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最後に感じたものはあの日と同じ胸に何かが刺さったような痛み。自分が最後に見たものは、大好きな人の慌てた顔。そして、口から出てきた言葉は感謝の気持ち。

「……ん、」

そして、今私が見ているものは……乗り物の中の風景。

(ここはどこ?)

おかしい。さっきまで私は砂浜にいたはずだ。地面に倒れてそのまま真っ暗闇に落ちていったはず。
今いる場所を把握するために見渡してみる。いくつか座席があって、その座席の窓のところには降りることを知らせるためのボタンがあって、ところどころに立っていても転ばないように手すりが刺さっていて……窓の外には知らない街が広がっていた。空はどこまでも澄んだ青で、今にも落ちてきそうな錯覚を覚える。
どうやら私はバスの中にいるらしい。乗客は私のみで、滅多に起こらない独占状態だ。
しかし何でバスの中にいるのか分からない……いつの間に私はこんな所に飛ばされてしまったのか。そもそも飛ばされたのかも分からない……状況が全く呑み込めなくて不安に駆られた。

「……降りなきゃ。」

よく分からないけれど降りて砂浜に戻らないといけない気がする。丁度バス停みたいだし、このバスがどこに向かうか分からないし、降りて今どこにいるのかを確かめないと……!
私はそのまま出口まで向かってこのバスから降りようとする。
階段を一段、二段と降りてゆき、あと一段で地面に足が着く。そのまま一直線に足を下ろそうと足を持ち上げた。
けれどそれは叶わなかった。

「えっ?」

後ろから背中の紐を引っ張られて、私は再びバスの中へと引き戻されてしまって……でもこれっておかしくない?引っ張られたっていうことは誰かが引っ張ったってことだけれども、前も後ろも見回したけれどバスの中には誰もいなかったはず。誰が一体私を引き戻したのか……怖すぎる……!

「ミスタ辺りがそろそろ危ねーなとは思ってたけどよぉ〜、まさかおまえが来るとは思ってなかったぜ。」

誰か分からない人がいるという恐怖に包まれていたら、後ろから私を引っ張ったらしい人がそう言いながら、私の腰に手を回してそのまま私を持ち上げてきて完全に中へと引き戻してくる。

「フーゴも危なそうだったけど間一髪って感じだったな。」

再びバスの中を見てみると、誰もいなかったはずのその中に人がいた。座席に座りながら私を見ていて……その姿を見た瞬間、思わず口が開いたまま閉じなくなってしまう。

「シニストラが命懸けで止めたからな。フーゴもフーゴで苦痛が終わることを信じていたみたいだ。」

私の目の前にはもう一人いて、その人は笑顔でこちらに向かって歩み寄ってくる。

「命をかけておきながら死んでたらシャレになんなかったな……降りたら終わってたぜ、おまえ。」

そして後ろからも……私を引っ張った人が顔を覗き込んできて。私の頭に手を乗せると掻き混ぜるようにわしゃわしゃと撫で回してくる。
そこにいる彼らは今はもういなくて、でも一人だった私のそばにいてくれた優しい人達。たくさんお世話になった、

「アバッキオと……ナランチャに、ブチャラティ……?」

頼りになる三人だった。

「何でこんなところにいるの?」

でもおかしい。ここはバスの中だし三人はそもそも肉眼では見えないはずだ。死んでしまったのだから意識だけの存在になったはずで……何で見えるの?どうなっているの?
何でいるのか不思議で訊ねてみると、すぐ近くにいるアバッキオが私の疑問に答えてくれる。

「おまえが自分で自分を撃ったんだろ?そんで、おまえは今あの世とこの世の狭間にいる。」

……何だそれ。いまいちピンとこない。自分で自分を撃ったことは覚えているけれど、あの世とこの世の狭間って一体どこだ。

「つまりおまえが死にかけてるからオレらが見えてるっつーことだ。」

あの世とこの世の狭間はよく分からないけれど、その付け足された説明を聞いたら自分の中に落ちてくるものがある。

(そうだ……)

私は暴走をして止まらなくなった自分のスタンドを、強制的に止めるために自分の命を消そうとしたんだ。だから最後の記憶があんな寂しいのか。

「私は死んでないの?」

死ぬつもりで拳銃で胸を撃ったけれど……『死にかけてる』っていうことはまだ死んではいないらしい。

「トロイメライは止まったの!?」

そして私の命が消えていないってことはトロイメライはまだ活動を続けている可能性がある。心配に思わずアバッキオの胸ぐらを掴んで食らいつくように訊ねた。

「ウーゴは……ウーゴはどうなったの……」

止まってくれていなかったらと思うと怖くなる。苦しそうに叫んでいたウーゴは一体どうなったのか……心を殺してしまっていないか、ウーゴが死んでしまっていないか凄く不安になる。

「大丈夫だ。フーゴは賢いからちゃんとおまえの能力の見せたものだって気付いていた。」

目の前にいるアバッキオは慌てる私とは真逆の落ち着いた態度でそう言って、私にとりあえず座れと近くの二人がけの座席まで背中を押してくれた。それでも食らいつくように力を込めて立っていたら問答無用に肩を押し込んできて、強制的に私を座らせてしまう。
ウーゴは……そうか、生きているのか。しかも私のスタンド能力のせいってちゃんと察してくれたんだ……離れてって私言ったもんね、あれで気が付いたのかそれとも私の目を見て理解してくれたのか分からないけれど……知らない間にウーゴが成長していたことに驚いた。

「よかった……」

安心したせいか、座ったせいからか、一気に体から力が抜けてしまう。全体重を座席に掛けて、項垂れるように肩を落とした。

「いいや、よくない。」

安堵の息を漏らしていたら、ナランチャが私にそう言いながら迫るように歩いてきた。

「シニーは全然無事じゃあねーだろ!何であんなことしたんだよ?あんなふざけたこと!」

アバッキオとブチャラティを押して、私の隣に座って肩を掴むと、私を自分の方へと向かせては肩をぐらぐらと揺さぶってくる。

「スタンドの暴走くらいジョルノが止めてくれただろ!何で頼らなかったんだよ!仲間だろ!」

ナランチャに怒られたのは初めてだった。真剣な顔でこっちを見ていて、必死に食らいつくように私に牙を向けている。
ジョルノを頼る……思いつきもしなかった。でもジョルノは私を置いていってあの時近くにはいなかった。

「頼るとか頼らないとか……そういう問題じゃない。」

ジョルノは私を頼ってくれなかった。今更になって気が付いてしまって、怒りが込み上がってくる。

「仲間なら何で信じてくれなかったの?」

危ない目に遭わせたくなかったからとか言われそうだけれど、そんなの言い訳じゃないか?

「私はジョルノの力になりたくて着いて行ったのに、ジョルノは私の力には頼らなかった。だったら私だって頼れない……」

頼ろうって言葉が思いつかないくらいあの時は必死だった。凄く必死でこれから死ぬことを出来の悪い脳みそで考え抜いた。
ギャングになったら危険な目に遭うことが増えるっていう覚悟はちゃんとあった。それでもジョルノと一緒にいたかった。だから頑張った。大切にされるのは嬉しいけれど、頼ってくれないのは悲しい……手を伸ばそうとか考えられなかったのが何よりもの証拠だ。

「ウーゴがいなくなるのは嫌……私のせいでいなくなるのだけは嫌だ……やっとウーゴが自分の居場所を見つけたのに、私が全部壊してしまうって思ったら……もう……」

ウーゴの笑顔と自分の命を比べたら、私は絶対ウーゴの笑顔を選ぶ。ジョルノやミスタさんが同じ目に遭ったら、私は私を絶対に許さない。

「私は……私を殺したかった……」

そう、私は私を殺したかった。口にして初めてそれに気が付いた。
スタンドの暴走は私が未熟だったから起きてしまったことだ。誰かを本気で憎むだなんてしたことがないから感情のコントロールだなんて出来っこない。何より自分が醜くなってしまったような気がして、理由を付けて引き金を引いたと思ってしまう。そのくらいの気持ちであの時私は死ぬことを選んだ……気が付きたくなかったよこんなこと……。
最初はジョルノをただ守りたいと思っていたはずだ。生まれたことを呪う人達から守りたかった。ただそれだけだったのに私が余計なことをしたせいでウーゴを巻き込んだんだ。最低以外の何物でもない。

「だからって……本当に死のうとすることはないだろ……!」

頭の中がぐちゃぐちゃで、もうただただ苦しんでいた。目の前のナランチャは目にいっぱい涙を浮かべながら、起こしてしまったことをただただ怒ってくる。

「何で生きるか死ぬかの二択しかねーんだよ!生きてていいに決まってんじゃあねーか!おかしいだろ!」

私よりも辛そうに眉を寄せながら言うものから、見ているのが辛くて私は視線を逸らしまった。耳も塞ぎたいけれど……塞いだらナランチャを傷付けてしまいそうで出来ない。指一本一本がひたすらに固まっていて動かせない。
あの状況で選べというのは残酷すぎる……自分しか頼れなかったあの状況で、自分のせいでああなった状況で、誰かを頼ろうとかそういう考えは咄嗟に浮かばない。責められることがただただ苦痛だ。
そりゃあ皆と離れるのは嫌だ。でもそれでいいと思った。自分が止まって悪夢が終わるならこれでよかった。私は正しいと思ったことをその瞬間にした。私の時間が止まったらきっと、もう誰も苦しまないって信じていた。でも違ったの?私は間違っていたの?自分を信じたらいけなかったの……?何でそんなこと後出しで言ってくるんだ、その時に教えてほしかった……!

「……シニストラ、」

理不尽を受けている気分になって黙ってバスの床だけに視線を向けていたら、ずっと黙っていたブチャラティがナランチャを退かして私のそばまでやって来る。

「覚悟を決めた結果ならしょうがないと思う。だがな、忘れてしまったらいけないよ。」

ブチャラティの目は真っ直ぐで、それでいて優しい。私の手を握りながらゆっくりと言葉をこぼすように、ぽつりぽつりと話しかけてくれた。

「シニストラが死んだら一生あいつらは悔やんで生きていく。おまえが望んでいてもあいつらはこんな結果は望んではいないんだ。」

私が間違っていないと思っても、相手は間違えたと思ってしまう。責めるような言い方をせずにひたすらに小さい子に教えるみたいに言われた。

「『これでいい』ってオレが言ってもおまえはよくないって言っただろ?諦めなかったおまえがいたから、オレ達はあいつらに言いたいことを伝えることが出来た。」
「……」
「あの三人も……オレ達も、これっぽっちもこれでいいとは思っていない。おまえがいなくなったら、ここにいたら寂しいし凄く悲しい。」

私が選んだものは自分だけの正解で、他の人から見たら不正解になる……そんな複雑なことは考えたことがない。思いつきすらしなかった。

「ジョルノはただオレ達の二の舞にしてしまうことが怖かったんだ。自分の選んだ道のせいで仲間が死んでしまうことが恐ろしい……シニストラが自分のせいでいなくなることが怖かったんだろう。だからおまえの手を一瞬離してしまった。おまえもきっと、ジョルノと同じことをして今ここにいるんじゃあないか?」
「同じ……こと……」

言われてみて考える。ジョルノがしたことと私がしたことを頭の中で二つに分けて並べて、してしまったことにマーカーを付けて……そして考えてみて初めて気が付いてしまう。
ジョルノが私を頼らなかったように私もジョルノを頼らなかった。頼らずに、譲らずに自分が悪いからとジョルノを無視して拳銃を自分に向けた。そして最後に見たものはジョルノの慌てた顔で……今思うとあれは離した手を掴みに来てくれたのかもしれない。でも私はもうそうするって決めてしまったから、ジョルノを突き放してこんな所に来てしまった。

「私……」

間違っていたかもしれないって言葉にしようとしたら、ブチャラティは私の口に人差し指をくっ付けて、それ以上言わないようにと促してくる。

「おまえが思っている以上に世界は優しいってことを忘れないでくれ。」

そう言って、私のせいで辛そうになってしまったナランチャの肩を掴んで微笑んでくれる。
世界は優しい……まるでトドメを刺しに来たような言葉だ。捨てようとした場所に優しさを求めてはいなかったから複雑な気分になる。

「ジョルノがムカつくなら一発ぶん殴ればいい。」

アバッキオは過激なことを言ってくるけれど、表情は凄く柔らかい。

「許せないと思うなら立ち向かえ。おまえがしたことは間違ってねーんだから、胸を張っていていいんだ。」

自分に自信を持てと背中を押してくれる。
ジョルノのことは確かにぶん殴ってもいいかもしれない……怒ってもいいなら少し気持ちも楽になった。

「シニーは……ジョルノのために怒ったんだよな?フーゴのこともただ守ろうとしただけなんだよな……」

怒っていたナランチャはいつの間にか笑顔になっていた。幸せそうに笑いながら私を見つめて声を弾ませる。

「二人を守ってくれてありがとう!」

何もかもを報うかのように言われた。さっきまで許さない勢いだったのに……私を許されるようなことをしなかったのに、許してくれたみたいな笑顔を向けられる。

「ありがとう……ナランチャ。」

私は頑張った。頑張った結果こうなった。後悔はないと思っていたけれど、三人と話していたら段々と後悔してきた。
まだ私は生きている。生きているってことは帰れるんだ……自分をまたやり直せる。
間違え方を間違えたなら直したらいい。私はとにかく帰りたい!

「どうやったら帰れるのかな?」

この場所からあっちへ帰るにはどうしたらいいのだろう?

「諦めたくないよ、皆に会いたい……帰りたい……!」

ウーゴに謝りたい。ミスタさんに叱られたい。ジョルノとまだ一緒にいたい。『幸せでした』って終わらせたけれど、それを『幸せです』って書き換えたい。でもその前にジョルノを一発ぶん殴りたいし言いたいことを吐き出したい。引き下がらずに言ってやりたい。

「大丈夫、ただ信じればいい。」

やりたいことがいっぱい溢れてくる。とにかくそれは帰らないとどうすることも出来ない。
どうすれば自分が元に戻れるのか訊いてみると、ナランチャが立ち上がって私に手を差し出してくる。

「帰りたい、じゃない。帰るって強く思うんだ。シニーが『ぼく』を信じてくれればそれでいい。」

ナランチャの自分の呼び方が突然変わる。そして顔が毎日見ている人のものに変わっていって、私の前にその人が姿を見せて……

「えっ?」

驚いて辺りも見回してみると、ブチャラティとアバッキオ……確かに目の前にいたナランチャが段々と遠くの方へと消えていってしまい、気が付いたら景色がバスから砂浜へと戻っていた。

「なん、で……」

まだ何もしていない。なのに私がここにいる。帰るも何もまだそこにいたみたいに、当たり前に最後の景色の場所にいる。
でも体からまた意識が飛び出てしまっているみたいで、その場所には私が仰向けになって倒れていた。ウーゴとミスタさんが私を見下ろしていて……その横には動かないジョルノの『体』がある。トロイメライは止まったみたいで、砂浜に落ちていた星達は跡形もなく消えていて……いつの間にか周りにはパッショーネの人達が忙しなく動いていた。

「偶然ゴールド・エクスペリエンスにきみの白い星がくっ付いていたみたいだ。」

体から離れているジョルノはそう言って、後ろにいるウーゴとミスタさんの方を見つめる。

「きみが自分を撃った瞬間、ぼくはきみが死なないようにって願った。本当はゴールド・エクスペリエンスの能力で別のことをしようとしたんだけど、彼の考えは違った。星をきみに投げていた。」

説明をするジョルノは凄く落ち着いている。慌てることもなく、ただただ静かに話している。

「星はぼくが主導権を握っていた時のものだったみたいで……ぼくの望みを叶えてくれたのか、銃弾をギリギリのところで止めていた。あと数ミリズレていたら……きみは多分死んでいただろう。傷口を塞ぐ時いつもは痛い痛いって騒ぐのに今日に限って騒がなかったから、もしかしてと思ってまた───ッ!」

でも何か偉そうにころがこうだったからああだったって話しているけれど、ひたすらにその態度は普通にムカつく。腹が立った私は立ち上がると、そのまま背中を向いているジョルノの顔に手を伸ばして、後ろからぐにゃりと思いっきり頬を引っ張ってやった。


「ふざけるな。」

そっちの私は空っぽだ。こっちを向いて話してよ。

「何で私を置いてった?」

ジョルノに頼られたかった。大切にされるのは嬉しいけれど、されてばかりなのは寂しかった。

「私はそんなに頼りない?動いたら迷惑か?」

悔しい。とにかく悔しい。

「ジョルノの力に私はなれないの?」

気持ちはそばにいても体は置いてかれてしまう。

「ジョルノにもっと寄り添わせてよ……!」

とにかく悔しいムカつく腹が立つ。ただ寄り添いたいっていう気持ちがジョルノに伝わっていないみたいなのがモヤモヤを膨れ上がらせた。尽くしたいのに尽くさせてはくれないのは不安になってしまうだろ。だって私はジョルノに着いていきたいんだもん。

「……シニーは仲間だけど、」

ジョルノの頬を引っ張り続けていたら、引っ張られているジョルノが私の手を掴んできて、無理矢理自分の頬から引き剥がしてはようやくこっちに振り返る。

「それ以前に愛している人だ。」
「いっ!」

でも仕返しと言わんばかりに私の頬をつまんできて……今度はしっかりと私の方を見てくれた。

「大事な人だしこの先も一緒にいたいと思う。いずれは一緒に住みたいし、結婚だってしたい。」
「へ……?」

顔は真剣だ。瞳はひたすらに真っ直ぐで、逸らすことなく私を見つめている。
そして口から予告もなくいきなり出てきた言葉は耳を疑うもので……け、結婚っていうのは?本気で言っているの?冗談じゃなくて……?

「死ぬまで一緒にいたいのに死なれたら困る。命の危険に飛び込もうとするのは尚更困る。不安でいっぱいになる……分かるかな?」

多分呆けた顔になっていたと思う。ジョルノの話を聞いていたけれど、全く頭に入ってこない。分かるかなって訊かれてもなかなか頭では理解出来ないし、まさかこんな状況でそんなことを言われるとは思わないし……

「何それ……」

口から出てきた言葉はそれだけだった。
私が怒っていたのに逆ギレの如く怒られて、しかも突然のプロポーズ?ちょっと意味が分からないし、何より思考が追いつかない。

「今は意味が分からなくていい。戻ったらちゃんと話をしよう。」

混乱をして固まっていた私に対してそう言うと、ジョルノは引っ張り続けていた頬から手を離す。そしてそのまま私の手を握って、笑顔を向けながら言葉を続けたい。

「ぼくはきみを絶対に諦めない。それだけは絶対に忘れないでくれ。」

どこまでもジョルノは私を愛してくれる。諦めないって言ってくれる。

「私だって……ジョルノのことを諦めない。」

その気持ちだけは確かに私の中にもある。ジョルノも……ウーゴもミスタさんも、皆といることを諦めるだなんてことだけは絶対にしたくない。
握られている手を強く握ると、ジョルノは返すように私の手を強く握ってくれる。離すもんかと言われているみたいで胸がいっぱいになる……怒っていたのにまんまと懐柔させられてしまった。
ジョルノはきみには適わないってよく言うけれど、私もジョルノにだけは適わないし、勝てっこない気がする。こんな所にまで会いに来てくれる人は多分、生きている人ではジョルノだけだと思うから。


ジョルノに連れられて、自分の体までやって来ると、私は消えなかった生きている証拠に手を重ねて強く願う。
夢を見るように目を閉じて、しばらくしてから目を開ける。そこにはいつもの青い空と心配そうに見下ろすウーゴとミスタさんがいて……名前を呼んだらウーゴが私を抱き上げて、何度も何度もごめんなと謝ってきて……私まで謝り始めたら段々とややこしくなってきてミスタさんに止められたり、同じく目を覚ましたジョルノはウーゴから私を奪ってそのまま砂浜を走り出したりで、いろいろと楽しい世界が広がっていた。

確かに私が思っている以上に世界は優しさで溢れた場所だった。




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