44 三人寄れば
カインの想いに、ローザは全く気付いていなかったかというと、実はそうでもない。セシルがいつまでもローザに振り向かなかったのと同じで、やはりローザも敢えてセシルだけを見ていた。幼馴染仲良し三人組は、見事にすれ違いの三角関係に陥っていたのだ。
「カイン……」
ローザはカインの告白に、何も言葉を返せなかった。今の今まで、ローザはセシルに夢中だったし、カインと向き合おうとしたことも無かった。どちらも大事な友人ではあるが、色恋となると別だったからだ。けれど、こんな時だとはいえ、ローザはこんなにも真摯に告白をされたのも初めてだった。
どんな風に迫っても、セシルはいつものらりくらりとかわしてゆく。そして、カインは自分に気がある素振りをみせながらも、そんな自分を見ても顔色一つ変えなかった。ローザは、そこがつまらないと思っていた。けれど、それこそが彼の誠実さなのかもしれない、とローザは思い始める。
ローザが難しい顔をして考え込んでいるうちに、セシルもカインも黙ってしまった。二人とも気まずそうにしている。三人でいることが普通だったのに、今にも崩壊しそうだ。恋の行方はともかく、それはローザの望むところではない。ローザは腹を括った。
「一緒に戦いましょう。 カイン……」
カインが泣きそうな顔になった。彼は心の底からホッとして、それでいて申し訳無さでいっぱいだった。
「すまない! 許してくれ、ローザ! セシル!それと、アベルもだ! 本当に、すまな──」
そこまで言うと、カインは辺りをキョロキョロと見回した。何かを探しているが、見つからない。
「カイン、もしかしてアベルを探しているのか? 」
セシルが問うと、カインはそうだと頷き、何故いないのかと不思議な顔をする。アンが恐る恐るセシルの隣へ進み出ると、カインと目が合った。
「…どういうことだ。アベル、なのか? 」
ローザもアンの存在にようやく気が付いた。服装はともかく、性別が変わっていることにカインもローザも混乱している。
「は、はい、そうです。黙っていて、すみませんでした」
いつかセシルにしたように、アンは勢いよく頭を下げた。誰かに再会する度に謝ってばかりだ。もう誰も欺くまいと、アンは心に刻む。
カインは驚きで凍りついたようになって、口をぱくぱくさせている。ローザはアンに近づいて、検分するようにじっと眺めた。
「まさか、女性だったなんて」
「アン、だ。アベルでもアンでも、僕らの仲間さ」
セシルはアンの肩にぽんと手を置いた。ローザはまだ何かを言いたそうだったが、シドがしびれを切らし始めた。
「ええい!ごちゃごちゃやっとる場合じゃなかろーが! ここは危険じゃぞ! 」
ここは敵陣だ。長居は得作ではない。セシルはカインに目配せをする。
「行くぞ カイン! 」
カインはまだ悩んでいた。本当に同行しても良いのかと、セシルを見る。
「竜騎士である君の力が要る! 共にゴルベーザと戦ってくれるな? 」
セシルは揺らがない。他の仲間たちも多少の動揺はあったものの、すでにカインを受け入れている。カインは頭を下げた。
すると、一行の頭上から笑い声が響いた。女の声だ。
「ゴルベーザさまに手傷を負わせるとは、お前たちを見くびっていたようね! 」
カインは苦々しい顔で頭上の声を仰ぎ見る。
「ゴルベーザ四天王、風のバルバリシアだ! 」
セシルたちはハッとして臨戦態勢を取った。けれど、相手はまだ姿を見せない。彼らはキョロキョロと探しながら武器を取った。
「カイン。お前も寝返ったようね。それだけの力を持ちながら! 」
バルバリシアは姿を表した。彼女の周りでは、常に強いつむじ風が轟々と唸っている。
ふわふわと一行の頭上を飛ぶ様は優雅だ。
「寝返ったのではなく、正気に戻ったと言ってもらおうか、バルバリシア! 」
「なれなれしく呼ぶでない! こんな事なら、お前もローザも消しておくべきだったわね。 だが、メテオの使い手ももういまい。皆揃ったところで、仲良く葬り去ってやろう! 」
「フッ、空中戦はお前たちだけのものじゃない! 」
そう言うと、バルバリシアはさらに自身の周りを渦巻く風を強くした。正面からは何も見えなくなってしまう。セシルの剣やヤンの拳は全くとどかず、ローザの矢も、アンの魔法も弾き返されてしまった。もちろん、シドも全く太刀打ちできない。
「だめだ、正面からは風で攻撃できない。どうすれば…… 」
セシルが焦っていると、カインは槍を構えた。
「任せておけ」
そう言うなり、カインは高く高くジャンプした。そして、落ちる勢いを活かして槍を繰り出す。竜騎士独特の戦法だ。
カインはバルバリシアの脳天を狙った。彼は確実に仕留め、バルバリシアを倒した。
バルバリシアから風が消えた。宙を舞っていた身体はどさりと床に投げ出される。
「カイン、貴様…… この私を倒しても……最後の四天王がいる! このゾットの塔諸共消え去るがいい! 」
苦しげな様子とは裏腹に、バルバリシアは最後に高笑いをしながら崩れ去った。木霊する笑い声と共に、塔の壁のレンガがパラリと落ち始める。
「く、崩れる! 」
レンガがどんどん落ちてくる。元々空の上にできた塔だ。逃げ場はない。一行は一斉に天井を見上げた。
レンガの一つが、アンの上に落ちて来た。アンよりも早くセシルが気がついて駆け寄るが、レンガが落ちる方がもっと早かった。
「アンっ! 」
レンガはアンの頭に直撃した。声もなく倒れるアンを、セシルは必死で抱きとめる。
セシルは掌にぬるりとした感触を覚えた。手のひらが赤い。血だ。アンはぐったりして、意識が朦朧としている。セシルが支えていないと崩れ落ちそうだ。
セシルは戦慄した。血が逆流しているかのような感覚だった。
「くそッ! 」
成すすべもなく、カインは床を拳で思い切り叩きつけた。シドはぎゃあぎゃあと騒ぎながら墜ちるレンガから逃げ回っている。
そんな時、ローザは大声で皆を呼んだ。
「私につかまって! テレポで脱出するわ! 」
セシルはアンを抱えてローザの元へ走った。全員がどこか触れ合っていることを確認したローザは、テレポを唱えた。
辺りは白い柔らかな光に包まれる。空間が歪み、ふわりと浮いた瞬間、全員が塔から離脱した。
04/25/2020
D+S FF-D New!夢物語
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