前に進め


『あなたたちは前に進みなさい』
あの時のドクター・アレシアの言葉を思い返していた。

オレは償うことが出来るだろうか。自分勝手な想いで敵国に頭を垂れたこと。最愛のレムを自らの剣で貫いたこと。
そして彼らのことを理解できなかったこと。

彼らはもうこの世界にはいない。オレたちの知らない別の世界で共に過ごしているのだろう。0組の教室で一箇所に集った彼らの遺体を見た瞬間、オレはこれまでの幼稚な自分を激しく責め立てた。それでもあの時は流れ落ちる涙を抑えることができなかった。共にいたレムもまた彼らの遺体に涙を落とした。あれ以来オレは引き摺ったままだ。

今思えば彼らは常に前を向いていた。過去を振り返って嘆いたりしなかった。だけどオレは彼らとは全く違った。兄イザナのことをいつまでも根に持ち続け、過去を振り返っては誰かのせいにして、0組を裏切ってルシの力を得た挙げ句の果てにレムを傷付けた。今もそうだ。0組の壊滅をいつまでも引き摺ろうとしている。



「マキナ、ここはもうダメだよ。家に帰ろうよ」
レムの言う通り魔導院は既に決壊し、ルルサスの置き土産により大気が汚染されている。いつまでもここにいては死んでしまう。けれど彼らはもっと苦しい痛みと戦っていたはずだ。
「オレはもう少しここにいるよ」
自分だけ逃げるなんてできなかった。レムは先に家に帰るように言うが、帰ろうとしなかった。
「マキナ、罪悪感に浸るならこれからにして。今はこれからのことを考えようよ」
「これからなんて、オレはこれからを生きる資格なんかないよ」
0組は死んでオレは生き残ってしまった。オレだけのうのうと生きたところでオレの積みは消えることはない。
「アレシアさん言ってたよね。『あなたたちは前に進みなさい』て。それから『あなたたちはあの子たちを覚えていてあげて』て」
「ああ、そうだな」
紅に染まった空が曇りがかってくる。
「だから、私たちは0組のみんなの分も前に進むの。0組のみんなができなかったこと、私たちがやろう」
レムも簡単に言ってくれる。あの0組にできなかったことがオレにできるだろうか。
「難しいことをいうな」
「たしかに難しいかもしれない。だけど私たちは一人じゃない。私にはマキナがいるしマキナには私がいるもの。怖いものなんて何もないよ」
「レム…」
薄紅の雲が形を変え始める。
「そうだよな、オレたちは一人じゃない」
明るみを帯びた雲が開き始める。
「オレはこの世界のためにできることをする。世界を守って死んでいったあいつらのためにも。これからを生きていくみんなのためにも。だからレム、オレに力を貸して欲しい」
「勿論だよ、私はマキナの力になる」



『あなたたちは前に進みなさい』
あの時ドクター・アレシアが言った言葉の意味がやっと分かった。
オレたちは彼らの分も前に進むんだ。

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