71 家族の肖像
セシル達は再び月の民の館へ向かう事となった。ゴルベーザとフースーヤを追い、共にゼムスを倒しに行くのだ。
一歩踏み出すと、足元でじゃりと音がした。あちこち穴と岩だらけで足場は悪いが、これまでの旅で一行も鍛えられている。妙な浮遊感は仕方がないにしても、月まで来てしまったのた。月の民の存在やゴルベーザの過去といい、もう何があっても驚かない。
セシルはひとりため息をついた。バブイルの巨人の中で聞いたゴルベーザの過去を、彼は未だ消化しきれていなかった。セシルとて、孤児の身で一般的に言われるような家族像があったとは思っていない。とはいえ、永らく求めていた自分の出自は、あまりにも不幸であった。
ゴルベーザは本名をセオドールと言い、バロン近郊の村で生まれた。彼の父クルーヤは、その村で魔法や月の技術を村人達に教えていた。
クルーヤに教えを乞うた何人かは、それらの知識を真面目に正しく使おうとしたが、そうでない者もいた。むしろ、悪用しようと企む者の方が多かった。もちろんクルーヤもそれは把握しており、彼らを正しい方向へ導こうとしていた。だが、悪い考えを待つ者達はやがてクルーヤの暗殺を企てるようになる。クルーヤの死は、その者達によってもたらされた。セオドールが十になるかどうかくらいの年であった。
セシルが生まれたのはクルーヤの死後、数ヶ月後の事であった。しかし彼らの母セシリアはもともと病弱で、セシルを産んですぐに死んだ。
セオドールはセシルを恨んだ。セシルさえ生まれなければ、母はきっとまだ生きていたのに、と。しかし、彼の悲劇はむしろここからである。
セオドールは絶望した。両親は亡くなり、彼に残されたのは生まれたばかりのセシルだけだった。ゼムスのテレパシーが流れて来たのは丁度その時である。セオドールはあっという間に洗脳され、ゴルベーザとなった。彼は手始めにセシルを村から少し離れた森の中に捨て、彼も村へは帰らなかった。
ゴルベーザは洗脳されていても意識はあった。生まれたばかりの弟を捨てることに、良心が痛まなかった訳ではない。しかし、彼はそれをやってのけてしまった。ちなみに、ゴルベーザが立ち去った後、たまたますぐにそこを通りかかったバロン王がセシルを拾っている。
バロン王は、拾った赤子の顔をみて大層驚いた。彼の叶わなかった思い人と、そっくりだったからだ。その女性もまたセシリアといった。バロン王は赤子に、彼女と良く似た名前をつけた。それがセシルである。その後孤児になったカインも加わり、2人は王の下で兄弟のように育つ事となる。
セシルの前を歩くリディアとエッジが言い争いを始めた。それにつられて、セシルの意識が現実に戻ってくる。
エッジがリディアをからかって、リディアはそれに怒っている。リディアの気を引きたいのならもっと優しくすれば良いのに、とセシルは苦笑した。後方では、カインとローザがやはり呆れ顔でエッジを眺めている。
「アン」
セシルは、彼のそばを歩くアンに声をかけた。
「そういえば、巨人が崩れる前に何か言いかけていなかったかい?」
セシルが現実を受け止められずに半ば呆けていた時、仲間たちが彼の背中を押してくれた。アンも口を開いたものの、すぐに脱出しなければならなくなった。セシルはすっかり聞きそびれていた事を思い出した。
「ああ、それは…」
アンはセシルの方を向くと、語り始めた。
「わたしの兄はもう死にました。どうにもなりません。でも、セシルさんはそうじゃないでしょう?と言おうとしていました。それと…」
アンは言葉を選びながら続けた。
「わたしたち、同じ村の生まれだったのかもしれない、と思って」
「なんだって?」
セシルの声に、周りの仲間たちが一斉に振り向いた。
「母に魔法の師匠がいた事は、試練の山に登るまで知らなかったんです。でも、あの声がセシルさんのお父さんなら、そうでしょう?」
試練の山の声が、つまりクルーヤが、アンの母の師匠だったと言った。そしてアンの家族も、凶賊と成り果てた村の過激派によって殺されている。
「セシルさんが生まれた時、わたしはまだ生まれて無かったはずですけどね」
本物のアベルは、生きていればセシルやカインと似たような年頃である。
「それで君は魔法が使えたのか」
「なるほどな。バロンでは、特に黒魔法は珍しい」
セシルとカインはそう言って、互いに納得しあっている。
「もう少し早く生まれていれば、もっとまともに使えていたかもしれませんね」
アンがそう言うと、すかさずリディアが口を挟む。
「だったら、アンも家族と一緒に死んでたかもしれないでしょ!」
アンははっと息を飲んだ。確かにそうだ。アンは暖炉に隠れられたから生き延びたのである。
「君が生きていて良かったよ。辛い思いもしただろうけれど」
「セシルさんも」
アンとセシルは微笑みあう。2人とも、ここまで生きていたのが奇跡だった。
ローザはすっと2人から視線を逸らした。セシルの事は諦めたつもりだった。セシルが選んだ事は仕方がないと思っていても、彼女もまた消化しきれていない。そして、そんなローザをカインが苦しい思いで見つめている。
カインの心は今もローザにある。しかし、自分のしでかした事を鑑みて、自分にはローザに思いを寄せる資格すらないと思っていた。
「最悪の生存率じゃねえか、その村はよう」
エッジはげっそりした顔でそう言うと、今は遠いエブラーナに思いを馳せた。
2024/12/15
DS版だと、ゴルベーザが正気に戻った時に回想が入るんですよ。セリフもちょっと変わってて、より分かりやすい。ファミコン版だとそのへんがもっとざっくり曖昧。先にDSでやってたから何となく補完してたけど、確かに先に原作やってたらDSで過去がはっきりしたんだな。ECみたいな感じやん。
さて、その回想はどこで入るんだっけなと思ってたら、とっくに過ぎていたことに気づいてここでぶち込んだ。いずれちゃんと書き直した方が良いかも、なんて言いながらとりあえずこうしておく。
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