01


「日本人の女って意外と細かすぎてめんどくさい。」

 失恋っていう訳じゃない。ちょっと気になる程度に思っていた男性にそんなことを言われているのを耳にして、ちょっとばかしショックを受けた。

『そう言えばペットのわんちゃんがね、昨日死んじゃったのよ〜。』

 更に実家で飼っていたわんこが死んだことをショックの後に聞かされた。めんどくさいって言われた後でどういう反応を返したらいいのか分からなくて、「そっか」って言って電話を切ってしまった。本当は人目を気にせず泣きたかったけれど、立ち止まるスペースがないくらいに街は混んでいて、ここでは泣けないって諦めて真っ直ぐ帰路につく。
 イタリアに移住して小さいアパートに暮らすようになって、仕事量が多い職場で働きながら日々を過ごしていると精神的にも結構参ってくる。そんなしんどい中の癒しだった男性の口から日本人はめんどくさいって愚痴を聞いちゃったわけでしょ?トドメに実家のわんこ死去……そして今日はクリスマスで街中は甘い空気っていうのは……何ていうか、こんな不幸なクリスマスはないっていうくらいの不幸しか感じない。イルミネーションが目に染みて痛い。

「やってらんないわ……」

 こういう日はやけ食いに限るよな。チキンとビールを片手に飼い犬のわんこを思いながらひたすらに貪り食らいたい。全部忘れてめちゃくちゃに騒ぎ倒して早めの忘年会にしてやろうかな?そのくらいに今日の私はむしゃくしゃしていた。
 ヒールを鳴らしながら街中を歩き続ける。やっとの思いで住んでいる安いアパートまで辿り着けば、早足で部屋まで向かって自分の部屋の鍵をガチャリ。中に入ったら玄関にコートを脱ぎ捨てて、小さいながらにめちゃくちゃ冷える冷蔵庫へとダッシュして……中から日本から取り寄せたビールを片手に、昨日買い込んだ大量のチキンナゲットをレンジでチン。マシンガンの如く口いっぱいに含んでもぐもぐとぐびぐびを繰り返した。

(死んじゃったのよ〜って言い方腹立つ〜〜!)

 そう言えば、とか言っていた。飼い犬の死をついでみたいに話すとか酷すぎじゃないか?人間じゃなくてわんこだったとしてもあの子は家族だったんだよ?子犬の頃は可愛いって言ってたくせにさ。

(机に予定を貼っておいただけでめんどくさいとか言っただろ!)

 忘れないようにメモして予定やらを机に貼ったり、詳しいスケジュールを立てて配ったりしたのを見て多分細かいって思ったんだろうな。あの職場には私しか日本人っていないし……かっこよかったから今までいい顔をしていたけれど、もう無理。明日からあまり関わらず話しかけないようにしよ。まためんどくさがられそうだなぁ。

「はぁ〜〜」

 明日会社爆発しないかなーとか燃えないかなーとか思いつつ、ビールを飲んでから盛大に重たいため息をこぼす。
 イタリアの職場っていうのは仕事量が多くても結構緩くて自由度が高い。ブティックにも昼休みはあるし、皆心が豊かなのか職場でもプライベートでも女性に優しくしてくれるし……何より男尊女卑とはかけ離れていて過ごしやすい。女だからとかそういう風に見られることは今までなかったし、だから安心していたのにこれですよ……この国に生まれたからって皆が皆同じように見てくれるとは限らないんだって思い知らされた。十人十色とはこういうことか。
 そもそも夢を見すぎていたんだ。こういうこととか一切考えていなかったから悔しさしかない。いつか旅行したいって思っていたから駅前でイタリア語を習っていたけれど、まさかこれが切っ掛けでイタリアへ転勤の話になるとは思わないじゃない?まさか住めるとはって浮かれすぎていた。そこがまず間違いだったのかもしれない。

「マジ燃えてほしい……」

 クリスマスなんだし誰かが会社でパーティーでもしてさ、ロウソクが書類に燃え移ってとかさ……って想像しちゃう。縁起でもないけれど、そのくらいにはめんどくさいって言われたことに絶望を感じている。まさか憧れていたイタリアでこんな落ち込むようなことが起こるとは思わないじゃん。辛い。

「……窓開けよ。」

 燃えろとか爆発しろとか過激なことを考えると纏っている空気が熱くなってくる。この辺の治安はあまりよろしくないけれど、ここは高い位置にある部屋だし変な人もいないだろう。開けても侵入されるってことはないよね?
 私はチキンを持ったまま離れた場所にある窓まで歩いていくと、窓のレバーを下へと下ろして窓を開けて、少し身を乗り出して空気に触れる。

「寒っ!」

 しかし開けてみたらこれまた寒い。雪でも降るんじゃないかとか思うくらい空気はキンキンに氷っていた。
 歩いていた時はちっとも寒くなかったのにな……冷静になって落ち着いてきてからやっと十二月らしい寒さを感じる。今日は暖房をガンガンにつけて寝ないと風邪を引くかもしれない。

(寒いのにデートかよ……)

 しかも下を見てみると外気の寒さを弾くように熱々にキスをしているカップルがいたり……凄いよなイタリアって。日本だったら人目を気にして室内とか他人に見られない所でキスとかイチャイチャをするのにさ、流石愛の国っていうか、堂々と街中でそういうことをしちゃうのは見ていてちょっと……自分のことじゃないのに恥ずかしいってなっちゃう。

「確かにめんどくさいかも……」

 そうかもな、あの人が言わんとしていたことも一理あったりするのかも。日本人とイタリア人の価値観って全然違うもんね……日本はどちらかと言えば決まった時間にキビキビと予定を立てて働くけれど、イタリアは決まった時間でもキビキビとまでは働かない。空気がちっともピリピリしていないんだもん……肌でちっとも感じないからこっちに来てからは前よりも仕事が逆に捗っちゃって、じゃんじゃんとこなしちゃったものだから……隙とか一切作らなかったし可愛げとかなかったし……やばい、今度は泣きそうになってきた。

「きみ……いや、お姉さん?それ食べるのがめんどくさいの?」
「え?」

 窓を開けたままチキンを片手にっていう傍から見たらこの冬場にどういう状況だってなるような格好を続けていると、独り言を拾われてしまって隣から声をかけられる。
 隣っていうと……つまりはこの部屋のお隣さん。一度も会ったことがなかったからどんな人なのかは一切知らなかったし、いつも静かだから特に気にしたこともない。しかし今声をかけられたことで始めてお隣さんの存在を確認することが出来て……声が男の人だったものだから、ついさっきの出来事を思い出してしまって眉間にシワが寄っていくのを感じる。

「いや、食べるのはめんどくさくは……」

 っていうかこんな寒いのに窓を開けている人がいたとは思いもしなかった。完全なる不注意だ。しかも癖になってしまったイタリア語で言っちゃったから聞かれたら内容が分かっちゃう。油断をしすぎでしょ。
 私はとりあえず隣の部屋の男性に何とかいい顔をしようと、めいっぱいにニッと笑いつつ、始めてそっちの方へと振り向く

「……」

わけですが。わ け で す が。男性の方を見てみてから私はそれを後悔してしまうことになった。

(す、凄……!)

 隣の男性はパーティーでもしているのかと思うようなコスプレみたいな格好をしていたのだ。中途半端に切れた謎のデザインの服を着て、その顔には服と同じ模様が付いた布を付けていて、何か……漫画に出てくるんじゃないかとか、そんな奇抜なファッションをしていて只者ではないような凄い感じが漂っている。目を逸らしては見てを三度程繰り返してしまって、思わずその過程でチキンを落としてしまいそうだった。

「何だ、いらないんだったら貰いたかったんだけどな。」

 私の今の驚きに一切気が付いていないらしい男性は、そう言いながら手すりに肘を突いて、しっかりと私の方を見ながら笑顔を向けてくる。
 何ていうか、見るのだけで精一杯だった。どうしたらいいのか分からない。しかし話しかけられているっていうことは何かを返した方がいいのかもしれなくて……どうしよう、とりあえずここはチキン?チキンを持ってきたらいい?

「ちょ、ちょっと待ってください。」

 見た目的にはめちゃくちゃ関わりたくないけれど、見た目的にはめちゃくちゃ変わっちゃいけないような感じだけれど。しかし彼は私のお隣さん。お隣さんは大切にしろっておばあちゃんが言っていたから私も大事にしたいと思う。
 私は精一杯の勇気を出して声を絞り出すと、中にある温めて放置していたたくさんのチキンの乗った皿の方へと向かい、適当に他の皿に数本移すとそれを片手に再び窓の方へと戻っていく。

「食べかけじゃなくてこっちをどうぞ……」

 そして恐る恐るにそれをお隣さんの方へと差し出して、顔を見ずに声をかけ直した。
 流石に食べかけはあげられないわ。もう食べ終わっちゃうくらい噛み付いちゃったし……新しい方が絶対にいい。

「え?本当にくれるの?」

 隣の人は声を弾ませながら嬉々揚々に私に改めるように訊ねてくる。

「いっぱい……あるので……」

 早く食えよ。そう思いつつ私はちらっと彼の方を見て、グイグイっと更に寄せる。
 無理無理!私パーリーピーポー苦手なんですよ!こんな奇抜ファッションの男性と話したことなんてないくらいに平凡な人生しか歩んだことがなかったもので、耐性とか一切ないんです!だからさっさと受け取って食ってくれよ!
 ……って凄く失礼なことを思いながら、とにかくグイグイって差し出し続けた。腕が痛くなる前にどうにか受け取ってくれって思う。

「ディ・モールトグラッツェ!」

 やっと思いが通じたのは十数秒後。男性はめちゃくちゃ嬉しそうな声で私にそう言うと、ようやくチキンの乗った皿ごと受け取ってくれた。

「嬉しいぜ……タダで肉が貰えるなんて……っ、うぅ……お姉さんディ・モールト……ディ・モールト……いい!」

 そして彼はたったの数本のチキンで感極まってしまったようで、「ディ・モールト」を連呼しながら今度は私の手を握ってくる。伸ばしていた腕を更に伸ばす羽目になって地味に痛い……それにこんなに感謝をされてしまうと恐怖を覚えそう。

「き、気に入って貰えてよかった!」

 お隣さんはいた。ちゃんといた。奇抜なファッションだけれど多分いい人。そこまでに留めておきたい私は無理矢理男性の手から自分の手を引っこ抜くと、下を向いたまま言葉を返した。

「お皿はあげるので、返さなくていいので味わって食べてください……それじゃ……」

 多分もう関わることはないだろう。いいや、もう関わらないだろう。この人のスキンシップめちゃくちゃ怖い。トラウマにならないようにと私はすぐに部屋へと体を引っ込めて、慌てるようにピシャリと窓を閉める。

「お姉さーん!本当にありがとうーーー!!」

 閉めた後に彼は叫ぶようにまた感謝を言ってきた。たったのチキン数本でこんなに感謝をされるとか初体験すぎて、これがご近所に聞かれていたらと思うと恥ずかしくなって、思わず床に座り込み……誰に聞かれても分からない日本語で叫んでしまった。

「この国の人すげえな!!」

 コミュ力の塊だ。そしてさり気なく手を掴むそこまでの勢い……素直に喜びそして堂々と感謝を伝えてくる。当たり前を素直かつ自然にやり退けられるその心って凄いんじゃなかろうか?

(あんな格好なのに手が暖かかったし……)

 手袋越しだった気がするけれど、彼の手は凄く暖かかった。パッと見細身だったのに力も強くて……びっくりした。

「窓はあまり開けないようにしよう……」

 しかし怖いものは怖いので、この時間帯に窓を開ける行為はしないようにしよう。
 そう心に決めた私は仕切り直すように、大量のチキンナゲットを頬張り続けつつビールを飲むのだった。


 窓はもう開けない。お隣さんとはあまり関わらない。そう決めたのは昨日の夜。
 それから二十四時間後、二日酔いに苛まれながら仕事をして、帰ってきた時に第一の余波がやって来る。

「チャオ〜お姉さん!」

 もう関わらないと決めたお隣さんとたまたま下で会ってしまい……私はその場に石のように固まるのだった。
 ひ、ヒィ!出たよコミュ力お化け!今日はコートを着ているんですか?流石に外ではあんな服着ないんですかね!
 凄く失礼ながらにそんなことを思っていると、お隣さんはわざわざ目の前までやって来て再び私の手を許可なく握り握手をし始める。

「お姉さんのお陰で昨日は助かったぜ!お賃金が少ないから肉だなんて滅多に食えなくてな……お陰で今日の仕事は上司に褒められちまった!アンタ最高だな!」

 お姉さんって言いながらもアンタって言われてしまい、ちょっとどう言葉を返せばいいのか分からない……収入の話とか別に訊ねていないのに話してくるしな……肉を貰って嬉しかった、って捉えていいのかな?かなり混乱はあるけれど、とりあえず率直な感想を、失礼がないように初めてしっかりと彼の顔を見ながらこの感謝に答える。

「それはよかった、です。」

 顔には……やっぱり謎の布が巻かれていた。でもそれでも彼の顔は多分?どことなく?綺麗な感じに整っている顔をしていて、美人かもしれないって思えてくる。シルエットが既に綺麗で思わず息を飲みそうになった。
 髪もよく見ればサラサラだ。切り揃えられたストレートで一切の癖が見当たらない。一体何のシャンプーを使ったらそんな風になるのか──話がかなり逸れてしまうようなことばかり考えてしまう。しかしすぐに彼の昨日のファッションを思い出して我に返って目を逸らした。

「そ、それじゃあ私はこれで……」
「あ、」

 綺麗な人だとは思うしファッションセンスも実は奇抜ってほどの格好じゃなくて、イタリアの今のトレンドなのかもしれない……って、そんなわけないのにそんなわけがあるように思えてきて混乱をしそうになって、私はとりあえず彼の腕を振り払って逃げるように階段を駆け上がる。

「またなお姉さん!おやすみ!」

 普通だったら、多分逃げるように去ったらそれ以上は何も言わずにバイバイのはずだ。しかし彼はコミュ力の塊。そんな私に「またね」って言ってくる。

(あの人何なの?)

 多分同い年くらい?なのにお姉さんとか言ってくる。お嬢さんじゃなくてお姉さんって……

「まさか、私老け顔なんじゃ……!?」

 いろいろあったせいかポジティブには考えれずネガティブな方へと考えてしまう。
 最近疲れすぎて顔のケアをサボっていたせいか?寝不足だし昨日は野菜を食べず肉とビールばっかだし……いやいや老けて見えたら普通おばさんって呼ぶでしょ!流石に考えすぎでは?
 ……うん、考えすぎだよね。

(お隣さんは別次元の住人ってことにしよう。)

 生まれた次元が違う。イタリアそのものが最早次元が違う……多分ここは魔界。そう思えばネガティブはどうにか消せる。
 あり得ないことを思い付いてしまった上めちゃくちゃな事実を作り出してしまった。ただ拭えない老け顔かもしれないという不安に苛まれてしまい、私は肌を気にして今日は大人しく早く寝ることにしたのだった。


 そんなことがあってからというものの、お隣さんは所構わず遭遇する度に声をかけてきた。
 「今日は寒いな」から始まり「昨日はスパゲッティに塩をかけて食べた」とか……別に訊いてはいないのに勝手に自分の近況を話してくる。お節介に「お姉さんもっと栄養摂らないといい子供が産めないぜ」って言ってきた日にゃついに頬を思いっきり叩いてしまった。セクハラだとか変態だとか叫びながら逃げてその日は終わったけれど、人にあんなことを言っておきながら次の日には普通に話しかけてきたりで……もういろいろと諦めたよね。相手はコミュ力お化け。ただの凡人が勝てるわけない。

「メローネ、会社爆発して欲しいって思う時ない?」

 更に気が付いた時には彼とは宅飲み仲間みたいになっていて、夜につまみを食べながら愚痴ったりくだらないことをだべったりをしていた。
 彼の名前はメローネ。聞いた時ちょっと可愛いなーとか思ってしまった。本体はちっとも可愛くないし、打ち解けてからは結構気持ち悪いことを言いまくってくるけれど、綺麗な顔に似合うような名前ではある。

「成程、ハナは過激派なんだな?意外だ。」

 メローネは私のことを「お姉さん」って呼ばなくなって、名前を教えた今では気さくに私の名前を呼んでくれる。少し照れくささはあったけれど相手は子作りにめちゃくちゃ詳しい変態だと思えばそんなものも吹っ飛んだ。いきなり子供云々言っちゃう上叩いた次の日にはキスの種類とかを語り出すんだもんな……流石な服を着ているだけあって、話すこともオープンすぎる。

「ハナって日本人だろ?どうしてこっちに来たんだよ、あっちは治安もいいし平和じゃあないか。」

 とりあえずのビールを開けてぐびぐびと飲んでいると、疑問に思ったらしいメローネは素直にそれを私にぶつけてくる。

「うーん、まぁ平和っちゃあ平和だったけど……」

 確かに日本は平和だ。私が住んでいた町は特に静かで景色も雰囲気も全て最高だった。

「社会的には息苦しいところだよ。」

 会社では常に競走ばかり。結果を出さないと上司からネチネチとお説教……転勤の話がなかったら今頃ボロ雑巾みたいになっていたんじゃないかってくらいには、社会に出たらただの暗黒大陸だった。

「誰かイタリアの会社に派遣しなきゃいけないってなってさ、イタリアに行ってみたくて丁度言葉の勉強をしていた私に声がかかって……いいタイミングかなって思ってね。」

 言われた時は舞い上がったけれど、今思えば会社から爪弾きをされたのかもしれない。そこまで成績はよくなかったしな。

「私からしたらイタリアの方がいいところだよ?格差は激しいけど海は綺麗だし食べ物は美味しい……空気もいいし何もかも最高!」

 会社爆発しないかなとは未だにあの男性を見る度に思うけれど、他は別にどうってことない。仕事量が多くたって日本にいた頃と比べたらまだマシな方。

「ほら、肉でも食べて明日も頑張ろ!今日はトスカーナ産のサラミだぞ!」

 ここは日本とは違ってオンとオフがしっかりとしているし、そんな中で嫌なことが起こってもこうやってビールを飲んで用意した肴を食べれば忘れられる……結構どうにかなるものなんだよね。

「ハナのそういうとこ好きだぜ〜!」

 それに話してみれば服が奇抜なメローネですらいい奴に見える。こっちに来てから友達とか一切いなかったから今凄く楽しいよ。

「何枚いる?二枚?」
「いやそれは流石に少ないだろ。倍だよ倍。」
「二百枚?薄く切らないと難しくない?」
「難しいも何も無理だぜ。」
「いいや、やってみなきゃ分かんないじゃん。」

 メローネとこうやってふざける日々は私的には刺激的。

「メローネってさー、実家で飼ってた犬にどことなく似てる。」
「犬?オレが?」
「うん。肉を前にすると目がキュルキュルってなるのとかそっくり。」
「だって肉を前にしたら誰だってさぁ……!」

 これから嫌なことがあったりしても、こうやってふざけて笑い合えれば乗り越えられる。そんな気がした。


 これは、別次元に暮らす彼と平凡な私のちょっと楽しい夜の時間の物語。




01

- 2 -

*前次#