Episode2・end


「ミスタさんそれで最後です!」
「オーケー!行くぜピストルズ!」

あれから学校を無事に卒業した私は、その翌日から毎日のように一日中ミスタさんと仕事をしていた。
ある時はギャング同士の抗争を鎮圧、またある時はひたすらに尾行と追跡……更には街の治安に目を光らせて悪人から街の人達を守ったりと、忙しくて凄く大変だ。でもいろんな人からお礼を言われると疲れも吹っ飛んで、何でも出来る気分になる。

「ふぅ……任務完了だな。」

今日はパッショーネの縄張りで勝手に賭博をした上儲けを麻薬組織に流していたとかいう人を捕まえた。普通なら警察の仕事のはずだけれど、麻薬となればジョルノの領域。私が標的の追跡をして、ミスタさんが路地裏へと誘き寄せる作戦を遂行したけれど、途中で標的の仲間がやって来たので小規模な戦闘が始まった。私がトロイメライでミスタさんを援護して、ミスタさんが確実に仕留めていくのがいつものスタイルだ。
仕事が終わるとパッショーネの方にドナドナされていく標的とその後からやって来た仲間達を見ながら、私とミスタさんは小休憩をしつつ今日の反省会をする。

「シニストラのスタンドって攻撃とか出来るのか?」
「そうですね……精神的苦痛なら与えられます。」
「えっ何それこわ……!」

大体はスタンドの話。あとは連携の話とかいざとなったらの護身術……学ぶことはいっぱいある。この世界の厳しさを体感しながら一つ一つをものにしていく毎日だ。
仕事が終わればそのままアジトに直行して、ミスタさんと報告書を仕上げる。何もかもが終わるとウーゴとジョルノがいる部屋まで行って、ミスタさんが部下に買わせたドルチェを食べながら今日あった話とか世間話をした。

「今日の任務お疲れ様でした。ミスタとシニーが捕まえた標的、全部白状しましたよ。」

ウーゴは今日は拷問をしたらしい。いつもは書類と睨めっこしているから話を聞いてみると新鮮に感じてしまう。

「フーゴのスタンドは知らない人が見たら怖いからね。頼りにしてますよ。」
「ありがとうございますジョジョ……!」

今日の仕事は皆が関わって終わらせたものだった。皆が皆自分の役割をこなして今ようやく休めている。こうやってお互いを労い合うのっていいよなぁ……内容はともかく頑張ったなって気分に浸れるね。テスト勉強終わった後の打ち上げみたいでウキウキしちゃう。

「とりあえず今回の件で麻薬ルートは大体潰せましたね。あとは更に医療施設と養護施設の充実化と……」
「やることがまだいっぱいあるよなぁ〜」
「ブチャラティに誓いましたからね。」

あれが終わったらこれっていうビジョンが皆の中では出来上がっているんだな……凄い。私なんて毎日のやることに手を付けることで精一杯なのに、皆は先を見て動いているんだ。
ギャングって犯罪組織なイメージしかなかったけれど、ジョルノの目指している方向性っていうのはそんなイメージとは間逆でとてもキラキラと輝いている。戦うにしてもそこには必ず正義があるし、やると言ったからにはやり抜くっていう意志がとにかく固い。だから皆は着いてきてくれるんだ。ジョルノが真っ直ぐだから、そばにいたいって思うんだろうな。少なくとも私はそう。

「そう言えばそろそろブチャラティ達の命日ですよね。」

皆が逞しく見えてしょうがない頃、ウーゴがブチャラティ達の話をし始める。

「そうですね。忙しくてすっかり忘れていました。」
「オレもだわ。」

そうなのか……ブチャラティ達の命日ってもうすぐなのか。
ブチャラティとアバッキオとナランチャは確か前のボスと戦っている時に死んでしまったんだよね?今までちゃんと話を聞いたことがなかったし勇気もなくて、そもそも死んだっていうイメージがなかなか持てなくて聞けなかったんだよなぁ。

「シニストラのスタンドでまたみんな出せたりしねーの?」

ミスタさんは突然私に話を振って、あの奇跡をもう一度とか言ってくる。

「ちょっと厳しいですね……」

あれは、あの日の出来事は全てが奇跡だった。
溢れんばかりに星が産まれて、そして空いっぱいに降り注いで。しかも私の望みで皆に仮初の体を与えるとか……あれは最早神の領域である。気持ちが昂らないと人を創るための星は産めないし、無我夢中すぎたあまりにあの瞬間のコツがなかなか思い出せない。

「そもそも彼らが今そこにいるかが問題になるでしょう?」
「あ〜、そっか!いないと成り立たねえよなぁ。」

そう、重要なのはまずはそこ。いるか分からない限りあれは出来ない代物でもある。私は体を創るのであって魂を呼ぶことは出来ない。

「シニーの課題は死者の日までにまたみんなの体を創れるようになることだね。」

無理だという話をしていたつもりだけれど、ジョルノの中では無理とは思っていないらしい。私に笑顔で悪魔みたいなことを言い放ってくる。
いやしかし……悪魔みたいでもやらないといけないんだよな。だってブチャラティもアバッキオもナランチャも食べ物とかワインとか強請っていたし。食べたいんだよねきっと……美味しいものを。

「……わかった!」

私は拳を作ると、意気込むように返事を返す。

「もう今から鍛錬しまくるから仕事回して!」

あの三人に美味しいものを食べさせたい。そして最後にまた来年の約束をして次を作りたい。

「まぁ、倒れない程度に回してあげるよ。」

私の意気込みに対してジョルノは緩く応えると、席を立って扉の方へと歩いてゆく。

「今日はもう遅いしお開きにしようか。シニー、家まで送るよ。」

ジョルノに言われて時計を見てみると、今の時刻は二十時で……気が付かなかった。十八時ぐらいの感覚でずっと話していた。

「オレももうちょっとしたら帰るわ、お疲れ〜」
「ぼくは書類整理が残ってるのでまだいますね。お疲れ様です。」
「お疲れ様です〜」

止まっていた時間はそれぞれが再び動き始めたことで進み始める。私とジョルノは部屋から出るとそのまま真っ直ぐアジトの外に向かい、暗くなった街に繰り出した。
春になっても夜はまだ寒い。昼間は過ごしやすいし走れば汗も出るしでちょっと困るけれど、夜になるとそっちの意味でも困るしで悩む。丁度いいが存在しないのは大変辛い。

「新しい家はどう?」

二人で並んで歩いていると、ジョルノが手を繋ぎながら訊ねてくる。

「凄くいいよ!日当たりが特に最高!」

あれから何度も手を繋ぐようになった。最初のうちはぎこちなかったけれど今は自然に繋げるようになって、ジョルノの手の温もりを堪能しまくっている。
学校を卒業してからすぐにジョルノが新しい家を手配してくれて、今は引っ越した家で私は暮らしていた。アパートだけれどなかなか広くて、とにかく日当たりがいいから洗濯物もよく乾く。しかも街がよく見渡せて気分がめちゃくちゃ高まって毎日元気いっぱいだよ。

「よかった、気に入ってもらえて。」

ジョルノは笑いながらそう言って、手を更に力を込めて握ってくる。私も少し力を込めてジョルノの手を握り返して、しっかりと繋いでいる感触を確かめた。

(いろいろあったけどよかった……)

何も気にせずに話せるようになって本当によかったと思う。たまに思い出しては恥ずかしくなるけれど、でもジョルノからその話題は出て来ないから凄く安心した。最近はジョルノの隣の居心地がとてもよくて一緒にいるとホッとする。
しかし正直このままじゃいけないと思う私もいる。変わらないといけないっていう気持ちが現れてきて、少し焦りそうになる時がある。

(ジョルノの好きを理解しないと……)

ジョルノの好きを、恋愛というものを理解しないといけない。だから毎日仕事で忙しいけれど時間がある時はこうやってそばにいたいと思う。少ししか時間がないのは残念だけれど、ちょっとでもジョルノを知りたい。だからこういう帰り道も凄く貴重だ。

「ジョ……ジョルノって休日は何してる?」

昔に訊いたかもしれない。けれどジョルノの今を知るために再び訊ねてみる。
今と昔とじゃきっと答えは違うだろう。私だって昔と比べたら全然違うことをしているし、ジョルノだってきっとそう。娯楽とかしているに違いない。

「休日は……大体寝てるかな。」

しかし予想とは裏腹にジョルノの最近は少し寂しいものだった。いや、普段眠りが浅いみたいだし本人にとってはしっかりとした休日の過ごし方なのかもしれないけれど……でもちょっと寂しい。

「他は?寝る以外は?」

ジョルノには趣味はないのかな。共通の趣味があれば盛り上がれるよね?
そう思いつつ他にもあるか訊ねてみると、ジョルノは少し考えてから質問に答えてくれる。

「……読書、とか?」

……今のジョルノって休日は基本は静かに過ごす感じなのかな。学生だった頃はよく一緒にいたけれど、休日の干渉とかはあまりしたことがなかったし出掛けても大体甘いものを食べに外に出るくらいだったから、正直それ以外ではどんな風に過ごしていたかは分からなかった。放課後の付き合いはあっても休日まで一緒にとは考えなかったからな……でも読書は昔から好きだったっていうのは図書室に通った頃から印象として持ってはいた。やたら変な知識を持っていたし、あれは多分本をいっぱい読んで得たものだったのだろうと思う。

「ジョルノはいつも真面目だね?」

答えはともかく一つジョルノを知ることが出来た。それは嬉しいことだった。

「他にやることないからね。」

でもそんな私とは裏腹にジョルノは寂しいことを言う。顔は笑っていたけれど、疲れているせいか自分の発言のせいかでちょっと自嘲気味だ。

(この質問は微妙だったかな……)

もしかしたら本人からしたらちょっと悩ましい質問だったかもしれない。もっと楽しいこととか訊けたらいいのだけれど……あれもこれもとなってしまってやっぱり身近な内容しか訊けなかった。

(ジョルノって私がいない間はどうしていたんだろう?)

いろんな疑問が頭に浮かぶ。いない間に皆とどんな風に過ごしたのかとか、ボスになってからは何をしていたのかとか、私がいなかった空白の時間にジョルノが見てきたものを知りたい。でもそれは訊きづらいことのような気がしてすぐに喉の奥に言葉が引っ込んでしまう。
触れてはいけないものに触れることは辛い。言葉を選ぶことに必死になってしまう。当たり障りのない内容って一体どんなものなのかを考えるって難しい。

「今日のお昼何食べた?」
「パンだね。」
「パン!美味しかった?」
「お気に入りだから美味しかったよ。」

質問をすれば素っ気ない短い言葉が返ってくる。でも顔は穏やかで、何だかちぐはぐな感じ。美味しかったならもっと美味しそうに語ってくれてもいいんだよ……!

「もう着いちゃったな……」

何を話せばいいのか分からなくなってきて長い沈黙が続く中、ひたすらに手を繋いで歩き続けていたら、もう目の前には私が住んでいるアパートがあった。

「もう少しこうやって歩いていたかったけど、また明日かな?」

ジョルノはそう言いながら私から手を離し、見合うように向かい合う。

「おやすみシニー、お疲れ様。」

そう言いながら私の額に口をくっ付けるとチュッと音を立ててきて、ぽんぽんと頭を撫でては微笑んでくれる。送ってくれるといつもしてくれるけれど、これがまた照れ臭くてしょうがない……何だか凄くムズムズしてくすぐったい気持ちになる。
流石に同じことをする勇気はまだ私にはないのでお返しが出来ないのだけれど、ジョルノはそれでもいいらしい。いつも満足そうな顔で帰ってゆく。

「おやすみジョルノ!」

来た道を戻ってゆくジョルノに手を振りながら私も挨拶をして、ジョルノが消えるまで背中を見送って……それから完全にジョルノが見えなくなってしまって。私はそこに一人だけ残されて、ジョルノが触れた額に手を当てた。

(ジョルノは優しいな……)

ジョルノはとても優しい。病院で話してからちょっとの時間が過ぎたけれど、あれ以来凄くジョルノの優しさに触れているような気がする。
遅くなればこうやって送ってくれるし、何よりいくらか素っ気なくても話し方は柔らかい。無駄無駄って言っていた昔が酷く懐かしいくらいあの頃の面影が全く見えない。
ジョルノの好きは暖かい。それだけは痛いほど伝わってくる。嫌じゃないからとても心地がいい。その証拠に手をずっと繋いでいたいとか思ってしまう。もしかしたら私の方にも変化が起こっていたりするのかもしれない。

「ふふ……」

そうだったらいいなと思う。ちょっとでもジョルノに近付けたらいいなと思う。

(明日も頑張ろ!)

仕事は大変だけれどまだ始まったばかりだし、きっと慣れたらもっとやり甲斐だって生まれるかもしれない。
ジョルノとの向き合い方もまだ始まったばかりだ。その日常の中で生まれるものだってきっとある。だから頑張ることが今の私が出来る最善なのだと思う。
多分ジョルノとの関係は走らなくても大丈夫。ゆっくりと一歩一歩進めば気持ちだってくっ付いてきてくれる……はず?

「大丈夫……だよね?」

難しく考えたせいか少し不安になってきた今日この頃だった。


とにかく頑張ろうと思います……!




Episode2・end

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