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魔法使いは笑ってる

「美味しかったー!」

「本当だねー」

「教えてくれてありがとう。本当に美味しかったです」

「私はあんまり食べれなかったけどね……!」

レジで会計を済ませ、5人で店を出る。私の頭の上には相変わらずモコナが乗っかっていた。

ギリィと歯軋りしつつ、ポケットの中で「満腹やー……」と満足そうな表情を浮かべている巧断を睨みつける。くそー、お腹減ってたのに悉く私の分を奪っていきやがって。正義君が追加で頼んでくれなかったらどうなっていたことか。

「食文化ひとつ取っても色々あるんだねー。さっきのオコノミヤキ……だっけ。お酒が進みそうな味だったよー」

「え、ファイさんお酒飲まれるんですか?」

振り向いて首を傾げる。ちょっと意外だった。なんとなく、お酒は飲まなさそうなイメージだったんだけど。

「昔からお酒は好きでね、これでも結構いけるクチだよー。久しぶりに赤ワインヴァン・ルージュとか飲みたくなっちゃったー」

「ファイ、お酒飲むの!?」

モコナが嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねている。……モコナも飲むのか。あの丸っこい身体のどこにお酒が入るんだろうか。というか、酔っ払ったりするのだろうか。

まじまじとモコナを眺めながら観察していると、少し離れた場所で美味しそうなクレープを売っている移動販売車が視界に入る。……うーん、あんまり食べられなかったし……。

「……うー、すみません。なんか足りないんで、あっちでクレープ買ってきます」

「未侑ちゃん、あまり食べれなかったもんねー」

「甘いものは別腹! モコナも食べるー!」

「じゃあ、モコナの分も買ってくるね。何がいいかな」

「チョコ生クリーム!」

了解、とモコナの頭を撫でる。ポケットから顔を出してる巧断がもっと食べたいと言いたげな表情でこちらを見てきたが、こいつはさっき散々食べたのでもうデザートはなしにするのであった。



モコナの分も加えてふたり分のクレープを購入し、店の前に戻ると何やらよく分からない光景が広がっていた。周囲の建造物は壊れているし、黒鋼さんの背後には聳え立つように翼の生えた巨大な龍が顕現している。

「あれ、ひょっとして黒鋼さんの巧断……?」

「お、ありゃ特級の巧断やな」

クレープを貰えなくて不貞腐れていた私の巧断がポケットからひょっこりと顔を出す。同じ巧断同士、ひょっとしたら気配とかそういうものを感じ取れるのかもしれない。

「水と氷を司る、龍の姿で顕現する巧断や。憑いた人間や顕現した状況に応じて、その都度最適なカタチをとるんやけど……あの黒い方の若造の場合は、剣の形で現れたみたいやな。わいとは属性的にちぃとばかし相性悪いから、あんまり闘いたくはないなぁ」

「そういえば、あんたは炎と地を司る……んだっけ」

水は炎に強く、更に地を湿らせる効果がある。どちらの属性も水に弱い彼では、心の強さ云々以前に自然現象の問題として相性が悪いんだろう。というか、黒い方の若造≠チて黒鋼さんのことかなあ……。

「あんた≠竄ネい! わいにはちゃーんとケルベロス≠チちゅー、ごっつカッコえぇ名前があるんや!」

「えー、じゃあケロちゃんで」

「蛙やない!」

「なんでわいはいつもいつもそんな蛙みたいなあだ名をつけられるんや……」などとケロちゃんがぶつぶつぼやいている間に戦闘――といっても最後は黒鋼さんによるほとんど一方的な蹂躙だった――は終息し、彼の巧断は幻のように掻き消えてしまった。

「……強いんだね、黒鋼さん」

たぶん、元いた世界では荒事を専門にするような職業に就いていたんだろう。最初に見たとき刀を佩いていたし……雨に紛れて、少し生臭い匂いがした。実際に嗅いだことはないけれど、たぶんあれが血の匂いってやつだ。

……ちょっとだけ挫けそうになる。最初に私にできることを頑張る≠チて決めたけど、こんなんじゃ私、ほんとにただの役立たずだ。

「なんや、元気ないな?」

「……ん、ちょっとね。自分の非力さを改めて思い知ったというか」

ふむ、と少し考え込むように黙ったケロちゃんは振り仰ぐように私に視線を合わせた。

「わいの個人的な見立てになるけど――未侑、おまえには魔力っちゅーもんがある」

「……魔力?」

首を傾げる。漫画やゲームで時々聞く概念ではあるが、それが具体的にどういうものであるかは私には判じかねた。

「読んで字のごとく、魔法を発動させるために必要な、そのために加工された力のことやな。ただ、魔力を使えば使うほど命を削られるような人間とか、わいのように生存に魔力を必要とする存在もおるから、生命力と同一視されることもある」

「巧断には魔力が必要なの?」

「――わいは特別なんや。魔力を持った人間にしか憑かん」

ケロちゃんは最後に呟くように「それに、わいは厳密には巧断とは違うからな」と漏らしたが、それについて問おうと口を開く前にケロちゃんは更に遮るようにして話しはじめてしまった。

「ここは先天的な才能の有り無しがえらい関係してくるけど、魔力がある人間は魔法が使えることがあるんや。才能あって、頑張って勉強すれば自衛のためぐらいになら魔法を使えるようになる……かもしれん」

「また曖昧な」

「わいはそこまで責任持てへんからな!」

えばるなよ。

「……でも、魔法ってどうやって使うの? ケロちゃんが教えてくれるわけじゃないでしょ」

この巧断が魔法を使えるようには見えない。なんとなく、彼はどちらかというと使役される側な気がする。

「なんや、わいやなくても近くにおるやん。魔法使えるの」

「え?」

ほれ、とケロちゃんは少し離れたところで小狼君と談笑しているファイさんを指差した。


「あの白い方の若造、魔術師やん。頼んで教えてもらい」

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