ビザロと「ジェイソン、誕生日おめでとう」 頭の霧が晴れた(で合っているのかジェイソンはいまいち自信がない)ビザロが、突然ジェイソンの目の前に花束を出してきた。ビタミンカラーでまとめられた、おそらく八月の花ばかりの花束だ。 一瞬花と睨めっこをしてしまったジェイソンは、ビザロが言った言葉を思いだし、今日が自分の誕生日であることに気がつく。 そういえばそうだった、程度の認識なので、個人的にはなんの感慨もないのだが、ビザロがこうしてプレゼントをくれた以上、喜ばないわけにはいかない。 そっと花束を受け取り、自分を覗き込むように身を屈める巨人に視線を合わせた。 「ありがとな、ビザロ」 「その様子だと、自分の誕生日を忘れていたのかな?」 「そりゃあ、昼も夜も土曜も日曜も関係ねぇ仕事してるからな」 「思い出してくれてよかった」 丸いメガネの奥で優しい目が笑った。 頭の霧が晴れようが晴れなかろうが、この笑顔だけは変わらない。 喋る言葉が流暢になっても、アルテミスにレディとかマダムとかつけようと、ジェイソンを赤いのと言おうがアルテミスを赤い子と言おうが、どっちもビザロで、ビザロはジェイソンの親友だ。 だから、その親友が自分を喜ばせようとしてくれるのはとても嬉しい。 「お前のお陰で思い出したぜ。誕生日だから今日もう休もうかな」 「そうしたほうがいい。ジェイソンは、最近寝不足気味だと思いますよ」 「お前には言ってなかったかもしんねぇけど、俺ショートスリーパーなんだよ」 「疑わしいですね」 「親友の言葉を疑うなよ」 「親友の体を心配してるんですよ」 ビザロの大きな手が、ジェイソンの肩を軽く叩いた。そうして、男がどうしていいかわからず抱えていた花束を取り上げる。 「あー、俺の花ー」 「飾ってきます。ジェイソンの部屋に」 「うん」 ジェイソンの返事を聞いて、ビザロが立ち止まる。ジェイソンが抱えるくらい大きい花束も、ビザロが持つとミニブーケだった。 「ジェイソン、貴方の誕生日は、私の人生の始まりでもあるんです」 「ん?」 不思議な言い回しをする男だ。この巨人は、溢れんばかりの知性を手に入れてから、稀に哲学者か詩人のようなことを言う。 それを言えば、以前のビザロだって天才詩人みたいなことを稀に言うので、まあ、結局根っこは同じなのだろう。 「君とレディ・アルテミスに出会って、始めて私は私の人生を始めることが出来た。だから、私の人生の始まりは、貴方が生まれた日と、レディ・アルテミスが生まれた日と、貴方たちが私に出会ってくれた日の、三つがあるんです」 「じゃあ、今日はお前の誕生日でもあるわけだ?」 プレゼントいる? と冗談めかして聞いて見ると、ビザロは笑って「欲しいですね」と返してきた。 「貴方が仕事を休んでくれれば、最高のプレゼントです」 そういって、ビザロがまたジェイソンに背を向ける。 大きな後ろ姿を見て、ジェイソンは、生け花用の栄養剤を買ってこようと思った。 あと、なるべく長生きしよう。 [しおりを挟む] 目次 戻る |