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「シニーを好きになれない。」

 ウーゴの声が聞こえた。私を好きになれないって言っていた。
 ただポルナレフさんに悩みを聞いてもらいに行っただけだったの。なのにそこにいたウーゴに悩みを突っぱねるような言葉を言われて、私を全否定されてしまったみたいになって……その前に何を話していたのか知らないのに、その言葉だけを鵜呑みにしてアジトを飛び出してしまった。
 でも何を話していたにしてもそう言ったということは、ウーゴは私を好きになってはくれないっていうのは変えようがない事実のように感じる。嫌われている気はしないけれど……そのたったの一言だけで世界の終わりみたいな気持ちになって、凄く悲しい。泣きながら街を走って、この足でとにかく遠くへと願う。

(ウーゴに迷惑かけたくない……)

 私はウーゴが好き。でもウーゴは私を好きになれない。妹のままでしかウーゴは私のことを見てくれない……だからこの先私がどう足掻いても、ウーゴとずっと一緒っていう望みは叶えられないんじゃとか、同じ気持ちを持てないままずっと今の関係のままでいるしかないんだって、絶望と虚しい気持ちだけしか心には残らない。隣に並べる女の子になりたいって願ったけれど、ただ一人の女の子になりたいと望んだけれど、相手にすらされていないことを告げられたらもうどうしたらいいのか分からない。さっきまでの幸せ気分はどこにいっちゃったんだって感じる。ウーゴが気になってしょうがなかった時の方がまだよかったしマシだった。
 誰かを恨むわけじゃないけれど凄くイライラしてしまう。悲しいし苦しいし、凄く気持ちも暗くなる。明るい方が見えなくて暗い方に走っているみたいで、景色も路地という路地しか映らない。気が付けば前に来た使っていないアジトの近くにいて……そう思ったら足がゆっくりと止まっていった。

(そう言えば……)

 確かあそこに恋愛のプロって自称していた人がいた。困ったことがあったら相談してくれていいって言っていた……今がその時なんじゃないだろうか。
 仕事中にウーゴのことばかり考えちゃって、めちゃくちゃ困っていたさっきまでの恋する私はどこにもいないけれど、それ以上の困ったことが代わりに生まれた。これから私はどうしたらいいのかを知りたい……相談をしてもしょうがないし決めるのは自分だけれど、誰かに言ったら少しは前を向けるかもしれない。相手は変態らしいけれど、変態にすがっていいのではとか思ってしまう。めちゃくちゃ心が弱りすぎて判断力が鈍っている。

「……よし。」

 ただ今の気持ちを誰かに聞いてほしい。でも親しい人には言いづらいから、全く関係ない人に聞いてもらおう。
 そう思った私は空のアジトへと足を運んだ。前にジョルノとミスタさんと通ったルートを走りつつ、かといって足を残したらまずいので、屋根の上に上って近道をしたり……目的地に辿り着いたら鍵を創って中に侵入をした。
 不法侵入って言われたらおしまいだよね。でもここはパッショーネの私物物件だし大丈夫……のはず。

「……」

 扉を閉めて奥へと進み、あの人がいた奥の部屋の方に入ってゆく。正直いるか分からないけれど……いなくてもいい。それだったらそれで朝までここで過ごそうかな。
 奥の部屋は前来た時に扉を閉め忘れたのか開いたままになっていて、何もない部屋の中が丸だし状態になっていた。ドアノブを握ると私はもっと扉を開けて部屋の中へと入り、そこで適度に星達を出す。そこにいる人を見えるようにしてくれと星達に望んだら、足からゆっくりと「そこにいる人」が見えてきて……

「久しぶりだなお嬢さん。」

 半透明のその人……メローネがその場に現れた。

「お邪魔します。」

 見えるだけで実体はないから襲われることがないし安全ではあるけれど、格好が凄くいかがわしい。ギャングの人ってファッションが個性的っていうか目のやり場に困るようなコーディネートをするっていうか……困る。目が。

「元気だったかい?あの新入りにイジメられて逃げてきたのか?随分やつれた顔になってるぜ?」
「うう……」

 メローネは鋭いのか鋭くないのかよく分からない推理をすると、その場に座ってニヤニヤと笑って何だか気持ち悪い。まるで人の不幸を笑っているみたいで少し腹が立……いや、多分こっち反応を楽しんでいるんだろうなこの人は。目が何かを期待しているような色を帯びているし、ここで悲鳴を上げたら相手の思う壺かもしれない。

「……本当は貴方に会いたくなかったんだけど、ちょっと愚痴を聞いてほしくて。」

 凄くしょうがないことだけれど……もう赤の他人に聞いてもらうしかなかったから、すがる思いでここまで足を運んできた。本当だったら遠くまで走ってこの街から離れようとしていたし、逃げ出そうとしていたし……幸にも留まることが出来たのはこのメローネが私に相談に乗るって話していたからだ。裏しか見えなくても私の話を聞いてくれるって言ってくれた人がいたからだった。

「いいけどタダって言うわけに「あのね……」
無視かよおい。」

 私はメローネに向き合うように座り込むと、返事も聞かずにそのまま今日の話をし始めた。




******


 シニーがいなくなったらすぐにジョジョが近くにあったシニーの私物を生命に変えてくれたので、ぼくはそれを追いかけて外へと飛び出した。
 ジョジョが創った命は帰巣本能を備えている。シニーがいない今頼りになるのは誰にでも見えてしまうこの能力しかなかった。シニーの能力よりは劣るとジョジョはご謙遜をされるが、充分凄い能力だと思う。全く新しい命を創るだなんてまるで神だ。神にしか見えない……。
 多分走ったルートがバレないようにあいつはいろいろな道を通っただろうけど、ジョジョの創る生き物にはそんなの関係ない。ただ持ち主の元へと帰るだけだから、無駄がないルートでずっとシニーを追いかけてくれている。流石ジョジョから生まれた生命体だと思う。
 このまま追いかけてシニーを見つけたら……一体何から話したらいいのだろう?ぼくはもう決めてしまったのに。シニーのことは傷付けないように、妹として見ていくって。もしも彼女にそう言ったら……今度こそぼくの目の前から消えてしまうんじゃあないだろうか。また走り去っていなくなってしまうんじゃっていう不安しかない。

(追いかけなきゃよかったって言っていた……)

 ぼくにはそれがどういう意味で言ったものだったのかは分からない。でもシニーにとっては大事なことだったんだと思う。
 しょっちゅう意味もない生産性のない話をされるけど、この言葉には意味がある。泣きながら言っていたからそう思ったのかもしれないけど、あんな突然の出来事の最中で飛び出した言葉ということは、シニーにとっては特別だったんだろうなと感じた。
 こうやってシニーに会いに行くのは二度目だった。あの時は走りながら昔を思い出していたよな。子供だったあの頃はただ走って笑って毎日のことを話して、それだけで楽しかったのに。それだけでよかったのに……今はあの頃とは全然違ってそれだけじゃあいけなくなっている。
 ぼくは妹のままでいて欲しいと願うけど、シニーは違う。ぼくをもう兄として見てはくれていない。そりゃあ血が繋がっていないわけだから無理があるだろうけどさ……しつこく思うけど、シニーのポジションはぼくの中では妹でしかない。
 たとえ無理があったっていい。見ないふりをせずにはいられない。頭の中で分かっていたって体はそれに追いつかないんだ。凄くデリケートな問題で、自分だけではどうにもならない。

「……ここか?」

 シニーが残した私物の生命体は、とある建物まで辿り着くとその扉にぺったりとくっ付いた。薄暗い路地の中の風景に溶け込むようにして建っている建物だな……ここは何度か資料で見たことがある気がする。確か元暗殺チームの元アジトだ。

(何でこんな所に……)

 疑問しかなかった。あいつは暗殺チームに会ったことがないはずだ。一年前にぼく達が倒したし、その時はまだシニーは起きてはいない……でもこんな所に来たということは、何か用事があったのか、それかただ入り込んだのかのどっちかだろう。こんな場所にただ入り込むわけがないだろうがあいつならありえそうで怖い。
 疑問に思うが行くしかない。ぼくはドアノブに手を伸ばすと、そのまま開いていたらしい扉を開けて中へと入る。開けば吸い込まれるようにシニーの私物もそのまま中に入っていって、薄暗い奥の方へと消えていった。

「……」

 ここにいるんだ。ここにシニーが……どういう顔を向けたらいいのか分からない。でも行くしかないのは明白だった。連れて帰ってまた一緒に暮らすためにぼくはここに来たのだから。

「……よし、」

 意を決してぼくは奥へと進む。これが目的だから引き返すわけにもいかなくて、どんなに怖い未来に向かおうがもう進むしかない。音を立てないようにゆっくりと歩きながら、家の壁に手を触れつつ突き進んだ。

「うう……」

 そして行き止まりらしい奥の部屋が見えてくると、少しだけ声が聞こえてきた。幽霊かと一瞬ビクついたけど、小さい声だけど毎日聞いているものだからすぐに分かる……これはシニーの声だ。
 すぐにそこまで行きたい。でもいきなりぼくが現れたらきっとまた逃げられる。今のペースのままシニーがいる部屋に近付くと、壁に背中を貼り付けて中から聞こえるシニーの声に耳を傾けた。




******

「私ね……ウーゴだって気が付いた時、今は会いたくなかったーって思ったの……」

 いなくなった時毎日のように私はウーゴを捜していた。でもウーゴはどこにもいなかった。夢に出てきたこともいっぱいあったけど、その度に悲しくて泣いて……でも凄く悲しかったことも私はいつしか忘れてしまって、ウーゴとまた出会うことを諦めていた。そして死んでしまっていたと思った私は目の前にいたウーゴやジョルノを見て後悔した。

「でもナランチャが背中を押してくれた……だから会いに行くって、勇気を出して追いかけたの。」

 ナランチャは必死に私にウーゴのいいところを話してくれて、怒りっぽくてもウーゴのことが「好き」だと教えてくれた。ただそこにいる今のウーゴに会いたいって言っていた。そんなナランチャを見ていたら私もって決意が固まって、勇気を出して今のウーゴに会いに行った。

「そしたら私が寝てるでしょ?眠ってる私をウーゴが見てるの……ウーゴが必死に走っていた理由が私に会いに行くためだって知ったら、嬉しかった。」

 会いに来てよかった。そう思ったんだ。私は生きていたから起きたらまたウーゴと一緒にいられるんだって、そう思うとどこまでも嬉しかった。

「起きて一緒にいるようになって、昔みたいに戻って楽しい!ってなって、何だかんだで世話を焼いてくれるのを見たら……お兄ちゃんがいたらこんななのかなとは思ったけど……思いはしても、私はそんな風に思っても、ウーゴはどこをどう見ても家族じゃないし……」

 ウーゴは男性なんだって気が付いた時は少し戸惑うこともあったよ。でも自分の中に落ちてきたら意外にもちゃんと受け止められたの。不思議だ。

「……ウーゴはずぅっと、ただ一人の男の子なの。」

 あの日初めて見た時も、ウーゴはただの男の子だった。

「笑うと可愛くて、実はちょっとお茶目で……怒りっぽいのは前を見ることに真剣だから。いろんなウーゴを見ているだけで幸せになれる。」

 大好きなパンに甘いチョコレートが入っていた時のような、ケーキの上に乗っていたいちごが大きかった時のような幸せを感じる。ウーゴといるとご褒美を貰っているみたいに嬉しくなれる。

「何だ。ただのノロケじゃあないか。」

 まだ話が終わっていないけれど、メローネは途中まで聞いたらつまらなそうにそう言った。

「いや、ここからが愚痴だから。」

 さっきまでのはノロケじゃない。だってウーゴはこっちを見ていないのだから。
 私は手をメローネに突き出して黙るように促すと、ゆっくりと息を吐いて……ウーゴへの愚痴を連ねてゆく。

「最初は別にいつかは両思いになれたらいいなとか夢見がちに考えてたよ。」

 そう、いつかでよかった。今すぐじゃなくていいからいつかは見て欲しいと思った。

「でもウーゴはいつだって私を妹扱い!」

 昔から目覚めてしばらくは「きみ」って呼んでいたくせに、今じゃあ遠慮がない「おまえ」って呼んでいる。前は遠慮がなくなってきて嬉しいとか浮かれていたけれど、今はそれって異性として見られていないってことじゃ……っていう落ち込みしか感じない。

「ウーゴはそれでいいかもしれないけど、私もちょっとはお兄ちゃんっぽいとか思ってたけど?それっぽく見えただけで完全にお兄ちゃんじゃあないからな?って感じ。」

 酷すぎる過保護を受け止めながら大事にされているって思いはしたよ?でもその中身がこんな……残酷だなんて知らなかった。

「私はウーゴにお兄ちゃんになってほしくないのにウーゴはなろうとするの、凄く嫌!」

 多分ウーゴに言ったら困らせちゃうんだろうな。

「好きになってほしい……ちょっとでもいいから、こっちを向いてほしい。」

 妹じゃない私を見てほしい。

「……ただ一人の女の子に見られたい。」

 そういうキャラじゃないって分かっているけれど、ウーゴだけは……ウーゴにだけは女の子として見られたい。恋をしたらもう自分の気持ちが止められないんだ。
 私は膝を抱えて自分の頭をぐりぐりと埋める。昔の私だったら誰かをこういう風に見ようとか、誰かにこうしてほしいとか、こんなに頑なに思わなかったと思う。その人次第の問題だから触れようとしなかったんじゃないかな。無理って言われたらすんなりそれを受け入れたと思うよ。でも何でかウーゴに対して想う気持ちだけは何もかもが譲れない……頑固になってどうしようもない。

「シチュエーション関係無しに普通に手を繋いだり、二人きりの時はもっと一緒に過ごしたいし、デートとかしてみたいし……でもそれはウーゴじゃないと嫌で……」

 変態相手に何を言っているんだ……甘えすぎなんじゃないだろうか?夢を見すぎなんじゃないかって、メローネに対して申し訳なさが生まれ始めている。

「……ごめん。いろいろぶちまけすぎた。」

 まだ言い足りないけれど、幾分はすっきり出来たかもしれない。殆ど黙って聞いてくれたから言いにくいことでも言いやすかった。

「別にいいけどさぁ……」

 しかしメローネは悩ましそうにそう言ってくる。困っているような、悩んでいるような……少しの間沈黙が入ったけれど、スパッと私の今までの話をブチッと切るように思うことを口にした。

「何て言うか、お嬢さんは少し相手の気持ちを知った方がいいんじゃあないかな。」
「え?」

 あぐらをかいて座っていた彼だけれど、改めるように足を崩しながら「気持ちは大事」と言ってきて……私の眉が段々と寄っていってしまう。

「ウーゴの、気持ち……」

 何だろう、ウーゴの気持ち……言われてみると確かに私は自分の気持ちばかり押し出してばかりで、ウーゴの気持ちとか考えていなかったかもしれない。

「私のことは好きになれないって言ってた……」

 考えはしなかった。でも感じた。この言葉を聞いた時にウーゴが今まで向けてくれていた優しさは、妹としての私に向けていたものだって。それが全てなんじゃないかって……これが思い込みだったって言うのだろうか?
 確かにあの言葉の前にどんな会話をジョルノとしていたのかは知らないけれど、あの言葉はどこをどう聞いてもその前に話していたもののまとめだった。ウーゴの気持ちはそれが全てだってそう思った。

「まぁ聞け。離れていた期間にあいつにもいろいろあったらしいぜ。」

 悩む私にメローネは知っているウーゴの情報を私に教えてくれる。

「いろいろあってオレら暗殺チームは護衛チームの奴らの過去を調べたんだが……確かフーゴってのは、通ってた大学で教授を辞書でボコってさ、逮捕されたんだ。」
「え……」

 それは今まで聞いたことがない内容だった。私が知らない間にウーゴが凄いことをしていたという話で……教授を辞書でボコボコって一体何が起こってそうなっちゃったの?

「ウーゴは理由もなく暴力は振るわない、けど……」

 いや、理由があっても振るっちゃいけないけれど。私の知っているウーゴはそんなことはしないし、それは多分教授がウーゴの嫌がることをしちゃったからだと思う。

「お嬢さんは強いからそういうことないだろうけど、カッとなったら暴力を使う人間っていうのは本当は臆病なもんなんだよ。」

 受け入れがたい内容だし自分の中に全く落ちて来ないけれど、メローネにはウーゴのことが分かるらしく思うことを言ってくる。

「もしもまた同じことをしたらとか、ましてや好きな女の子にそんなことをしちゃったらとか思うとさ、たとえ本能に従いたくたって躊躇うだろうよ。咄嗟に傷付けちゃったらどうしようってさ……妹だって思えば間違いは絶対起こさないだろうし、あんたを守るためにそう言い切っちゃってるんじゃあないか?男心も複雑なんだよ。」

 どこまでもメローネが言うことは私にはピンと来ない。部分部分でしか私の中に落とすことが出来なくて、しっかりと分からない部分を砕こうと黙って頭の中でよく考える。

(同じことをしたら?)

 私はウーゴにそう思わせることをしてしまっていただろうか?寧ろウーゴの方が私を怒らせていたような気がするのだけれど……人の着替えをジョルノと見ていたり、女子寮の私の部屋を平然とピッキングをして侵入していたり……あの時どんなに怒りが込み上がったことか。ウーゴは知らないんだろうな。

(好きな女の子?)

 それに関して言えば私は絶望的でしょ。だって好きになれないって言ったもん。ウーゴ自身が自分から言ったことだし間違いない。本能に従って間違ったことをしているのは既に目撃済みだ。私の着替えを覗いたりしていたし、バスルームで遭遇をしちゃった時なんて私をぽかん顔のまましっかりと見ていた。

(咄嗟に傷付けちゃったらどうしよう?)

 何でそんな余計なことを考えちゃうの?ウーゴが手を出しちゃうくらい嫌なことをしちゃうって、それは私が悪いのであってウーゴは全く悪くないじゃないか。何で勝手にまだ起きていないことに対して身構えちゃったのかな。

( 妹だって思えば間違いは絶対起こさない……?)

 何それ……私からしたらそれが間違いだよ。

「……守らなくていい。」

 メローネが代弁するウーゴの気持ちは正しいことかは分からない。でももしそう思われているのだとしたら……そんなの余計なお世話だ。ウーゴこそ私の気持ちを知ってくれって思う。

「私は街の子達みたいにお洒落じゃないし魅力的な部分とか全くないけど、」

 トリッシュちゃんみたいに綺麗じゃないし、スタイルだって多分普通だと思う。だからこんな私をウーゴが異性として見てくれないっていうのだって本当はそうだよなって思うし、そんなことを考えたらもう真っ暗なことばかり考えちゃって自分が嫌いになりそうだけれど、

「私は、それでも……」

 引っ込んだはずの涙がまた流れ出てくる。
 どんなにお兄ちゃんっぽくされたって私に映るウーゴはもう、ただ一人の男の子なの。生まれて初めて恋をした男の子……それがウーゴ。だからこの気持ちを諦めたくない。

「もうウーゴを諦めたくないって思うよ……」

 二度もウーゴを諦めたくない。

「……ぼくだって、」

 涙を拭くために目をごしごしと擦っていたら、後ろから声が聞こえてくる。
 目の前にはメローネがいるからこの後ろにいる人は紛れもなく別の人だ。ずっといたのかな……って思ったら凄く恥ずかしくなる。

「ぼくだって、諦めたくない。」

 その声はよく知っている人のもの。どんな毎日だろうと聞いていたもので、好きな声。今会ったら多分無理。

「だから話をさせてくれ。」

 でも彼には私の気持ちなんて関係なくて、コツコツと足音を立てながら私に近付いてきた。


 その足音には一切の迷いはなかった。




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