生まれてきてくれてありがとう


生まれてきてくれてありがとう



DEARシェゾ
出会いは最悪だったけれど、ボクは君と出会えて良かったと思っているよ。君にとってボクはただの獲物なのは分かってる。けれどボクにとっては大切な友だち。
FROMアルル

「あー!」
なんてボクらしくないんだ。
書き終えたメッセージカードをボクはぐしゃぐしゃにして投げ捨てた。

明日はあいつの誕生日、長年ぼっちのあいつのことだからきっと誕生日でも一人淋しく本を読んだりダンジョンに潜り込んだりしているのだろう。
しかしそれではつまらない。百何回も一人ぼっちで誕生日をやり過ごすなんてあまりに味気ない。
そこでボクはあいつにあるドッキリを仕掛けることにした。


あいつが洞窟から出て来るタイミングに合わせてボクが近くを通る。そしていつも通りの流れで勝負になる。いつもならボクが勝つけれど、今日はわざと負ける。そこであるものをポロっと落とす。それをシェゾが拾ってドッキリ!というのがボクの計画だ。

まずはウィッチに頼んで作ってもらった物を取りに行く。
「できましたけれど、これを何に使うおつもりですか」
「それは内緒だよ」
これはボクが単独で企んでいるドッキリなのだからまだ誰にも言わない。特にウィッチには言いにくい。




「さてと、ここからが重労働だ」
ウィッチに頼んで作ってもらった物を手に取って精神を集中させる。魔力が少しずつ持って行かれる。大物と戦う時のように一気に魔力を放出する。

ドン!
バカでかい爆発音が響き渡る。その音はアルルの家から少し離れたあいつの住処まではっきりと届いている。元々魔力の流れに敏感なあいつは少し離れた場所にいるアルルの魔力に勘付く。
「何をやってるんだあのバカは…」
アルルのやっていることが無茶だということにも気付いている。大物の魔物でも現れたか、又は無茶な魔導の練習でもしているのか、どちらにしても彼女にもしものことがあってはならない。


思っていた以上に魔力を消費したアルルは部屋でぐだっていた。ベッドに横たわり少しでも体力を回復させようと試みる。だが外から近づいている脅威は待ってくれない。思わず布団の淵を掴んで身を縮こめる。黒く大きな気配が近づいて来る。アルルの魔力は先程の物に全て使ってしまって枯渇状態だ。とても戦える状態ではない。生憎だが気配はもうすぐ近くにあり、魔導酒を取りに行く時間も体力もない。アルルは毛布の中に篭って神頼みした。



「何をやっているんだお前は」

呆気にとられてアルルは毛布の中から顔を出した。
「なんで君がボクの部屋にいるんだよ」
そこに立っていたのは紛うことない例のあいつだ。銀髪青バンダナのヘンタイで陰険だけど大切な友だち。鋭く刺すような蒼い瞳でこちらを見ていた。
「さっきの魔力の流れはお前のだろう」
冷たくボクを見下ろす視線が刃物が刺さったように痛い。
「本当に君ってタイミング悪いよね」
来てほしい時には来てくれないくせに。舌打ちしたい衝動を抑えながらアルルは寝返りを打った。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう。外から大物が来てるぞ」
「そうだった…」
魔力が枯渇したボクは当然戦えない。それともう一つ心配なことがあるが、今はそれどころではない。
「戦えないんだろう。少し休んでろ」
「え、まさかシェゾが退治してくれの」
キョトンとしたボクの頭をシェゾがポンと叩く。
「オレはお前が欲しいんだ。お前に何かあったらオレが困る」
シェゾの闇の剣が光る。大きな魔物が近づいてくる。
「悔しいけれど今は君に頼るしかないね」
今のボクでは戦えない。もうしばらくすれば回復できそうだが、もう猶予はない。魔物はもう窓辺まで来ている。
「生意気言ってないで休んでろ」
窓を開けてシェゾは闇の剣を抜いた。




魔物の咆哮と闇の魔力が激しくぶつかり合う。シェゾの実力なら難なく切り抜けるであろう。
ところが外が静かになってからシェゾの魔力を感じられない。ボクの魔力は大分回復して戦える程ではないが、動けるようになった。少し心配なので窓から外の様子を見てみた。
「シェゾ、いるの」
返事はない。魔物の姿も見当たらない。冷えた北風が吹く。
「何も言わずに帰っちゃったのかな」
なんだか虚しくなった。
「ぐー!」
そこにカーくんの奇声が帰ってくる。
「カーくん、どこに行ってたのさ」
「ぐっぐ!ぐー!」
カーくんは懐から宝石のような物を取り出す。
「それ、ボクがさっき作った魔封じゃないか」
魔封、ボクの魔力を保存する宝石。これを明日ドッキリという形でシェゾにプレゼントするのがボクの計画だった。そんなにボクの魔力が欲しいなら少しぐらいくれてやろうか、という悪戯心が計画の発端だった。
「ぐっぐー!」
カーくんがボクの腕を引っ張っている。
「どうしたのさ」
カーくんに引っ張られてボクは走らされた。



少し離れた場所まで引っ張って来られた。木陰から闇の気配がする。シェゾが隠れているのだろう。
「シェゾ、どうしたの」
木陰を覗くとシェゾが腰を下ろして休んでいた。息が上がっているようだ。
「魔物は退治したが、思ってた以上に消費した。魔力も残ってない」
いつも勝負しては打ち負かすボクでも疲れ切ったシェゾを見たのは初めてだ。ヒーリングをかけてやりたいところだが魔力が十分でない。魔導酒を持って来れば良かったかもしれない。
「そこで休んでて。何か回復できるもの持ってくるから」
家に戻ろうとすると引き留められた。
「オレを助けるつもりか」
窶れた声でシェゾはボクに問いかけた。
「いつもヒーリングかけてるのと同じことでしょう」
シェゾとの勝負に勝った後は必ずヒーリングをかける。それと同じで今回も体力を使い果たしたシェゾを回復させようとする。
「なんでお前はいつもそうやってオレに情けをかけるんだ」
コシのない弱った声のシェゾは呟いた。
「なんでって、それは…」
大切な友達だから、と言おうとしてボクは口を塞いだ。急に照れくさくなって、最後まで言ったらボクらしくない気がして言えなかった。
「仕方ないな。これあげるよ」
本当は明日わざと勝負に負けてさりげなく渡すつもりだったけどその気も失せた。今思えばドッキリでプレゼントを渡そうとするのもボクらしくない。ボクは力の抜けたシェゾの片手に魔封を握らせた。
「本当は明日渡すつもりだったけど、今あげるよ。それで体力も回復するでしょう」
ボクの魔力を保存してある分、シェゾの魔力が回復する。本当なら明日シェゾと勝負してわざと負けてさりげなく渡す予定だった魔封だが、この際どうでも良かった。予定より早いが、これはボクからの誕生日プレゼントだ。と言っても本人が気付いているかどうかは別問題だ。
「じゃあ、ボクは帰るよ」
これ以上シェゾといると照れくさい。風邪が吹くままにボクはカーくんと家に帰ることにした。
「明日渡す予定だった、か」
シェゾは静かに魔封を握りしめていた。
「あいつの魔力を感じる」




「生まれてきてくれてありがとうシェゾ」
そのアルルの一言は誰の耳にも届かない場所で打ち明けられた。


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