「まさかスタンド能力の移植実験とか無駄なことをしようとしてたとはね……」
シニーを保護してからすぐにジョジョの治療を施すと、その後に続いて港の小屋と船の調査をする。小屋はばら撒き散らしたらしい消毒液の臭いとそれに混ざった生臭さが酷くて入るのに非常に苦しむし、何故か倒れている男の体には一点を集中的に狙ったような傷跡が無数にあったりと見た目的に酷い光景が繰り広げられていた。船に関しても船員は全員小屋と同じ状況で、どの体にも密集した傷口から血が噴き出していて……明らかにシニーがやったとは思えない痕跡が残されている。収拾がつかない現場と化していて全く状況が把握出来ない中、全員が息をしているものの意識がないということで、とにかく情報が欲しいため小屋にいた一人だけを拷問に回そうという話になり、穴だらけの船の回収をしてからシニーを病院へと搬送することになった。他の怪我人はシニーとは別の病院へとドナドナされてゆき、この事件の調査関連はミスタとポルナレフさんがこれからしっかりとして拷問までしてくれるらしい。今日は安心してシニーのそばにいられそうだ。
病院に着いてすぐに部屋を借りて、脈拍の測定機具やら点滴やらを付けられるシニーを見ながら少しだけ安心を覚え始める。一段落がつけばその頃にはちゃんと頭が動いてくれて、ジョジョとあの時の状況把握を兼ねて見たものを照らし合わせながら、誘拐の時点で感じた確証がなかった可能性を話した。
「シニーのスタンドは左目に憑依していた……それを介して発動するから、その目を手に入れさえすればもしかしたらって思ったんでしょうね……」
ただの想像だったもののぼくのこの嫌な予感じみた考えは当たっていた。船の中で拾った資料にはその可能性が書かれたものが存在をしていて、目に刺激を与えずに取り出す方法まで丁寧に記載されていた。これが答えだと言わんばかりに確かに存在する器具やらを見て、今すぐこいつらを殺してやりたいとか怒りしか込み上がらなくて、途中からの記憶があまりない。ポルナレフさんが作成した報告書のコピーまで落ちていたあたり、その情報を頼りに研究をしつつ今回のこの事件を引き起こしたのだろうとは思うものの、まさかその移植先は死んだはずだし今は魂だけになって彷徨っていたはずのメローネだったりで……ジョジョは少し驚きはしていたが、変に納得をされていてぼくは少しも腑に落ちなくて。理由を訊いてみたら「彼はなかなかしぶとかったからね」って……全然何を言っていたのか理解出来なかった。生命力が強いってことなのか運がよかっただけなのか……それだけで片付く話じゃあないだろうし、これからフィレンツェまで行って寝てるところを縛り上げて確認をして来るって言っている。流石ジョジョだ。
「シニーの方は一応傷は全部塞いだから大丈夫……目は確かにあるんだけど生命エネルギーが本体と繋がっている感じが全くないし、脚は少し障害が残るかもしれない。無理矢理動かしたみたいで傷みが酷すぎるから、総入れ換えしないと完治はちょっと厳しいな。」
シニーが安静に休めるようになるとロビーで仕上げの入院手続きの書類にサインを書きながら、ジョジョはシニーの体の今の状況をぼくに話してくれる。
体のパーツを創り上げてきたジョジョが言うくらいに彼女の目も脚も深刻な状況らしい……一度捕まって逃げ出すとなると、確かに状況的には無理をせざるを得なかったのかもしれないが、痛いのが苦手なくせによくここまで頑張れたよなって労いばかり感じてしまう。
ギャングの世界には死ぬ覚悟が必要ではある。でもシニーはそういう覚悟よりも、死にそうになっても絶対に「生き抜く」という一番困難な方を選んだに違いない。抗うように絶対に突き進んで道を切り拓くのが彼女だから。
「目にはトロイメライがいるだろうから変な真似は出来ないし、脚は切って新しいものに換えようものなら絶対怒り狂って元気な方の脚で蹴られるだろうし、まぁどうしようもないよね。」
いい加減な理由だがジョジョのその話は変に納得をしてしまう。ジョジョの手がテントウ虫のブローチで創られたものらしいって話をした時だなんて、シニーは凄く苦い顔をして固まっていた。彼の手にもし針が出て来たらどうしよう、怖くて握るの怖いって言っていてジョジョにも申し訳なくなった。
「じゃあフーゴ、後は頼んだよ。ぼくはメローネの回収してくるから何かあったらポルナレフさんに回してください。」
握っていたペンをぼくに返して書き終わった書類を目の前にいた事務の人間へと渡す。全てが終わればジョジョは病院を後にして、休む暇もなくフィレンツェへと足を運ばせた。
「後は頼んだ、か……」
何だか……今でもたまに不思議に思う。パッショーネから離れて生きてきたのにいつの間にかこうやって、ジョジョに大事な仕事を任されてこなしている自分には驚きしかない。本当だったらあの人だってシニーが起きるまでそばにいたいはずなのに、ぼくに全部を任せてしまうだなんてって思うと少しだけ申し訳なくなってくる。
シニーから借りていて今ジョジョに返されたペンを見ながら、守りきれなかったぼくに任せてしまってよかったのかなって、ジョジョのこの選択に不安さえ覚えそうで……でもこれで本当に大丈夫だと信じるしかないんだよなって、頭を切り替えるように自分の頬をおもいっきり叩く。
(前向きに考えろ……)
ミスタ理論で言うと、今日のこれは運命を変えたことへの調整みたいなものらしい。あの時シニーを助けたことで生じた所謂別の道……そしてその調整が今終わったとしたら、この先のシニーにはもうこんな不幸なことは起こらない。変に運に恵まれた奴が言うのだから、大丈夫……のはず。
(元気になったら何かしてあげたいな。)
切り替えて前向きを目指して考える。シニーが起きたら彼女に何かをしてあげたい。怖かっただろうから、忘れられるくらいに一緒に楽しいことでもして他の色に塗り潰してやりたい。
何をしてあげたら喜ぶだろう?食い意地がかなり張っているから食事でもする?食べたがっていたドルチェでも買いに行ったり……他は、何かプレゼントを買ってあげるのもいいかもしれない。飾りっ気がないからアクセサリーとか……
「……」
ここでどうしようか考えてもしょうがないことはよく分かる。してあげたいことがあったってシニーが絶対に喜んでくれるとは限らない。一番いいのはシニー本人に直接訊くことだ。起きた時何がしたいか訊ねて叶えてあげることこそが一番確実なことだと思う。
今はシニーのそばで起きるのを待ちたい。それだけでいい、今はまだ。
ロビーを出るとシニーが眠る病室まで足を向かわせる。階段を昇りながら目の前にあった窓から外を覗いてみたら、空は深いオレンジ色で……ふとあの時の星を思い出す。
(ちゃんと叶ったのか……)
ぼくは望んだ。シニーを助けてあげてほしいことをあの星に。それからどうなったのかは分からなかったけど……あの現場を見た限り、シニーの能力では出来ないものが存在をしていたところを今更になって考えてみると、本当にその時に誰かが助けに来てくれたのかもしれない。冷静になると見えてくる答えに少しのくすぐったさを覚えそうだ。
甦る光景の中でその人を見つけ出す。いつもぼろぼろに帰ってきて怒られてばかりだった、あの人のことを。
(きみ、だったんだな。)
あの実行犯達の傷の感じから言えば……大体ぼくの望みを叶えてくれたのは彼だろうと想像がついてしまって、変に星のあの色にも納得をしてしまいそう。たまたまの色なんだろうとは思うけど、勝手に思ってもいいのなら納得するままにこの可能性を飲み込みたい。
「あなたはやっぱり立派な人です。」
届くか分からない言葉を空へと向けてから、ぼくは再び階段を昇っていった。
夢はまだ終わらない。
これからもずっと、生きている限りずっと……果てしなく続いてゆく。
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