Episode3・end


朝起きてパンを食べながら家事をして、仕事をしにアジトに向かおうと家を出る。走りたいけれど汗臭くなるから我慢して、慣れた道のりをゆっくりと歩いた。
慣れた道のり……そう、慣れた景色の中を歩いているのだけれど、何だかいつもと世界が違うように見える。何もかもがキラキラと輝いているみたいに目に映って気持ちがいい。

「おはようございますー。」
「おはようシニー。」
「おはよーさん。」

アジトに着いてボスの部屋に行くと、先にいたウーゴとミスタさんに挨拶をされた。
二人に挨拶をしながら部屋の奥の席を見る。昨日まではいなかったけれど今日は違う。朝日が当たって金色の髪をキラキラと輝かせて、笑顔でこっちを向いている人がいた。

「チャオシニー。」

大好きなジョルノがいる。

「チャオジョルノ!」

その場所にいるジョルノと恋人同士になった嬉しさで、今にも顔がにやけそう……一生懸命手を振りながら挨拶をしたら、ジョルノも笑顔で手を振り返してくれた。
今日からいることは昨日聞いたから驚きはしないけれど、ちゃんとこの部屋にジョルノがいることが嬉しい。仕事しながらジョルノに会えるんだもんな……最高でしかないよね。

「聞いたぜシニストラ〜!遂にジョルノに言えたんだってな!」

ミスタさんは嬉しそうにそう言いながら私の頭をわしゃわしゃと撫で回してくる。
何で知っているのって思ったけれど……ジョルノしかいないよね、言ったのって。自分の口で言うのは恥ずかしいから伝えてくれたのはありがたい。

「シニーとジョジョが恋人同士……何だか不思議な感じだな。」

ウーゴに至っては何が不思議な感じなのか分からないけれど、何やかんやで「おめでとう」って言ってくれる。ウーゴに言われると何だかくすぐったくなるなぁ……昔からの友達だしお世話になっていたからな?

「何か妹に彼氏が出来た兄貴みたいな気分だぜ……」
「何を言っているんだミスタ、シニーの兄ポジションはぼくですよ?小さい頃から知ってるんですからね?」
「その割にはおまえ悲しそうじゃあねーよな。」
「相手はジョジョとか最高じゃあないか!悲しむどころかむしろ喜びますよ!」

何やら第三者同士で言い合いが始まった……ウーゴが兄とかミスタさんが兄とか考えたことってなかったから、そういう風に見られていたんだなぁって思うととてつもなく嬉しい。何だか照れ臭い。
思わずジョルノの方を見ると、ジョルノも嬉しそうに笑っていた。やり取りが微笑ましいのかそれとも祝福されたことが嬉しいのかちょっと分からない。
しばらく二人の会話を眺めていたけれど、ちょうどいいところでジョルノは二人の話を止める。

「とりあえずオンとオフは弁えますので、あなた達もよろしくお願いします。」

ジョルノは机の上にある資料に手を伸ばすとそれをウーゴに渡し、指示を受けたウーゴはそれを受け取ると仕事モードの顔つきになって部屋の外へと出て行ってしまう。
そうだよね、公私混同は避けるべきだよね。命のやり取りをする場面も多い常に真剣に取り組まないといけない仕事だってあるし、なるべくそういうことはあってはならないよね。
部屋に残った私とミスタさんはジョルノと向き合うように立つと、今日の仕事の内容を聞いていつも通り街の方へと飛び出す。
本当に仕事が落ち着いてきているのか汚い仕事は回ってこなかった。ただ街の様子をミスタさんと見てくるだけ。他はミスタさんがオーナーになっているホテルで最近の客の出入りとかを聞いてきたり、たまたま倒れていた薬漬けな人を病院に運んだり……後はもういつも通り訓練とか、凄く平和だ。
アジトに戻ったらミスタさんは幹部の会議に行ってしまい、ミスタさんがいなくなったらウーゴに呼ばれて昨日と同じく書類に判子を押す仕事をする。本当に平和……ギャングらしい仕事をしていない。しないに越したことはないけれど。

「ギャングって書類確認もしないといけないんだね……」

前から思うことをウーゴにぶつける。

「パッショーネはちゃんと組織として成り立っているし、幹部には施設の経営権もあるからな。ジョジョは政治家よりも住民に信頼されていらっしゃるからいろんな所から意見を求められたりするんだ。」

それがこの書類の束だ。そう言いながらウーゴは書類にサインを書き続ける。もちろんここにある書類はジョルノが一度目を通して内容を把握したものなので、ウーゴがサインをしても問題はない……らしい。私が押してる判子はジョルノのシンボルマークで、別に意味らしい意味はない。

「ギャングのボスっていうか……最早この国の王様じゃない?」
「何言ってるんだ?王じゃあないぞ、ジョジョは神だ!天から舞い降りた天使であり神であり……」
「はいはい。」
「あと前から言いたかったんだがジョジョをボスって言っちゃあいけない。前のボスとイメージが重なるから嫌っていらっしゃるんだ。」
「そうなの?気を付ける……」

ウーゴって本当にジョルノが大好きだよね。ジョルノの話をするとどんなに疲れていても顔は輝くし、ジョルノを見ると目をキラキラさせながら名前を呼ぶし……昔のウーゴだったら考えられなかった。誰かへこんなに信頼を寄せるなんて。やっと自分の居場所が見つかったんだね。

「ウーゴが明るくなって安心したよ。」

遠くから見るといつも暗い顔をしていた。声を掛けると明るく笑うけれど、いつも寂しそうだった。そんな彼が今生き生きしていられる場所をくれたジョルノには感謝しかない。
……ジョルノがボスって言われるのが嫌なのは初耳だったな。気を付けないと。

「シニーは変わらないよな。」
「そういうこと言う〜?」

変わらないっていいことかもしれないけれど成長していないって言われているようなものだよね……凄く複雑。私なりにちょっとは女子っぽく振舞ったりしているのにな。

「だからジョジョはきみが好きなんだろうね。」
「え?」

ちょっとだけ落ち込んでいれば、ウーゴは付け足すようにそう言ってくる。

「いつも真っ直ぐで素直なきみの生き方に惹かれたんだと思うよ。」

何か、ウーゴが私を褒めちぎってくる。
どういうこと?あのウーゴが……私のことをいつもバカにしてくるウーゴが褒めてくれるとか、何なの今日は?雪でも降るんじゃ……
思いはするけれど敢えて言わない。

「ありがと、ウーゴ。」

褒めてもらえて素直に嬉しかった。それだけで充分だと思った。
ミスタさんもウーゴも皆優しい。普通だったらギャングのボ……いや、リーダーと恋愛とか止めると思う。でも二人は止めるどころか祝福をしてくれて……安心した。これからジョルノと恋愛をしてもいいんだって思うと胸がいっぱいになる。

(幸せすぎてやばい……)

判子を押しながら、少しだけ浮かれていたのだった。

夕方頃になるとミスタさんとポルナレフさん、そしてジョルノが部屋に戻ってきて、ウーゴと私で三人を出迎えては皆で少しのんびりする。

「ジョルノはシニストラとどこで知り合ったんだ?」

ポルナレフさんもジョルノが教えたのか恋人同士になったことを知っていて、いろんな話を訊いてくる。
オンとオフを分けるってジョルノは言っていた気がするけれど、ポルナレフさんがいいって言うといいんだな……注意とかしないで普通に話していた。

「中学校ですよ。クラスが一緒だったんです。一人でいたいのに絡みに来て最初は迷惑でした。」
「一人でいるとすぐ絡みに行くんですよこいつ。ぼくも絡まれましたからね。」
「シニストラがカツアゲするような奴じゃあなくてよかったな、おまえら……」
「ちょっと、私を何だと思ってるんですか。」

悪口を言われた気がするけれど、ジョルノに対する皆の優しさがひしひしと伝わってきて、凄く胸がぽかぽかする。一人だったジョルノがこうやって今いい人達に囲まれていることが凄く嬉しい。
ブチャラティやアバッキオ、ナランチャもここにいたらこんな風にジョルノのことを慕ってくれたかな?彼らがもしここにいたら……考え出すと何でいないんだって気持ちでいっぱいになるけれど、でもいる姿を想像してしまう。
心の中でいっぱい思う。この瞬間に繋げてくれた彼らにありがとうって言いたい。どこまでもどこまでも感謝の気持ちっていうものは次々に生まれるんだなって、初めて知った。

「さ、シニーはもう帰る時間だ。送ってくよ。」

夕方から結構喋っていたようで空は既に真っ黒になっていた。ジョルノは座っている私の手を握ると立たせてくれて、扉の方まで歩き出す。

「じゃあなシニストラ!明日もよろしく〜!」
「シニー、ジョジョに迷惑をかけるなよ?」
「二人とも、気を付けて帰るように。」

ジョルノが手を繋いでくれていることも幸せだし、皆から声をかけてくれてもらえることも幸せだ。

「気をつけます!お疲れ様です。」

ジョルノと関係が変わっても皆との関係は変わらない。

「ウーゴは明日覚えてろよ。」
「何でぼくだけ。」

見える世界が変わっても、周りは全く変わらない……好きな人がそばにいる世界って不思議な感覚なんだってことを今日一日だけで凄く学んだような気がした。きっとこれからもこの不思議な感覚は続いていくのだろうし、何よりもこれを過去にしたくないと思う。
私はまだ未熟だ。でもジョルノとの仲を皆が認めてくれたっていうのはとてつもなく力になる。皆にやっと追い付いたような……気持ちの部分では自信にも繋がりそう。

「ジョルノの仲間が皆でよかった。」

街中でジョルノと手を繋ぎながら、私の家まで歩き続けている途中にジョルノに私は思わず話しかける。

「何でそう思うの?」

隣にいるジョルノは笑顔で訊ねながらも少し不思議そうな目をしていて、嬉しいのか疑問を持っているのかいまいち区別がつけられない。

「だって皆、ジョルノのことを大事にしてるでしょ?」

私は言葉の意味をジョルノに言いながら、握られている手に少しだけ力を込めた。

「愛してる人が愛されてるっていうのが凄く嬉しいっていうか……安心したんだ、今日。」

愛しているとか恥ずかしい。でもそう思うから、何度でもジョルノに伝えたいと思う。

「ブチャラティ達も皆ジョルノのこと、言葉にはしなかったけど大切に想ってくれてたよ。」

アバッキオは生意気だって言いながらも声が凄く優しくて、ナランチャはジョルノを誇らしく仲間だって言っていて……ブチャラティはジョルノが繋いだ未来に目を輝かせていた。皆、ジョルノのことを愛してくれていた。

「ジョルノを愛している人が皆優しい人達なのが私は凄く嬉しい。」

いつも一人でいたジョルノを思い出すと、今この瞬間に皆がジョルノを愛してくれていたことが嬉しい。ジョルノを愛してくれてありがとうって言いたいくらい。

「……シニーも、」

嬉しいって言いながら私が笑うと、ジョルノはその場に立ち止まって私の顔を覗き込む。

「ちゃんとみんなから愛されてるよ。」

笑顔でそう言って、話を続けた。

「フーゴはきみのことが大事って言っていたし、ミスタなんて本当に妹みたいにきみを可愛がってる。ポルナレフさんはきみのことを全力でサポートするつもりでいるし、ブチャラティもアバッキオもナランチャも、きみが心配だからそばにいたいって願っていた。好きじゃあなかったらそんなことは望まないだろ?」

私が知らない皆のことをジョルノは私に教えてくれる。
それらは私も思う部分が多い。ウーゴは大切な友達だし、ミスタさんは頼れるお兄さんだって思っているし、ポルナレフさんはいろんなことを教えてくれて……今はもういない皆も、いつも私と一緒に走ってくれている。私も知らない間にお互いにお互いを思い合っていたんだ。

「だからぼくもきみと同じくらい嬉しい。」

ジョルノは私の手を両手で包むように、大切な物を守るように握ると私のことを真っ直ぐ見つめてくれる。

「愛してるきみがたくさんの人から愛されてることが、凄く嬉しいよ。」

そして、見つめたまま自分も私と同じ気持ちだということを教えてくれた。

(そっか……)

分かっていたようで分かっていなかった。私は皆とまだ距離があったように思っていたけれど、そうじゃなかったんだ。

(もう既に隣に並んでたのか。)

実力はまだない。それでも私は既に皆の隣に立っていて、いっぱい貰っていたんだ、知らないうちに愛を。

「まぁぼくが一番シニーのことを愛してるんだけどさ。」
「本当?ぼくのジョジョが〜ってウーゴが泣いちゃうよ?」
「フーゴからは許可出てるからいいんだよ。」
「何の許可なのそれ。」

私だってジョルノが一番だよって言いたいけれど、ジョルノは多分分かってくれているから言わなくても大丈夫。今手を握ってくれていることが何よりもの証拠だと思う。
両思いだからなのかは分からない。でも思い合うっていうのは恥ずかしいと思うよりも温かいと思う気持ちの方が大きい。胸がどこまでも温かくなる。
ジョルノを好きになって本当によかったって、昨日以上に思う。

「ねぇジョルノ、」

景色が輝いて見える。その中にジョルノがいて、私を見ては優しく微笑んでくれる。

「私を好きになってくれてありがとう。」

それだけで幸せな気持ちでいっぱいになる。この先もずっとこの幸せが続いて欲しい。
ジョルノを好きになれて、ジョルノに恋をして本当によかった。皆から愛を貰えたことも嬉しくて、心の底から何度も何度も思うんだ。


ジョルノや皆がくれた居場所は、今あるこの私の時間は、眩しいくらいにいつも輝いていた。
星みたいに、磨かれた宝石みたいにキラキラと。




Episode3・end

- 31 -

*前次#





name change