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 ウーゴに恋をしてしまっている。だから好きだってめちゃくちゃ思うしウーゴがカッコよく見える。
 気が付いたのはいいけれど、気が付いたらどうしようもなくウーゴが気になってしょうがないし、話し掛けられるとどういう顔をしたらいいのか……今まで出来ていたことが出来なくなってしまう。私がどう思ってもウーゴからしたら迷惑なことかもしれない。それに一緒に暮らしている以上、ウーゴとのやり取りがギクシャクしてしまうというのは大変よろしくないことだ。凄く幸せなのに凄く複雑。気が付いた時は嬉しかったけれど実際は凄く扱いが難しい感情だった。

「どうしたシニストラ。顔が凄いことになっているぞ?」

 昨日が過ぎて今日。今日は亀の中でポルナレフさんと待機だと言われたので、持ち込んだ雑誌とか本とかを読んでソファで寛いで過ごしている。皆は港の方で仕事らしい……港行きたかった。魚食べたかった。もうお昼だから考えただけでお腹が鳴っちゃう。
 ポルナレフさんは見ていた書類をテーブルの上に置くと、私の方を見ながら訊いてくる。自分の顔が凄いことになっていたとは気が付かなかったので少し恥ずかしくて視線を床に落としながら、自分の心境をポルナレフさんに伝えた。

「いやぁ……私も行きたかったなぁって……」

 詳しい内容は聞いていないけれど、着いていくって言ったらめちゃくちゃ来なくていいって拒絶をされた。それでも引き下がらないでいたら、ジョルノが「ついて来たらきみの仕事はしばらく書類整理にする」って脅してきたから諦めてしまった……それはそれ、これはこれだと思う。一瞬でも天秤にかけてしまった自分が憎い。あとジョルノに負けたのが悔しい。

「今日の相手は少し分が悪くてね……きみが行っても多分役には立てなかったよ。」
「う……」

 私が意見を言えば、ポルナレフさんは少し厳しいことを言ってくる。
 た、確かに私は皆と比べたら役に立てるスペックは持っていないけれど……こうスパッと言われるとちょっと悔しい。「危ない」っていうことはこれから戦闘が始まるこを指しているだろうし、私のスタンドは戦いには向いていないからしょうがないといっちゃしょうがなくて。役立たずで申し訳なさもある。

「ところで折角だ。少し話でもしないか?」

 落ち込む私を見てかただの退屈凌ぎか、ポルナレフさんはため息を垂れ流す私に話を振ってきた。

「きみとフーゴは上手くいってるのかい?」

 しかもタイムリーな話。ウーゴとの生活の話だ。

「上手くいってる……って言うと?」

 一応寛いではいるけれど仕事中だし、ポルナレフさんからしたらどうでもいいことのように思える。私の心臓はばくばくしているけれど……顔にまた出たらどうしよう。
 そもそも上手くいってるのかっていうのは一緒に住んでいることに対してを言っているのかな?それともウーゴとの人間関係は良好かっていう意味で言っているのかな?どっちにしても答えづらい内容だと思う。

「一緒に暮らしててどうだ?」

 ポルナレフさんは笑顔のまま、言葉の中身を私に伝える。当たり前だろと言わんばかりの顔のようにも見えるけれどちょっとからかっているような澄ました顔で……訊かなかったら多分慌てて感情が筒抜けだったと思う。

「毎日平和ですよ。」

 ウーゴとの時間は凄く優しい。不快な瞬間なんて全く起こらない。

「仕事中はぴりぴりしがちですけど、ウーゴは家だと結構和やかなんです。」

 アジトではいつも気を張っているけれど、家だと意外にもウーゴはぐずぐずだ。ポンコツとまではいかないけれどたまにどうしたんだって思うくらい不思議なことをする。

「料理はしないけど食器はピッカピカに洗ってくれるし、冷蔵庫のドルチェに自分の名前を書いてるところとかかわ……子供っぽかったり、夜中に起きたら隠れるようにアイスを食べてて見つかったら黙って私の分もくれるんです。隠れる必要ないでしょって言ったら「癖でつい」って……ブチャラティにばれないようにしてたのかなって思ったらもう本当……!」

 しっかり者のウーゴもいいけれど、どこか抜けているウーゴもいい。凄く可愛いの。大人びているようでまだ子供っていうか、こんなウーゴは見たことがないってくらい何もかもが凄く新鮮だし、本当に可愛くてたまらない。

(好きだなぁ……)

 ウーゴの可愛いエピソードを思い出すとどこまでも好きってなってしまう。思い出しただけで顔がほくほくしてきてにやけちゃいそうで、思わず顔に手を当てて気持ちを隠した。

「そうか、フーゴもまだ少年なんだな。」

 ポルナレフさんは少し楽しそうにそう言ってふふふと笑う。私と同じだ。ウーゴの意外なエピソードを聞くとやっぱりそうなっちゃうよね……私はいつもそんな感じでぽかぽかしていて幸せですよ。ウーゴを見ているだけで自然とそうなっちゃうもん。

「他はですね、部屋からドスドス音がしたと思って覗いてみたらウーゴが「それ以上は言うんじゃないよシニー。」
んぐ!」

 まだまだあるエピソードをポルナレフさんに伝えようとしたら、いつの間にか帰ってきていたらしい……タイミング悪く後ろからウーゴに口を封じられて、何も言えなくなってしまった。
 いつ亀の中に入ったのかなっていう疑問もあるけれど、それ以上にいきなり現れた好きな人に手で口を塞がれているっていう行為に意識を持ってかれそうでそれどころじゃない。口が手に当たっているだけでもう頭の中はパニックだ。
 後ろにいるウーゴからはいい匂いがして癒される。いつも嗅いでいるはずだし慣れているはずだけれど、改めてみると凄く幸せ……って、今はそれどころじゃないよな?ウーゴにこの心臓の爆音を聴かれたらもしかしたら、気持ちがバレてもっとやりづらくなってしまう。

「おや、もう終わったのかい?」

 私は鼻で息をゆっくりと吸いながら心を落ち着かせる。幸にも私の陰の努力は見られていなくてバレはしていない……ポルナレフさんはおかえりって呑気にウーゴに挨拶をしているし、ウーゴも私の背後でただいま帰りましたって言っているし、私のことは完璧に無視だ。助かった。

「しっかりお灸を据えてきました。全員捕まえたので後はよろしくお願いします。」

 でもお灸を据えたとかめちゃくちゃ怖い話までしているのを聞くと、やり取りからギャングの黒さがちらりと見えて一気に怖くなる。一気にドキドキが違うドキドキに変わっていくみたいに、鳥肌がジワジワと立ってきた。

「それじゃあ、失礼します。」

 血の気が引いてきていたらウーゴは私の口から手を剥がして、今度は私の手首を掴んで「おまえも行くんだぞ」とソファから引っ張り上げてくる。立ったら問答無用と言わんばかりに亀から飛び出して、ジョルノの部屋へ私を連れ戻した。そして戻ったらウーゴは用がなくなった私からすぐに手を離して離れてゆき、呆れからなのか疲れからなのか分からないため息を吐く。

「シニー、恥ずかしいから家でのことはあまり言わないでくれ。特にあの話は誰にも言うなよ。」

 シーって言いながら指を立てて、ウーゴは私に忠告をしてくる。小声で「やばかった……」って言ってる辺り、多分かなり焦ったんだろうな……しかし指を立ててシーって、何か見ているとほっこりする。

「分かった……」

 ウーゴが嫌なら言わないほうがいい。好かれているかも分からない中で嫌われちゃうことをするのは嫌だ。

(でもめちゃくちゃ誰かに言いたかったな……)

 部屋の中でダンスをしていたことを報告されるのは恥ずかしいウーゴを見ながら、少しだけ残念に思う私だった。


 それからは忙しく仕事をしていた。ポルナレフさんは亀の中で忙しく仕事をしているし、ジョルノは海で捕まえた集団にプチ拷問をして情報を吐き出させていたり、ミスタさんは集団が持っていた拳銃の番号を洗ったりウーゴは書類整理をして……私はと言えばウーゴが整理したものを資料倉庫にしまうとかそういう作業ばかりだ。

「書類しまうのたのしーなぁー!」

 いや、めちゃくちゃ楽しくない。でもわざと楽しいって言い聞かせる。この世に楽しい仕事だなんてないんだよってジョルノは言うけれど、拷問で使うと思われる道具を持って笑っていたから説得力が全くなかった。多分疲れていたんだと思いたいけれど、前にミスタさんが拷問は楽しいって言っていたから違うんだろうな。

「……はぁ、」

 それにしても、だ。もうかれこれ三十分はこの作業をしているけれど、度々にウーゴのことがどこまでも気になってしまってしょうがない。

(手、温かかったな。)

 シチュエーションは最悪だった。でもウーゴの手が私の口に当たっちゃって温かみを感じたことが凄く気になって大変だ。何度もこういうことってあったけれどあの頃は不快感しか感じなかった。なのに今じゃ何なのかってくらい、触れられたらそれだけでドキドキしちゃうの。凄くくすぐったい。
 好きになるって当たり前が当たり前じゃなくなっちゃうんだな……不思議に終わりがない。次々に新しい発見があって頭が追いつかないや。

(煩悩は……今は置いとかないと……)

 とにかく仕事中にこういうドキドキを持ち込むのはよろしくない。私はギャングだ。手段を選ばないギャングなんだ。仕事にプライベートを持ち込んだら絶対どこかで転んでしまう。たとえ書類をしまうだけの作業をしていても、集中してやらないと……いきなり襲撃とか来たら大変だもんね。
 でも作業をしていると、黙々とやっていると、埋めても埋めても隠しきれなくて自分の気持ちは飛び出してきた。昔のウーゴから今のウーゴまで、頭の中からウーゴが消えない。

「……」

 今までどういう風に過ごしていたのか思い出せなくなってきている……恋愛経験値って全くないと平常心でいることって難しいのかな。普通が分からない。
 棚に手を伸ばしていた手が止まって下に落ちる。またウーゴが触れた手を思い出して顔が熱くなってきて……本当そればっかだよなさっきから!ちょっと触れただけじゃん!ウーゴからしたら口が軽い妹の口を塞いだだけで疚しい意味とか絶対ないし!私だけだよこんなお花畑出ひなたぼっこしたような気持ちになっちゃっているのは!乙女かよ!いや乙女だよ!!

「本当今のお前はどうかしてるよ……」

 自分で言っていて虚しいけれど、その通りだから溜め息しか出て来なかった。
 そもそも気持ちを内緒にするっていうのが私には無理だと思う。嘘も苦手だしすぐに顔に出てしまうから、いつだって隠しても隠しきれずに最後にはバレる。だからといってウーゴにこの気持ちを伝えたら……どうなっちゃうのかなって思うと凄く臆病にもなって、バレようがバレまいが関係なくとても辛い。
 一番怖いのは嫌われたらどうしようっていう臆病な気持ちだ。嫌われたら今までみたいに話せなくなってしまう。それだけは凄く嫌だった。好き同士になりたいって思ったくせに矛盾している……言わなきゃ分からないしウーゴには伝わらないのに。

「どうか……してる。」

 言える時に言う大切さは知っているのに、いざとなると怖くなるとか言うまでもないけれどどうかしている。ブチャラティもそうだった。こういうふうにこのままでいいって……これでいいって言って、諦めていた。
 でも私のはあの人達のとは違う。皆の気持ちが一緒だったんだもん。私のこの気持ちは相手に伝えたら押し付けになってしまう。この気持ちは爆弾でしかない。両思いじゃない限り、ただの迷惑な気持ちでしかないんだ。

「……」

 こういう時は大人の意見を聞いたらいいんじゃないかな。
 ポルナレフさんだったら多分……ポルナレフさんにだったら相談が出来る気がする。ミスタさんはからかってくるだろうし、ジョルノは多分恋愛なんて無駄無駄って言うだろうし。トリッシュちゃんは忙しいだろうし……聞けるのはポルナレフさんしかいない。

「よし……!」

 とりあえずこの書類をしまって、ポルナレフさんの仕事が落ち着いていたら訊いてみよう。
 ウーゴが好きなまま仕事がしたい。でもウーゴのことを考えると仕事にならないし、それは非常に困る。
 頑張って手足を動かして、一気に仕事を終わらせる。資料倉庫から飛び出して廊下を走って、ジョルノの仕事部屋まで辿り着いたら扉を開けて、ポルナレフさんを捜──

「だからぼくは……シニーを好きになれないんです。」

そうとしたけれど、凄く悲しい言葉が耳に入ってきて。

「え……」

 開けたところで、ジョルノとウーゴが話しているのを目の当たりにして、石みたいにその場でカチカチに私は固まったのだった。


 一気にさっきまで込み上がってきた熱が下がっていくのを感じた。




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