06


「一日で食える量じゃあねーな、これ。」

 ギアッチョさんが帰って用事が終わったメローネは、早速私の部屋に入って来てテーブルの甘いものを見ると目を丸くさせながらそう呟く。

「当分はこれだけで暮らしてける量だよなぁ、これ。」

 私も出してみてめちゃくちゃびっくりした。菓子類からスイーツ類までもりもりに、まるで残っていた商品全てを買い込んだんじゃないかってくらいの量を買ってしまっていて、ちょっとどころかかなり眉が寄る。給料がよかったからって調子に乗りすぎたかもしれない。

「まぁ……メローネの職場の人に余ったのはあげてくれていいからさ。貰ってやってくれる?」

 メローネの仕事は外ですることが多いらしいから、小腹が空いた時に食べるとかいうのにこれは使えるかもしれない。私の職場は机上が中心だから、机が汚れるような菓子類には流石に少し厳しいし、そもそも菓子類をあげるような仲のいい人が特にいないから分けることは出来ない。あげますって言って出したらいらないって言われるかもとか思ったらちょっと勇気がなかなか出なかった。

「アイツら喜ぶと思うぜ、グラッツェ!」

 「アイツら」とは……ギアッチョさんとその他の方々?だろうか?メローネは上機嫌にそう言うと、甘いものの仕分けをし始めながら鼻歌を歌い始める。

(メローネの友達かぁ……)

 癖が強そうだよな……想像してみても何ていうか、上手く想像が出来なくて首が傾く。ギアッチョさんの存在が邪魔をしているみたい……この人の職場にまともな人が果たしているだろうかと思い始めて心配を覚えてきた。世紀末みたいな人とかいたりしたらどうしよう?そもそも私はこれっぽっちも関係ないんだけれども……これは悩む必要とかないよな。

「なぁハナ、袋あるか?」

 私が考え込んでそれの放棄を選んだ頃、品定めを終えたらしいメローネは私に振り返ると袋を強請るように手を差し出してくる。

「ああ、はい。これどうぞ。」

 私はさっきまで使って放置していた袋を手に取るとメローネにそれを手渡して、短くお礼を言われたら一歩ばかり下がりつつメローネの背中をぼんやりと、改めるように眺めてみた。

(男の人が部屋にいる……)

 それは最初の頃も思ったし、ふとした拍子にいつも思ってしまう感想だ。メローネは友達でお隣さんで、飲み仲間……それ以外は本当に何でもないただの男性だ。大の大人同士なのに大人な雰囲気とか空気というか、そういうのとか一切なくてまるで奇跡みたいな時間を今まで費やして過ごしてきた。
 
(メローネはどう思ってるんだろ?)

 私はそういう風にメローネとの関係を考えているのだけれど、私じゃなくてこの人は今のこの奇跡が続いた状況をどういう風に思っているのかな?そもそも私のことはどういう風に思ってくれているんだろう?アルコールをくれるお隣さん?都合がいい女?めんどくさい愚痴ばっかの女……って思われていたらどうしよう……悲しい!

(って、)

 いや待って。別にメローネにどう思われようが何だっていいんじゃない?私達はただの飲み仲間だし、私が愚痴るのをメローネが聞いてくれて、逆な時だってあるしそのひと時を純粋に楽しんでいるだけだもん。それ以上も以下もない、一本線を真っ直ぐ伸ばしたような場所に立っているような関係を……つまり、均衡を守ってきた。だからそんなメローネがどういう風に私を見ていようがそんなことはどうだっていいんだよね。
 メローネに求めているのは嫌なことを飲んで忘れて、楽しく笑い合ってくれるこの時間。それ以上のこととかそういう類のものは望んじゃいない……壊れるかもしれないものを壊しにいける程の勇気だなんて持ってなんか……

(いやだから……)

 私ってばさっきからどうしたんだろうか。まるで今のこの現状に満足していないみたいにメローネと「何かしたい」気持ちが出始めたような具合になってきている。今まで絶賛満足していたくせに本当にどうしたの?もう子供じゃないから好きも嫌いも男女のあれこれもしっかりと理解はしているけれど、いい奴を好きとか思っちゃう心理だってそれなりには分かっているつもりではいるけれど、友達をそんな風な目で見るとか違うと思うし思いたい。ただのいい奴のままでいてほしいんだよ、メローネのことは。

「疲れてるのかなぁー。」
「ん?どうした?」
「あ、」

 自分の中で完結させようにも咄嗟に浮かんだ言葉っていうのはなかなか隠せない。思わず口に出して疲れてるだなんて言ってしまった。幸いにもイタリア語じゃなくて咄嗟に出たのは日本語だったけれど……でもメローネといるのにそんなことを言っちゃうのはいけないよね……何でもかんでも疲れているせいにしちゃうのは社会人の悪い癖だしどうかしてるよな。こんなの余裕をもって立ち回れない私が悪いことなのにさ。

「何でもないよ。」

 言葉を拾ってしまったメローネに対して笑顔を向けて、両手を振りつつ何でもないと誤魔化したら私は自分用に買った甘いものを取りに回れ右をする。

(考えるのはよそう。)

 ここにいるのは異性だけれど関係はお隣さんとお友達……それでいい。この問題に触れて口に出してみろ?た一瞬でこの幸せな時間は破滅を迎えてしまう。だったら目を閉じていた方が安心だし安全だ。冒険はしない方がいい。
 冷蔵庫の上の冷凍庫にしまったキンキンのアイスを手に取ると、備え付きに貰ったスプーンを片手に再びメローネの方へと戻ってゆく。

「っていうかハナ、飯食ったか?」

 そして戻ってきてみたら、早速元気に食べ始めているメローネに訊ねられて……ああってなってちょっとその場に固まった。
 夕飯、そう夕飯。今日は肴じゃなくて甘いものしか買っていないからお腹にしっかりした溜まるものがないんだっけ?

「今日は……ない!」

 強いて言うならアイスがご飯。チーズもサラミも切らしているし、スパゲッティもないし米も切らした。他にあるとすれば、食パンだ。

「ない!じゃあねーよ?ちゃんと食わねえとぶっ倒れるぜ……アイスなんて腹の足しになんねえよ。」
「あんたは私の母お、ぶっ!」

 いざとなったら食パン食っとく程度に思っていると、メローネは買ってあげたスイーツを私の顔へと投げてきて、問答無用と言わんばかりに私へそれを寄越してくる。

「これは……」

 投げられたのは袋に入っていたシュークリームだった。私が顔に当たったことで袋にクリームを飛び散らかせて悲惨なことになってしまっている……開けて食べたらまず地獄を見そうだよな。

「あとこれとこれ、これもだな……とりあえずカロリー摂れ。腹を満たせ。」

 他にもいろいろなものをメローネは私が座る予定の席の前に置いてゆく。机の上の配置が完璧になったところで彼はゆっくりと立ち上がり、私の目の前までやって来たら手にしていたアイスとスプーンを奪ってその横を通り過ぎていった。そしてそのままアイスは冷凍庫にリバースさせちゃって……まずはこっちを食えっていうことらしい。話はそれからだ、みたいな威圧感を感じる。

(母親か……)

 たまにめちゃくちゃに世話を焼いてくるよな。ビール飲みすぎとかちゃんと野菜も食べなさいとか、まるでお母さんみたいに……嫌ではないけれど、自由が欲しくて自立に走った自分からすれば何ていうかちょっと眉が寄りそうになる。善意が痛い。

「デブになったらメローネのせいだぞ?」

 そしてこんなにご馳走を並べられてアレなのですが、私は何かをつまみ始めると止まらなくなってしまう節がある。いつもはチーズとサラミで食べてもそんなに肉が付かないようなものばかりだけれど、このてんこ盛りの甘いものは別格だ。お腹に溜まるし何より美味い。それは一度食べてしまえば肉になってぶよぶよボディにしてしまう悪魔の食べ物だ……分かっていても自制出来る自信はない。置いてくれた以上に食べたい衝動に駆られるかもしれない。

「デブになる前に止めてやるから安心しろよ。」

 しかしメローネは大丈夫だと言ってくる。デブになる前に止めるとか……厳しいけれど優しくてちょっと困る。本当にこの人はただの友達なのだろうか?家族みたいな優しさしか貰ったことがない。

「言ったな?」

 まぁ何はともあれおこぼれを貰えるのは嬉しいよね。たまにはスイーツなパラダイスとかしたいし、お祝いとかじゃないけれど、たっぷりと食べてその甘さで癒されたい。今日はビールを飲むのはお休みして、このスイーツを食らうかな?たまにはいいよね?うん。
 私は自分の席に腰を下ろすと、早速さっき貰ったシュークリームの封をバリバリと音を立てて開ける。袋の中は見た目通りシューの中から放出されたクリームでまみれているのだけれど、シューの方は見た目よりかは結構綺麗だ。

「んー……」

 しかしこれは……どう食べたら上手く処理が出来るだろうか?袋から出したらまずベッタベタにクリームが手に付くよね。投げるならシュークリームじゃなくて別のやつを投げてくれって感じ……顔面痛いかもだけれどこのクリームドッパドパよりはマシだったかな。

(お行儀悪いけど……食べたい。)

 最早やけくそだ。シュークリームの食べ方だなんてもうどうでもいい。要は食べられさえすればいいんだよね?胃袋に突っ込むのが大丈夫。中で混ざったら一緒だ。
 決意をした私はシュークリームを袋から取り出して、指を突っ込んでそのままそれを引っこ抜くと裸の状態にさせる。明らかに未来は悲惨だったけれど……緊急事態だからしょうがない。ガブリと一口噛み付いて、めちゃくちゃお腹が空いていたのと美味しかったのもあってそのまま二口三口と齧っていった。もちろん途中で爆発したかのように形は崩れるし手は汚れるしで最悪だ。しかしめげずに全てのシューを口へ詰め込んで、そこからは指を舐めたり口の周りをぺろっとしたりして最早必死になって処理をし続けていたと思う。

「ディ・モールト……最高だッ!」

 けれどその忘れ去っていたメローネという変態の一言でハッとして、現実へと私の頭は戻されて……顎に着いたクリームを指で掬って舐め取ってから、実はこれがまずいことだったということに気が付いてしまった。

(ま、まさか……!)

 まさかっていうか、マジだ。メローネの顔が全てを物語っていて最早まさかどころの騒ぎじゃない。これは確定的だ……メローネはクリームの処理をわざとさせて、人が舐め取っている姿を見て勝手に気分を高揚させているみたい。舌舐めずりをしながらニヤニヤとこっちを見ていて、何だか怖い人にしか見えない。

「ちょっと、こっち見ないでよ……」

 穴があったら入りたい。自分を隠したくてたまらない。だって普通の人だったら行儀が悪い姿を見たらうわぁってなるでしょ?なのにメローネは普通じゃないから違うんだ。仕草とか歩き方とか、ちょっとした行動を見て上機嫌になる人だった。最初の頃とか叩いただけで悦んでいたことをすっかりと忘れていた。
 失礼にも程がある。善意でシュークリームをくれたのだとばかり思っていた自分が情けなくなってくる。クリーム舐めてるのを見て舌舐めずりをしてくるとか……どう反応すればいいのか悩むし困る。目に毒すぎてやめてほしい。

(最悪じゃん……)

 思わず宙にあった手を引っ込めてメローネから視線を逸らす。嫌っていうよりは「恥ずかしい」、ふざけんなって思うよりは「見ないでくれ」……そういう気持ちが体中にじわじわと侵食してしまい、石のように体がカチカチに強ばってくる。こうやって見られた上で反応が斜め上のものだと矛盾した羞恥が込み上がるのは何でだろう?いつもみたいにプンスカと怒りが湧き上がらないようで、どうやら私は片手にビールがないと、変態気味のメローネとは上手く絡めないらしい。

「いいや見る。スゴく見るぜ。」

 メローネは立ち上がったようでイスの音を立てて、そのまま私の目の前までやって来ると私の顎に指を添えてくる。

「いいかハナ、舌使いは大事だ。」

 そして私と見合うようにクイッとそのまま持ち上げてきたら、無理矢理にじっとりとしたその目を合わせてきて、自論(?)を唱え始めた。

「水を飲んでいるんじゃあないんだからもっと貪欲に舐め取っていい!絡めるように動かすと……全て舐め取れるような気になるだろう?愛を育むのに大事なことなんだよ、相手の全てを味わい尽くすようにされたらディ・モールト最高だ。キスをする時気持ち悪かったら嫌じゃあないか?」

 ……言っている意味がちょっと分からない。あと顔が近いのとで言葉が耳に入ってこないっていうか入れたくない。顔の筋肉までカチカチに固まって、完璧に石になってしまった。
 キスをする時?それって今関係あるの?何でこの人は人の舌使いだけでこうも盛り上がれるのかな。そもそも何でクリームを舐めただけの行為でキスの時の舌使いのアドバイスだなんてしてくるのか……愛を育むのに必要?いやいや……いやいやいや……話がすり変わってないようですり変わってるよね?
 固まったことで冷静になったものの、いくら考えてもどうしてクリームを舐めることとそういう行為を繋げちゃうのかは、ちょっとよく考えてみても分からないし分かりたくもない。
 考え始めてみるとクリームを舐め取ったことに関してはバッサリと恥ずかしさが消えてくれた。そもそもメローネのこの手の話はスルーした方がいいっていうのを思い出したから幾分落ち着きは取り戻せた。そう、落ち着きはする……けれど今のこの現状は普通に心臓に悪い。

(近すぎ!)

 メローネの顔がすぐそこにあるんだもん。意識はそっちへと持ってかれてしまって……上書きするかのように段々と距離感への恥ずかしさが込み上がる。だってメローネってば凄く綺麗な顔なんだ。性癖に目を瞑れば正直かっこいい方だから……そんな人を間近で見たら、どこぞの歌のように見つめ合うと素直にお喋りすらままならない。この人たまに距離感がなくなるよな!

「っていうか、育む相手いないから!」

 とりあえず、本当にとりあえず。どうにかしてピシャリと障子を閉めるように言い放つと、メローネの肩をベタベタの手のまま掴んで押して自分から引き剥がす。

「もうメローネは……人をからかうの本当好きだよね。」

 視線は下に向けたまま何とか……どうにかはぐらかして、私は手を洗いに洗面所まで若干ふらつきながら向かった。

「私なんかで興奮しないでAなVでも見て興奮したらー?」

 いつも通り言えたか分からない。振る舞えたか分からない……ちょっとでも動揺したら多分一環の終わり。もう戻れなくなるような気がする。
 メローネの下ネタなんて日常茶飯事だ。言わない日だなんてないし、それがメローネなんだって私は知っている。ちょっとだけなら付き合えるし、ちゃんとはぐらかさずに付き合ってきた。しかしだ、しかしだった。

(まさか私が標的になるとは……)

 私の行動を見て興奮気味になられたらはぐらかすのは難しい。どうしたらいいのか分からない。その証拠に混乱を起こして足元がふらついてしまい、明らかにメローネを意識していたことがバレバレで恥ずかしい。とりあえずこれから誤魔化していかないと……本気でメローネにいいようにされてしまう。

「AVは見飽きたから無理だな。」

 とりあえず手を洗おうと蛇口をひねるために手を伸ばした時、後ろからくっ付いてきたらしいメローネの手が伸びてきて、私の指に指を絡めてさっきの言葉へ反論をしてくる。

「ハナは気分になったらAVを見て我慢出来るのか?虚しくなるだろう?どうやって熱を逃がす?」

 耳元で囁かれたら堪ったもんじゃない……メローネは声も綺麗だから、変に意識をせざるを得ないっていうか、切り抜けたと思って油断をしていたから近寄られたらまた体が石みたいになってしまった。

「気分とか……ならないし……」

 普段忙しいからそんな気分にだなんてならない。もうずっと欲情とは無関係だよ。

「メローネどうしたの?変だよ?ビール飲む?」

 さっきからいつもの五倍くらいは変。おかしなことばっか言ったり意地悪するみたいに人をからかうようなことばかり言ってくる。今日のメローネは度が過ぎていて扱いづらくて正直困るよ……。

「ビールで何でも解決出来るおまえと一緒にするなよな。」

 メローネは自分の体をべったりと私の背中へくっ付けてきて、体重をかけながらそのままゆらゆらと揺れてきた。

「ハナが思うよりもオレの中身はぐちゃぐちゃだぜ?ビール一本飲むよりも一発盛った方がスッキリするし、終わった後は余韻に浸って眠る方が幸せだ。」

 彼の体は揺れているけれど、私はこういう異性とのシチュエーションには慣れていないので息が詰まってカッチカチ。こいつが下半身で生きているのは知っていたけれど、正直はっきりと抱きつかれながら言われたら混乱しかない。目の前にあった鏡を見つめてメローネと目を合わせてみるけれど、どうしたらいいか分からなくてすぐに逸らして下を向く。向いたら向いたでくすぐるような笑い声が聴こえてくるし……耳が熱い。

「苦いのと甘いの、感じるんだったら甘い方がいいだろ?なぁ……」

 挑発……っていうより誘惑。聞いたことがないような声音でそう言われると堪ったもんじゃない。こんなメローネは見たことがないってくらい別人だ。耳から体に熱が走って唾を呑み込んだら喉はなるし、メローネの息が当たると痺れるみたいにピリピリと緊張が体中に張り巡らされて次の瞬間には逆に背筋が凍って、とてもじゃないけれど普通には振る舞えない。困惑が勝っていつもの潔さが出て来ない……

「……って真面目なハナに言ってもしょうがないな。」

 何も言えずに固まり続けていると、ようやくメローネは私から体を離してくれて、強ばっていた肩を揉んで解してくれた。

「もし欲求不満になったら言ってくれ。あんたには恩があるからな!協力してやるぜ。」

 笑いながらそう言うと、パシッと一発私の肩を叩いてメローネは再び部屋の方へと戻っていった。嵐が去ったという表現よりも真夏の通り雨が過ぎ去ったような……いきなり降られた雨で体がベタベタになったみたいな汗が吹き出した感じの気持ち悪さだけが残されて、安心感よりも倦怠感を異様な程強く感じる。
 っていうか協力してやるってどういうことだよ。欲求不満になるとかそんなの……なったとしてもメローネに言えるわけないじゃない?わざわざ言わせようとする辺り流石メローネだなって言わざるを得ないというか、こんなめちゃくちゃに言い寄ってきておいて雑に話題を締められたのは少し腹が立つ。

(なかったことに出来る気がしない……)

 取り残された後でぼんやりと考える。メローネに、友達にそんなことを言われたらどうやってこれから接していけばいいのか分からなくなっちゃうよ。意識しないように必死になっていたのにな?こっちの気持ちを知らないのはしょうがないけれど、掻き乱すように人をからかうような態度をとるとか知っている私からしたら最低に見える。メローネって実は鬼畜?Mの仮面を被ったS?

「はぁ……」

 ついさっきまで異性だけれどお友達だって思っていた。お友達っていうセーフティを付けてこの平行線を保とうとしていた。なのにあの人は……メローネはお友達じゃなくてお友達どころか真面目な女としか思っていないって、悲しいというか寂しい。
 メローネと願わくば何かしたいって思っていたはずだけれども、本人から直接剥き出しに突き付けられたら自分がどうしたいのか本心が分からなくなった。今の関係以上を求められても怖くなって動けなかったのは何よりもの証拠だ。気まずくなる未来しか見えなくて、どうしようもなく気持ちが不安定でまた足元がふらつく。

「ビール飲もう……」

 奴が帰ったらビールを飲もう。飲まなきゃやってらんないよ……私はメローネと違うから飲めたらもうそれで満足だ。交じ合わずともハッピーになれるしな。




 この空間にアクシデントは必要ない。都合に合わせて都合よく、お互い気楽に飲んで過ごすのが一番いい。

 必要なのは楽しい時間。裏切らないもので囲まれた世界から離れるだなんていうのは……それを目指すのは覚悟がいることで、少し考えさせてほしいと思う。




06

- 7 -

*前次#