寮でドレスを着るのは流石に目立つので、ジョルノとウーゴに車へと乗せられるとサロンでドレスを着付けとヘアメイクをさせられた。お化粧とか初めてでいろいろと別世界すぎて、やり方を訊いたりおすすめとか訊いたりしていたら時間が危うくなってしまって、ウーゴに叱られそうになった。けれど何故か私を見たら今にも噴火しそうだったのに静かに黙ったので、ひょいと避けて入口にいるジョルノの方へと向かう。
ジョルノも私を見たら最初は何か文句を言いそうな顔をしていた。でも何かを言う前に動きが固まって、ウーゴが奥から出てきたらお互いに見つめあった後に二人揃って口を開く。
「「別人か……」」
「殴るぞ。」
しかもハモるとか酷い。内容も酷い。自分でも分かっていたけれど、自分じゃないみたいで鏡とかちゃんと見られてないのに、ガン見されてこれとか酷すぎる!そんなに私変なんですか……!
「とりあえず行こうか、任務会場に。」
落ち込んでいれば私から目を逸らしてジョルノが仕切り、入口の扉を運転手に開けてもらって外に出てしまう。
私とウーゴもその後ろを追いかけるように店を出て、学校から乗っている明らかに高級そうな黒塗りの車へと乗り込んだ。中もめちゃくちゃ高級そうで、いつもミスタさんと乗る車と全然違うから緊張して体が強ばる……ウーゴもジョルノもよくこんな高そうな車に平然と乗れるよなぁ。ウーゴは慣れていそうだけれど、ジョルノとか大変だったんじゃない?
「ところで今日の仕事なんだけど、」
まじまじと二人を見ていたら、ジョルノが開いて今日の仕事の話を始めた。
「シニーだから出来る仕事を頼みたいんだ。」
「へっ?……私だから出来る?」
「うん。」
突然名前を呼ばれて変な声が出たけれど、何とか声を戻して聞き返す。
私だから出来る仕事……それってやっぱり追跡系?いやでもジョルノだってそれは出来るだろうし……何だろう?
「これから行く場所は政治家が主催するパーティーなんだけど、その政治家っていうのが裏で麻薬を捌いてるとんでもない輩でね。パーティー会場の屋敷で取引をする可能性がある。」
「政治家の……パーティー……」
どんなパーティーか分からないけれど、凄く煌びやかなイメージがある。そんな場所にただの小娘が行っていいの?入れるの?
「フーゴにやってもらおうと思ったのはその取引を誘発させることだったんだけど、きみがその作戦をするのはまず無理だから、自然にその『可能性』を作り出すことにした。」
しかも今さり気なく私のことを馬鹿にしなかったか?文句を言ってやりたいけれど話が逸れるから言い返せない。悔しい。
「主催がパーティー会場から消えたら目立つだろ?何かしらの余興があれば主催は消えても目立たないだろうし、取引だってスムーズに出来る……だからフーゴのピアノ演奏を仕組んで、そいつの取引現場を抑えたい。きみにはぼくらだけに見える足跡を創ってもらう。」
作戦を言いながら、ジョルノは後ろから黒髪のカツラ……いや、カツラって言ったらダメだ。ジョルノの頭に乗るならウィッグって呼ばないと……ウィッグを取り出して、自分の頭にセットをし始める。
「きみの創った……足跡が……見えたら……あっちで、待機しているミスタが……それを追いかける、から……きみはひたすら足跡が消えないように、頑張ってくれ。」
前髪を垂らして、特徴的な三つのコロネを封印して、グイグイと髪を押し込んでいくのは何とも不思議な光景だった。
「しかしジョジョ、その作戦はあなたのスタンドでも充分可能なのでは……」
私もそれが気になっていた。この任務って私がいなくても成立するものだと思う。
ウーゴの質問を聞いたジョルノは、まだ入りきらない髪の毛と戦いながら、私が出る意味を教えてくれた。
「パーティー会場に虫や動物が、現れたらっ、目立つだろうし騒ぎになるだろ?シニーの能力の方が、目立たないし、安全だ。」
「お、おお……なるほど……」
言われてみれば確かにって思う。いきなり煌びやかな場所に虫が現れたら私もめちゃくちゃ騒ぐ。動物なんて現れたらもうパニックだよな。
「だから今回ぼくのスタンドは使わない。戦闘になる場合はミスタ頼りだよ。」
ジョルノは説明をしながらウィッグをしっかりと被ると、久しぶりに黒髪姿になった。時間が無駄だからって準備をしながら説明をするとか……器用だよな。変に感心をしてしまう。
とりあえずこの作戦にミスタさんがいるのは嬉しい。いつも組んでいる人だし、何かあったらすぐに助けに来てくれる。いるといないのとじゃ安心感が全然違う。
「『パッショーネのボス』がいたら取引もやらないだろうから、この通りぼくは変装して潜入します。招待状は裏ルートで手に入れてあって名前も隠してある。だけど名前を呼ばなくっちゃあいけない場面があったら、ぼくのことはこの招待状と同じ名前の『ハルノ』って呼んでくれ。」
「ア……ア、ハ、ハー……ハル、ノ?」
「ベネ!シニーは大丈夫そうだね。」
「ジョジョって呼んたらいけないなんて辛いです……」
「フーゴは耐えて。」
この作戦は私が失敗したら全てが台無しになる。今まで自分にしか見えなかった足跡を周りに見せるとか、やったことがないからちょっとだけ不安だ。あと咄嗟にジョルノをハルノって呼べるかも不安。
「黒髪のジョジョ……凄くイイ……」
あとウーゴもいろいろと不安である。ジョルノの黒髪姿に感動をしている姿は正直言って引くレベル……どんだけジョルノが好きなのか。
「着いたら頼んだよ、二人とも。」
不安がっていれば、ジョルノは私とウーゴを真っ直ぐと見つめてお願いをしてくる。
「任せてください。」
「頑張るよ。」
ウーゴと私は首を縦に振って、ジョルノ期待に応えることを誓った。
(失敗しないようにしないと……)
とにかく失敗だけはしないように注意をしないといけない。ジョルノがわざわざ出てくるほど今回の仕事は厄介なんだ。場合によってはもしかしたら戦いになるかもだし、ここから先は油断をしたらいけない。ふざけることもここまでにしておかないと……
(やり切るぞ……)
真面目に、真剣に任務を遂行しよう。パーティーだからって浮かれていちゃダメだ。
とにかく頑張ることをジョルノに誓う。ウーゴの演奏を無駄にしないようにしよう。何度も何度も心の中で唱え続けた。
パーティー会場は街から離れた場所にあって、辿り着いた頃にはもう空は暗くなっていた。
ミスタさんと合流をしてジョルノが受付を済ませると、私達は涼しい顔で屋敷の中へと侵入して、流れるように広間へと入る。室内には美味しそうなご馳走やドルチェ、ワインやらがたくさん並べられていて、奥の方にはウーゴが弾くと思われるピアノまであった。そこにいる人達は皆ドレスやスーツを着ていて、正直私みたいな小娘には不釣り合いな場所に見えた。
「ジョ……ハルノ、ぼくは打ち合わせがあるので……」
「ああ。行っておいで。」
部屋の中を眺めつつ扉の把握をしていると、ウーゴが誰かに呼ばれて来て早々に奥へと消えてしまう。着いて早々打ち合わせって大変だな。
「ぼくも協力してくれた人に挨拶してくるよ。ミスタとシニーはなるべく離れないようにパーティーを楽しんでくれ。任務が終わるまで飲まないでくださいよミスタ?」
「任務で来てんだから飲むわけねーだろ?」
「シニーは食べ過ぎないように。」
「ドルチェは?」
「……フーゴのピアノが始まったら入口に来て。」
「無視か。」
そしてジョルノも会場内の人混みへと消えてゆき、私とミスタさんがその場に取り残されてしまい、お互いに見合うと一緒になって溜め息をこぼした。
分かってはいたけれど、会場内のご馳走はあまり食べたらいけないとか酷くないか……食べ過ぎないようにってどのくらいの量が食べ過ぎに値するのか分からないぞ?夕飯の時間だからお腹に何かしら入れさせてくれ。
「何ならいっぱい食べていい感じですかね。」
思わずミスタさんに真顔で訊ねる。
「サラダならたらふく食えるんじゃね?」
「サラダ……ですか……」
サラダかぁ……野菜をいっぱい食べるのはありなのか。肉とかドルチェとか食べたかったよな。生は怖いからせめて胃に優しいものを食べたい。
「ミスタさんよく耐えられますね……辛くないですかこういう任務……」
つらい。めちゃくちゃつらい。そう思いながら近くに置いてあった、胃に優しそうなグラスに盛られているパンナコッタに手を伸ばして食べ始める私。訊いた意味がないよなぁって思うし申し訳ないけれど、せめて一品だけでもご馳走を胃袋に収めたい。だからウーゴ許してね。
「そりゃあ辛ーよ……でも慣れりゃどうってことねえ。」
ミスタさんもパンナコッタを手に取ると、私と一緒にもぐもぐと食べ始める。
「仕事が終わってから飲んだ方が美味いっつーのもあるけどさ……ジョル、じゃあなかった。ハルノも本当は食いてーんだろうけど我慢してるんだろうし、合わしてやるのも仕事のうちかと思うぜ。」
「あー……」
なるほど……そうだよね。ジョルノって甘いもの好きだし、本当はこういう場所に来たら自分も周りみたいに食べたいだろうな。ボスの威厳を保つためにあまり食べないようにしていたとしたら……そう思うとこっちまで辛くなってくる。
「16歳でギャングのボスって……大変ですよね。」
夢を教えてくれたのは確か進路の話題が授業に出てきた頃だった。ギャングスターになりたいって真剣に言っていて、正直そういう子には見えなかったから、心の中のどこかではジョルノの夢を笑っていた気もする。彼はいつだって真剣で、その夢を叶えるために自分の足で動いていたのに。今はその夢を叶えて、叶えた後もこうやって活動に励んでいる。まだ若いから周りにも結構ナメられていたと思う。でも威厳を保とうと常に胸を張って無理をしたりして……凄く大変だろうなぁ……
「大変だろうけど、あいつ最近は楽しそうに仕事してるぜ?」
「え?」
ジョルノの抱える重みを想っていると、ミスタさんはそれを吹っ飛ばすようにジョルノの今を教えてくれた。
「シニストラが起きた辺りからだな……眉間のシワも消えてきたしよく笑うようにもなった。しょっちゅう仕事を抜け出しておまえの所に行こうとするし、アレだな。やんちゃになったわ。」
「やんちゃ……」
やんちゃになった?あのジョルノがやんちゃとか、全く想像がつかない。しかも仕事を抜け出してまでしていつもウーゴと遊びに来ていたのか。凄く皆さんに申し訳ない……迷惑をかけてごめんなさい案件だよ。
「ところでシニストラ、」
申し訳なさで縮こまっていると、ミスタさんはパンナコッタを食べながら私に訊ねてくる。
「おまえはフーゴとジ……じゃなくてハルノ、どっちが好きなんだ?」
「は!?」
その口から放たれたのは、とてつもなく恐ろしい質問だった。
「いやいやいやいやミスタさん何言ってるんですか!」
どうやったらそんな話になるのかが分からない。え?ウーゴとジョルノのどっちが好きかって?何その質問、どうやったらそうなるの?生まれたの?
ミスタさんは驚く私を見ながら、それに至った理由をぶつけてくる。
「だってよぉ〜、フーゴもハルノもおまえに結構尽くしてるだろ?片方は幼なじみで片方は同級生って何か恋愛小説みたいじゃん。そろそろどっちか好きになってもおかしくねーかなってさ。」
……いや、その理由ってめちゃくちゃじゃない?いくら幼なじみでも、同級生でもそこから恋愛に発展するのって一握りの人達だと思うのですが。その理屈だと上司と部下の関係であるミスタさんともフラグが立つのでは?恋愛小説に則るならば。
「あ、それともナランチャとかアバッキオ?ブチャラティもいいよなぁ〜!オレが女だったらブチャラティがいいわ!」
しかも死んだ人とのフラグまで立て始めるし!そんな風にあの人達を見たこととかなかったから凄く複雑な気分だよ!
「いやあの、確かに皆魅力的ではありますけど……」
うん、皆それぞれに魅力がある。魅力に惹かれる女性がいるのも雰囲気から凄く察せる。
「私自身には魅力とかないですし……」
でも私自身に魅力はない。彼らを惹きつけるようなものは一切持ち合わせていない。
「単純だし困らせてばかりだし、やってあげたいこととかよくから振っちゃうし、」
振り回してばっかだよいつも。ジョルノもウーゴも仕方がなく着いてきてくれている感がある。
「ナランチャもアバッキオもブチャラティも……皆私のこと過大評価しますけど、ただ単に私のスタンドがちょっと変わってるからで……」
見せたいものを創るとか反則な能力だよ。私が単純だったから生まれたスタンドだってジョルノも言っていた。
「まず皆、私をそういう目では見ないですよ。恋愛とか私には向いてないです。」
そもそも私は恋愛とは無縁な人間だと思う。女の子らしくもないし大食いだし、そもそも恋心とか分からない。初恋すらしたことがない。
「そうかぁ?オレは向いてると思うけど?」
しかしミスタさんはそうは思わないらしい。私の話を聞いて、笑顔で思うことを話してくれる。
「単純っつーことは真っ直ぐってことだろ?好きな奴が出来たらそいつに一途になるタイプだぜおまえ。オレだったらそういう子に惹かれるけどなぁ〜」
「え……」
ミスタさんの思考回路ってどうなっているんだろう……私の卑屈を見事砕くような内容が出てきた。
「他の連中だってそうだ。真っ直ぐだから皆おまえのことを凄い奴って褒めるんだぜ。あのアバッキオを懐柔してんだからおまえは相当すげえ奴だよ。」
あ、アバッキオを懐柔させると凄い奴認定されるのか……マンマミーアだよ……アバッキオって猛獣なのか?
「まぁ無理に恋しろとかは言わねーよ。」
ミスタさんは空いている手を私の肩乗せると、ポンポンと励ますように叩いてくる。
「いつか誰かと好き合えたらいいな、シニストラ。」
正直パッとしない話だけれど、女子ならば多分そういうものに憧れて当然なのだと思う。男の人もまた同じように憧れているのだろうと思う。
「はい……」
まだ分からないけれど、いつか出来たらいいなって。ミスタさんの励ましを聞いたらちょっとだけ思った。
『皆様、本日はパーティーにお越しくださり―――』
「……お、ウーゴのピアノが始まるぜ。」
そうこうしているうちに部屋の中が暗くなって、司会者とピアノにスポットライトが当たるとウーゴがピアノを弾き始める。何の曲なのかは分からないけれど激しい曲で、ほぼ全員がウーゴの方を見つめていた。
凄い……フーゴって何でも出来るよなぁ……勉強も音楽も出来るとか超人かな?
「行くぜシニストラ。ターゲットはあのおっさんだ。あいつの足跡を創ってくれ。」
ミスタさんにそう言われて入口の方を見ると、ジョルノの予想通り人が取引のためか広間から男の人が数人集団になって出て行った。私達はその人達を追うように人混みを避けると、既に入口にいたジョルノと合流をする。
「トロイメライ、『私は望む』……」
トイレに行くふりをして入口開けてもらい、退室してから物陰に隠れて。私はスタンドを発動させると二人に見える星達を目から産み、床に手を置くと集中してひたすらに足跡を創り出す。
「普段こういう風に見えてんのか……すげえな。」
どうやらちゃんと見えているらしい。ミスタさんは私が創った足跡を見ると自然な感じで褒めてくれた。
「感動している場合じゃあないですよミスタ。早く取引現場を抑えましょう。」
「分かってるよ!頼んだぜシニストラ!」
「了解です。」
そして二人は私が創った足跡を追って、屋敷の奥へと消えてゆき、その場に私だけが取り残された。
(今回は室内だしなぁ、)
これがもし外だったら集めた星達を弾いて足跡の範囲を広げられるけれど、屋敷の中となるとそんな荒業も出来ない。私のスタンド能力の射程距離は特にない。弾くと流れ星みたいに距離を伸ばせるから測定をしたこともない。だから不安だった。室内で扱うのは。
どこまで星達を産めるか分からない。正直不安なのでゆっくりと私も二人を追うように隠れながら廊下を進み、回収しながら足跡を広げていった。
(なかなか大変な作業……)
集めては望み直して足跡を広げるとか、凄く集中力と根気のいる作業だ。常にアンテナを張っていないとすぐに創ったもの達を崩してしまいそう。星を産みながらも何度も何度も隠れては創り直しをし続けて、頭が段々とくらくらしてきてやばい。
「ん……?」
しばらく廊下を歩いていると、曲がり角から何やら不穏な音が聴こえてくる。
パンパンと何かを撃つような音……パンチの音?いや、これは多分発砲音だ。完全に何かを狙って撃っている。いつの間にか銃撃戦になっているらしかった。
(パーティー会場で銃撃戦って……)
まずい、銃声がパーティー会場に響いたら大変なことになる。もしかしたら犠牲者だって出るかもしれない。ミスタさんとジョルノがこの状況を制圧出来るなら問題ないけれど、会場方面に漏れた人間が一人でもいたらまずいことになる。
「トロイメライ、『私は望む』!」
とりあえず実行犯を逃がさないように星達で壁を創ろうと、回収した星達を一点に集める。
そして星達に望みを唱えて、私が今いる場所からジョルノとミスタさんが相手をしている人間の後ろに透明な壁を創り、何とか逃げられないようにして。二人が制圧するまでの間を凌ごうと、創った壁から離れて再び物陰に隠れようとした
「え……?」
のだけれど、その瞬間に後ろからも銃声が聴こえてきて、私の目の前にある創った壁を赤く塗りつぶしていて……
「なにこれ……?」
いや待って、何この赤。一体どこから出てきた赤なの?よく見ると下に流れて床に零れ落ちているし……
「……っ」
しかも脇腹が凄く痛い。腹痛とは違って突き刺さるような痛みがする。じわじわとそこが熱くなってきて立っていられなくなって辛いし、視界がぐらついて前を見ていられない。
何が起こっているのか混乱をした。頭では分かっているけれど、心では分かりたくないって思ってしまって、それが混乱に繋がってしまって気をしっかりと保てそうにない。体が鉛のように重たくなって、そのままその場に倒れ込んだ。
「おいどうなってやがる!前に進めねぇぞ!」
知らない人達がやって来て、目の前の壁を乱暴に叩いては怒鳴り散らしている。
「こんなことが出来んのは……まさか……!」
やばい、意識が飛びそう……痛いし熱いし体がピリピリするしでもう最悪だ。
「あの議員を押さえてる奴!パッショーネの幹部じゃあねーか!」
「やべえ、黒髪のガキがこっちに向かってくるぞ!」
「ひぃぃ!!」
ごめんジョルノ、この壁はもう保てない。二人が安心して戦えるようにしたつもりだったのだけれど失敗してしまった。
「シニー!」
ウーゴの演奏は終わったのかな……ちゃんと聴きたかったな。今度弾いてってお願いをしたら弾いてくれるかな……
足手まといになって本当にごめんね。応用とか出来なくて本当にごめん。単純だから一つのことしか集中出来なくて申し訳ない。
「ジョル……ノ、」
貴方にやってあげたいことっていつもから振っちゃうな。
「ごめ……」
目の前に落ちた黒髪のウィッグを眺めながら、私は完全に意識を手放した。
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