D+S FF-D New!夢物語


45 決着



「ここは……」
「バロンのあなたの部屋よ」

 見慣れた目の前の光景に、セシルはほっと息をついた。ローザの答えを聞くまでもなく、空気も僅かな匂いも全てが馴染んだものだった。
 出奔してからこれまで、カイナッツォを倒した後ですららセシルは私室を訪れることはなかった。何ヶ月ぶりに戻ったか分からない。
 とっくに押収されているかと思っていた私物も、セシルがここを出たときのままだ。まるで時が止まったかのようである。

 セシルはアンを自分のベッドに寝かせた。白いシーツがみるみる赤く染まってゆく。

「偽もんの王も倒したし、ここならもう安心じゃろ! さて、ワシは医者を呼んでよこう」

 シドはバタバタと部屋を出て行き、大声で医者だ医者だと大騒ぎしながら走って行った。

 セシルは自分でも、どうしようもないほど動揺している事に焦っていた。とりあえずアンを寝かせたものの、オロオロするばかりでどうしていいかわからない。そんな自分にまた焦るが、頭がまともに働かなかった。

 ヤンはベッドサイドにあったシーツを取り出した。それでアンの傷を押さえるが、たちまち赤く染まってゆく。白かったシーツはあっという間に真っ赤に変わった。
 ヤンは新しいシーツをセシルに持たせて押さえさせると、新しいタオルやシーツをあるだけベッドの上に出した。セシルはベッドの脇に跪き、ひたすらアンの傷口を押さえる。

「清潔な布はありますかな? まだまだ必要ですぞ」
「こっちだ」

 カインがヤンを先導する。ついでに水も汲もうと、バケツを抱えてヤンとカインが連だって出て行った。
 セシルは血の気の引いた顔でアンの手を握った。アンの手はくたりとして力がない。いつもよりずっと小さく、頼りなく感じた。

「アン」

 アンの痛々しい姿に、セシルは心底参っていた。ただうろたえるだけの自分に軽蔑すら覚える。

「見せて」

 ローザがアンの側に来た。セシルが少し移動してローザに場所を譲ると、ローザはアンの額に手を当てる。額は熱を持ち、髪の生え際は玉のような汗で濡れていた。
 ローザはケアルラを唱えた。アンの傷はきれいに塞がった。だが、顔色は良くない。血を流しすぎたのだろうと、ローザは検討をつける。

「ありがとう、ローザ」

 セシルは立ち上がりローザの隣に並んだ。

「わたしは白魔道士。目の前の苦しんでいる人を助けただけ……」

 ローザは背の高いセシルを見上げた。彼女は意を決した表情をしている。さらに、緊張で少し硬くなっている。

「好きなのね、この子の事」
「……ああ」
「ずっとあなたが好きだった。ずっと、あなたを見てきた……」

 ローザの目から涙がボロボロとこぼれ落ちる。ずっと押し留めてきた想いが涙になって溢れてくるようだ。

「あなたがこんなに憔悴するところなんて初めて見たわ。ミシディア遠征の時ですら、もう少し落ち着いていたのに」

 止めどなく溢れる涙を拭いながら、ローザは視線をセシルから逸らした。

「こんなの、見せられたら……諦めるしかないじゃない」
「……すまない、ローザ。僕は──」

 ローザはふるふると頭を振った。

「言わないで。もうわかってるわ」

 ローザはとりなすように、無理やりにでも微笑んで見せた。

「少し疲れたわ。もう、家に戻るわね」

 ローザはそう言って、足早に部屋を出ていった。セシルはローザを見送ると、思わずため息をついた。
 いつかはっきりさせなければならなかった事だ。それをローザの好意に甘えてうやむやにしてきたのは、他ならぬ自分だ。ローザを傷付けない方法を考えていたはすが、結局必要以上に傷つけた。それに、カインのローザへの想いも、セシルは全く気が付いていなかなかった。
 セシルはまた頭を悩ませる。大切な友を大切にしたいだけなのに、どうも上手く行かない。
 セシルは後悔の念に飲まれていった。

2020/04/26



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