58 手を組もう
轟音と共に炎が巻き上がり、巻き込まれたチリが爆ぜる。明らかに魔力で練り上げられたそれは、暗い洞窟に太陽が昇ったと錯覚するほどの激しさで渦を巻いていた。
セシル一行は洞窟の奥へと進むうち、炎が轟々と燃えている現場に遭遇した。しかしあまりにも炎が激しいために、一行はひとまず退避せざるを得なかった。それぞれ岩陰に身を隠さなければ火傷しそうなほどの熱風が吹き荒れている。こんなものをまともに浴びればひとたまりもないと、アンは思わず身震いをした。
「セシルさん、何者でしょうか。すごい魔力を感じます」
ゴルベーザほどでもないが、それでも凄まじい魔力をひしひしと感じたアンは急に恐ろしくなった。背後にいたセシルを振り返り、アンはぎゅっと身を固くする。するとセシルの腕がするりと伸びて来て、アンをなだめるように抱きしめた。
「僕には魔力はわからないが、凄まじい炎だというのはわかる。恐らくゴルベーザの配下なのだろう」
アンは静かに頷くと、セシルは炎を睨みつけた。
アンもセシルにつられて炎に視線を戻すと、炎はだんだん勢いが衰えてきた。するとその中に人影が見え始める。同時に気付いたセシルも息を飲み、二人はハッとした顔で互いの顔を見合わせた。
「確か、エブラーナの人々は若君が居なくなったと言っていたな」
「ええ、もしかして……」
セシルとアンはもう一度炎の中を見た。今、炎に焼かれているのはエブラーナの王子ではないか。年格好は聞いた話と一致している。さらに王子は喧嘩っ早いのが玉にキズだという。二人の予想は、ほぼ確信に変わった。
炎が消えた。燃え残った何かが未だプスプスと燻る中で、満身創痍の若い男がヨロヨロと座り込んだ。
「ち、きしょう」
若い男は無残なほどにあちこち火傷している。忍び装束と思われる服もボロボロだ。けれど、目は燃える闘志でギラギラしている。その鋭い視線の先には、先日バイブルの塔で見かけたルビカンテが悠々と立っていた。
「確かに自信を持てるほどの強さだ。しかし、この私にはまだ及ばぬ。腕を磨いて来い。いつでも相手になるぞ」
そう言うとルビカンテは赤いマントをさっと払った。翻るマントに隠れるように、ルビカンテはすっとその姿を消してしまう。
傷だらけの男はふらつきながらもルビカンテを追おうとするが、最早自分の身体も維持できないほど弱っていた。グラリと身体が傾くと、あっさりと地面に崩れ落ちた。
「待ち、やが、れ……」
男は震える手を前へ前へと伸ばすが、どう見ても戦える身体ではない。むしろ、このまま放っておけば確実に死んでしまうだろう。
アンはたまらずに飛び出した。セシルもアンと共に岩陰から出てゆく。セシルは男に駆け寄ると、抱き起こしてポーションの瓶を男の口に押し込んだ。
「大丈夫か? 」
「な、情けねえ、このオレが……負けるなんざ!」
男は起き上がって口元のポーションをゴシゴシと拭った。傷や火傷が痛々しい。
リディアとカイン、ローザもやって来た。心配そうな表情でリディアは男の側に立つと、男に話しかけた。
「私たちもルビカンテの持つクリスタルを追っているの」
「手を出すな」
リディアは共闘を申し出るつもりだったが、男は威勢よく突っぱねる。こんなにもコテンパンにのされているのに、とリディアは意外な気持ちでいっぱいだ。ほかの仲間たちも目が点になっている。特にカインに至っては、とんだ強がりだと呆れ始めている。
「奴は、俺がこの手でブッ倒す」
「相手は四天王だぜ、王子様」
威勢の良い王子に、カインは心底面倒くさそうな顔をした。甲から見える口元が、不機嫌そうに歪んでいる。
「奴の強さを味わったろう!」
セシルも呆れて叱咤するが、男は全く意にも介さない。
「ヘッ。俺をただの甘ちゃん王子と思うなよ。 エブラーナ王族は、代々 忍者の奥義を受け継いでんだ」
「でも負けたんでしょ」
アンが間髪入れずにつっこむと、男はいきなりアンの手をぎゅっと握った。アンはのけぞって驚いたが、怪我人とは思えぬ強い力で握られて離れない。男は跪くと、アンの手に唇を寄せた。
「あんた、キレイだな」
チュッと手の甲に柔らかな感触を感じて、アンは目を剥いた。驚きのあまり声を出す事も忘れて、口をパクパクさせながらセシルに目で助けを求める。
予想以上に狼狽えるアンの反応に満足そうな男は、得意げな表情をした。
「俺はおめーらより、一枚も二枚も上手だ、ぜ」
しかし、そこまで言うと男はドサリとうつ伏せに崩れ落ちた。彼はポーション一本で回復するはずが無いほどの怪我をしている。セシル達にしてみれば、むしろここまで持ち堪えた事のほうが驚きだった。
セシルは呆然とするアンの手を引き、慌てて男から引き離した。セシルがムッとした顔で男を見下ろすと、男はゼイセイと肩で息をしながら苦しげに呻いている。額には汗が冷浮かび、ぎりぎりと歯を食いしばっていた。
「もうこれ以上死んじゃうのは、いやよ!
テラのお爺ちゃんもヤンも、シドのおじちゃんも!みんな、みんな!」
リディアは悲痛な声で叫んだ。もうこの男を見ていられない。また目の前で誰かが死ぬのかと思うと恐ろしく、遣る瀬無い。ポロポロと大粒の涙を流してリディアは泣いた。
「相手は四天王最強だ。勝ち目があるかどうかも分らない。だが、僕たちは奴からクリスタルを取り戻さなくてはならない」
セシルがそう言うと、男はゴロリと仰向けになった。彼は口元の血を拭いながら不敵に笑う。
「こんな綺麗なねーちゃんに泣かれたんじゃしょうがねえ。ここは一発、手を組もうじゃねえか」
カインは腕組みをしながら深くため息をついた。
「まったく、こんな体で口が減らない王子さまだ」
ヘヘっと笑う男に、カインはさらに深いため息が出た。
「見るに堪えん。 おい、ローザ。頼む」
ローザは頷くとすぐに魔法の詠唱に取り掛かった。やがてケアルラが発動すると、柔らかな光が男の身体を包み込む。あっという間に男の怪我が全て塞がった。
男は身軽に飛び起きると、ローザの顔をのぞき込んだ。
「サンキュー ねえちゃん!あんたも可愛いな」
ローザは男をあっさり無視すると、さっさと離れて行く。男はヒュウと口笛を吹いた。
「俺はエブラーナ王国第一王子、エドワード・ジェラルダイン。エッジで良いぜ」
エッジはくるりと宙返りをしてみせた。軽業師のように身軽なエッジに、一行はまた驚かされる。
エッジは準備体操だといいながら首をポキポキいわせながら回している。さらにうんと伸びをした後、近くにいたリディアの隣に立った。上機嫌でリディアの肩を抱くと、エッジはもう片方の腕を威勢よく振り上げた。
「おっしゃ!それじゃ仲良く乗り込むとしよーぜ」
「調子いいの! 」
リディアはエッジの変わり身の速さに呆れた。肩に乗せられたエッジの腕を払うと、頬を膨らませてプイとそっぽを向いた。
2020/06/27
出ましたやんちゃエロ王子!
我が家の若はとことん破天荒な暴君になってしまいそうな予感。
D+S FF-D New!夢物語
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