57 忍びの民
セシルたちはエブラーナの洞窟にやって来た。
シドの言い付け通りにバロンへ帰り、技師達に会うと、この洞窟まで行けるようにと飛空艇をさらに改良してくれたのだ。
セシルは何度か技師たちにシドの事を話そうとした。けれど彼らはシドの息災を信じて疑わず、全く聞く耳を持たなかった。セシルたちも諦めて、とりあえずそういう事にしてバロンを出てきたのであった。
洞窟を進むと開けた場所に出てきた。所々に松明も設置されていて、辺りは明るい。この事が一行をほっとさせた。
「人の手が入っているのか……?」
セシルはぐるりと辺りを見回した。よく見れば、松明の他にろうそくが灯されているところもある。
「しかし、こんなところに誰が」
カインは不思議そうに、ろうそくの一つを眺めた。ローザもそこへ加わって、しげしげと観察し始めた。
アンはリディアと共に松明を見ていた。見たところ普通の松明で、特に変なところはなさそうだ。その時、何かが勢い良く飛んできて、アンの両脇を掠めて行った。ドスドスと鈍い音がして、アンもリディアもギョッとする。驚いて振り返ろうとするが、アンは壁に縫い止められたように動けなくなった。
すると、同時に真っ黒い衣装に身を包んだ男達が躍り出た。彼らはそれぞれ抜き身の刀の切っ先をセシル達に向けている。
「何やつ! ……なんだ、人間か」
そう言うと、黒装束の男達はどこかほっとした様子で緊張を解き、刀を鞘に収めた。
「相すみませぬ。魔物供を通す訳にはいかぬ故」
男たちは済まなさそうな顔をする。
一方、セシル達は驚いていた。まさかと思っていたが、本当に人間が出てきたのだ。驚きすぎて声も出なかったが、セシルは動きを封じられてジタバタしているアンに気が付いた。
「アン、怪我はないか? 」
「大丈夫です。びっくりしましたけど……」
セシルはアンを壁に縫い付けている物を引き抜いた。それは見たところ金属製である事はわかるのだが、星のような形をしている。恐らく武器なのだろうが、セシルもアンも初めて見るものだった。
「これは……? 」
二人して首を傾げていると、男たちの一人が近付いてきた。
「これは手裏剣と申す物。我らの武器の一つだ」
「手裏剣? では、貴方たちは……! 」
セシルはハッとした顔で男たちを見ると、男は大きく頷いた。
「我々は誇り高きエブラーナの民。城を追われ、今やこの地が我らの地」
リディアは息を飲んだ。リディアもまた、村を焼け出された一人である。
「この先に、生き延びた者たちが逃げ込んでいる。だが、食料も残り少ない。 いつまで保つやら」
男はそういうと、セシルから二枚の手裏剣を受取った。
「我らはエブラーナの忍びでござる。魔物が来ぬよう、ここにて見張りを任されておりまする。まさか人間が来るとは思いもよらず、ご無礼をお許し下され」
忍びはアンに頭を下げた。
忍びたちはセシルたちをエブラーナの民が落ち延びているという場所まで案内した。そこでは民が避難していて、かなりの大人数だった。
怪我人を抱えながら命からがら逃げてきたというが、老若男女問わず元気そうな者が多い。セシルたちは驚いた。ダムシアンもミストも壊滅してしまったが、エブラーナの民はこうして逞しく逃げ延びている。
世界の一般教養として、エブラーナでは忍術と呼ばれる不思議な技を使われている。そして、それを扱う者を忍者と呼ぶという事は、広く知られていた。だが、民衆までもがこんなにも逞しいとは、誰も思っていなかったのだ。
「エブラーナの皆さんはすごいですね、セシルさん。こんなに大勢生き延びたなんて」
アンは、敗走しながらも決して希望を失わない民衆に感動していた。
「ああ、素晴らしい事だ。それにしても、忍術とはどういう物なのだろう」
アンを襲った手裏剣も、相当な腕が必要だとセシルは見ている。アンを傷付けず、且つアンの動きを適確に動きを封じていた。しかもそれまで一切気配を感じなかった。どれもこれも、かなり精巧な技だ。
「この先、何があっても敵には回したくないなあ」
「本当に。仲間だと心強いでしょうけれど」
セシルとアンはエブラーナの忍術に思いを馳せた。まだ見た事はないが、協力関係を結ぶことがあできればきっと強力な味方になるはずだ。
「ルビカンテの本拠・バブイルの塔に通じる抜け道です。若様が様子を見に行かれましたが、帰りが遅すぎる」
忍びの一人が憂鬱そうな顔で、抜け道を見つめてため息をついた。
「それは心配だ」
セシルは仲間たちに目配せする。もちろん、皆行く気だ。
カインが憂鬱そうな忍びに声をかけた。
「俺達もルビカンテに用がある。エブラーナの若君も見て来よう」
忍びはぱっと顔を輝かせた。
2020/06/15
ようやくエブラーナに参りました。
若にももうすぐ会えまする。
逞しいなあ、エブラーナ。すてき。
D+S FF-D New!夢物語
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