59 エブラーナ
エッジをエブラーナの民の元へ送り届けたセシル一行は、再度彼らの歓待を受けた。
ぼろぼろの格好をしたエッジに皆驚きはしたものの、彼の無事を確認するや否や祭りのように沸き立つ歓喜に包まれた。エッジがそれに応えると、彼を拝む者まで出始めた。エブラーナ王室の支持率の高さに、バロンの軍人達は圧倒されるばかりだ。
「陛下も本当は、名君と呼び声高いお方だった。あんな最期を迎えて良いようなお人ではなかったのに」
セシルの寂しそうな声を聞いてアンは彼を見上げる。セシルはやるせない表情で、エブラーナの民に応えるエッジを見つめていた。
「その当時は、バロンもあんなに殺伐とした国ではなかったんだ。いつからだったんだろう。僕は、陛下に恩返しも出来なかった」
セシルは後悔の念でいっぱいになっている。セシルが悪い訳ではないが、国王が入れ替わっても誰も気付かなかったのも事実だ。アンがバロンに来た頃は確かにまだ王は本物だったのだろう。セシルの言う「殺伐とした国では無い」もよく分かった。
「せめて、これからのバロンに尽くしましょう。陛下に恥じないように」
アンは両手でセシルの手を握ると、セシルも硬く握り返した。
「そうだな。ミストと、ミシディアに償わなければならない。僕の一生をかけてでも」
「ええ、わたしもお供します。セシルさん」
セシルは「ありがとう」と小さく呟くと、アンの手を放して彼女の肩を抱き寄せた。
エブラーナの民の活気は、暗い洞窟をも明るくしてしまうかのようだ。洞窟に逃げ込んで生き延びるほど逞しい民ではあるが、エッジの帰還でさらに勢い付いた。
その夜は、物資が無いなりにどんちゃん騒ぎだった。酒も、旨い肴もない。だが、エブラーナの民に伝わる伝統舞踊や歌が皆を慰め、元気づけた。
翌日、セシル一行とエッジはバイブルの塔に潜入した。セシル達はクリスタルを求めて、エッジは彼の両親、つまりエブラーナ王と王妃を探している。
しかし、現実は残酷だった。エッジが探し求めていた彼の両親は変わり果てた姿をしていた。
王も王妃も、いかにも禍々しい雰囲気を醸し出し、喋るたびにずるずると表面が溶けていく。現れたのは、どう見ても魔物であった。
髪は逆立ち、一本一本が太く針の用だ。目は赤く腫れ上がったように大きくなり、口は顔からはみ出そうだ。皮膚は硬く鱗のように所々裂けている。
王も王妃も、人であった時の面影は全くない。そればかりか、息子であるエッジやセシルに襲いかかって来るのである。やられるわけにはいかない。だが、殺してしまう事も憚られる。難しい戦いだった。
しかし、戦況はすぐに変わった。エッジの手裏剣が王の肩に中った時、王の雰囲気が魔物のそれとは違うものに変化したのだ。
「エッジよ。わしの話を聞け。我々は、もう人ではない」
「おやじ……!」
エッジの小太刀を握る手が止まった。魔力を練り始めていたリディアも、弓を構えていたローザも休戦の体制に入った。
「生きていては、いけない存在なのだ」
王の言葉で、王妃も目の色が変わった。文字通り、赤く腫れ上がっていた目が元の色に戻っている。エッジとよく似た、薄い水色の瞳だ。
「エッジに、あなたに残すものが無いわ」
エッジは言葉を失った。姿は人間ではないが、確かに彼の両親がそこにいたのだ。
カインが降りてきた。ジャンプしたものの、戦況が変わったのでとりあえず降りてきたのだ。エッジは滑り落ちそうな小太刀を握り直す。
「この意識のあるうちに、我々はここを去らねばならん。後は頼んだぞ エッジ」
セシルは息を飲んだ。しかし王達の覚悟を悟ったのは、セシルだけではない。
「いやだっ! 行っちゃいやだっ」
エッジは小太刀も手裏剣も投げ出して、王と王妃の元へ駆け寄る。アンは見ていられないと、思わず目どころか顔まで背けた。
「さよなら、エッジ」
「待ってくれ! おふくろっ!」
王も王妃も、消えてしまった。消えた場所にエッジが雪崩のように駆け込んできたが、そこにはもう何もない。消滅してしまった。
「うわあああああああ」
跡形も無いその場所で、エッジは蹲って動かない。大声で吠えるように泣き叫ぶのを、セシル達はただ見ている事しかできなかった。
「なんて、ひどい」
ローザが震えながらそう言うと、空気が揺れた。
「ルゲイエの奴め、勝手なマネをしおって」
ハッとしてローザが振り向くと、ルビカンテが怒ったように顔を顰めて立っていた。
エッジは飛び上がるように起き上がり、小太刀と手裏剣を素早く拾い上げる。風のようにあっという間にルビカンテの前に躍り出ると、威嚇する犬のように低い声で怒鳴った。
「ルビカンテ! てめえだけは許さねえ! 許さねえぞ!」
「王と王妃を魔物にしたのは、ルゲイエが勝手にしたこと。その非礼は詫びよう。私は他の奴らと違って、正々堂々と戦いたいのだ」
「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえ!」
エッジは怒り狂っている。セシルたちも同様だ。詫たところで死んだ者が帰って来るわけではない。
一方アンは「正々堂々」とは何かと考え始めた。この場合、正々堂々さは関係ない気がする。
「私は、お前のように勇気ある者は好きだ。しかし、そういった感情に振り回される人間では、完全な強さは手に入らん。永遠にな」
「その人間の怒りってモンを、見せてやるぜ」
エッジは水遁を繰り出した。大量の水しぶきが勢いよくルビカンテを襲う。並みの魔物なら一撃で倒せるだろう。しかしマントに当たった水は蒸発するばかりで、ルビカンテはびくともしなかった。
「ほう。怒りというものは、人間を強くするか。 だが私の炎のマントは、冷気すら受け付けぬぞ。さあ、回復してやろう! 全力でかかって来るがいい!」
2021/05/22
非人道的すぎてびっくりやけど、これが7への足がかりだったりして。なんて思ったりもする。
ccff7で「俺達はモンスターだ」が個人的には結構キツかったんだけど、こっちの方がしんどい。ルゲイエも北条もなんか似てるなそういえば。ルゲイエはなんかうだつの上がらん感じがするけども。
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