた身体は、かなり正直に悲鳴を上げたのだった。

20190722
6長編を書いてからまたこっちを書いてました。
スマホ一本で執筆してますが、6のセリスと4のセシルって似てるからフリックする時めっちゃ混乱します。
セリスと書くところをセシルと何回も書いては消し、セシルと書きたいのにセだけ合ってる変な名前になったりして大変です。
あと、今のスマホにしてからやたら変換ミスが増えたんですが、機種でなりやすいとかあるんかしら。
年取ったとか言わないで……!
うん、4とは全く関係ない。



D+S FF-D New!夢物語
- 39 -

prevnext

しおりを挟む

MODORU

↓選択できます↓