72 さらば
ゴルベーザとフースーヤによる渾身のメテオはゼムスを完膚なきまでに叩きのめした。崩れ落ちるようにして倒れたゼムスはピクリとも動かない。これまでの事を考えれば呆気ないほどであった。
「一足遅かったか! 俺がブチのめすはずだったのによ!」
エッジの軽口も、今はよりウキウキしている。長い戦いがようやく終わったのだ。しかし、それだけではない者達が、互いに気まずそうにしていた。
「セシル…」
ゴルベーザはセシルの名を呼んだ。しかし、セシルは応えない。顔は向けたが、今もなお複雑な思いと戦っていた。
「セシルさん…」
アンはただ、セシルに寄り添う事にした。ゴルベーザとどう接するかは、セシルが自分で答えを出さなければならないことである。
しん、と静まり返ってしまった。軽口を叩いていたエッジですらすっかり黙ってしまい、セシルとゴルベーザの出方を伺っている。しかし、兄弟と判明したばかりの2人の沈黙は、突如として破られた。
「我は、完全暗黒物質。ゼムスの憎しみが増大せしもの──我が名はゼロムス。全てを、憎む!!」
一行は驚いてゼムスが倒れている方を見た。すると、死んだはずのゼムスがなんだかよく分からない物に変化している。
フースーヤとゴルベーザは再びメテオを放った。威力は申し分なかったが、ゼロムスはケロリとしている。最強の魔法だったはずのメテオでは、全くダメージにならなかった。
「だめじゃ、奴にはメテオは効かぬ! ゴルベーザ! クリスタルを使う時じゃっ!」
フースーヤに従って、ゴルベーザはクリスタルを懐から取りだした。そしてそれをゼロムスにかざす。しかし、フースーヤの期待に反して、何も起こらなかった。暗黒の道を歩んだゴルベーザでは、クリスタルに秘められた真の力は引き出せなかったのだ。
ゼロムスは嘲笑い、メテオを唱えた。フースーヤもゴルベーザもひとたまりもない。2人は足掻く間も無く倒れてしまった。
ついでゼロムスはセシル一行に狙いを定めた。やはり逃げる間も抵抗する無く、セシルたちもまた床を舐める事となった。
セシルは最早これまでかと思うと、言いようのない虚しさを覚えた。
辛く長い道のりだった。やっとここまでたどり着いたのに、ゼロムスの圧倒的な力に手も足も出ない。地上で自分たちを待つ人の顔が次々と浮かんでは消えてゆく。
アンは朦朧としていた。ゼロムスが何をしたのかもよくわからないまま、身体が重く、感覚も変だった。瞼を動かすのも億劫で、いよいよ死ぬのかと思っていた。しかし、その時誰かの声が聞こえ始めた。すると、みるみるうちに身体が軽くなる。どうやらミシディアからの念であると理解する頃には、しっかりと立ち上がることができた。
「に、兄さん」
セシルはゴルベーザの元へ駆け寄った。ゴルベーザは床に転がったまま腕を伸ばし、握りしめたクリスタルをセシルに手渡した。
「セシル…こ、これを、お前が使うのだ…」
セシルは力強く頷いた。ゴルベーザの顔は見えないが、セシルには彼がそれに応えたように見えた。
「負けるわけにはいかない」
セシルはゼロムスの前へ立った。仲間達も既に立ち上がり、既に臨戦体制を取っている。
「月よ、光を与えたまえ!」
フースーヤは月に祈った。そして、ゴルベーザはセシルに向けて、残った力を振り絞って叫んだ。
「我が弟よ! お前に秘められた聖なる力をクリスタルに託すのだ! ゼロムス! 正体を見せるがいい!」
セシルはクリスタルを高くかざした。クリスタルがきらりと煌めくと、ゼロムスの姿が変わり始めた。クリスタルはゼロムスのの真の姿を照らし出したのだった。
ゼロムスの姿を暴いた後は、攻撃すれば手応えがあった。持てる力と魔力を全てぶつけて、ゼロムスを今度こそ消し去る。視点ののように、死んだ後もしつこく喋るのはゼロムスも同じでであった。不敵に笑いながら崩れていく様に、アンは最後まで恐ろしいと思った。
ゼロムスは消え去った。世の中はようやく平和を取り戻しているはずだ。バロン王がいつから入れ替わっていたのかは、もう誰も分からない。ゴルベーザは二十年に及ぶ精神支配から漸く解放された。
フースーヤとゴルベーザも立てるまでに回復した頃、フースーヤは皆の顔をそれぞれ見ながらこう言った。
「さて、そろそろ私も眠りにつかなければならない。 そなたらは?」
「僕らの星へ戻ります」
セシルがそう答えると、他のものもそうだと頷いた。
「待ってくれる人達がいますし、ね」
アンがそう言うと、フースーヤは嬉しそうに目を細めた。
「そうか。 素晴らしい仲間を持ったな」
フースーヤがそう言ってセシルらを眺めていると、ゴルベーザははっとしたような顔でアンを見た。
「お前は、アン婆さんのところの…?いや、年齢が違うか」
ゴルベーザはそう言いながらも、アンを凝視している。
「もしかして、アナ・フィードをご存知ですか?」
アンがそう聞き返すと、ゴルベーザは頷いた。
「ああ、そうだ。しかし、彼女はもっと歳を取っているはずだが──」
「母です」
ゴルベーザはなるほど、と手を打った。
「そうか…父が死んでから世話になっていた事がある。お母上は息災か?確か、アベルという息子がいたはずだが…」
ゴルベーザは、ゆっくりと昔のことを思い出していた。まだ闇に染まる前の自分が、まだはっきとはわからない。それでも、アンはその記憶を呼び覚ますほどよく似ていた。
「みんな、とっくに死んでしまいました。クルーヤさんと同じように」
アンがそう答えると、ゴルベーザは雷に撃たれたように固まってしまった。
「お前も、1人生き残ってしまったのだな」
そう言うと、ゴルベーザは黙ってしまった。
境遇はセオドールもアンもよく似ていた。しかし、アンは月の民ではない。心の有り様は兎も角、それ故ゼムスのテレパシーを受ける事は当然なかった。それがゴルベーザの命運を分けたわけだが、当時の彼に抗う術はなかった。闇に染まって仕舞えてしまえば尚更である。それがよりゴルベーザの苦悶を誘う。
「覚えてくれている人がまだいたなんて、嬉しい」
アンはそう言ってはにかんだ。
もともと地図にも載らないような小さな集落だった。もうそこにあった事すら忘れ去られていたと思っていたのに、その集落を知る人がまだ残っていた。その事がアンは嬉しくてたまらなかった。
「さて、そろそろ帰らねばならぬ。また会える日が来ることを、楽しみにしているぞ」
フースーヤはそう言って、もう一度セシルのたちの顔を見渡した。そしてそこから立ち去ろうとした時、ゴルベーザがその後を追いかける。
「私も、一緒に行かせてはもらえませんか」
ゴルベーザが言いにくそうにそう言うと、フースーヤは立ち止まって振り返る。意外だと驚いた顔をした。
「お主が、か?」
「ええ。私は、戻れません。あれほどの事をしてきたのですから」
ゴルベーザは悲しそうにそう言うと、気まずそうに目を逸らす。しかし、彼はもう一度フースーヤに視線を戻した。
「それに、父クルーヤの同胞である月の民の人々に会ってみたいのです」
フースーヤは優しい顔で頷いた。
「そうか、お主にも月の民の血が流れておる。だが、長い眠りになるぞ」
「ええ」
フースーヤは確認するようにゴルベーザを覗き込む。ゴルベーザもわかったと言うと、フースーヤは彼を受け入れる事にした。
今度こそ、フースーヤはゴルベーザとともに去ってゆく。その直前、ゴルベーザはセシルを振り返った。
「兄と呼んでくれたな、セシル」
セシルはやはり何も答えない。何を話せば良いのか、まだ分からなかった。
「許してくれるはずもないか。今までお前たちを、散々苦しめてきた私だ」
ゴルベーザは諦めたような、悲観にくれたような声でそう言うと、それきり黙ってしまった。過去は変えられない。実際に彼らは敵対していたし、恨まれるような事も平気でして来た。
「では、我々は眠りにつく。 青き星の平和を願っておるぞ。さあ、参ろう」
「はい」
ぎこちない兄弟を見守ってきたフースーヤだが、そろそろ本当に別れの時がやって来た。今度こそ立ち去るフースーヤに、ゴルベーザも着いて歩いてゆく。
「セシルさん」
アンはセシルを見上げた。セシルはじっとゴルベーザの背を見つめているが、それだけである。
「いいのか? 行かせて」
普段なら他人にそれほど興味を示さないカインだが、こればかりは心配そうにしている。他の仲間達も同じで、セシルを見守っていた。
「さらばだ」
ゴルベーザは顔だけで少し振り返った。本当に、これが最後になる。セシルよりも、周りの者の方がよほど焦っていた。
「さよなら」
セシルは声を振り絞った。それなのに、掠れた声しか出ない。こんなにも声を出すのに苦労した事は無いほど、声を出す事が難しかった。それを無理やりに、もう一言絞り出す。
「兄さん…!」
ゴルベーザはガバリと振り返った。相変わらず表情は見えないが、心底嬉しそうにしている。
「ありがとう」
ゴルベーザは静かにそう言うと、また歩き始めた。フースーヤは、彼の少し先にいる。
2024/12/18
あと少しで終わっちゃう
D+S FF-D New!夢物語
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