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ただひたすらに友達が欲しかった。
いい中学校に入ったのはいいけれど、そこにいたのは皆知らない人で、最初の頃は誰とも仲良くなれなくて寂しい思いをしていたと思う。
とにかく友達が欲しくてクラスを見回した。どこもかしこもグループが出来上がっていて輪の中に入れそうになくて、でもよく見ると同じく一人で過ごしている男の子がいて。彼は誰かと群れようとはせずにいつも一人で、とにかく立っていても座っていても姿勢がいい。いつの間にか目で追うようになっていて、そして気が付けば声を掛けていた。
無駄が嫌いな性格だったからかもちろん最初は無視をされた。でも何度も話に行ったら諦めたのか、会話をしてくれるようになった。
何が好き?とか得意なことは?とか、しまいには勉強を教えてに変わっていて、一緒に宿題をやる仲になっていった。
よく笑うようになった。足が私と同じぐらい速かった。ジェラート屋さんまで競争をして、負けた方が奢るとかやって盛り上がった。
次第にジョルノの周りには人が増えていって、私にも友達がたくさん増えていった。段々と交流が無くなるんじゃないかと思っていたけれど、寧ろ増えていったと思う。変わらずに隣にいたし、相変わらず競争をしたり一緒にドルチェを食べたりした。
名前の呼び方が変わった。親友になれたみたいで嬉しかった。
夢を教えてくれた。本当に叶えたことが友達として誇らしかった。
見た目が変わっていた。不思議だけれどそれでも彼は彼。何も変わらない。
起きない私に会いに来た。凄く嬉しくてたまらなかった。
ジョルノはたくさん私を支えてくれた。だから私も支えたい。支えたいけれど上手くいかなくて、いつも失敗で終わってしまう……凄く悔しい。
とにかく悔しくて、しょうがな――――


「――――痛い痛い痛い痛い!」
「ああ起きたか。」

凄く懐かしい夢を見ていたと思ったら突然体に激痛が走って目が覚めて、私はびっくりして起きると大声で何度も何度も同じことを叫んだ。
何これさっきより痛い。何されているの私……っていうかここはどこ?廊下から移動したのかベッドに寝かされているみたい。下がふわふわしている。

「今きみの傷口を閉じてるんだ。貫通して内臓もやられてて大変だよ……」

ジョルノはそう説明しながら、容赦なく私に痛みを与えてくる。

「痛いいい!!」

ああそうだ、私ってば銃で撃たれたんだっけ……考えないようにしていたら倒れちゃって、確かそのまま気絶して……生きているのか私。死ぬかもって思っていたからびっくりだよ。ブチャラティとナランチャとアバッキオが追い返したのかな?

「やだ、ジョルノ……これいたい……」

何はともあれ現在……ある意味この痛みで死にそう。痛すぎるあまり息が詰まって苦しい。

「我慢して。」
「んっ!」

しかしジョルノは容赦せず、傷口を塞ごうとスタンド能力を使ってくる。
辛い……撃たれた私がいけないって分かっているけれど、そこにジョルノの手が置かれているせいか、ジョルノに刺されているような感覚を覚えておかしくなりそう……

「ぃ……たぃ……」

ベッドのシーツを掴んで痛みを堪えようとするけれど、ジョルノは容赦なく休まずに傷口を塞ごうと続けてくる。

「大丈夫、すぐよくなるよ。」

痛みを感じる度に息は止まるし涙が出てくるし、私の顔は多分グチャグチャだと思う。こんな顔は見られたくないけれど、ジョルノはそこにいるし、防ごうにも防げない。

「……きみのおかげで取引現場を抑えられたんだ。」

顔を見られたくなかったから両手で顔を隠そうとする。でも立て続けにやってくる痛みの方が辛くて、堪えようと再びシーツに戻ってゆく。
ジョルノが何か話してくれているけれど、それを聞く余裕なんかない。ひたすらにもがいて苦しんだ。

「フーゴとミスタが今相手を拷問してるんだ。シニーを撃ったからにはそれなりに痛めつけないと気が済まないって二人とも張り切ってたよ。」

クスクス笑いながら何か不吉なことを言っている気がするけれど……聞き取れない。

「ねぇシニー、」

ジョルノに呼ばれたのは聞き取れたので、視線を向けたら段々と綺麗な顔が近付いてくる。

「頑張ったね。」

褒めながら頭を撫でてくれて、でも痛みは変わらなくて……どんな顔をしたらいいのか分からない。だからずっとジョルノを見上げ続けた。

(頑張ったけど……)

確かに頑張った。いつも以上に気を張って集中をして、凄く疲れた。
でも頑張った結果がこれなのは正直笑ってしまう。前ばかり見て後ろを確認しないなんて私は本当単純で馬鹿だ。ウーゴが言う通り、馬鹿野郎だ。

「シニー……?」

思い返して自分の失敗を嘆き始めたらもっと涙が流れてくる。シーツから手を離して今度こそ両手で顔を隠した。

「ジョルノには……迷惑かけてばっかだ……」

本当にいつも迷惑かけっぱなしだよね。起きる前だって自分を殴ってまでして会いに来たり、起きた後もいろいろと面倒を見てもらったり。

「馬鹿で、ごめん……」

重要な役をしっかりと最後まで果たせなくて申し訳ない。本当だったら今頃皆でご馳走とか食べていたかもしれないのに台無しにしてしまった。
段々と息苦しくなってくる。息が上手く吸えなくて、吸っても頭がクラクラしてきてパニックを起こしそう。でも何故か眠たくなってくるし、何が起こっているのか自分で自分が分からない。

「……シニー、」

ジョルノは私の顔から両手を剥がすと、その手を握って私の顔の両横にそれぞれ置いて、ベッドへと体を乗せて、私の上に跨ってきた。
それをぼんやりと眺めていたらジョルノの顔が段々と私の方に再び落ちてきて、それを肩で息しながらずっと見つめていれば、お互いの鼻と鼻がちょんとぶつかる。

「息整えてあげるから、ぼくに集中して。」

ジョルノの吐息が顔にかかるとその熱気に身震いして、何故か体が強ばってしまった。
誰かとこんなに至近距離で見合うのは初めてだ。

「後で殴っていいから……」

ジョルノは一体これから何をするのかよく分からない。考える能力が低下していても何となくこれから起こることを察して、私は素直に従う。

「うん……」

苦しいけれど口で息をするのをやめて目を閉じた。それで楽になれるならっていう気持ちの方が強くなっていて、深くちゃんと考えようと思わなかった。
私はジョルノの手をギュッと握る。

「……、」

それが合図になったのか、ジョルノの顔が私の顔へと重なるように落ちてくる。
口と口が、ゆっくりと触れ合った。

「……っ」

ジョルノは何度も何度も私の唇に唇を重ねてくる。両手を私の手から離すとそれを私の体へと持ってゆき、そのまま体を横向きにされて、背中に手を伸ばされた。私の髪の毛を掻き上げながら頭を支えると、再び唇を重ねてくる。角度が変わったり度々リップ音が聴こえてきて耳がおかしくなりそう。

「……嫌だったら叩いてくれ。」

吐息をするようにそう言うと、ジョルノは私の口の中に舌を入れてきた。
びっくりして閉じていた口を開けたら舌と舌がぶつかって、未知の感触に溶けかけていた緊張が再びやってくる。
嫌だったら叩いていいって言われたけれど、頭の中はぐるぐるしていてそれどころじゃない。ジョルノがくれるものが気持ちよすぎて再び力が入らなくなっていた。
さっきとは別の息苦しさがある。でもこの息苦しさは嫌じゃない。
涙も引っ込んだ。撃たれたところの痛みもいつの間にかなくなっていた。夢中になっている間にジョルノが多分治したんだ。

(嫌じゃない……)

ジョルノと触れ合う度に何かが込み上がる。

(なにこれ……)

今までに感じたことがない浮き立つような不思議な感情に、体が段々熱くなってゆく。何でこんなことになったのかは分からないけれど、考えたらいけない気がしてひたすらにジョルノのくれるものを追いかけた。

「……もう大丈夫かな。」

ジョルノは唇を離すと私の髪を撫でて、顔へと手を伸ばすと私の唇を指でなぞる。
眠気は消えて別の意味でクラクラする私はジョルノのことをぼんやりと見つめるけれど、こんなことをした後に見たせいか、急にジョルノが男の人に見えてしまって何だか照れ臭い。別人が目の前にいるような錯覚を覚えてしまいそう。

「傷口も塞いだし、血も造った。過呼吸も治ってるね。袋があったらよかったんだけど、麻薬取引をやっていたところの袋とか危険だから……ぼくが代わりでごめん。」

ジョルノは起き上がりながらそう言うと、そのままベッドから降りて入口の方へと行ってしまう。

「様子見てくるよ。帰る準備してくるからちょっと休んでて。」

そしてゆっくりと扉を開けて、この部屋から姿を消して。私だけがここに取り残されてしまった。

「……」

起き上がってジョルノがしたことを今更だけれど冷静になって考える。
過呼吸を止めるためにやってくれたことらしい。それはありがたいことだ。他にも多分痛がる私に配慮してくれたんだと思う。しながら傷を治してくれた。あれはジョルノの優しさだ。優しさなんだ。
しかし、だよ?

「何で私……」

どうして私はああなることを察した?野生の勘でも働いた?いや違う、映画とかで見たことあったし、女子寮仲間が昔話していたのを足りない頭で聞いたりしていたから知識はあった。ジョルノを受け入れた上嫌じゃないっていう感想まで持てたのは凄く不思議。弱っていたせい?ジョルノが優しかったから?
普通いきなりあんなことをされたらジョルノが言う通り殴るのでは……なのに何で怒りが湧かないのか。反抗をしようとか思わなかったのか。

(わからない……)

何で、どうして。頭の中でぐるぐると何度も何度も考える。しかし答えなんて出て来ない。ただ分かることは友達とキスをしてしまった事実と何故か嫌じゃなかった現実のみ。
無縁だと思っていたことをされた……仕方がなかったとはいえ思い出すと体が熱くなる。ジョルノの顔を思い浮かべただけで爆発しそう。あとこの前の寝起きの裸だったジョルノまで脳裏に甦ってきて頭から今にも湯気が出そう。
触れ合った唇に指を這わせたら感触を思い出してしまって、思わず近くにあった枕を壁にぶん投げる。投げた先にあった花瓶が下に落ちて割れたけれど、周りを気にするほどの余裕はなくて頭を押さえて丸まった。

(どうしよう……)

ジョルノは友達……友達なのに男女の関係みたいなことをしてしまった……初恋すらしたことがないのに私ってばそれを飛び越えて仕方がないとはいえあんなこと……!

「ジョルノごめん……!」

私のためとは言えあんなことをさせてしまって、申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいいっぱいになってしまった。




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