「トロイメライ、『私は望む』。」
あれから半年後、私はギャングを辞めてウーゴのお嫁さんへと転職を果たし、ゆったりとした足取りでのんびりと生きるようになっていた。
朝の一走りは一歩きになって、でもたまに今日はいける気がするって気分になれば、ちょっとだけ走ってみたりして痺れを起こして帰れなくなって……ウーゴが回収をしにやって来て、私のことをお姫様抱っこをしながら連れて帰る。神様はどこまでも私を走らせたくないらしい。最初の頃は泣いたくせに今じゃもう笑うくらいにこれがおかしい。私が歩くその道は楽しさしかないらしくて毎日ちっとも飽きなかった。
前と勝手が変わってしまったトロイメライは二段階まで成長を果たしていたらしく、自分の意志次第では前の能力を使うことが出来た。ちょっとずつ訓練をして元の調子に戻せばあの日のようにたくさん星を産むことが出来て、私が望みさえすれば自らそれを流して叶えてくれる。私の目みたいになって確かにあるそれは、外に出そうと刺激を与えてみればごっそりと下に落ちてゆき、途中でトロイメライの姿へと変えて……めちゃくちゃグロテスクだったから出す時は絶対に下を見ないようになった。見えるようになったのが嬉しいせいか勝手に出てくる時もあるけれど、壁にぶつかってしょぼくれて戻ってきたりで何だか可哀想な時もある。
完全に元通りとまではいかないけれど、実はまだポンコツなんかじゃなかったってことや誰かのために望みをまだ叶えられること。それを知ったらもういつだって気持ちを昂らせて、約束に一直線へと飛んでゆける。
「久しぶりだな!おまえら!」
あの三人とまた会うんだ、会えるんだって。
「よォ、元気だったか?」
「久々の体だ〜!!」
今日は十一月二日。死者の日でいなくなった皆が帰ってこられる日。一年前に約束をした通り、美味しいものをミスタさんと昨日から一緒にたくさん用意をして皆のところまでやって来た。
一人一人のお墓に行って着いてきてってお願いをした。そしてリーダーだったブチャラティの所まで行ったら私はトロイメライを発動させる。食べ物を乗せたせいで車に人を乗せるスペースがあまりなくてしょうがなくこんな感じになってしまって申し訳なかったけれど、ナランチャもアバッキオも気にしていなそうで、まぁいいかって思う。
「みなさんお久しぶりです。いろいろ雑な迎えになってすみませんでした。」
現れた三人に対して代表で謝罪をしたジョルノは、持ってきた花束を前にいるブチャラティへと手渡す。
この花束は忙しくて来られなかったトリッシュちゃんの贈り物だ。ナランチャのところにもアバッキオのところにもそれぞれ置いてきている。花束は三人とも違う花で造られていて、この中にトリッシュちゃんはメッセージを託したらしい。花言葉はちっとも分からないけれど、トリッシュちゃんの言葉が伝わったらいいなって思う。
「いいよ別に。元々死んでる訳だし?」
それに対してナランチャが気にするなってジョルノの背中を叩いたり、頭をわしゃわしゃと撫で回して……触れるのがとにかく嬉しいらしい。好き放題に触りまくっては喜んでいた。
「いいや許さねェ。先輩の扱いがなってないんじゃあねーか?ジョルノよぉ〜!」
アバッキオに至ってはジョルノの胸をつんつんとボタンを押すように指で何度も突いていて、そのままぐりぐりと捻るという地味な刺激をひたすらに与えていた。許さないって言いながらも声は弾んでいるし、その表情も去年よりも柔らかい。親しみを込めるようなものを含んでいるようなそんな気がする。
「ジョジョに何てことを……!」
「いやぁ、このメンツが揃うと一番下っ端だし、たまにはいいんじゃあねーか?」
私の隣にいるウーゴはあわあわしながら目を見開いていて、そんなウーゴを見てミスタさんはたまにはと言いながら楽しそうに笑う。確かに彼らが生きていた頃のジョルノっていうのは一番下っ端だったらしいから、今日一日はそれでいいのかも?って私も思う。……一番の下っ端は私だけれども?うギャングじゃないし関係ないもんね!
「フーゴ、元気だったか?少し背も伸びたんじゃあないか?」
いじられるジョルノを眺めながらほっこりとしていれば、今度は流れるようにブチャラティのターンがやってくる。ブチャラティはウーゴの方へと歩み寄って、ナランチャに倣うようにセットされた頭をわしゃわしゃと撫で回して爽やかに笑っていた。おまけに眩しいものだから、思わずミスタさんと私は見合った後で揃って目に手を覆ってそれを遮断しようとした。
やばい、汚れ仕事をしてきたりそのまま辞めたせいか、ブチャラティの笑顔がピュアにしか見えなくて……眩しい。
「元気ですよブチャラティ。いつまでも子供じゃあないんだから背だって伸びま「ちゃんと食ってるのか?オレの家は綺麗にしてくれてるんだろうな?シニストラと暮らしてるんだって聞いたぞ。泣かしてないだろうな?」
まだぼく喋ってるんですけどね!」
こんなやり取りまでもが儚く見えてたまらない。皆この光景が待ち遠しかったのか嬉しそうで、私まで嬉しくなってくる。
そうだよね?嬉しくて当たり前だ。いなくなった大切な仲間がそこにいたら誰だって嬉しくなる。命を預けていた仲なら尚更気持ちも昂るし、それは膨れ上がるばかりだ。
(今のうちに準備しよ……)
とにかく皆は今再会を喜んでいる。今日の主役はあの三人だからしばらく好きにしてもらって……とりあえず私は持ってきたものを広げて約束を叶えよう。
昨日の夜、いつぞやに約束をしたミスタさんとのご馳走を作る会を家のキッチンでやって、美味しいものをジョルノとウーゴも強制参加をさせてたくさん作った。ピッツァも作ったけれど次の日には持ち越せない。だからその日のうちに食べて、今日は街で一番美味しい店のものをミスタさんが買い込んでくれた。ワインの銘柄はもう決まっているらしくてジョルノがアジトのを持ち込んでくれたので、去年の約束はこれで完璧に果たせると思う。
少し離れたところにあった広めのスペースまで来ると、そこに控えめにシートを引いて一つ一つを並べてゆく。人手は全く足らなくはならない。トロイメライに望めば動く手が現れて、映画のワンシーンみたいに勝手に並べたりワインを注いだりして働いてくれる。おかげでこれを完璧に取り戻してからは掃除が楽になった。
「ピッツァよし、ワインよし、美味しいものよし……ドルチェは後でよし……」
トロイメライに指示を出してとりあえずの用意が出来てから、背後にいる皆を見てちょっとほっこりしつつ、自分用に持ってきたココアを注いでちょっとだけ一休みをした。肌寒くなってきたから温かいものを飲むと充たされる……甘いからとにかく優しい。まるでこの光景にピッタリのチョイスだ。
(出来てよかった……)
ここまでトロイメライを元に戻すのは大変だった。まずどんな時でも正常に星を産めるようにならないといけなくて、庭で一人唸ったり構えたりして頑張ったりとにかく必死に取り戻すことに励んでいた。
ウーゴに見られた時は死ぬほど恥ずかしかったし、相談をした後なんてもっと恥ずかしくなった。「きみはキスをしているとよく星を流していただろ?」って言いながら毎日暇があればキスをしてくるの……どうにかなりそうだった。それはもう大変で、思い出すと顔が熱くなるから振り払うように首をブンブンと振って彼方に飛ばす。そんな積極的に協力をしてくれたウーゴの方に視線を向けるとウーゴはナランチャと話をしているようで、何か面白いことを言われたのかお腹を抱えて爆笑をしていた。あんなウーゴは見たことがない……何か悔しい。
「シニストラ、それは食べていいやつか?」
何もかもが夢みたいだと思っていると、いつの間にか仲間の輪から飛び出していたらしいブチャラティが、私が用意をしたものを見てそわそわとしながら訊ねてくる。お腹を空かせた人がご馳走を目の前に慌てているようなそんな感じがあって、何だか微笑ましい。
「うん。どうぞ?」
そもそも何か食べたいって言ったのはブチャラティが最初だった。そわそわして当然かもしれない。一年も待ってくれていたと思うと嬉しくなる。
私がそれを勧めたらブチャラティは再び眩しい笑顔を浮かべてくれて、隣に座ると早速ピッツァが入っている箱へ手を伸ばす。一切れを取り出したら一口食べて、二口三口って食べていったらもうあっという間にそれを全部食べてしまい、更にもう一切れに手を伸ばしてゆく。食べている姿を初めて見たから凄く新鮮っていうか……自分で体を創っておいていちいち凄いなって思ってしまう。ちゃんと五感を再現出来ていたみたいで安心した。
「……大人っぽくなったな。」
口に合ったことまで喜んでいれば、ブチャラティは五人の方を眺めながらぽつりと話し始める。
「ジョルノとウーゴのこと?」
確かに二人はどんどん大人になっているんだよね……身長は一年前よりも伸びているし、体格だって前より頑丈に見える。前から二人とも大人っぽいなって思いはしていたけれど……前よりも大人に見えてしょうがない。だから根本的に変わらない自分に最近はちょっと悩みがちだ。
「いや、アイツらはまだガキだよ。おまえを放置して騒いでるからな。」
でも私が想像していたのとは違うことをブチャラティは言う。
「大人っぽいのはおまえだぜ、シニストラ。」
私の方を見ながら堂々とした声でそんなことを言ってくる。
「いや私は……まだまだ子供だよ?」
トリッシュちゃんにも大人になったって言われたけれど、中身はいつまで経っても変わらない。どうしようもないことに諦めを覚え始めはしたけれど……出来ることなら諦めたくないっていう意地が悪い私もいたりして、ぐずぐずになってウーゴのことを振り回して困らせることもよくある。
「いや、そんなことはない。」
自信がなくて違うと言うものの、私の反論にブチャラティは首を横に振って更に違うを重ねて話を元に戻す。
「前よりも綺麗な女性になったしアイツらを見守る視線が母性で溢れてる。こうやって黙って準備までしてくれて……行動が立派に大人だよ。」
「……」
しかもめちゃくちゃに褒めちぎってくれて……ウーゴが言っていたことを思い出して勝手ながらになるほどなって納得をする。ウーゴがブチャラティは素のまま話すし誠実だから、老若男女問わずにモテていたっていうのを言っていたのを聞いていたから、今身を以て知って言う通りだったそれが自分の中へと落ちてきた。これはモテるよなぁ……褒めるのも上手だし、まず話し方も物腰も比例をするように柔らかくてポイントが高い。
でも私が準備をしたのは他でもないただの善意からだ。だって今日はここにいる男性陣が主役だもん。脇役の私はサポートをして楽しむことに徹するべきだってそう思ったんだよ?そしてその結果、皆は今そのまま楽しんでいて笑っている。私のこれは間違いじゃないし余計なことでもない。正解なことをした結果がこれだっただけだと思う。
「人の嫁を口説かないでください、ブチャラティ。」
少しばかり照れて胸がほくほくとしていたら皆の輪から離れたウーゴが私の隣にやって来て、自分の体の方へと私の体を引っ張っては肩を寄せてブチャラティを威嚇する。
前にも何かこんなことがあったなぁってぼんやりと思うけれど……それよりも嫁って……自分で言うのは全く恥ずかしくはないのに何でだろう?ウーゴの口から嫁って言われるのは時間が経って慣れていたとしても奇妙な気分になる。一年前までのウーゴだったらぼくの妹だぞって言いそうだけれど、今じゃもうドヤつきながら嫁って言っちゃうんだもんな、はっきりと。一年ぶりのブチャラティからしたら多分どういうこと?って混乱をしちゃう気がする。
「シニストラは人妻なのか。」
「「人妻。」」
でもブチャラティは多分既にこうなっていることを知っている。ナランチャが上から見ていたって言っていたのが何よりもの証拠だ。しかもからかうように人妻とか言い出す余裕まであるし、絶対にナランチャみたいに人のあんなことやこんなことを見ていらっしゃる……素でやらかしたのかもしれないけれど人妻とか第三者に言われると、恥ずかしくなって顔に熱が上ってくる。そういう言い方をされたりしたことがないから……思わずウーゴと見合って固まってしまった。
「人妻っていいよな。」
しかもいつの間にかミスタさんがこっちに来ていたらしく、このやり取りに乱入しながら箱の中のピッツァを一切れ取り出して、チーズを伸ばしながらこの会話へ参加をしてくる。
「誰かの女の子ってさぁ?めちゃくちゃ綺麗に見えるっつーか……やっぱり既に恋してるせいか可愛いんだよなぁ。しかもどんどんシニストラってば美人になってくしよ?見ていると目の保養になるぜ!」
いい笑顔で綺麗とか可愛いとか美人とか言われればもう顔は爆発を起こしてしまいそう。も、もうやだこの人達……無意識なのかふざけているのか分からないくらい人のことを照れ殺そうとしてくる!
っていうかミスタさんってばそんな目で私のことを見ていたの?可愛いとか美人とか褒めてくれるのは女子としては嬉しいけれど、昨日仲良く料理をしていた時に人妻だとか思いながら目の保養として見られていたとしたら心境はかなり複雑だ。初めてミスタさんを怖いって思ったわ……!
「ふざけんなよミスタ、ぼくのシニーをそんな汚い目で見ていたなんて最低だな……次やらかしたらおまえの下半身ドロドロに溶かしてやるからな!」
ウーゴは本気で怒るとスタンドを出して相手を威嚇する。能力が能力なだけあって皆ビビって大人しくなってしまって、それだけで何も言えなくなってしまう人が多い。
「スタンド出すとかシャレになんねーからやめろ!」
現に今すぐ後ろにウーゴのスタンドがスタンバっていてめちゃくちゃ怖いことになっていた。ミスタさんは思わず拳銃を取り出そうと腰に手を伸ばして慌て始めて今にも戦いがおっぱじまりそう……この距離だと私までドロドロになる気がする。本当にシャレにならない。
「お、落ち着いてウーゴ……まだ何もされてないし……」
とりあえず落ち着いてもらおうと、私は縋るようにウーゴへ声をかけた。
そう、まだ何もされてはいない。ちょっと変な視線を向けられただけで……私は元気でピンピンだ!
「いいやシニー、許しちゃあいけない。こいつは絶対きみにやらかす。今のうちに消さないと駄目だぜ……」
背中に腕を伸ばして摩って落ち着いてもらおうとするけれど、ちっとも効果がないみたいでウーゴはスタンドを引っ込めてはくれない。もっと摩ってもうんともすんとも表情も変わらなくて、ここまで頑なになられるともうどうしたらいいのか分からない……本当こういう時だけは頑固なのねこの人。嬉しいけれどスタンドだけはよしてほしいな……!
「やっちまえフーゴ、こいつは危険だ。シニストラに手が伸びる前にさっさとこっちに寄越せ。」
でもそんな私の努力を踏みにじるように、アバッキオはウーゴの背中を押すような真似をする。本気な顔でマジな発言……これがギャングかって久々に厳しさを目の当たりにしたけれど、多分これ私怨の類だ。ギャングは関係ない。
「アバッキオだってさっきシニストラ見ていい女になったなって言ってたじゃあねーか……裏切るのかおまえぇ……」
知らないところでそんな話をしていたことを知って、今度は照れくさくなるよりも気持ちが沈んでくる。この人達何なの?自分達の話をしようよ。私の話じゃなくて他のことに花を咲かせてよ。
「オレのは兄貴目線だからいいんだぜ。おまえと全然ニュアンスが違う。」
「オレだってそうだよ!シニストラのことは妹分だと思ってるぜ!」
最早何も口を挟む気にもならない。確かにアバッキオもミスタさんもお兄さんみたいだって思う時はあるけれど、実際は違うわけでかなり複雑だ。張り合う材料なのが自分なのがもっと複雑な気持ちにさせる。溜め息しか出てこない。
「え!ミスタってそういう風にシニーのこと見てんの?全然似てないしアバッキオの方が兄ちゃんっぽい〜。」
「ナランチャ、そんなこと言っちゃあダメですよ……ミスタも結構それ気にしていますからね。」
他の二人も加勢をし始めるともうここはてんやわんやになってしまってとにかくうるさくて賑やかで。皆でミスタさんをいじめてそして真面目な話し合いまで勃発して今にも処刑が始まりそうな雰囲気へと様変わりをし始める……これは止めないとやばい気がする。全てが台無しになってしまう。
「あ、あんまりうるさいと!」
私は身を乗り出すように一歩前へと飛び出すと、置いてあるピザの箱を抱えながら大きな声で怒鳴るように、食い意地を張るかのようなことを思い付きで言い放つ。
「私とブチャラティがここの料理全部平らげます!」
ここにある七人分の美味しいピッツァや作ったものを、ブチャラティと二人で全部食べてやるぞ!
ピッツァを天に持ち上げて、久々に出した大声でゼェゼェした。正直恥ずかしいしこのまま走って逃げ去りたい……けれど走ったら痺れるから、精一杯の反抗で上に箱を持ち上げることしか出来ない。
しかし私はこのメンツの中では一番のチビだ。
「シニー、ぼくらが悪かったよ。だからそんなに騒がないでくれ。周りに迷惑だ。」
必死な私を見て皆は黙ってしまうけれど、その中でちっとも何も思わないらしかったジョルノは私が持っていたピッツァの箱を奪う。そしてそれを開いて皆へと見せると切り替えるように仕切り始めた。
「もう食べてる食いしん坊もいるみたいですが、とりあえず食べてください。時間は限られてますから無駄にしないで。」
ジョルノの無駄発言。久しぶりに聞いた。しかもめちゃくちゃ強調をして言ったし……後ろにはスタンドが見えている。
皆ウーゴのスタンドとジョルノのスタンドには頭が上がらない。それを恐れるあまりかジョルノの言葉を聞いてか謎だけれど、そんなことがあってやっと時間は動き出した。
「そうだな!オレら家族の所にも行かないといけないし、早く食べてそれからいろいろ話そうぜ?」
「だな。おまえらのことは上から見てたから何でも知ってるけど、食い物と酒は今しか味わえねーし。」
ナランチャもアバッキオもジョルノが持っているピッツァの箱の中に勢いよく手を伸ばす。冷め始めたピッツァを口に入れるわけだけれど、それでも一口入れれば止まらないらしく、久しぶりの故郷の味に夢中になって食らいついていた。
「ワインもあるからじゃんじゃん飲めよ?」
「これ、肴になるといいですが……」
「すげぇ!何かパーティーみたいじゃんこれ!」
「みたいじゃあなくてパーティーなんですよ、ナランチャ。」
周りの皆もそれに続くようにワインや料理に手を伸ばし始めて、再び楽しそうな笑い声が一気にその場に広がる。青空の下は一気に賑やかになった。
何かジョルノにめちゃくちゃ酷いことを言われた気がしたけれど、でもまぁ今日は許して私もと思って持ってきた料理を入れていた箱も続々と開けてゆく。ウーゴがぼくの嫁の料理だぞって手に取ったものをドヤ顔でナランチャに勧めていたけれど、ウーゴがやらかした焦げ焦げな食材を見て「これはフーゴがやったよな」って言われたり……皆その一言で狂ったようにめちゃくちゃ笑っていた。
「なんかあれ、映画で観た……ダークマター……みたい……?」
「「「「「ダークマター(笑)」」」」」
「流石に泣くぞ。」
皆で作った。でもそれでも分かるくらいにウーゴのだっていうのが分かるのは、多分彼らがいた時もあの家でやらかしていたのだと思う。
「フーゴは変わらないなぁ、安心したぜ。」
「一番変わってねーかもな。」
「出会った頃と比べたら変わったとは思うんだが……」
フォローを入れているつもりでも三人からは完全にいじっている色が窺える。でも今日は無礼講っていうか、さっきのミスタさんの話以外は……ダークマター(笑)までは許せるらしい。少し拗ねてはいたもののそれよりも笑っていることの方が多くて安心した。
私の知らない頃のウーゴが今ここなないる。一年前はこんな風じゃなくて、現れた皆に泣いて謝ってばかりだったのに。今日はちっとも泣いたりしない。幸せそうに微笑んで、ナランチャにくっ付かれたりアバッキオに乱暴に頭を撫でられたり、ブチャラティとはワインを飲みながら昔話を楽しんでいる。
(夢みたい。)
子供が見るような優しい夢。これはきっとトロイメライそのものだ。ここにいる六人が見せてくれるものはいつだって肌寒さを吹き飛ばすくらい暖かい。
大好きな人達が笑っているのを見ているとどこまでだって自分が間違っていなかったことを感じられた。この光景を見るために私は裸足で走り抜いて、めちゃくちゃな要求を望んで今のこの絶対にありえない時間を創ったんだなって……私は確かにもう充分走り抜いたのだとこの今の結果を見て思う。ゴールをとっくに迎えていたけれど、その先の今まではずっと凱旋をしていた感じ。そしてゼッケンを置いた今はやっと落ち着いて、メダルを飾って家族と一緒で……まだ夫婦がどんなものかいまいち分からないけれど、これから子供とかも……出来るのかな?ウーゴとかめちゃくちゃ溺愛して親馬鹿を爆発させちゃいそう。今からいろいろ心配だけれどそんなウーゴを見られるのは楽しみかもしれない。
「……あのさぁみんな?」
大量にあったピッツァも料理もなくなって、ドルチェまでもを食べてしまいワインだけが残ってしまう。アバッキオにラッパ飲みをさせていると、さっきまで楽しそうに笑っていたナランチャがそっと静かに口を開いて、突然の迷走をし始めた。
「オレ、一応死んでるんだよな?」
それは夢から醒めるような、酔いが冷めるような……トドメとは言わずともなかなかに大きな一撃みたいな言葉だった。
いきなりすぎるしどうして今更にそんなことをって皆が皆顔を見合わせて混乱をする。あまりに楽しすぎてノスタルジーになっちゃった?
「ま、まぁ……体は死んでるよな?」
「そうですね、心は生きてますが……」
ナランチャの言葉に皆が呆気に取られている最中、ミスタさんとジョルノは顔を見合わせながら答え合わせみたいに意見を確かめ合う。
そう、ナランチャの体はもう動かなくて土の中。ジョルノが言うにはナランチャはいきなり中身が空っぽになってしまったらしい……体の方は即死だった。ただその強い意志だけは世界というか、上に留めておくことが出来た?みたい。
「一般的に呼吸が止まったら死亡にはなるが……それがどうかのか?」
ブチャラティもナランチャの疑問に答えると、心配そうに眉を寄せながら座り直して真っ直ぐに彼を見つめる。
そりゃあそうだよね、死んでいるのに死んでいるのかって訊かれたら心配にもなるし……こうやって仮初の体を与えた私までどうしたってなる。ブチャラティは特にずっとそばにいたから今更何をってなるだろうし、理解しようにも混乱をしてしまいそう。
「いや、何ていうか……死んだ後にこういう時間がやって来るとは思わなかったから、つい……」
ブチャラティの質問へ言葉を返したナランチャは、自分の仮初の手を見ながら少しの間じっと固まる。握ったり広げたりを繰り返して、指を組んでみたり……
「……また生きてみたいなって、最近思うんだよ。」
指を解いたら、意を決した様な顔をしながら空を見上げて、抱えてしまった今の気持ちを教えてくれた。
「やっぱり学校に通いたいし、今度はちゃんと自分の家に帰れるようになりたい。心の底から怒ってくれる人とか……愛してくれる家族に出会ってみたい。」
それはナランチャが生きていた時に夢見たものだった。そして失ってしまっているナランチャにはもう出来ないことで……聞いているととてつもなく苦しくなる。
「でもこれはオレの体じゃあないし、オレの人生はもうとっくに終わってる。だからやり直したいっていうか、ほら!新しい自分になりたいって思うんだよ!」
そして照れくさそうに頬を掻きながら、恥ずかしそうにそう言ってナランチャは私達の方を見回しながら段々と頬を綻ばせていった。
「どうしたらいいのかちっとも分かんねーけどさ。最近はそういうの、結構叶うんじゃあねーかって思う。諦めなきゃ結構いいところまでいけるんじゃあねーかな?」
根拠があって言っているのかもしれないし、でもそうじゃなくてただ感じたままに言っているのかもしれない。普通に考えれば不可能に近いと思うことだし新しい自分に変わるっていうと……つまりは別の命として生まれ変わるってことで、そうしたら多分ここにある意識の部分の「ナランチャ」はいなくなると思う。ある意味でナランチャの夢はそこで終わりになってしまうかもしれない。
でもナランチャは望むんだ。新しい「もう一度」を始めたいって。生まれ変わって愛される、そんなありふれたようで貴重な幸せを。
「……オレも生まれ変わりたいな。」
「え?」
皆黙ってしまうけれど、それを割くようにブチャラティも口を開く。新しい夢を語りながらその声を弾ませた。
「出来ることならまたオレがいいが、確かに違う自分に変わるっていうのも悪くはない。父さんみたいな漁師になるのが子供の頃の夢だった……オレはもう無理だが生まれ変われたら今度こそそれも叶えられる気がするよ。」
立ち上がってブチャラティは背後に見える海を見つめる。ピンと伸びた背筋は歪みがなくて真っ直ぐだ。自信とか期待とか、前向きな感情に溢れているみたいにどこか頼もしい。
「オレも今度は間違えねーように生きてぇな。」
持っていたワインの瓶を自分の前に丁寧に置くと、ブチャラティが向いている方にアバッキオは頭を向ける。
「しっかりジジイになって終われたら合格点ってところだぜ。」
多分言わないだけでいろいろと考えていると思う。それがアバッキオだって皆知っているから、そのジジイになるまでの中身を突っ込むように訊いたりはしない。
三人の心は真っ直ぐで、ここから見える海みたいに澄んでいて綺麗。そんな三人の話を聞きながら改めて思い出した。自分が初めてトロイメライに望んだことと、もう一度を叶えたくて走ったあの瞬間を……これはもう一度があったから生まれてくれた皆の夢で、どんな夢よりも儚いしキラキラと輝いて見える。薬指にある道標と同じ光だなって、星みたいだなって思う。
「なぁシニー。」
叶ったら最高すぎる三人の輝いている夢に胸が詰まっていると、ウーゴの横から身を乗り出したナランチャが私の視界に入って名前を呼んでくる。
「ずっと見守ってるって言ったけど、この街はジョルノがいれば大丈夫だし、オレらがいた頃よりもめちゃくちゃ平和になって、おまえだってもう心配なことなんてないだろ?」
ナランチャは助けに来てくれたあの日の話を出しながら、隣にいるウーゴの肩に腕を置いてじゃれるみたいに頭をくっ付ける。そして太陽みたいに明るい笑顔を浮かべながら、はっきりと感じたままみたいな勘のような言葉を断言した。
「フーゴがいればおまえは絶対大丈夫!」
自信満々にそう言うの。大好きだって言っていたウーゴと目を合わせながら。「だよな?」って小突きながら。
「そう……ですね。」
ウーゴはいきなりすぎるナランチャのその発言にポカンとした顔を見せるけれど、すぐに自分も笑顔になる。隣にいる私の方へ振り返ったら私の手に自分の手を重ねて、小さい鐘がちりちりなるみたいな笑い声をこぼした。
「言われなくたって一生守るよ。」
優しくて頼もしい。昔とは全然違うウーゴの言葉は頭にも胸にも響き渡る。言葉も声もどこかくすぐったい。
「……うん、」
釣られるように思わず私まで笑顔になる。
「頼りにしてるね?」
守るよってあまり言われはしないけれど、毎日ひしひしと五感でちゃんと気持ちは感じている。変にヤキモチ焼きだからこうやって常に私の隣にいてくれるし、眠る時は私をすっぽりと胸に収めて眠ってくれる。誰かに守れって言われなくたって、ウーゴは私をいつだって大切にしてくれてそばでずっと守ってくれていた。
「だからオレ、ちょっと頑張ってみてもいいかな?」
そんなこと訊かなくたってナランチャは自由だ。なのにわざわざ私の許可を取ろうと変なことを訊ねてくる。
夢は見るものじゃない。一度望んだならとことん叶えに向かっていい。一度があるなら二度目だってある。いいことも悪いこともあるけれど、途中で諦める人だっているけれど……最後に最高だったって笑えるならそれで充分なんだよって、それを教えてくれたのは他でもないここにいるナランチャだ。
「応援するよ!」
全てを終わろうとした時に代わりに立ち上がって引き戻してくれたのはナランチャだった。勇気をくれたのもナランチャ。私のことを起こしてくれたのも……新しい始まりをくれたのもナランチャだったから、とことん頑張ってほしいなって、強く望むしそう思う。
「ナランチャがやるならオレらもやるか?」
美味しいものを食べて大きくなって、それからたくさん勉強をして走り回って、出来ることならたくさん愛されて今度は長生きをしてほしい。当たり前を当たり前に感じてくれたらいいな。
「別にいいんだが……しょっちゅう撃たれてぶっ倒れてるミスタは誰が送り返すんだ?」
「おいおい、縁起悪いことを話し合うんじゃあねーよ?」
またこの街に生まれてくれるか分からないけれど……ここはもう貴方達がいた頃よりも遥かに平和だし綺麗。道に迷ったら助けてくれる場所だってちゃんとある。見えない路地裏にも光を当ててくれるから、きっと幸せに生きられる。
「大丈夫ですよ。ぼくが立派にミスタを死なないサイボーグ(笑)に仕上げますから。」
「「「「「サイボーグ(笑)」」」」」
「オレって人権ないの?ねぇ?」
この世界は意外にも冷たい残酷より暖かい優しさで溢れている。
諦めない人には特にそう。道標さえ見失わければいつだって微笑んでくれる。
「もしも」を叶える勇気さえあれば、何度だって立ち上がれるんだ。
────数年後
「マードレ!起きて!」
「んー……?」
ココアを飲んでぼんやりとソファに座っていたら懐かしい夢を見た。彼らがいなくなる前の夢……最後に見た時の光景だった。
「こんなところで寝たらカゼ引いちゃうよ?」
雑に肩を揺らされて、呼ばれて起きたらそこには自分の怪獣のように騒がしい子供がいて、さっき寝かし付けたはずだったのにそこにいたものだから一瞬頭が混乱をする……しかも人のココアを奪って飲んで寛いでいるし、何て自由な子なんだろう?一体誰に似たのか分からない。
「こらこら、明日から学校なのに起きてちゃダメでしょ?」
今日で夏休みが終わってしまい、明日からはまた忙しく学校が始まる。まだ学年が低いのに誰かに似たのか既におませで変にしっかりしようとする。この前はあの人の飲んでいたエスプレッソを飲んでその苦さに自滅をして飲み物を粗末にするなと軽いげんこつをいただいていた。そこはまず人のを飲むなと教えてあげてほしいと思う。
「やだ!ぼくだってパードレ帰るの待ちたいんだよ!」
怪獣は頬をぷくりと膨らませると、勝手に飲んだくせにココアをあげるとか言って私に手渡してきて、立ち上がったらソファの上でぴょんぴょんと跳ね始めた。
「パードレが出した宿題見せなくちゃいけないし、明日学校から帰ったらパードレとお出かけするって約束してるんだ!リストランテでスパゲティ食べるの!」
この子の食欲は私に似ているようでめちゃくちゃ食べる。リストランテが大好きで、そこにあるスパゲティが好物らしくて特別な日は絶対に行きたいと忙しいパードレにしつこく強請っている。今回は学校が始まるから気合い入れるんだってめちゃくちゃに騒いでいた。最近はまともに遊んであげていなかったからってことで急遽休むことにするって、だから今日は帰りが遅いし無茶をしている。
「……でもパードレって変だよね。」
カンガルーみたいに跳ねるのをやめた怪獣は再び私の横に座ると、部屋から持ってきていたらしい自分の宿題ノートを手に取って、最後のページを開いて私に見せてくる。
「最後の計算問題が意味分かんないの。ぼくまだひっ算は習ってないから出来ないつまて言ったのに、それでもとりあえず答えを書いてみろっていうから書いてみたんだけど、ちっとも分からないから絶対怒られそう……」
少し不安そうに見せてくれたそこには綺麗な文字で大きくひっ算で「16×55」って書かれていた。確かにこの前九九を覚えていたからこの子にはちょっと難しいかもしれないなぁ……でもあの人は意味がないことは絶対にしないだろうし、多分これも必要だったのかも?
「答えはともかく……やることに意味があるとマードレは思うよ?」
勉強が得意じゃなかった私から言えばいつか正解が答えられるようになればいい。そう思う。
「うーん……分かんないけど分かった!」
「いやいやどっちそれ。」
「どっちも!」
「えー?」
この子は可愛い。素直だし真っ直ぐだし、嘘をつくのが下手だったり学ぶことには意外にも貪欲だ。パードレラブなせいか将来はジョジョのお手伝いをするとか言っているし……完全に父親に毒されている気がする。父親もやばいと思ったのか最近は仕事の話を持ち込まなくなった。
「ただいまー。」
寝る寝ないのやり取りをやめて近くにあった本を読んであげていると、玄関から疲れきったような声が聞こえてくる。
「パードレだ!パードレ!!」
怪獣は退屈そうだった表情をパッと変えていきなり大きな声を出すと、猛スピードでそっちへと飛んでいってしまった。足の速さは私に似たらしくクラスでも一番らしい。親馬鹿な父親はぼくの息子は世界一ってドヤついていた。可愛かった……。
「全くもう……」
私も立ち上がると、その後ろから歩いて玄関の方へと向かう。リビングから廊下に出ると楽しそうに今日の話をしながら飛び跳ねる怪獣に、それを笑顔で見下ろす猛獣がいてめちゃくちゃ楽しそうで……疲れきっていた声とは裏腹に抱っこをしてあげたりで元気は残っているらしい。
「パードレ!今日ちゃんと宿題終わらせたよ!最後の問題ちょっと分からなかったけど見て!」
怪獣は抱っこされながら人懐っこい笑顔を浮かべて、父親の頬へ頬をぺったりとくっ付けながらそう言うけれど。しかし見てと言いながらもその手には見せると言っていたものが握られていない。ノートは置いていってしまったようで完全に手ぶらだ。
「見てもいいけど、その宿題はどこだ?」
「あ……」
大好きなパードレに指摘をされたら一瞬その笑顔は凍ってしまう。握っていたと思った手を見てもどこにもないからショックだったみたいで、肩を撫で下ろしてめちゃくちゃガッカリしている。でも次の瞬間私を見つけると顔をパァっと明るくさせて、
「マードレ取ってきて!」
眩しいおねだり攻撃をし始めた。
自分の子供なだけあって憎たらしいくらいに可愛いし、いいよって思わず言っちゃいそうになる。でも私だって彼におかえりなさいをしたいし何ならギュッて抱きしめてほしい。だからここは心を鬼にして、こいつを追い払わねばならない。
「自分のものは自分で取りに行ってくださーい!」
私は近付いて怪獣を下へと無理矢理下ろすと問答無用に小さい背中を押して、大好きなパードレから引き離してやった。あまり甘やかすとわがままに育ってしまうから、匙加減に気を付けなくちゃいけないっていうのはいつまで経っても辛いししんどい……そこの猛獣がめちゃくちゃに甘やかしてくれるものだから、ちょっと最近は嫌われるんじゃないかって心配になってきている。
「ちぇー……」
親の心は知らないだろう怪獣は膨れながらそう言うと、再びリビングの方へと戻ってゆく。許せよと思いつつ私はそれを見届けると、猛獣の方……大好きな旦那の方へと振り返って、笑顔いっぱいに腕を伸ばした。
「おかえりなさい、パニー!」
子供がいるのにこうやって甘えたくなっちゃうのは流石にまずいかな?でもこの人はとてつもなく忙しい。パッショーネの勢力がいい方向へと拡大していったから、彼は専属のジョルノの秘書みたいになっちゃってしょっちゅう連れていかれてしまう。だからいる時だけはちょっとくらい甘えたい。
「ただいまシニー。」
ウーゴと呼ばなくなったのはあの子が生まれてから。私だってフーゴなんだからおかしいよねってなって、大切にしていたパニーっていうニックネームで呼ぶようになった。二人きりの時はいつもいっぱいの好きを込めてその名前を呼んでいる。
パニーは私が広げた腕の中にすっぽりとはまって、自分も腕を広げるとそのまま私を抱きしめてくれる。唇に短いキスをしたら踊るようにゆらゆらと揺れて、めいっぱいに微笑んでくれて……もうね、こういう顔を見るといつだってたまらなく好きって思っちゃうの。昔以上に気持ちが大きくなっているみたいで、年々重症化している気がする。
「今日の夕飯は何だい?お腹が空いて死にそうだ……」
「今日は怪獣とハンバーグを作ったんだけど、パニーみたいなダークマターは出来なかったし、あの子料理の才能あるかもしれない。」
「もうダークマターのことは忘れてくれないか?毎回食事の席でネタにされるんだ、ミスタにさ。」
毎日本当に、こういうやり取りとか日常の小さなこととか、全部叫びたくなるくらい楽しくてたまらない。旦那がいてその間には子供がいて、子供は手がかかるけれど幸せばかりを運んでくれて愛しくて。この人の子供って思うと情がいっぱい溢れてしまう。
親馬鹿な旦那の笑顔、優しいパードレが大好きで無邪気に引っ張り回す怪獣、この二人の仲がいいと私も嬉しくて頬が綻ぶ。この二人に尽くしていけることが今の生き甲斐で、これがいつまでも終わらなかったらいいのになって、まだまだ小さい怪獣を見ながら思う日々だ。
「あー!パードレずるい!ぼくのマードレに抱きついてる!」
意志が強い子になってほしい。勇気がある子になってほしい。大好きなきみのパードレみたいな、とことん好きな人を愛せるような子になってほしい。
「残念だがマードレはパードレの奥さんだから。他を当たってくれ。」
「ダメだよ!マードレはぼくのマードレで、パードレはジョジョのパードレなんでしょ!ミスタが言ってた!」
いろんなこうなってほしいはいっぱいあるけれど、とにもかくにも生き抜いた最後に「これでいい」って思えるような、そんな生き方をしてほしい。
「ミスタ「さん」でしょ!年上を呼び捨てにしたら失礼だって何度言ったら覚えるの?」
「え〜……だってあの人ぼくの好きな物いっぱい知ってて気持ち悪いし……」
怪獣は失礼なことを言いながらマードレとパードレの間を引き裂いて、持ってきたノートをパードレへと渡す。受け取ったパードレは話を笑いながら聞きながらペラペラとページを捲っていて、一つ一つの問題の計算の答えをありえないペースで進めていった。
「ミスタさんは街の皆の情報を集めるのが仕事だからおチビのことも知ってるの。早く寝ない悪い子はバキューンって、撃たれちゃうかもね?」
「え、やだ怖い。」
「じゃあ寝ましょ。マードレが子守唄を歌ってあげるから。」
「それはもっと怖い。」
ぐちぐちと文句を言う怪獣をとりあえず寝かせよう。そう思って怪獣の肩に手を置くと、そのまま手で押して部屋へと再び送り込む。何故か昔から子守唄歌うって言うと大人しくなって眠ろうとするんだけれど、未だに理由が分からない……歌いたくなっちゃうから嫌なのかな?パニーに今度訊いてみよう。
「じゃあ昔話をしてあげる。今日は誰の話がいい?」
だから私はその代わりに昔話をして寝かしつける。あの頃の私と助けてくれた仲間、大好きな友達と愛している旦那の話を。奇妙で摩訶不思議な私の瞳の話を、毎晩毎晩してあげる。
「うーん、じゃあ……マードレの髪ゴムターバンの人の話がいいな!」
「言い方雑!どっちに似たのかなぁーこれ……」
私に居場所をくれた人達を、いつか現れてこの子の友達になってくれるかもしれない貴方達のことをいっぱい教えてあげるんだ。
この世界には選択肢がたくさんあって、いろんな未来が存在している
ある場所では親友と、またある場所では幼なじみと……可能性は埋もれていて、それは一歩の勇気で生まれていった
「28……か。」
願ったなら叶えればいい
望むなら貪欲のままに進めばいい
思うように、思い描くままにその足でそこに向かって走ること
それだけで道は広がってくれる
「……いい父親になれるかまだ分からないけど、」
これは、少しの勇気と諦めなかった先にあった
「きみをいっぱい……マードレと一緒に愛してあげます。」
夢のように優しい、皆の"もしも"が詰まった物語
「ぼくらの子に生まれてくれてありがとう。」
薬指に落ち着いた、願い星が叶えてくれたもう一つの物語。
僕等に勇気があったなら
Fin
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