EX2


「シニーは日本ではどんな生活をしてた?」

帰ってきて次の日。街でデートをしようという話になってジョルノと街までやって来た。
ちゃんとした洋服を買ったりいろいろと生活に必要なものを二人で選んだり……今は休憩で昔からよく行っているカッフェにいる。二人でケーキとお茶を楽しんでいたら、ジョルノが「ぼくがいない間の私」を気にし始めて、和やかな質問大会が始まった。

「どんなって……大体スタンドの修行とか、居候先でお手伝いとか……」

ジャッポーネにはいろんな国の言葉を話せるようにしてもらうためとスタンドの修行、そして体の不具合を治してもらうに行った。修行も体も順調にいい方向へ向かったけれど、話せる言葉に関しては日本語しかまともに話せるようにしてもらえていなくて……英語は授業でやっていたし映画とか見ていたから頑張れば話せるけれど、アラビア語だけは今でも皆無だ。日本語とアラビア語のどっちを話せるようになりたいかと言われたらアラビア語だけれど、いざ旅が終わってみると日本語でよかったなぁって思う。

「修行って何やったの?」

ジョルノは私の修行内容を訊ねながらケーキを一口分切って、フォークで刺すと私の口に向かってそれを差し出してくる。

「今までしてきたことの繰り返しだよ。大したことはしてないかな。」
「そうなんだ?新しく出来るようになったこととかはないの?」
「うーん……星を産める量がめちゃくちゃ増えたとか、あとどんな刺激にも耐えられるように星の硬さを鍛えたとか?」
「何で硬さを鍛えたんだ……」
「攻撃を受けても耐えられるように……紛争地域に行くかもしれなかったから、自分の身は自分で守れるようにって。」
「なるほど。」

私は差し出されたそれを口に入れると、私もジョルノに一口分ケーキを切って、それをフォークで刺してジョルノへと差し出す。ジョルノは素直に口にケーキを入れると目を細めながら「こっちも美味いな」って笑っていて、相変わらず甘いものが好きなんだなぁって感想が浮かんだ。
正直修行はジョルノにあまり言えないようなこともした。ジャッポーネの死者の日にちょっとお仕事もしたし、それ以外はコーイチくんとジョースケとスタンドの組手をしたりだ。トロイメライの星を操りながらほぼ肉弾戦というか、非常に頑丈な自分の足で蹴ったり踏んだりみたいな感じなことをした。擦り傷と切り傷と打撲に捻挫とか毎日してはジョースケのお世話になったよね。言ったら多分怒るから重い怪我の話までは言えないな……!

「でも気になるのだけど、」
「ん?」

話せる部分だけを話して残りのケーキを食べていると、ジョルノは何かに疑問を抱いたようで、首を傾げながら訊ねてくる。

「どうやって日本語を話せるようになったんだ?」

ジョルノが修行のことよりも気になったのは、言葉の壁をどうやって超えたか……というものだった。

「それは……」

正直かなりこれには触れてほしくなかったというか、ちょっと困るというか……あの日のことをジョルノに言わなくちゃいけないの?話せるようになった時のことを?

「康一くんも言ってたんだよ。喋れるようにしてもらったってさ……どんなスタンド攻撃を受けてどうやってしてもらったのかっていうのは凄く気になるんだ。」

興味津々のジョルノは私の気持ちなぞ知らずに期待の眼差しを向けてくる。
あの日のあの光景は、顔を本にされたのは見た目的に凄く辛いものがある。あとその日に起きたことは正直楽しくはないというか……私の体験談と取引で話せるようになったって知ったら多分ジョルノは怒る。個人情報を売ったのだからそれはもう怒る。でもジョルノの期待には答えないといけないというか、一番逆らえないというか。言いたくなくても言うしかない気がする。

「モリオーチョでね……」

私はジョルノから目を逸らしながら、あの日の出来事を話し始めたのだった。────




******

「フェルマータさん、ここが露伴先生の家だよ。」

ジャッポーネに到着して、SPW財団の人から派遣された人・コーイチくんと一緒に私は空港からモリオーチョという静かな街へと連れて行かれて、そこにいるロハンセンセという人に他国の言葉を話せるようにしてもらいにやって来た。
コーイチくんはイタリア語をペラペラと話せるので私の言葉を理解してくれて一緒にいても全く支障はない。彼がイタリア語が話せるようになったのはそのロハンセンセのスタンド能力のおかげらしい。今回私はそのロハンセンセのスタンド攻撃を受けに、他にも理由はあるけれどわざわざここまで足を運んできた。ロハンセンセが何者なのかはよく分からないけれど……変わった人としか情報はないのだけれど、最初は会うことが楽しみだったと思う。新しい出会いにわくわくしながらやって来た。

「コーイチくん、「センセ」ってどういう意味?」

ロハンセンセの名前はロハン・キシベらしいけれど、ロハンの後に続く「センセ」の意味がよく分からない。疑問に思って訊ねたら、コーイチくんは親切にその意味を教えてくれた。

「「先生」は「insegnante」だよ。」
「インセニャンテ!」
「そう!露伴先生の場合は「Casa dei cartoni animati」……漫画家って分かるかな?コミックを描く人だけど、先生ってことでいいと思う。」
「ほぉ〜!」

マンガ家……コミックを描く人……絵が上手い人なのか。つまりアーティスト?センセは絵を描くセンセなんだな。

「露伴先生〜康一gakimashitayo!」

どういう人なのかなってぼんやりと想像をし始めていると、コーイチくんは家のチャイムを鳴らしてロハンセンセのことを大声で呼ぶ。小さい声だと聴こえないくらい確かにこの家は大きくて広そうだ。アジトと比べたら小さいけれど、見上げながらため息しか出てこない。
それにしても……ここにはロハンセンセと誰が住んでいるのかな?家族多いのかな……だから大きな家なのかな。

「康一くん!?Yokukitekuretane!」

家を見上げてロハンセンセ以外の人のことも考え始めていると、中からドドドという足音と共に声が聞こえてくる。何を言っているのかは分からないけれど、弾んだ声からして多分喜びを露わにしていらっしゃるのだろう。

「Goodtimingdane!Imashigotogaowattandakedo、korekaraissyoniotyademo……ttedaredakisamawa?」

グッドタイミング以外何を言ってるのか意味が分からない。中から出てきた人はマシンガンの如く何かを話していて、コーイチくんの隣にいた私を見ると指を差してきた。私のことをイレギュラーに思ったのか、明るかった顔色が一気に疑う色に変わる。

「Konomaeittazyaanaidesuka!Italiakara露伴先生nitanomigotogaattekitandesuyo、kanozyo!」

コーイチくんは何かをロハンセンセに言うと、私の方へ振り向いて背中をポンと叩いてくる。

「Kanozyononamaehaシニストラ・フェルマータsan。露伴先生noスタンドnouryokudetakokugowohanaseruyounishitehoshiindesu。」

何言っているか本当に分からないけれど、私の名前とスタンドという単語が出て来て多分紹介と目的を言ったのかな?

「初めまして!」

とりあえずご挨拶を……と思ったけれど、ここはイタリアではないから挨拶の仕方は多分違う。いきなりくっ付いて頬にリップ音を立てたら多分逮捕されてしまう……ジャッポーネはそういうのに厳しいってミスタさんが言っていた。どうしたらいいか分からないからとりあえず目の前に手を出すのだけれど、ロハンセンセはこっちを見ていても私に手を伸ばしてはくれない。余程警戒をされているみたいで不安になってくる。

「……Bokuhatsumaramainingentohanasukotohanai。」

ロハンセンセはそう言うと、突然背後にスタンドらしきものを出して、ニヤッと笑って何かを言う。
えっ?何この展開?何で挨拶しただけでスタンドで攻撃されようとしているの?ちょっと展開に付いていけないんですけど!?

「omaegaomoshiroiningendattaranihongoguraihahanaseruyounishiteyarou!ヘブンズ・ドア!」
「!?ト、トロイメライ!」
「nanii!?」

よく分からない言葉によく分からない展開で、現状に着いていけないけれど、危ないと思って私はトロイメライで星を数個産み、目の前にいるスタンドを弾くように望んでは突然の衝撃をかわす。トロイメライの星はしっかりとスタンドを弾いてくれて、私はその隙にロハンセンセから距離を置くと警戒をするようにコーイチくんの背後へと回り、しゃがみ込んでは自分を隠した。

「コーイチくん!私何か悪いことしちゃった!?」

ジャッポーネでは握手をしようとすると襲われちゃうの?凄く怖い!恐怖!皆どうやって生活しているの!?
ビビる私に対してコーイチくんは落ち着いて!と言うと、両手を広げてロハンセンセから私を庇ってくれる。

「あの人躊躇いもなくああやって人に能力を使ってくるんだ……でも大丈夫だよ、怪我させるわけじゃあないから痛くはない。」
「躊躇いもなく人を襲うのはよくないと思うよ!?大丈夫じゃないよ!?」

凄く常識的なことではないか?躊躇いもなく襲いかかるとかギャングかこの人は!
言っていることが理不尽すぎて怖い。もうとにかく恐怖しか感じなくなっていたら、ロハンセンセは段々とコーイチくんに近付いてくる。そしてその目の前に立ち塞がると、諭すように話しかけてきた。

「いきなり殴ろうとして悪かったな。あんたスタンド使いだったのか。」

さっきとは態度が全く違う優しい口調で話しかけられて……っていうか、ここでいきなり一つ疑問が浮かんでくる。さっきまで日本語だったのにいきなりイタリア語になっていて、不思議な感じを持った。

「イタリア語、話せるんですか?」

恐る恐るコーイチくんの背後から顔を覗かせながら訊ねてみる。ロハンセンセはどうやらイタリア語を話せる人だったらしい。
ロハンセンセは警戒したままの私と目線を合わせるように、わざわざ地面に膝を着いてくる。

「取材旅行に行く時に話せないと困るからな。ぼくの能力で話せるようにしてある。」

さっきとは違って凄く紳士な態度だ。あの意地悪さは一体どこに消したのか……いろいろな経験をしてきたせいか疑心暗鬼になりやすい私はまだ警戒が解けなくて、裏があるのではと探るようにロハンセンセを見ることしか出来ない。
訊いておきながら黙ってしまった私を見ると、動物みたいにジッと観察をしている私に対してロハンセンセは更に言葉を続けた。

「とりあえず出て来てくれないか?話をしようじゃあないか!きみはイタリアのどこから来たんだ?ドルチェでも食うか?」

まるで餌付けされている気分だ……ドルチェで私を釣ろうとするなんて、小さい子供じゃないのだからそんなことでは騙されないぞ。それに私はギャングにいたんだぞ?引っ掛かるわけないでしょ。

「フェルマータさん、大丈夫だよ。悪い人じゃあないんだ本当に。」

私を庇って壁になっているコーイチくんは私の方に振り返ると、ニコニコ笑顔でロハンセンセをも庇い始める。
んんん、悪い人ではない……のにいきなり攻撃しようとするのはちょっと解せないんですが?正直信用出来ないのですが?
しかしよくよく考える。私が他国の言葉を話せるようになるにはこのロハンセンセのスタンド能力が必要だ。悪い人であっても協力してもらうしか道はない。手段は一択のみしかない。

「さっきも言ったがぼくはつまらない人間には協力はしないんでね。」

揺れ動き始めていると、ロハンセンセは何かをつまむジェスチャーをしながら話しかけてくる。っていうかそんなことを言っていたのか私に。

「人生体験をまずは見せてもらう。スタンド能力も気になるし、そこのところも全部読ませてもらうぞ。それでいいならとっとと始める!分かったか!」

さっきドルチェをくれようとしていたロハンセンセは一体どこに消えたのかってくらい言い方が雑になっている。ドルチェはやっぱり罠だったのかな?騙されなくてよかった。
っていうか……人生体験を見る?読む?とは一体どういうことだろうか?想像はするけれど、いまいちピンと来ない。多分私やその場で起きたことを再生するアバッキオのものとは違う能力だ。
頼れる人はこの人しかいない。私の人生体験はあまり面白くはないけれど、見ても別に私に減るものは何もない。(この時はそう思っていた)
私はコーイチくんの背後から体を全部出すと、ロハンセンセの目の前に立って、そこにしゃがむ。

「痛くしないでください……」

どんな攻撃を受けるのかが全く分からないけれど、私は痛みに敏感だからもちろん刺激的なものは苦手だ。だから痛くないと凄く助かります。

「なに、ちょっと触れてページを捲ってくだけさ。痛みも痒みも何もない。」
「え、」

あ?触れてページを捲ってくって……何?捲る?どこを?ページってそれってまるで……

「それじゃあ早速始めるぞ。」

私が「本」になるみたいじゃない?


「ヘブンズ・ドア!!」




******


「……それで顔を本にされて、きみは個人情報を売ってしまった……と?」
「……はい。」

正直に起きてしまった事の顛末を全て話すと、期待を膨らませていたいたジョルノの顔からは段々と色をなくしてゆく。半ば呆れ気味な感じでジョルノは最後をまとめると、深いため息を吐いて食後のエスプレッソを飲んでいた。
あの時は減るものじゃないって思っていたんだよ……偶然見た再点火のせいで矢に撃たれてしまって、そのまま眠りこけてハロウィンに意識だけになった私が気が付いて、そのまま死んでいた人達と過ごしたり体を見つけたり、その体は死者の日に目覚めてそれから死んだ皆を皆と会わせるために走って、そしてそれ以降はギャングで過ごす〜とか誰も信じないような感じの内容だから別に知られてもいいかなって……でも今なら言える。ギャングの情報は、漏洩したらまずかった気がする。
でも私は別に幹部でもないただのヒラだった。だから機密情報は何も知らない。ロハンセンセが興味を持ったのは私のスタンド能力だけだったし、そのおかげで体験談から一番話せた方がいいかもしれない日本語を話せるようにしてくれた。カタコトへのこだわりさえなければ充分すぎる報酬だったと思う。アラビア語さえあとは話せるようにしていただけたらもっと素晴らしかった。
ただジョルノには言えないけれど……私とジョルノが恋人同士になった時のあの行為の部分まで見られてしまった。正直あの瞬間穴があったら入りたかった。

「シニーの体験は濃いと思うんだけどな……漫画家にはあまり響かないのか?」

うん、あの人には多分響かないと思う。出てきた感想が「リアリティを感じない」だった。確かに死者を見えるようにとかっていうのは現実味はないし、ちょっと日常とは結びつかないような気がする。
でもモリオーチョでは昔幽霊が街を守っていたらしいことを聞いた。その幽霊はロハンセンセと繋がりが濃かったらしい。つまりロハンセンセは既に死者との交流を済ませていたから私の体験はつまらなかったということでちょっと切ない。

「まぁ……私の中では価値のある人生を走ってきたからさ。他人の価値観は別にいいかなって。」

過去は過去のこと。もう過ぎてしまったこと。どう足掻いてもあの日は必ずそこにある。それだけで充分私の中では潤った人生だと思っているからそれだけでいい。

「誰かにどう思われようと私は私の人生に満足してるから。」

私の家族は消されたけれど、ブチャラティ達と家に向かったあの日に笑顔で最後のお別れは出来た。それに今はジョルノと家族になる最中だ。私には新しい絶対に朽ちない絆があって、過去とは比べものにならないくらい、充分過ぎるくらいに今は充たされている。

「ぼくもだよ。」

私の言葉にジョルノは頷くと、テーブルの上に乗せていた私の手を握って幸せそうに目を細めて笑う。

「過去は酷かったけど今は凄く幸せだ。それだけで充分。」

指を撫でながら言われる。優しい声で確かな幸福を感じる。私が選んだ選択は間違いじゃなかったと心の底から思った。ジョルノの過去を覆せるくらい、ジョルノのことを幸せに出来たような気持ちになった。
変えられない出生の重荷を軽くする旅は無駄じゃなかった……満足すぎる言葉を聞けて、耳も心も幸せでいっぱいだ。

「ねえシニー、日本語で何か喋って?」
「いいよ?えっと……「ジョルノトイショ楽シ!」」
「んん……可愛いけど「イショ」じゃあなくて「一緒」だな。遺書だとまずいことになる。」
「日本語ムズカシ……」

これからはどんな重たい荷物でも、一緒に抱えて支えられたらいいなと思う。改めてそう思う。


「っていうか何で日本語を話せるようにしたんですか?」
「ふん、あんたの恋人は日本人なんだろ?同じ言葉を話せた方が平等でいいじゃあないか。駄賃だと思って受け取れ。」
「露伴先生……」
「ロハンセンセヤサシ……!」
「ふん!」





まるで秘密の呪文のような

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