53 こんなに大きくなりました
最早ここまでなのか。セシルは悔しさでギリギリと歯噛みする。
身体はゴルベーザの術によって全く動かないし、仲間たちは全員倒れた。最早何の望みもない。
だが、好機は突然やってきた。白いドラゴンが現れて、今まさにセシルを歯牙にかけようとしていた黒竜に霧を浴びせた。黒竜は苦しげに顔を歪めると、次第に身体が崩れ始める。ドラゴンは黒竜をあっさり倒してしまった。
「ド、ドラゴンだと。黒竜を霧の力で消し去るとは」
狼狽えたるゴルベーザは、現れたドラゴンの正体を探っている。すると、今度は溌剌とした声が降ってきた。セシルのよく知る声だが、同時に多少の違和感を感じる。彼が知るよりも、随分大人びて聞こえた。
「大丈夫、もう動けるわ! 」
「その声は、まさか、リディアか!? 」
セシルは身体を起こした。言われた通り、確かに動ける事を確認しながらさっと立ち上がる。すると、ドラゴンからリディアが飛び降りて、セシルの目の前に着地した。
リディアはすっかり大人の姿になっていた。海で見失ったのはほんの数カ月前なのに、もうすっかり幼児でも子供でもなくなっている。
呆気に取られるセシルにリディアは目配せすると、臨戦態勢を取った。セシルははっと我に返ると、二人で攻撃しながら仲間たちを回復する。体制を整えると、そこからの決着は早かった。
ヤンの蹴りが決まり、彼が離れた瞬間にアンの魔法剣がまともに入った。さらにカインのジャンプ、ローザの弓も冴えている。
最後にセシルの袈裟斬りをまともに喰らったゴルベーザは、遂に地に這いつくばる事となった。
「私が負けるとは……」
ゴルベーザはそう言うと、力なく首を垂れた。
「倒した……。 ゴルベーザを倒したぞ! 」
これまで負け通しだったゴルベーザに勝ててしまった。セシルは信じられない気持ちで仲間たちと喜びを分かち合う。皆一様にホッとした気持ちで、クリスタルを守れた事に喜んでいる。
「リディア! ありがとう! 本当に無事でよかった」
アンは改めてリディアの姿を確認すると、感極まって涙を溢した。
生きていてよかった。大きくなって。でもちょっと大きすぎる──などと、言いたいことはたくさんあるが涙で声にならない。そんなアンの隣でセシルは優しく微笑み、アンにハンカチを渡してやった。セシルも大泣きする事こそないが、アンと同じ気持ちだ。
しかし、当のリディアは目が点になっている。おいおい泣くアンに唖然とし、どう対応すべきか迷っていた。
「ねえ、あなた誰? わたし、知らないよ」
リディアの困惑顔に、アンの涙は瞬時に引っ込んだ。
リディアと旅をしていた頃、アンはまだアベルとして通していた事を思い出した。さらに、当時と比べるまでもなく、最近は随分と女に戻ってしまっている。
何から話そうかと迷っているアンよりも先に、セシルが口を開いた。
「リディア、彼女はアベルだよ」
セシルがアンの肩を抱くと、リディアは素っ頓狂な声を上げて驚いた。
「えええっ? アベルって、オカマだったの?」
「ぶっ」
今度はアンが唖然とする番だった。もしも水を飲んでいる時だったら、目の前のリディアをびしょ濡れにしていただろう。流石にまさかオカマだと言われるとは思っていなかった。
セシルはアンの肩を抱いたままぽかんとし、カインに至ってはは大声で笑っている。ヤンとローザもクスクス笑っているのを見て、リディアは小首をかしげた。
「どうして笑うの? でも、すごいね。本当に女の子みたい」
リディアは感心した表情で、アンの姿をしげしげと眺める。
「違うの、リディア。わたし、本当に女なの。黙っててごめんね」
アンがそう言うと。リディアは一秒ほど動きを止めて固まった。やがて思考回路が繋がると、また大声で驚いた。
リディアはファブールの海でリヴァイアサンに飲込まれた後、幻獣の住む世界・幻界に連れて行かれていた。リディアはそこで修行を積んで、黒魔法と召喚の技を磨いた。
しかし、幻界は人が住む世界とは時間の流れが違った。リディアは人間界では立った数カ月だったはずが、すっかり大人になっていた。
「ところでセシル、彼女は? 」
カインがセシルに問うた。リディアと殆ど接点のなかったカインは、まだピンと来ていない。
「ミストの村のリディアだ」
「……あの子供!? 」
カインは息を飲んだ。かつて自分達が殺そうとした子が半年間ほどで大人になった。それだけでも信じられないのに、今度は自分達の危機を救ってくれた。
「でも、何故僕たちを。僕は君の母さんを──」
セシルは沈痛の面持ちで俯いた。彼はミストを滅ぼしてしまった事に、今尚心を痛めている。ミシディアの事も同じで、せめて罪を償いたいのに、むしろ助けられてばかりだ。
アンはそっとセシルに寄りそった。アンとて同じ気持ちである。ゴルベーザに嵌められたとはいえ、実行犯は自分たちなのだ。
けれど、もうリディアはセシルたちを責めようとはしなかった。
「言わないで! 幻界の女王様に言われたの。 今、もっと大きな運命が動いているって。あたしたちが立ち向かわなくちゃ いけないって」
リディアは今にも泣きそうな顔をして言った。けれど、瞳には強い意志が宿っている。
「リディア」
セシルは申し訳なさと感謝と頼もしさでいっぱいだった。互いに微笑み合うと、さらに打ち解けられたように思えた。
だが、和やかな雰囲気は瞬時に打ち消された。ゴルベーザがいつの間にか起き上がっていたのだ。
セシル達が気付いた頃には、ゴルベーザはクリスタルの安置されている台まであと一歩といった所まで来ていた。フラフラしながらも、ゴルベーザは確実に歩を進めている。仲間たちは必死で後を追ったが、あと一歩が遅かった。
「私は、死なぬ! 」
そう言って、ゴルベーザはクリスタルを手に取ると、さっと消えてしまった。
2020/05/22
D+S FF-D New!夢物語
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