『私とモスティマさん』


「隣いいかな、空いてる席がなくてね。」

口いっぱいに頬張っていたのか喋れない彼女はこくこくと首を立てに振った。研修生と書いてある腕章が目につく

「君ってオペレーターではないのかな。」

「はい…えっと、モスティマさんであってますか?」

「そうだよ。」

「ひ弱なのと天災トランスポーターさんみたいにお勉強ができるわけじゃないので前線にたってる人の後方支援って感じです!…そんないい感じでもなくて雑用やってるだけなんですけど…」

「戦えないこと責めているわけじゃないよ。そもそもロドスには君みたいな子を責めるようなのは少ないと思うしね。」

「戦えなくてもいいと…思います?」

「いいんじゃないかな。私はそう思うよ。」

そういうと彼女は少しほっとしたように息を吐く。随分とわかりやすい子だなと思った。ロドスにはほとんどいないが彼女自体はそれなりに噂があるので知っていた。戦えないし頭がいいわけでもない。地位も権力も何もない。そんな少女がロドスにいて研修生という立場をもらっていること

「それよりもそのトマト嫌いを直したほうがいいと思うけどね。」

サンドイッチの中身を確認しようとする彼女。目線は真っ赤な野菜だけを見ている。

「ウッ…つぶつぶが苦手で…」

「子供みたいだね。」

誰もがなぜ彼女が研修生という立場にいるのか気になっているだろう。ドクターがなにを考えているかはわからない。彼女の口からもドクターの口からも語られないその理由。ロドスにくる人間はそれなりに経験をどこかで積んでいてその能力をドクターに貸しているように見える彼女は1からをここで学ぼうとしている。別にここじゃなくてもいいだろうにという声を聞いたのはいつだったか

「モスティマさんは苦手な食べ物とかないですか?」

「うーん、特にないかな。」

「大人…。コーヒーとかも飲めるんだろうなぁ…」

「コーヒーが飲めたからって大人ってわけじゃないよ。」


時計を見る。そろそろ行かないと仕事に間に合わなくなる。彼女は時計を見た私をみてなにかに気づいたようだ

「モスティマさんお仕事ですか?」

「そうだね、そろそろ行かないと。」

「行ってらっしゃいです。気をつけて。」

手を振る彼女に手だけ振り返した。送り返した言葉に返事をしない私に彼女はなにも言わない
平和な子だ。感染者でもない、トランスポーターでもどこかの傭兵でもない。どこにも所属していない。透明な子。ドクターが彼女をここにおいている理由はわからない。でも、穏やかな中にどこか不思議な雰囲気でも気に入ってるのかな。彼女に話しかける一部のオペレーターもそうなのかもしれない

振り返ってみるとまだこっちを見ている

「また今度があったらもう少しだけ話そうか。」

聞こえてないくらいに呟いた


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