『焼ききれる炎の中』アークナイツ:エンカク
「恨み言のひとつも吐かないか。」
炎の中に刀を持ってたたずむ男、そして空と一人の男を見上げていた男がいた。立ち上っていく黒い煙に血の乾いた匂いと跡。二人は簡単に一言二言話す
「…ああ、そうだ。」
男のその言葉がきっかけになったのか会話は終わってしまったのだ
かつての戦場で交わした一言、二言を思い出す。いつだったかは忘れたがその辺の雑草のようなどこにでもいる風貌の男だったが骨はある男だった。傭兵を長くやって付き合いがあった男だ
「エンカク、ついてきてほしいところがあるんだ。」
「今度はどこの戦場だ。」
それはロドスでは変わらない光景のひとつ。作戦を実行するためにドクターが俺に声をかける。平和そのもののぬるい戦場かはたまた激しい戦場かどうなるだろうな
ただ思い出していたことといい、今日はあまりいい予感がしない気がした
「あの奥にいる女の子の攻撃が厄介ですね。」
「ドクター、私のアーツもあまり効きませんでした。彼女のアーツ適性が高いからだと思います。」
「ならアーミヤ、アドナキエルと…後ヴィグナに前方の敵を頼む。エンカクは回り込んで奥の術師の対処をしてくれ。」
ドクターが適格に指示をだす。妥当なところだろう。アーツの適性が高いなら物理的な耐性がないとみたか
「わかったわ、前方の敵は任せて!」
「エンカク、近衛局からもらった情報によると近衛局からロドスに送られる予定の感染者の可能性がある。殺さないでくれよ。」
「それくらいはわかっている。」
確認した作戦通りに動く。向こうは戦いなれてないのか前方の動きばかりに気をとられて後ろはがら空きだ。今日の戦場はぬるい
烏合の衆の集まりだろう。感染者の集まりで不当な扱いを受けたものが集まった名もなき集団。だがそれに苦戦するのはあの術師のせいだろう。アーツを使い慣れているか普通に切り込むには難しい。うまく邪魔をしている。戦況はこちらにある。前方は押されている、向こうの前線が崩壊するのも時間の問題だろう
一歩ずつ近づく
「おかしいとは思わなかったのか。」
声をかければ振り向いた
その目があの日俺を見上げていた男と重なる
その辺の傭兵のわりには骨があるやつだった。どこにでもいそうな風貌の男で、ひとときの休憩では故郷にいる妹の話をする。最初に見たときは一番最初に死ぬだろうと思っていたがしぶとく生き残っていた。それこそ雑草のように
サルカズだからという理由よりはギリギリのところで生きていたようにも感じる。死に場所に戦場を選んだ男を俺は知っている
「ナナシ」
「なぜ私の本名を知っておられるのですか?」
「お前の兄に逢ったことがある。」
「兄はどんな人でしたか。」
言葉をつまらせる。お前の幸せを願っていた男だったとでも言うか。最期に兄が言った名前はお前だったのだから
『いい、それで。感染者として死んだ者よりもあんたに殺してもらった誰かでいい。』
『心残りはナナシ…妹のことぐらいだ。』
最期に名前を呼んだ妹はお前が戦った世界で戦いに身を置いている
「あまり話はしなかった。」
「そうなのですね。でも兄が生きていた姿を知っていた方がいて少し安心しています。私たちに知り合いは多くなかったので。」
「感染者であればロドスはお前に協力してくれるだろう。それこそ…お前のアーツの適性の高さを提供せずともだ。お前も戦場に来るのか」
世界がどうして回っているかなんて大層なことを言うつもりはない。妹の幸せを願って戦った兄の願いは届いたのか。それを問う相手はいない。この出逢いは意図してつくられたように少しだけ感じた
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