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 ジョルノと話してから暇さえあればウーゴばかりを見るようになっていた。
 仕事中のウーゴを盗み見たり家でのんびりしている時のウーゴを盗み見たり……チョコレート探しをするのは意外にも楽しくて止まらない。知らないウーゴを見つけられてどこまでも幸せになれる。どんなものを食べると笑顔になるとか、何をしてあげたら喜んでくれるとか……ウーゴが嬉しそうにしてくれると私も嬉しくなって胸がほかほかだ。それにそんなウーゴを見ていると、もっともっとってなってしまっていっぱい何かをしてあげたくなってしょうがない。探したチョコレートを口に入れていくみたいな、そんな感じになりつつある。
 家で寛いでいるウーゴの隣に座って一緒にぼんやりとする時間も好き。ウーゴはあっちに行けとか一切言わないし、嫌がらずにそのまま私を隣に置いといてくれる。邪魔さえしなければウーゴは怒らない。そういうところも好きだなぁって思う。好きって思う度に充たされたような気持ちになって、このチョコレートの中毒性やばいなって思う。

「それ完全に恋でしょ。」
「え、」

 アジトで仕事らしい仕事もなくのんびりと過ごしていたら、トリッシュちゃんが遊びに来てくれて、ウーゴにお茶菓子を買いにパシらs……いや、離れた時にそんな話したら、ナイフで切るようにばっさりとそんな感想を言われた。
 ジョルノとミスタさん、ポルナレフさんはSPW財団の人との会議で外に出て行ってしまって今日はアジトにおらず、組織の人間も今日は疎らな配置で、ここにいる人間はいつもより少ない。扉は開かれているけれど人がいなくて開店休業みたいな、そんな感じになっている。パッショーネにはトリッシュちゃんがここに来ることをいいとは思わない人間もいるため、敢えてそういう人がいない日を狙って遊びに来たと本人が言っていたけれど……ファンの人もここにはいるしで結構複雑だよなぁ。ウーゴが迎えに行ったから突撃されることはなかったみたいで安心した。

「いやぁ、恋なわけないでしょ〜。」

 話を戻してトリッシュちゃんのその発言には異議がある。唱えさせていただきたい。
 ウーゴに恋をしているっていうのは少し無理があるんじゃないだろうか?確かにウーゴのことは好きだけれど、これは多分お兄さん的な世話が焼ける弟的な、そっちに対する意識の方が強いと思う。反抗期が抜けてきた子供を抱えたお母さん的な……そう、例えるなら母性に近い。

「いいえ、恋よ。」

 しかし首を横に振る私に対して、トリッシュちゃんは絶対そうだと諦めずに反論を唱えてくる。

「前にも言ったじゃない。その人と一緒にいると幸せって感じるようになったらそれはもう恋だって。」

 はっきりと言われるとちょっと顔が引き攣りそうになる。プスップスッて一つ一つの言葉が刺さる。
 それは……確かに前に言われたような気がする。他にも手が触れたらドキドキするとか、相手がカッコよく見えたりするとか……キ、キスしたいって思うようになるとかも言われたけれど……その部分に関して言えば、私はまだ感じてはいないと思う。

「ウーゴに感じる幸せは……そんなんじゃないと思う……」

 私はソファの上で膝を抱えながら、トリッシュちゃんが前に言っていた恋というものを振り返ってみる。
 手が触れたらドキドキするっていうのは、そりゃあウーゴと手を繋げたら嬉しくなってくるし、ドキドキもしてくるよ?もちろんカッコよく見える瞬間だってある。ウーゴの真剣な顔はいつ見てもカッコいいもん。だって顔が綺麗だし……でも、でもだ。キスは……ウーゴとキスをしたいかって言われると、

(ウーゴと、キス……)

 困るどころか恥ずかしくなってしまう。
 もちろん恋愛したことがないわけだからキスだなんて今までしたことがない。挨拶で家族とはしていたけれど、それは口同士じゃなくて頬にだったし……だからトリッシュちゃんが言うようなキスをウーゴとって考えるともう爆発を起こしそうになる。想像をしちゃうだけで恥ずかしくなるし、頭がおかしくなっちゃいそうで……こんなの心臓に悪すぎる!

「ふふ、シニストラってば顔真っ赤よ?」
「う……」

 トリッシュちゃんは想像をしてしまった私をからかうようにそう言うと、意地悪なことに笑顔を浮かべていた。まるで悪戯を仕掛けてきた小悪魔みたい……可愛いのに酷い。誰だって異性とのキスとか思い浮かべたら頭が沸騰しちゃうと思うけれど、トリッシュちゃんは違うのかな?やり返したいけれど多分やり返されるんだろうなぁ。

「まぁあなたはいい子だから……多分そういう風に彼を見たらいけないって無意識に思っちゃうのだと思うけど、」

 トリッシュちゃんの小悪魔っぷりに唸っていると、トリッシュちゃんは切り換えるようにそう言って、私の目をジッと見つめながら更に言葉を付け足してくる。

「別に家族じゃあないんだから何も悪いことではないのよ。好きならとことん好きになっていいの。」

 そう思うことに罪悪感は必要ないと言ってくる。

(罪悪感はいらない、のか……)

 言われてみたらちょっとだけ胸が痛くなった。
 私はウーゴが好きだけれど、恋をしようとかそれを始めようとか、そういう風に考えを持っていくことが出来ない。ウーゴにまた会えたのは嬉しかったし、でもそれはいきなりいなくなって心配をしていたから感じたものであって、決して恋とかそういう感情から来たものじゃなかった。流れるままに過ごしていって一緒に住まわせてくれて、とにかくありがたいし感謝しかないけれど……それは多分、妹みたいなものって私を見ているからしたことなのだと思う。ウーゴのこの好意がただの親切だとしたら、私がウーゴにそういう目を向けたら気持ちを裏切るような気がしてしょうがない。

「……でもさ、」

 不安しか生まれて来ない。

「ウーゴは仕事の方が大事だし、私よりもジョルノのことを優先する……私なんて眼中にないよ、きっと。」

 もし私がウーゴと恋をしたいってなった場合、ジョルノとこの仕事に勝てる気がしない。
 ジョルノに呼ばれたらたとえ火の中水の中な人間だ。ジョルノの理想を大事に動くし、ウーゴの中心に私はいないと思う。いたとしても多分たまに土足で上がり込んでくる迷惑な人間枠じゃないだろうか?

「……ふふ、」

 膝に顔を埋めて自分のポジションに悩んでいれば、トリッシュちゃんは少しおかしそうに笑い始める。何か変なことを言っちゃったつもりはないしおかしなことは言っていないと思うのだけれど、おかしそうに笑われるのは少し悔しいぞ……!思わず頬を膨らませてトリッシュちゃんを精一杯睨んでしまった。

「ごめんなさい……あなたってばあまりにも可愛いんだもの、つい……!」

 一生懸命怒っていれば、トリッシュちゃんはありえないことに可愛いとか言ってくる。しかもついのはずなのにお腹を抱えて笑っちゃっている辺り、悪いって風には絶対に思ってはいないと思う。

「シニストラ、あなた今気付いてた?」

 どんな顔をしたらいいのか最早分からなくて下を向けば、その笑っちゃうほどおかしかった理由をトリッシュちゃんが教えてくれた。

「『眼中にない』って気持ち、それって彼のことをそういう目で見始めているって証拠よ?」

 しかもそれはとんでもなく恐れ多い内容だ。思わず顔を上げて、怒っていたのを忘れてトリッシュちゃんを見つめてしまった。

「そ、そんなこと……」

 いや、言ったけれど。言ったけれども眼中にないって。

「私みたいな人間をウーゴはそういう風に見ないと思って言っただけで……」

 弁明させてほしい。ウーゴは多分私みたいな子供っぽい人間よりも、知的で大人な女性の方が好きだと思うって意味で……そ、そんな性的な目で多分見ていないだろうしって思っただけで、決してそんな意味で言ったんじゃなくて……

「でもあなたはそういう風に見ているからそう言ったんでしょ?」

 私の言い訳はただ虚しいだけだと言わんばかりにトリッシュちゃんは思うことを意見してくる。

「眼中にないって本当は自分を見てほしいのよ。相手してくれっていうのとは違うの。そうじゃあなくて、その瞳に映してほしいとか、ただそばにいてほしいとか……何にもしなくても隣に置いてほしいっていうのが恋なの。」

 しかもどこまでも恋だと言い張る。中身は衝撃的な内容だし、私はできる女ではないからよく分からないしで困るしで少しの混乱しかない。
 でも何となく……本能では理解出来る話ではある。
 ウーゴの隣にいるだけで幸せだし、ウーゴが私を見て笑ってくれるだけで幸せ。触れる触れないはまだないけれど、過保護すぎる優しさは……いや、過保護すぎるのはちょっとって感じだけれど、嫌とは思わないくらいに私の中では浸透してきている。嫌と思う概念が、日に日に減ってきているように思う。

(追いかけて来てくれたんだよね……)

 それに今更かもしれないけれどあのパーティー会場での出来事を思い出す。ウーゴは私が踏んだせいで足を怪我して痛いはずだったのに、ジョルノに与えられた仕事を放棄して私を守りに来てくれた。
 あの時は私を優先してくれた。ウーゴの中に私が中心にいたんだ。ジョルノからのお願いよりも私を選んでくれた。守ってくれて今がある。

(熱い……)

 嬉しいと人は体が暖かくなるけれど、ウーゴのことを考えると最近はそれを通り越して熱くなる。心臓もいっぱい入ってますかって胸をノックしてくるし、呼吸も上がって少し苦しい。ウーゴの顔が浮かぶと幸せなのに、苦しいっておかしいよね?

「ようやく分かった……」

 ウーゴは昔は頼りがいがないただの秀才くんだったけれど、今は違う。軽々と私を持ち上げちゃうし体も出来上がって男の人って感じだし、よく笑うようにもなって生き生きしている。ずっと見たかったものを私にいっぱい見せてくれるの、今のウーゴは。
 あの日必死な顔で走って会いに来てくれた。私が忘れてもウーゴは私を憶えていてくれた。凄く嬉しかったし、自分が寝る時間を惜しんでまで私が起きるのを待っていてくれたあの姿を見ていたら、早く起きなきゃって気持ちでいっぱいになった。ウーゴに話しかけたくて、会いたくてしょうがなかった。
 早く会いたい。早くウーゴに触れたい……そう思った。

(触れたかった。)

 そう、私はウーゴに触れたかった。一瞬でもウーゴに触れたくてしょうがなかった。
 ただ大丈夫だよって言いたかっただけだったかもしれない。でもそんな風に思う時に動く感情っていうのは愛だと思う。私達は兄弟みたいにお互いを見ていたかもしれないけれど、それ以前に幼なじみで元々は他人だ。トリッシュちゃんが言うように、家族じゃないんだから別にそういう風に考えたってよかったんだ。無意識に今が壊れるような気がして、避けていたように思える。

「トリッシュちゃんありがとう!」

 振り返る作業って大事だと思った。仕事ではしょっちゅうしていることなのに、自分のこととなるとあまりにも無頓着になりすぎていたと思う。トリッシュちゃんのおかげで頭が柔らかくなった気がするし、目が覚めた。

「私、ウーゴのことずっと好きだった。」

 いきなりいなくなった時悲しかった。それは純粋にウーゴが好きだったから……声をかけたあの瞬間から私はウーゴが好きだったから、凄く悲しくて泣いた。ようやく今更ながらにその理由を知って自分の馬鹿さに泣きそう。ウーゴがいるのが当たり前になりすぎて、ウーゴとの今を壊したくなくて、私はまたウーゴとの思い出を忘れようとしていたんだ。
 もう妹みたいに見られたくない。私はウーゴの妹じゃないんだ。そんな上と下がはっきりしている関係じゃなくて、私はウーゴと対等な関係になりたい。

「応援するから頑張るのよ?絶対に諦めちゃダメだからね?」

 正直どうしたらいいのか分からないけれど、せめて異性として見られたい。そしていつかはウーゴと……これからもずっといられたら嬉しい。

「でもどうやったら妹ポジションから脱却できるかな?」
「そうね……いつもと違う自分を見せるとか、かしら?胃袋を掴むのも手よね。」
「既にやってるなぁそれ……」

 とんでもない高級なチョコレートを手に入れて、口の中に入れてみたら幸せ以上のものを感じてしまった私だった。




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