ストレイバードは逃げ出した
――その翌日。私たちは羽根に関する情報ではなく強い巧断≠探すべく繁華街を訪れていた。
昨日目撃した抗争のとき、モコナは羽根の波動を感知したと言っていた。しかしそれはすぐに消えてしまい、どこに羽根があるのか特定するまでには至らなかったという。
その場に存在していたり、誰かが持っていたりするだけなら、第三者が故意に隠蔽しようとしない限り一度感じた気配を辿ることは難しくない筈だ。それだけ羽根の気配は特徴的で強いもの――特に羽根の波動をキャッチすることに特化しているモコナが相手なら、一度捉えた羽根の力をみすみす見逃すことなどそうそうありえる話ではない。
では、なぜモコナは羽根の気配を辿れなくなってしまったのか。ことの経緯を聞いた嵐さんはこう言った。
「現れたり消えたりするものに取り込まれているのでは?」
この世界で、現れたり消えたりするもの――すなわち巧断。巧断は主を守ったり必要とされたときにのみ現れるものであり、巧断が羽根を取り込むという形でこの世界に存在しているのなら、その巧断が消えてしまえば羽根の気配も途切れてしまう。道理でモコナが辿れないわけだ。
ただ、誰の巧断に取り込まれているのかまではまだ分からない。なにせ、野次馬も含めれば相当な数の人間があの場に居合わせていたのだ。ある程度方針を定めることができたのは収穫だが、不特定多数の中から羽根を探しださねばならないという状況は依然として変化していない。
ただ、嵐さん曰くかなり強い巧断の中≠ノあるのはたしかなようだ。
サクラ姫の記憶の羽根はいわばとても強い心の結晶のようなものであり、巧断とは憑いている人間の心の強さに比例して強くなる。憑いている巧断が強い――つまり、心の強い人間であればあるほど羽根を取り込んでいる巧断を憑けている確率が高くなる。
というわけで、今回は羽根の情報というよりは強い巧断を探して街に出てきたのだが――。
「皆、やっぱり巧断出して歩いてないみたいだねぇ」
「それに、もしどの巧断が羽根を取り込んでるのか分かってもそう簡単に渡してくれんのか」
「羽根を持ってる巧断を憑けてるひとがいいひとなら、渡してくれると思いますけど……そんな虫のいい話はないですよねぇ」
はいどうぞ、なんてあっさり渡してくれるなんて上手い話があるとは思えない。
羽根を取り込んでいる巧断が強い力を誇るのは、内部に取り込んでいる羽根の力が巧断を強化させているからというのが要因でもあるだろう。勿論穏便に済むのならそれがいちばんではあるが、たとえば巧断の
4人で顔を突き合わせて困ったねえと話し合っていると、きょろきょろと辺りを見回していた小狼君が視界に入れていた壁から、にゅっと音を立てて道服を着た少年が顔を出して現れた。……あれはたしか、昨日お世話になった正義君の巧断だ。この国では人型で顕現する巧断というのも珍しくないようで、特に正義君の巧断の顔立ちは双子のように彼と瓜二つなのが非常に特徴的だ。
「小狼く――ん!」
「正義君」
彼の巧断が現れていくらもしないうちに、正義君がこちらに走ってくる。学校はお休みなのか、昨日の学ラン姿と違って今日は私服を着ていた。
「探し物、あのあと見つかりましたか?」
「まだです」
悄然と俯く小狼君に、正義君は「だったら今日も案内させてください」と提案した。たしかに、私たちはこのあたりの土地勘がまったくない。誰かひとり近辺に詳しいひとがついていてくれれば心強いけれど……。
「いいんですか?」
「はい!」
「ありがとね、助かるよ」
やはり今日は学校は休みらしい。彼を付き合わせるのは少々心苦しいが、これなら今日は一日探索に集中できるだろう。
その後暫く談笑していると、ふと何やら甲高い音が聞こえてきた。ちょうど飛行機が離陸しようとしているときのエンジン音を間近で聞いているような、あまり耳に心地好いとは言えない音だ。
「!」
――一瞬だった。鳥のような形をした巧断と思しき生き物が滑空するようにこちらめがけてやってきたかと思うと器用に私と正義君の服を摘まむように引っ掴み、そのまま高く舞い上がってしまった。ちなみにモコナは私の頭にしがみつくようにして掴まっている。あの、髪、髪!
「わあっ!」
「えっ、ちょ……ケロちゃん、ケロちゃぁ――ん!」
あの、昨日の大きいの! あれ、あれになってと視線で訴えるが、肝心のケロちゃんは私のポケットの内側に掴まったまま目をぐるぐるのナルトにしてしまっていた。えぇい、いちばん助けて欲しいときになんで出てこないかなー!