昨日のことが凄く夢みたいに思えてしまう。ウーゴと両思いとか一晩明けた今でも未だに信じられなくてしょうがない。ふわふわした気持ちで胸がいっぱいだ。
朝起きた時に特別に変わったことは何もなかったけれど、見えている世界がどことなく違うような気になってしまう。ウーゴは特にいつもと何も変わらないはずなのだけれども……そんな変わらないウーゴが視界に入れば何が込み上がってくるものがあって、どこまでも幸せに浸ってしまう。これが恋だって気が付いたばかりだったのに、猛スピードでウーゴとの距離が縮まったみたいに今までよりも近くに感じた。
「……で、やっとくっ付いたんだ?」
しかし周りから見れば私とウーゴがくっ付くのは時間の問題みたいに見えていたようで。空き時間にジョルノに報告をしたら、にこにこしながら話を聞いてくれた。
昨日いきなり飛び出しちゃったから申し訳ない……でも多分、ああしなかったらウーゴとはすれ違ったままになっていたと思う。あの時時間をくれたジョルノには感謝しかない。
「「やっと」って言い方気に入らないけど、ありがとう!」
正直「やっと」とか「ようやく」とか、時間がかかったみたいな言い方は好きじゃない。だってウーゴと私はつい半年前まで数年の間生き別れみたいな感じになっていたのだから、そういう呆れた感じに言われると悲しくなる。
それに子供の頃にウーゴとたくさん遊んでいたとしても、遊ぶ時間だなんて一日のほんの数時間だけだった。今みたいに四六時中一緒にいる訳じゃない。だからどうしたって私達の間には時間が必要で、ウーゴだなんて特に慎重になっていたんだもん。今に至るまでの時間は全て必要なものだったって思うから勝手に呆れないでほしい。
「シニストラが……フーゴの女になった、だと……!?」
私とジョルノが話しているといつの間にか部屋の扉が開いていたらしい。ミスタさんが目を丸くさせながら何か凄いことを言い始めた。
ウーゴの女って言い方……何だか刺激的な感じで恥ずかしい。いや確かにウーゴのものになったけれど、人に言われると何だか危ない香りしかしてこない。
「何でフーゴに彼女がいてオレにはいないんだよ!四月だから?今が四月だから?」
「そうですね……あなたの場合ワキガのせいじゃあないですか?」
「トリッシュはッ!懐かしいにおいだって!!言ったもんッッ!!」
ここにいないウーゴと張り合うミスタさんは必死になりながら、ジョルノと自分の何がいけないのかの会議を始めてしまう。何だか話が長くなりそうだったので、私はポルナレフさんから新しい仕事を貰うと早速仕事に移るのだった。
四月に入ってからのミスタさんはあまり外では動かない。四月は忌々しいらしい……ブチャラティとアバッキオ、ナランチャがいなくなったのも四月だったからか、不吉な予感しかしないと力説をされた。でも「ジョルノがいれば何があっても大丈夫」とのことらしく、ミスタさんはそんなラッキーボーイに精神的に守られながら、ラッキーボーイの護衛を請負いまくっている。そもそも街の情勢も最近は落ち着いているから私にも仕事らしい仕事……追跡任務は回ってこない。私に至っては大体はスタンドの訓練とか外の見回りとか、安定した仕事しか上から命令は降りてこなかった。
街はどんどん変わっていくし私もちょっとずつ変わってきている。目を覚ましてからここまでいいことばかりが起こっていた。幸せに向かっていることをいっぱい肌で感じ取れる……ちょくちょくいろんな問題は起こったけれど、感じるものは今となってはとても暖かい。
私の家族はもうこの空の下にはいないし、生まれ育った家もこの世にはない。でもそんな自分にも今居場所がある。ウーゴの隣と一緒に住んでいるあの家、そしてパッショーネが自分の居場所だと心の底から思う。
「最高だな……」
幸せの絶頂にいるせいか、外にいるのに顔がにやけてしょうがない。たるんじゃいけないのに気持ちがたるんでしまう。気を付けないといつか本当に後ろからぶっすりとやられちゃうから気は常に張らなくちゃだな……!
そして今日のウーゴは別室で仕事だったらしくて朝以降は全く会うことがなかったけれど、上がりの時間になると私の所まで迎えに来てくれて、いつも通り一緒に帰ることが出来た。ここまでは普段とあまり変わらないけれど、少しだけ違うところがある。
「シニー、手を繋いでもいいか?」
ウーゴが積極的に私に触るようになった。
行きも手を繋いでアジトまで歩いたんだよね。ただウーゴは真面目だから、アジトに近付いてきたら手を離してすぐに仕事モードになってしまった。ちょっと残念に思いはしたけれど……ウーゴと夜に約束を交わしたからしょうがない。
「仕事とプライベートは混同せず分けるべき。」
一応二人で作った約束だ。ギャングに身を置いている以上真剣に命と向き合う瞬間があるだろうし、万が一煩悩を抱いているせいで死に直結するような事態が起こってしまったらシャレにならないだろうって。だからさっきの気持ちの緩みは断じて起こしてはいけない……でもその代わり家にいる時は煩悩丸出しでいいからって言われたから、あまり次の日に溜め込まない程度に二人の時間は大事にしようってウーゴと私の間ではそうなっている。
とは言うけれど、ウーゴはまず私に触られることに慣れないと何も始まらないので……しばらくは特訓をするらしい。
「はい、どうぞ。」
焦らずゆっくりのつもりで頑張りたいねって同じく二人で決めたから、お互いに気持ちも軽くて済む。私が手を出すとウーゴから手を繋ぐけれど、手を重ねたらまず最初に握るのは私からで、ウーゴはその後だ。自分から手を触れて握られる作戦で慣らすと宣言されたので、私も協力は惜しまず遠慮なく握ることにした。
「シニーは教授じゃあない……シニーは……教授じゃあ……」
「……」
ただ外での呪詛のお唱えは勘弁してほしいと思います。言わないけれど心の底ではちょっぴりとだけ思いました。
「ねぇウーゴ?」
「ん?」
「夕飯何がいいかな。」
所々でいつもと変わらないやり取りだってウーゴとはする。しょうもないことやくだらないことでも、これからはそう思わないでいつも通り楽しく話したりするのだと思う。
「野菜がいいな。あと果物。」
「どうでもいい」はどうでもよくないし、くだらなくてもくだらなくはない。私はそういうものを拾って集めて昔はウーゴにいっぱい話をしたり、そういうものでひたすら一緒に遊んできた。昔とは関係が違くなってしまっても、それだけはこの先もきっと大事にしていきたい。ウーゴもそうだったら嬉しい。
「野菜かぁ……肉はダメ?」
「ダメだ。ミスタ理論だと肉は人間を不味くするらしいから、野菜がいい。」
「何その理論……っていうか食べるのか?私を?」
とにかく楽しく過ごせたら最高だ。これ以上ないくらい、幸せ。
「いや、食べるわけじゃあないけど……キスする時美味しかったら最高だなって。」
「え、」
内容はともかく幸せに浸っていたら、ウーゴがいきなり攻めに入るような言葉を言ってきたので、歩いていた足がピタリと止まってしまって。思わずカチカチに固まってしまった。
き、キス……!?いやいやいや別におかしくはないよね!一応好き合っている仲だし昨日だってウーゴからそういう話もあったし……びっくりすることでもない、よね?
でも驚きはする。だってウーゴ、私から手を繋ぐと怖がるから普通にキスとか心配になってくる。あと突然のカニバリズム化も心配。キスって味とかするの?したことがないから分からない。
「……いや、冗談だから真に受けないでくれ。」
石像みたいに動けなくなっていたらウーゴは私にそう言ってくれる。す、凄い冗談だ……ウーゴの冗談って冗談に聞こえないなって初めて知ったなぁ……。
「そ、そっかぁ……」
そもそもよく考えてみたらキスって唇と唇が触れ合うだけだから、食べられるだなんてことって普通にないことだもんね?冗談でよかった。痛いのは嫌だもん、勘弁してくれ……
でもそうか、ウーゴはキスとかセッ……とかしたいって宣言していたもんね。どうやったら出来るんだろうって今とかいっぱい考えてたりするのかな?
仕切り直して再び私達は歩き始める。そんな中でウーゴを盗み見てみるけれど、変な話をしていたせいか恥ずかしくなっちゃってすぐに目を逸らしてしまって……凄く残念だ。ウーゴをしっかり見られない。
(ウーゴと、キス……)
とりあえず想像してみようとしても、キスだなんてそもそも生で見たことがない。映画の中でしか見たこともないからどういうものかもよくは分からない。皆人生の大事な場面で大体の役者さんはしていたけれど……私達に果たして大事な場面が訪れる日が来るのだろうか?まだ始まったばかりだから全く想像が出来ない。
仕事じゃなければどんな場面でも手は繋げる。私はそういう気分ではいるけれど、ウーゴからしたらこの行為ですら結構場面や場所を考えていたりするのかもしれない。したいなって思っても下準備で私に美味しくさせようとしてくるとか……何か意味があるのかな。冗談って言っていたし本当に冗談なのかもしれないけれど、気分的なものでそう言ったのだとしたら付き合ってあげたいとは思う。そうなると本気で肉はしばらく控えるべきなのかも……いやでも肉がなかったらスタミナがつかないし!走った時バテたら大変だから食べざるを得ないような気がする……!!
「……唇にジャム塗るのどう思う?」
「え?」
思わず、パッと頭に浮かんだ言葉を漏らしてしまう。
「ジャム……って?」
今度は私の足じゃなくてウーゴの足が止まってしまった。聞き返すようにそう言うと、「何で?」と付け足して理由を訊ねられて……そうだよね?気になるよねいきなりこんなことを言っちゃったら。
「だってどう頑張っても肉って美味しいしさ……私は仕事で走るから、肉は食べないといけないし……」
ウーゴを見上げながらとにかく肉だけは譲れないって私の意見を述べる。何でこんな肉の必要性を語っているのか分からないし、ちょっと場面が台無しになっているような気がするけれど、これは凄く大事な問題だ。死活問題だ。私から肉を取り上げたら何が残るというのでしょう?
「肉は……食べたいよ……」
ウーゴの手をぎゅっと握る。視線を下に落として、とにかく訴える。せめてウーゴが美味しいと思えるために私が出来ることと言えば、本気でジャムを唇に塗りたくるくらいしか出来ないと思う。何ならハチミツでもチョコレートでもいいよ。ウーゴの好きなのを塗ってくれ。
意を決して顔を上げて、ウーゴの顔を控え気味にジッと見つめた。言いたいことを言ったから別にドヤついてもよかったけれど、多分鼻で笑われると思って下に出た。
「……ふふっ!」
しかしウーゴは私が下に出ても、鼻では笑わずとも声を上げて笑ってしまう。
「アハハ!何だその発想……シニーってたまにとんでもないことを言い出すよな……!」
そして酷い。酷すぎる。人が閃いたアイデアを笑い飛ばしちゃうところにも酷さを感じるけれど、そこに人の親切心を折り曲げる勢いが付いてしまっていることがどこまでも悔しい。
「ウーゴが変な話振ったせいでしょ!」
そもそもはウーゴのせいだ。また足でも踏んでやろうか?踏めば理解出来ますか?自分が悪かったってさ!
思わず手を振りほどいてプイっと顔を横に向ける。腕を組んで怒っているアピールをして頬まで膨らませてみたら、ウーゴはそれを見るともっと笑い初めてしまって……どうやら逆効果だったらしい。もうどうしたらいいのか分からないし何を言ってもこうやって笑い飛ばされそうで、気持ちが段々と冷めてきてしまった……困った。
「本当に冗談で言っただけだから気にしなくていいんだよ?」
どういう顔をすれば分かってくれるのかなって考えてもやっぱり分からない。精一杯の怒りをぶつけ続けて膨れたままでいたら、ウーゴはそんな私の顔を包み込むように挟んできて、そのまま息を抜くようにぎゅっと手を押し込むと、未だかつて無いくらいのご機嫌そうな笑顔を向けてきた。
「肉食べていいよ。ぼくはシニーが美味しそうに食べる姿が好きだし、任務中に倒れて欲しくないからさ。」
……ウーゴってよく分からない。食べるなって言ったり食べていいよって言ったり、肉を受け入れてくれたのは嬉しいけれど、私の内容はともかく精一杯の提案を同時に断れてしまったらとにかく自分の中では凄く変な気分を抱えてしまいそう。複雑だし恥ずかしさしか残らないような気がする。
「それにジャムなんて塗ったらシニーが自分で食べちゃうだろ。食い意地凄いもんな、きみは。」
「な……」
でもやっぱり一番前に出て来た感情っていうのは怒りだった。ジャムを唇に塗ったらそのまま食べちゃうってそんなことしないって言ってやりたいけれど、多分一口でも口に入ってきたら食らいつく勢いでウーゴの言う通り、ぺろぺろっと全部舐め取っちゃうかもしれない。だってジャムって美味しいもんな。
「ほら、肉買って帰るぞ。」
しないと言いきれない自分の食い意地を呪いそう。そんな意地悪なウーゴに怒りしか感じなかったのに、今降り掛かってきた食欲には勝てないみたいで頭の中で葛藤を繰り広げた後に、私の気持ちを司っている天秤は後者に傾いた。盛大にお腹を鳴らしてウーゴのその発言に答えてしまえばまたウーゴには笑われて、恥ずかしさもあって私はしばらくまた膨れたけれど、でも段々とウーゴに釣られてしまって……ついに私まで声を出して笑い始めてしまう。
誰かを好きになるって凄いなと改めて思う。意外にも何でも許してしまうし、次の瞬間には嫌な感情も吹っ飛んでいるんだもん。昔だったら足を踏んで怒りをぶつけたところだろうけれど、今は全然違う。中身はともかく相手の楽しいを一緒に共有出来るようになってしまったみたいで、自分の中で心地いい余裕が生まれて気持ちが強くなったように感じた。
「でもそうか、ジャムを味わうシニーにキスをしたら口の中が甘くて最高になってるかもしれないってことか……試してみるか?」
「もう忘れてくれ!その話引っ張らないで!」
この人のそばならきっと何だって乗り越えらる。そんな風に思えてしょうがない。
私達はまだ始まったばかり。見える世界が変わって見えても変わらないものを大切に、関係が変わってしまっても遠慮とかせず本気でぶつかり合って、この先で待つ幸せにたくさん浸りたい……って私は望みたい。
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