D+S FF-D New!夢物語


66 月の民



 暗い空に浮かぶ地球が何とも不思議だとアンは思った。魔導船から降りて月の大地に足を踏み入れるも、いつもとは違う質感に戸惑うばかりである。
 一行は月の大地を行く。ぐるりを見渡しても何もない。ただ土地が広がっている。

「さて、ここまで来てみたものの…どうしたものか」

 セシルは仲間たちに問いかけた。地上よりもモンスターは凶暴で、目標になるものが何もない。闇雲に歩き回るのは危険だと思った。

「そうねえ」

 ローザもリディアもアンも、これと言って良い案は浮かばない。かといって、手ぶらで地球に戻ったところでなんの進展もない。誰かが一行を待っているとミシディアの長老は言っていたが、誰がどこにいるかまではわからなかった。

「お!あそこに何かあるぞ」

 遠くを見ていたエッジの言葉に、他の者が一斉に彼を見る。

「何があったの?」

 リディアはエッジの向く方を眺める。しかし、いくら目を凝らしても彼女には何も見えなかった。

「すげー遠いからよ、ちょいと見えにくいが…建物に見えるぜ」

 全員でよく見ても、エッジの言う建物がどれかは分からなかった。

「さすがは忍び、か。僕にも見えないが、君が言うならそうなんだろう」

 セシルはそう言うと、皆に向き直った。

「行ってみよう。僕らを待つと言う人がいるかもしれない」

 一行はエッジの指さす方へと移動し始めた。
 しばらく進むと、確かに建物が見えて来た。地上のどこにも無さそうな、不思議な雰囲気を醸し出している。さらに進むと入り口が見えた。嫌な気配はしない。何故だか誘われるようにして、何の迷いもなく一行はそのまま建物へと入って行った。

「よくぞ参られた!」

 一行の背後から声がかかった。全員で一斉に振り向くと、髪も衣服も真っ白い老人が立っていた。

「あなたは…?」

 セシルが問うと、老人はゆったりとした雰囲気のまま答える。

「私は月の民の眠りを守る フースーヤ」

 一行は互いに顔を見合わせた。彼らを待っていたのはこの人かもしれない、と。

「月の、民…」

 アンが思わず口に出した。聞き慣れない、というよりも初めて聞く名だった。すると、フースーヤとは彼と彼の一族の話を始めた。

「さよう。 もう遥か昔のことだ」

 フースーヤは遠い目をして、懐かしむような、悲しいような顔をする。

「火星と木星の間に有った星が、全滅の危機に瀕した。生き残った者たちは、船で青き星へと脱出した」
「青き星?」

 セシルがそう言うと、フースーヤは頷いた。

「そなたらの住む大地だ。 しかし、まだ進化の途中にあった為、その者たちはもう一つの月を創り出し、そこで長い眠りについたのだ」

 一行は息を呑んだ。そんな話など、誰も聞いた事がなかった。

「それが…月の民か」

 エッジがそう言うと、フースーヤはそうだと頷く。しかし、その話の続きは穏やかな物ではなかった。フースーヤは目を怒らせ、憤りなながら語り始める。

「しかし、ある者は眠りを嫌った! 青き星に存在するもの全てを焼き払い、そこに自分たちが住めばよいと考えた」

 再度、一行は息を飲んだ。酷い話である。そんな身勝手など、たまったものではない。アンは思わず身震いをする。ちら、と隣に立つセシルを見上げると、セシルは優しくアンの最中をさすった。

「私たちは その者を封じ込めた。 しかし、長い眠りの間にその者は思念を強化した! その思念が、そなたらの星の邪悪な者たちをより悪しき者とし、クリスタルを集めさせたのだ」

 フースーヤはそう言うと、深いため息をついた。彼がゴルベーザもその者によって洗脳されていたにすぎず、黒幕は他にいるのだと語ると一行はますます驚いた。
 
「なんて奴だ、そいつは」

 エッジは拳を震わせて、近くの壁を殴りつけた。彼の国、彼の人生や生活も十分狂わされている。

「その者の名は、ゼムス。 クリスタルとは我々のエネルギー源。 おそらく、バブイルの塔の次元エレベータを作動させる為、クリスタルを集めさせた。 次元エレベータで、バブイルの巨人をそなたらの星に降し、全てを焼き払おうとしている」

 フースーヤは苦々しくそう言うと、頭を抱えた。

「しかし、多くの月の民はそうではない。青き星の者たちが我々と対等に話し合えるだけの進化を遂げるのを、見守っているのだ。皆その日が来るのを夢見て、眠り続けている」

 一同は静まり返ってしまった。ことの次第は、彼らの想像を遥かに超えた壮大なスケールであった。そこでセシルはふと、疑問が湧いた。

「僕らが乗ってきた魔導船は?あれは、なんだったのでしょう」
「遥か昔に私の弟 クルーヤが造り、青き星へ降りていった時のものじゃ。 クルーヤは未知のそなたらの星に憧れておった。 デビルロードや飛空艇の技術は、その時もたらされたものだ」

 フースーヤはコホン、と咳払いをした。そして、じっとセシルの目を見て話を続ける。セシルも不意に見られると、目が離せなくなってしまった。

「そしてクルーヤは青き星の娘と恋に落ち、二人の子供が産まれた。そのうちの一人が…そなただ」

 セシルに衝撃が走った。雷にでも撃たれたような、とはよく言ったものだ。これまで自分の血縁など何の手がかりも無かったというのに、こんな所にルーツがあったのなら、それもある意味当然である。

「僕、が?」

 セシルは掠れる声で、それだけ言った。指先が震えるのを、アンの手がそっと繋がれる。

「じゃあ、試練の山で聞こえた声は──」

 セシルは、気が触れるのではないかとさえ思った。ずっと諦めていたのに、ここへ来てこんな形で徐々に明かされてゆくのが、何とも、複雑である。

「お前の父、クルーヤの魂だ」

 そう言って、フースーヤはセシルの顔を眺める。どこか嬉しそうな、懐かしそうな、柔らかな表情だ。

「なるほど、若い頃のクルーヤによく似ている」

 セシルはもう、何も考えられなかった。アンと繋いだ手が、アンの手の温もりだけが頼りで、自分の体温は全く感じられない。けれど、彼は初めて自分の親の存在を感じられたのは、戸惑いよりも喜びが優っていた。

「あの声が、父さん…!」

 そうだ、とフースーヤは微笑んだ。セシルはアンを見下ろす。なんとも言い難い今の気持ちを、アンと共有したいと思った。
 セシルはアンの顔を見る。その時アンの瞳から、大粒の涙が溢れて落ちた。


2024/11/26




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