ウルトラマリンブルースカイ


「コナーっていい匂いするね」

「は?」

 透き通ったティムの声がコナーの耳に届いた。振り返ったコナーが親友の姿を視認する前に、スラリと通った鼻筋が彼の頬を掠めていく。長い睫毛と艶やかな黒髪が視界の隅に映り込み、サファイアブルーの目が一瞬だけコナーの顔を見た。

「香水使ってるの?」

 筋肉のついたコナーの肩に、男としては細い指が置かれている。

「ああ」

「なにつかってるの?」

「ウルトラマリンブルースカイ」

「ジバンシーの?」

「そう」

 ティムの口元に微かな笑みが浮かんだ。彼は笑顔のままコナーの髪に鼻先で触れる。

「ブルースカイって、名前で選んだの?」

 小さな笑い声が聞こえてきた。軽やかな声はティムがリラックスしている時の声だ。心臓の音も平穏そのもの。彼は今リラックスしているのだ。少しイタズラっぽいティムの声が鼓膜を刺激する。

「でも似合ってるね」

「おう、サンキュー」

「整髪料の匂いとかも少しするね」

「お前鼻いいのなー」

「これだけ近ければ流石にね」

 コナーが振り返ると、サファイアブルーの目がすぐ近くにあった。まっすぐに見据えてくる強い目だ。コナーよりはるかに華奢で壊れやすい体に、不釣り合いなほど強い、鉄のような意思が宿っている。長い睫毛に覆われた鮮やかな宝石は鏡のようにコナーの顔を映していた。
 心臓が暴れていた。大抵の状況変化なら対応出来るはずの強靱な体が熱い。彼の変化に探偵も気づいたのか、不思議そうな表情で顔を覗き込んできた。

「顔赤くない? 大丈夫?」

「ん? 大丈夫大丈夫。お前の気のせいじゃね?」

「そう? ならいいけどさ」

 僕は仕事の続きしてくるから、と言ったティムがその場を去る。彼の後ろ姿を見送ったボーイ・オブ・スティールは、仲間のバートに

「どうしたのコナー、顔赤いよ?」

 と話しかけられるまで、しばらくそのまま硬直していた。
 心臓は、もうしばらく暴れ続けそうだ。
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美しくなんて死ねると思うな