69 正気に戻った
やっとの思いで、セシル達は魔導船に戻ってきた。巨人は既に半分ほど崩れ、ばらばらと部品が落ちている。
「やっと、自分の心を取り戻すことが出来た。今更 許してくれとは言わんが──」
カインが話し始めると、エッジが冷たく言い放った。
「当たりめーだ! てめえのせいで巨人が現れたも同然だ!」
鼻息荒くそう言うエッジは、懐に手を入れて手裏剣を出そうとしている。それをリディアとアンが、2人がかりで彼の腕を押さえて必死で止めた。しかし、エッジの腕力も体術も並ではない。2人ともあっさりかわされ、エッジは今度こそカインに飛び掛かろうとしていた。
「やめて!」
ローザの鶴の一声で、エッジはぴたりと動きを止めた。ファバールでの事といい、毎度の事ながら天晴れだとアンは遠巻きから眺めている。
「ローザ」
カインは申し訳なさそうに俯いた。彼にとって、罵られる方がよほどマシである。庇われる事が辛く、よほど堪えた。
「ゴルベーザが正気に戻ったから術が解けたのよ。カインのせいじゃないわ!」
ローザはエッジとカインの間に立ち、両の腕を腰に当てた。
「ゴルベーザ、も?」
カインは驚いた。黒幕は、てっきりゴルベーザだと思っていたからだ。
「ゴルベーザは、セシルのお兄さんだったの…」
そういうと、ローザはちらりとセシルを振り返った。カインもつられて目をやると、セシルはまだ壁の側で難しい顔をしてじっと黙っている。そこにアンもいるが、セシルはずっと何も無い所を見つめていた。
「ゼムスという月の民が、ゴルベーザの月の民に血を利用していたらしいの」
ローザはカインに、フースーヤから聞いた事、判明した事実を説明し始めた。今やゴルベーザはゼムスを倒しに、フースーヤと月に向かって行った。
「ゴルベーザが、セシルの兄だと…?」
カインは天井を仰ぎ見た。よく分からない細かな機材がびっしりと敷き詰められている。月から見れば、カインもセシルもローザも、この中に詰められている物のように小さな存在なのだろう。それをいいように蹂躙されてきた。それも、無二の親友を2度も裏切らされた。
操られていたとはいえ、カインは自身が無実だとはとても考えられなかった。つけ込まれるだけの弱みと隙は確かにあったし、セシルにはとても言えないような黒い感情だって無いとは言えない。友を思えばこそ押し殺して来たものは、ゴルベーザの魔力の前にあっさりと暴かれてしまった。
カインは罪悪感に苛まれていた。せめてこの戦いに自分で決着をつけなければ、死んでも死に切れない。彼の1人で静かに思い詰める癖は性分であるが、これこそがつけ込まれた原因である。しかしそう分析するには、まだ冷静さと心の余裕、そして時間が足りなかった。
「ならば俺も、この借りはそのゼムスとやらに返さねばなるまい」
カインは腹を括った。彼がどうやり直し、謝罪するにしても、ゼムスを倒さなければ果たす機会すら無くなってしまう。
「また操られたりしなけりゃいいんだがな」
エッジは試すようにカインを見据えた。共に戦うのなら、まずは信頼できなければ話にならない。
「その時は遠慮なく、俺を斬るがいい」
カインはエッジに目を合わせると、迷いなくキッパリと言い切った。エッジは満足そうに口元だけで笑う。
「なら俺も行くぜ! そいつに一太刀浴びせなきゃ気が済まねえ」
「エッジ」
カインは驚きつつ、受け入れられた喜びに震えていた。竜騎士の兜の下から涙をこぼすまいと必死で取り繕う。
「行こう。僕も、月に行く」
セシルはそう言った。仲間達が振り返ると、彼は1人1人に目線を合わせてゆく。
「アン、ローザ、リディアは残るんだ。 僕ら三人だけで行く。 今度ばかりは生きて帰れる保証は無い」
女性陣3人は思わず互いに顔を見合わせた。最後まで戦うつもりだったのに、こんな所で置いていかれるとは思っていなかった。
「さあ、魔導船を降りるんだ!」
セシルは真剣だった。セシルは有無を言わさずに、真顔でアンとローザを出口まで連れてゆく。その様は怖いほどで、それを見ていたリディアは既に怯んでいる。
「さ、ガキはいい子でお留守番だ」
「バカッ!」
そこへエッジがけしかけるので、リディアは怒って自分から出ていってしまった。しかし、それもまた、エッジの優しさである。
プリプリしながら階段を降りてゆくリディアの後ろ姿を眺めながら、エッジは「へっ」と鼻を擦った。彼はリディアとの言葉の応酬が、決して嫌いではない。いくらからかってもまるで手応えのないアンよりも、よほど楽しかった。
急に静かになった船内が、3人には広すぎる。
「セシル、いいのか」
アンすらもあっさり追い出したセシルに、カインは心配気に声をかけた。しかし、セシルの決意は固い。そのくらいで折れる事も、揺らぐ事もなかった。彼女らに何かあったら、今度こそ耐えられないと思った。
「カインこそ」
カインは黙って頷いた。
カインは今でもローザを想っている。本人はその資格など無いなどと言いそうなものだが、心配しているのはセシルだって同じだった。
「行くぞ。カイン、 エッジ」
セシルは月への転移装置に手をかざす。組み込まれたクリスタルが瞬いた。独特の浮遊感に耐えながら、セシルは地上に残して来た仲間たちに思いを馳せる。
既に現地にいるはずのフースーヤとゴルベーザに合流すべく、彼らは地上を離れた。
2024/12/11
D+S FF-D New!夢物語
- 70 -
prev * next
しおりを挟む
MODORU