世界が終わったとしても2


先程のやり取りはいったい何だったのだろうか

すっきりせずに一限目の歴史の授業が始まった。古代魔導の歴史や戦時録について、話しが淡々と進んでいく。自然とエコロ先生の授業よりも頭に入ってくる。黒板には板書内容やメモがびっしりと書き込まれている。気持ちは落ち着かない一方で授業の内容は頭に入りやすかった。


一限目が終わってからというもの、シェゾ先生の人気は絶えない。クラスの女子の間ではシェゾ先生のイケメンさ、授業の分かりやすさなどを褒め称える声が絶えず、密かにファン倶楽部も結成されている。ボクもかっこいいな、と思わなかったと言えば嘘になる。だがそれ以上に何かが引っかかる。どこかで会ったことがあるような、デジャヴのような感覚だ。それに先程廊下で目撃したサタン先生との謎のやり取り。ドキドキする。


気が付けば昼休みとなっていた。ボクはいつも通り仲良しのウィッチやルルーと昼食を済ませるつもりだった。ところがウィッチが妙なことを言い出したのだ。
「シェゾ先生を尾行してみよう」
面喰いウィッチの悪い癖、それがイケメンを見つけると尾行しようと言い出し、終いには部活で作った薬剤の実験台にしようとする。ルルーは元々サタン先生一筋なのであまり興味はなさそうだが、何だかんだで一緒に来てくれる面倒見の良さだ。ボクはいつも巻き込まれる。今日も巻き込まれてついていく。

「いましたよ」
シェゾ先生は一眼の少ないテラスでお弁当を食べていた。ボクたちは物影からこっそりとシェゾ先生を覗いている。
「寂しくないのかしら」
「人付き合いが苦手なのかもよ」
シェゾ先生に気づかれないようにこそこそと話している。暫く様子を見ていても何ら変わった様子はない。普通に食事を取って外の景色を眺めている。薄ら影を纏った白く美しい肌が一層透き通る。
「ちょっと、誰か来ますわよ」
さっさと革靴が擦れる音が響く。黒いレザーのスーツ、サラサラとした濃緑色のロングヘア、ボクたちのよく知る先生だ。
「サ、サタン様!」
「ちょっと、声が大きいですわよ」
興奮したルルーの口を慌てて塞ぐとサタン先生とシェゾ先生が会話を始める。

「少しは周りと馴染んだらどうだ」
「馴れ合いは好きじゃない」
シェゾ先生はゆっくりとコーヒーを啜った。サタン先生は決まりが悪そうに笑った。
「彼の娘はあの時のショックでお前との記憶を失っている。だからお前が彼の娘の記憶を、魔力を取り戻してやれ」
シェゾ先生はぼんやりと外を見ていた。サタン先生が聞いているのか、と確認するも、シェゾ先生は興味なさそうだ。
「それにしても『彼の娘』って誰でしょう」
「そもそも記憶とか魔力とか何のことかな。意味が分からない」
二人の話してる内容の意味が分からない。
「まあいい、闇の魔導士よ。私がアルル・ナジャとお前が接触する機会を与える。その間に彼女の記憶と魔力を取り戻せ。必ずだ」
二人の間の緊張感が高まった。
「なんでボクの名前が出てくるの」
本当に意味が分からない。これまでボクとシェゾ先生の間に目立った接点はなかったはず。それが何故話題に出てくるのだろう。先程の二人のやり取りといい、今の会話といい、何が何だか分からない。
「簡単に言いやがる」
シェゾ先生は飲みかけのコーヒーを残したままその場を去る。
「隠れて、来るよ」
ボクたち三人は慌てて物影に隠れようとする。
「ちょっと、押さないで」
モゴモゴとしているうちにボクだけ物影から飛び出してしまった。
「…」
去り際のシェゾ先生と目が合ってしまった。



To be continued…


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