ベイト・ベット・ゲーム


 椅子にロープでくくりつけられた両手が自由になるのには、もう少し時間が必要だった。両足にも手錠がかかっており、やはり椅子に繋がっていて動けない。
 僅かに感じる拘束の痛みに、ナイトウイングが眉を顰めた。
 経営破綻したメンタルクリニックのなれの果て、小さな窓があるだけの廃墟が彼の現在地である。白かったであろう壁は茶色の錆が浮き上がり、壁紙がめくれて破片が地面に落ちている。昼間でも薄気味悪い空間なのに、現在の時刻はよりにもよって深夜。あまり気分の良い場所ではない。しかも敵とふたりきりという、最悪の状況だ。

「上の空ね、ナイトウイング」

 コンバットスーツ越しの腹を、女の手が舐めるように這い回った。黒い襟首に人差し指が入り込み、皮膚が空気の流動を感じる。ややあって、静脈に注射器の刺さる感触。ディックはドミノマスク越し、無感動な目で前方の女を睨み付けた。

「なにをした?」

「別に毒じゃないわ。興奮剤よ。即効性のね」

 敵は、顔の上半分を覆い隠すレザーマスクをつけた女だ。ポニーテールにした金髪が男の頬を擽る。羽のような軽やかさでナイトウイングの大腿を這い回るのは、すらりとした手のひら。触れられた先から体が熱を帯びていく。スーツ越しに体を撫でられる感触が、ディックに恋人の顔を連想させた。目の前の女とは似て非なる、精悍な顔つきの男。年の近い弟を思って息を吐き出したナイトウイングは、下腹部の疼きを煩わしく感じながら女ヴィランを睨み付ける。

「僕に触るな。生憎先約がある」

「あらそうなの? 大丈夫よ、好きな相手を思い浮かべてちょうだい。その興奮剤、幻覚成分も入ってるの」

 女の手がヒーロースーツの裾を掴み、胸元までたくし上げる。ひやりとした夜の外気が肌を刺した。ナイトウイングの口元が不愉快そうに歪み、隠しきれない棘つきの声音が空気を震わせる。

「お前じゃ、僕の恋人には似ても似つかないな」

「あら、残念だわ」

 女がディックの顎を掴み、ほっそりとした輪郭を近づけてきた。男はヴィランから顔を背けたが、拘束されて上手く動けないため、大した効果は得られない。
 もともと薬を盛って男をどうこうしようとするような女だ。生業は依頼を受けて仕事をする盗賊。マフィアや熱心なコレクターなどから依頼を受け、金を積まれればなんでも盗むという。今回は仕事のついで、個人的な趣味で男も奪うことにしたようだが、生憎ディックは簡単に盗られるつもりなど毛頭なかった。しかし、足を動かして女を攻撃しようとしても、手錠の鎖が短すぎて届かない。変わりにレザースーツを纏った女の体がディックの足を絡め取ってきた。振り払うと、すぐ耳元で鈴のような笑い声がする。不愉快極まりない。

「僕に恋人のことを思い浮かべて欲しいなら声を出すな」

「あら、怖いわね」

 楽しそうな声で言うものだから、余計頭にくる。
 ディックが反撃の方法を考えていると、彼の頬を撫でる手が突然止まった。
 悠然としていた女の表情は緊張感を孕み、なだらかな頬のラインにうっすらと冷や汗が浮いている。鋭い紫の眼光が、自身の背後に向けられた。
 皮肉げな色を含んだバリトンボイスが廃墟に響く。

「ヘイ、レディ。やめとけよ。そのヤリチン、どうせ性病持ちだぜ」

 暗がりの中に立っているのは、身長一八〇センチを超える男だ。正確には一八三センチ。赤いフルフェイスマスクをつけたヴィジランテ、レッドフード。彼は黒いレザーマスクに銃口を押しつけ、女泥棒が発する怒気混じりの殺気にわざとらしく肩を竦めて見せる。

「もうすぐここにバットファミリーの連中がご到着するんだ。逃げるんなら早めにしな」

 男の指が銃の引き金にかかる様子はない。鼠賊はヴィジランテの様子を伺うように目を細め、口元に形ばかりの微笑みを浮かべて見せた。

「貴方、私を捕まえる気はないの?」

「俺ァ、チンケなコソドロごときに無駄弾使う趣味はねぇんだ」

 赤いマスクのせいで男の表情は見えない。銃の引き金に手を掛けてもいない。
 だというのに、場の空気が変わった。
 途端、殺気を向けられていないディックですら息苦しいと感じるほど威圧感が充満し、直にレッドフードと対峙した女などは、全身から油汗を吹き出して上手く呼吸すらできない有様だ。賊の後頭部に強く押し当てた銃が脅しの道具などではないと、強い殺気が告げている。重力が倍になったような空間で、レッドフードが毅然と告げた。

「それとも、そのヤリチンやめて俺と一戦交えるか?」

 それが殺し合いの意味であることに疑いの余地はなく、イエスと返答した瞬間女は頭を撃ち抜かれるだろう。偸盗が喉を鳴らし、震えるか細い声で「遠慮しておくわ」と答えた。途端、人を押さえつけるような殺気が霧散し、レッドフードの銃口が女からわずかに離れる。
 その隙にヴィランはすぐさま場を離れ、扉の前に立ってから負け惜しみを発した。

「私、面食いなのよね」

 今までの殺気が嘘のように軽薄な態度で、ジェイソンが女に中指を立てる。

「俺の顔見たことねぇクセによく言うぜ」

「顔を見せないんだから、たかが知れてるって意味よ」

「くたばれ」

 鈴のような笑い声を響かせ、女が闇夜に消えていく。

「コソドロなだけあって逃げ足が早ェな」

 男の声色に不機嫌さなどは感じられない。盗賊の気配が消えたのを確認したレッドフードが赤いフルフェイスヘルメットに手を掛けた。拘束されたままのナイトウイングは、どうすることもできずにその様を見つめている。
 少し汗ばんだ黒髪が外気に触れ、暗闇の中で白い肌を擽った。雄偉な輪郭に赤いドミノマスクを付けた姿は、男性のディックから見ても惚れ惚れしてしまう。そんな弟の、さらけだされた唇が片端をつり上げて笑った。スピリットガムで張り付いたマスクが表情筋に沿って動き、右目だけが兄をからかうように細められる。

「大失態だな、ナイトウイング。そんな痴態見せたらロビンが泣くぜ」

 雄々しい男がゆっくりとディックに近づいてきて、腕の拘束を解いてくれた。次いで銃声が響き、足についた手錠の鎖が両方とも撃ち抜かれる。少し痛む手首をさすりつつ、ナイトウイングは弟の顔を見た。

「ああ、ありがとう。フード」

 するとなにが不満なのか、ジェイソンがわずかばかり顔をしかめる。

「てっきり獲物逃がして文句いわれるのかと思ったが」

「彼女ならもう発信器をつけてあるから心配ない」

 足を絡めてきた時脛のあたりに付けておいた。ジェイソンの殺気に怯えていた様子を見ると、しばらくは気付かないだろう。そんな余裕はないはずだ。バットコンピューターにも彼女の現在位置は知らされるので、アジトに戻ったところを捕らえてしまえば良い。
 事情を理解した途端、ジェイソンが口を開けて赤い舌を突き出す。降参と言いたげに両手をあげ、ディックに手のひらを見せつけていた。赤い舌の奥から、少しおどけた皮肉が飛び出す。

「たいしたハニートラップだぜ、色男」

「お褒めにあずかり光栄だな」

「別に褒めてねぇよ」

 ディックが両手を伸ばし、弟の胸に倒れ込むと、バランスを崩したと思ったらしいジェイソンが優しく抱きとめてくれた。ヴィジランテの太い首が目の前にある。鍛えられた僧帽筋の膨らみが酷く愛おしかった。服が邪魔だ。頭上から不機嫌そうな声を振りかけられる。

「おい、盛ってんじゃねぇぞヤリチン」

 声は固く、この場で答えてくれる気はないらしい。つれないなぁ、と思いつつ、ディックは湿った熱い息を恋人の耳に吹きつけた。

「酷いな、ジェイ。性病持ってるだなんて……そうじゃないのはお前が一番よく知ってるくせに……」

 弟の股に足を割り入れ、細い腰を抱き寄せる。細いといっても、発達した広背筋と大臀筋のせいでそう見えるだけなのだが、逞しくたおやかで精悍なジェイソンの体を、ディックは大層気に入っていた。

「バットファミリーがご到着するっつってんだろ。"ダディ"に男とヤッてるとこ見られてぇのかよ」

「いつかはブルースに言わないとな。息子さんを僕にくださいって」

 弟の局部を足で撫で上げ、ジャケットの下に手を伸ばして背中を愛撫する。人差し指で背筋をなぞり、もう片方の手を尻に伸ばしたあたりで、頭上から低い笑い声がした。

「はっ、大事な長男に変な虫がついておかんむりになるだろうな」

「またそんなこと言って。どうせその時殴られるのは僕だぞ」

 ディックの手がジーンズに包まれた恋人の尻肉をわし掴む。指を踊らせて揉みしだくと、ジェイソンが僅かに身じろぎした。

「おいディッキー、マジでいい加減にしろ」

「体が熱いんだ、ジェイ……耐えられそうにない……」

 今直ぐ弟の服を引き剥がして押し倒してしまいたい。なんの準備もしてないのに体が疼いて仕方がない。ディックが息を荒げて弟の服に手を掛ける。黒いアンダーを胸元までたくしあげたあたりで、ジェイソンが長く嘆息した。

「……ったく、しょうがねぇな……」

 ヴィジランテの腕が寄りかかるディックを引き剥がす。なにをするのかと思えば、弟はやおらその場に座り込み、ナイトウイングのヒーロースーツに手を掛けた。ズボンのファスナーをゆっくりと引き下ろし、無遠慮に手を突っ込んで充血しきった性器を取り出す。ドミノマスクの奥で、薄氷色の目がディックを見上げた。

「おっさんどもがくる前に、一回口でヌいてやっから……それでいいだろ」

 吐き出される言葉だけで、ディックの背筋を快感が駆け抜けていく。弟が唇をとがらせ、ぽってりとした肉で鈴口に吸い付いた。チュ、と控えめなリップ音がして、ディックの腰が僅かに跳ねる。ジェイソンが上目遣いで兄の様子を伺い、血管の浮き上がった怒張を口内へと招き入れた。竿に舌を巻きつけながら根元までくわえ込み、アイスブルーの瞳を揺らして僅かに頬を上気させる。男根を押し込んだ口元から甘ったるい吐息が漏れた。

「ん

 頬肉がペニスの粘膜を擦り、這い回る舌とともに肉鉾へ大量の唾液を絡ませる。そのせいで廃屋中にジュルジュルと派手な水音が響き渡り、ディックの鼓膜を刺激した。薬のせいなのかいつもより雄茎の感覚が鋭く、うっとりとした顔つきで男根をしゃぶる恋人を見ただけで、既に腰の痙攣が抑えられなくなっている。弟のほうもそれは承知のようで、手と口を使い芯柱への刺激を強めていった。たまらず、ナイトウイングの口から悲鳴のような喘ぎ声が飛び出す。

「あっ あっ ジェイ ジェイソンっ ダメだっ 出るっ もう出るっ ジェイ ジェイソンっ

 薄氷がディックを捕らえた。ドミノマスクの奥でわずかに目を細め、嬉しそうに頷いた恋人の顔が、男の決壊を促す。

「あっ、あぁああああっ

 ディックの喉から熱に浮かされた絶叫が飛び出し、充血した巨竿がビクリと震える。
 ジェイソンが恋人の海綿体から口を離すと同時に、つるりとした赤い先端から勢いよく白い飛沫が飛び出し、ヴィジランテの顔を汚した。
 赤いドミノマスクの上にも、精悍な頬にも精液がかかる。
 本来なら顔をしかめるはずの状態で、ジェイソンは僅かばかり目を細め、長い睫毛を切なげに震わせた。

「んっ はぁ……

 今まで恋人のモノを美味そうに咥えていた口から艶やかな吐息を吐き出し、節の目立つ指がそっと頬にかかった飛沫を掬う。
 彼は白く染まった指先で自分の顔を愛撫しながら、それを口元へと運んでいった。

「お前にしちゃ、早かったじゃん

 まるで子供が、親に隠れてつまみ食いをするような密やかさで、白く汚れた指先を舐める。
 愛おしそうな表情と、顔を白く汚したありさまがあまりに淫らで、先程欲を吐き出したばかりだというのに、ディックの体がまた熱を持ち始めてしまった。
 口淫の際、ジェイソンはいつもディックの吐き出した精を全て飲むので、顔にかかるのは初めてのことだ。ドミノマスクを付けた"レッドフード"が自分の精液で汚れている様はなかなかに扇情的で、おそらく、それを狙ってジェイソンも顔で受け止めたのだろうと思われる。
 ガス抜きどころか余計気分が盛り上がってしまったわけだが、ヴィジランテはすぐさま立ち上がってフルフェイスメットに手を掛けた。

「じゃ、俺はバットファミリーと鉢合わせる前に帰るぜ」

「あ、おいジェイソン!」

 ディックが呼びかけると、顔を白濁液で汚したままジェイソンが恋人に視線を向ける。

「お前の家にいる」

 そうして彼は、汚れを拭うこともなく、顔を隠すようにヘルメットを被ってしまった。
 一瞬、彼の体が艶めかしく震えたのをディックは見逃さない。
 おそらくあのまま、青臭い液で汚れたまま夜の街を駆け抜けるつもりなのだ。何食わぬ顔で、ヴィジランテとして。
 早く家に帰ろうと決心して、ナイトウイングは少し乱れてしまった身なりを整え、自分もその場を後にする。
 バットファミリーと合流した後の展開は早く、投与されたクスリの中和剤を打ち、発信器をつけておいた女盗賊の後始末をして警察に引き渡したら、自分から言い出さずとも今日は休めというお達しが出た。言われたとおり素直に飛んで帰れば、部屋はすでに明かりが付いている。
 リビングのソファに深く腰掛け、我が家のような態度で(事実、食器の場所や飲食品の備蓄量などはディックよりも詳しい)テレビを見ているのは、レッドフードことジェイソン・トッド。ワインレッドの部屋着は綿でできたやわらかい代物で、ボタンは黒。ジェイソンがこの部屋に置いていった私物第一号だ。
 ディックの気配に気付いたのだろう。すっかり寛いでいた男が、ナイトウイングを視界に収めた途端ニヤリと笑う。その顔に口淫の名残はすでになく、ともすれば兄の家に突然泊まりに来た弟という印象すらうけるほどカラリとしていた。

「よう、クスリは切れたか?」

「ああ、中和剤を投与したし、即効性だから切れるのも早かった」

「そりゃなによりだ」

 ただ、クスリが切れたからといって、興奮まで去ってしまうわけではない。顔を汚したまま何食わぬ顔で帰宅する恋人の姿を見てしまえば、クスリなどなくてもその気になってしまうだろう。ヒーロースーツを脱ぎ捨てながら一歩ずつジェイソンに近づいていくと、ソファの背もたれに両手を押しつけ、座っている恋人の眼前へ屈む。突如降ってきた影に顔を上げた弟が、僅かに目を見開いた。愛しい顔へ口づけを落とそうとさらに身を屈めるが、口元を手のひらで押さえつけられてしまう。ジェイソンがテレビの電源を落とし、ディックを睨み付けたまま片眉を跳ね上げた。

「クスリがあってもなくても変わらねぇな。四六時中盛りやがって」

「恋人にただいまのキスをするだけだろ」

 押しつけられた手のひらを舐めてやると、ジェイソンがますます不機嫌そうな顔をする。

「どうだかな。実際今日だって簡単に捕まってクスリ打たれやがって。本当はヤれりゃ誰でもいいんじゃねぇの?」

 さすがにそれは心外だ。確かに簡単に捕まりはしたが、計算してのことである。お陰であの女のアジトまで見つけることが出来た。

「そんなわけないだろ。お前じゃなきゃ嫌なんだって、何回言った?」

「なら脇が甘ぇんだな」

「……もしかして、今日のこと怒ってる?」

「自分のモンつまみ食いされそうになって怒らねぇ奴がいると思うか?」

 ディックが歓喜に目を細めると、弟の眉間に刻まれた皺が深くなった。可愛い恋人の黒髪に指を通し、ゆっくり梳いてやりながら兄が言う。

「僕はお前のモノだ。お前が僕のモノであるように。心から愛してる、リトルウイング」

「綺麗事はいいんだよディッキーバード。今話してんのはテメェのヤリチンと理性がキッチリ連動してんのかどうかって話だ」

「お前の前では紙も同然の理性だからな。疑わしいかもしれないけど、そこらへんはしっかりしてるさ」

「どうだかな」

「どうしたら信用してくれる?」

 ディックの言葉が合図であったかのように、今まで不機嫌そうだった弟の顔に笑みが浮かんだ。ジェイソンの膝が兄の局部を撫で上げる。思わず男の腰が跳ね、ソファに座ったヴィジランテが濃艶な笑みを浮かべた。好戦的な表情にもかかわらず、口から漏れ出す声は吐息混じりで、ホットチョコレートのように甘い。

「ゲームをしようぜ、ディック。誘惑するから耐えて見せろよ」

 ジェイソンから情事の誘いをすることは滅多にない。途中で興に乗って乱れるのはいつものことだが、大抵誘うのはディックである。弟の誘惑というのは非常に貴重なのだ。しかもゲームだから、ディックが理性さえ保てれば、垂涎もののお誘いがいくらでも見られる。必死に自分の興味を引こうとする恋人。悪くないシチュエーションだ。脳内ですぐさま判断を下した男が、弟の髪を優しく撫でる。

「面白そうだな。どういうルールで?」

「お前は俺に手ェ出したら負け。キスから先は全部アウト。俺はそうだな……一回でもイッたら負け」

 つまり誘惑するつもりで自慰でもしようものなら危険なわけだ。少しディックに不利な条件だったが、(ディックの努力の甲斐あって)弟の感じやすさを考えれば丁度良いハンデかもしれない。了承の意味を込めて微笑んだ男が、恋人の耳元で甘く囁く。

「メスイキあり?」

 息を吹きかけられたジェイソンがくすぐったそうに身をよじった。わずかに笑い声を漏らして肩を竦めたあと、切れ長の眼に笑みを宿して喉を動かす。

「あり。イッたらちゃんと教えてやるよ」

「お前がイく瞬間は見ればわかるさ。すごくやらしいから」

「バカじゃねぇの」

 ディックの指先が弟の頬を滑った。顎を掴んで恋人の視線を固定すると、鼻先がつくほどの距離で囁く。

「ゲームの前に、ただいまのキスをしても?」

「ダメ」

 即答。ディックは思わず眉尻を下げ、ひどく情けない声をだしてしまう。

「そんなぁ」

 恋人の無様な様子が楽しいのか、ジェイソンが兄を見上げる。

「ゲームスタートだ。キスの代わりに、ちょっとつきあえよ」

 言って、兄の腕を掴みソファから立ち上がると、淫奔な輝きを宿す瞳に吸い込まれるような思いで、ディックはフラフラと弟の後を追いかけた。ベッドルームを通り抜けると突き当たりがバスルームだ。木目調の壁に、光沢をたたえた白い浴槽とトイレが備え付けられていて、朝使って戸棚に放り込んだはずのタオルが、綺麗に畳まれた真新しいものになっていた。おそらくジェイソンが取り替えたのだろう。妙にマメな所があるのだ。洗面所の手すりには薄いハンドタオルがぶら下がり、浴槽の足もとにプラスチックの小さなポンプとローションが置かれている。使い慣れたシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐり、鏡にはジェイソンとディックの姿が映っていた。鏡の向こうの自分が、情欲に目をギラつかせて睨み付けてくる。まるでソレは自分の獲物だと言いたげに。
 うるさい、僕のだ。
 威嚇してくる自分から目をそらし、弟の顔を見つめた。わずかに潤った唇が半月型の弧を描き、薄氷色がいまにもとろけてこぼれ落ちそうに揺らいでいる。本来ならすぐにでもその鍛えられた体を掻き抱いて全身に口づけを落としながら押し倒したいところだが、ゲーム開始から五分も経たないうちにサレンダーというわけにはいかず、ディックは理性を総動員させて喉を鳴らすに留めた。

「一緒にシャワーでも浴びるつもりか? お前の体洗ってやるのはアリ?」

 ジェイソンが「いいね」と答える。提案したはいいものの、本当にそんなシチュエーションになったらますます自分の首を絞めることになるだろう。眩暈を感じたディックが軽くこめかみを押さえる。ヴィジランテは不敵に微笑んだまま、バスタブの縁に腰掛けた。熱い吐息を吐き出し、顎を突き出して上目遣いに兄を見据える。

「洗って貰おうじゃねぇか。お前がいつも使うトコ」

 偉丈夫の落とした言葉が、ディックの後頭部を殴りつけた。恋人の手が、ワインレッドのズボンに指をひっかけ、ゴムの部分をゆっくりとずらす。ディックの眩暈が酷くなった。心臓が暴れ始める。
 いつも使う所。ズボンの下の、ディックがいつも使う、ジェイソンの。
 呼吸の荒くなった兄に対し、恋人の手が誘うように伸びてくる。ディックが近づくと手首を掴まれて引き寄せられ、服の中に手を入れられた。やわく背中を撫で上げられ、もどかしい快感が肌を粟立たせる。衝動のまま弟のズボンに手をかけ、思い至って動きを止めた。

「……これ、セーフなのか?」

 ズボンを脱がして恋人の腸内洗浄をするなんて、キス以上の行為に該当しそうだ。しかしジェイソンは大して気にした様子もない。

「いいぜ、洗うだけなんだから。別にいやらしいもんでもねぇだろ?」

 そうだろうか。ディックの感覚がおかしいのか。しかしゲームの主催者がそう言うのだからそうなのだろう。

「……あとでアウトって言っても聞かないからな」

「そんな卑怯なマネしねぇよ」

 ジェイソンが僅かに腰を浮かし、ズボンを脱がせと急いてくる。綿の柔らかい生地は触り心地がよく、とても脱がしやすかった。筋肉のついた足に手を滑らせると、弟が脱がしやすいよう体勢を変えてくれる。その様がまたディックの下半身を刺激するのだが、理性を総動員させて衝動に耐えた。床に下着ごとズボンを落とすと、ゆるやかに充血した茎根がバスルームの淡い照明に照らされ、ほの赤い先端がツヤツヤと輝いている。ジェイソンが熱の籠もった息を吐いた。

「ディッキー、足もとにポンプあっからさ、使って」

 弟が足でつついた透明なプラスチックの容器には、短いホースとノズルが取り付けられている。個人用の腸内洗浄キットだ。横にある紫の蓋がついた容器は、いつも使用しているアナル用ローション。ディックが言われたとおりポンプを手に取ると、ジェイソンの手が蛇口を捻ってお湯を出す。恋人の薄氷に促され、ぬるま湯をポンプの中にいれたディックが容器を足もとに置く。

「今度注射器型買ってこようか?」

 兄の言葉に、ヴィジランテがフ、と笑った。

「そういう方が好きなのかよ?」

「お医者さんごっこみたいで、もっと興奮するかも」

「バカじゃねぇの」

 薄氷と青空が絡み合い、ふたつの心音が聞こえてきそうな錯覚に陥る。やけに喉が渇いたな、と思いながらディックは自分の舌先で唇を湿らせた。

「ジェイソン、足……自分でひらけよ」

「ん……」

 こういう時の弟はやけに素直だ。嬌艶な仕草で自身の太腿を掴み、足を抱えるようにしてまだ硬く閉じた淫花を晒してくる。ディックがアナル用ローションの蓋をあけ、手のひらにたっぷりと液体を垂らした。指先で弄び人肌に温めた後、引き絞られた蕾を解きほぐすようにローションを塗り込んでいく。ノズルにも温めた潤滑水を振りかけて充分に絡ませた。小振りのホースを菊花へ差し込むと、使い込まれた穴が異物を容易に飲み込んでいく。

「このくらいなら簡単に入るんだな」

「あんまり入れすぎんじゃねぇぞ」

「わかってるよ」

 言ってポンプの頭頂を押すと、ホースを通って送水が開始された。弟の眉間に微かだが皺がよる。彼が天を仰ぐと、自然喉元がさらけだされ、苦しげに蠢く首筋が壮絶な色香を放っていた。鍛えられた肩が上下し、足の指がもどかしそうに動いている。ジェイソンの吐き出すうめき声には、すでに甘い音が混じっていた。

「ん゛っ、あ゛ 苦し……

「嘘吐け、いつもこれよりもっと太いもの咥えこんでるくせに」

 ボトルの温水を一〇〇ミリほど入れたあたりで一端ノズルを引き抜く。偉丈夫の手が小刻みに震え、口からは苦しそうな喘ぎ声が漏れ出していた。綿でできた部屋着をたくし上げ、わずかに膨らんだ下腹部を押してやると、ジェイソンの雄々しい体がビクリと跳ね上がり、唇が悲鳴を紡ぎ出した。

「あぁ゛あぁっ!!」

「おっと、まだ出すなよ。トイレまで我慢しような」

「ん゛っ……ぅ、ふ

 震える恋人の腕を掴んだディックがトイレまで弟を引っ張っていき、肩を押して座るように促した。

「こっちに背中向けて、出すところが見えるように座れよ。見ててやるから」

 ジェイソンが便座にまたがり、尻を突き出して座り込む。ひくひくと苦しげに蠢く肛肉がすぐにでも決壊しそうだった。じんわりと汗をかく弟の足が愛おしい。わずかに赤らんだ大腿の傷を撫でてやれば、ヴィジランテが淫靡に体を震わせる。

「あ゛ ぁ はぁっ…… ま、って でぃっきー、も、むり

「いいぞ、よく見える。そのまま出して」

 甘ったるい声色で恋人の決壊を促せば、薄氷色が涙を散らし、絶叫が響いた。

「あ゛ぁあ゛ぁああぁあ゛ぁ゛っっっ

 ビチャビチャとみっともない音を響かせて、ぬるま湯が男の腹から吐き出されていく。その様子はディックからよく見えて、わずかに鼻をつく香りさえひどく愛おしい。便座にまたがり、秘部をさらけだして苦しそうに悶える姿はなかなかに見応えがあった。銃を振り回し、憎まれ口を叩くヴィジランテの醜態。これを見られるのはディックだけだ。いつもならディックにだって見せてくれないような姿。

「もう一回くらいやっとこうか?」

 肩で息をしている弟が振り返り、甘えるように腕を伸ばしてくる。顔を近づけてやりながら、今度は後ろからノズルを差し入れた。ポンプを動かし始めると、耳元でジェイソンの甘いうめき声がする。

「ぁっ でぃっきー 苦しっ……

 鍛えられた体がすり寄ってきて、腕を掴む力が強くなった。訴えを無視して送水を続ける。

「少し我慢しろよ。いつもは自分でやってるんだろ?」

「あ゛ ぁ゛あぁ゛ ぁ゛っ

 艶めかしく揺らめくジェイソンの体が汗を飛び散らせた。わずかに首が動き、ディックをじっと見つめる。色っぽい唇が、平素では考えられないような官能の声を振りかけてきた。

「が、まん…… するから キス キスして でぃっきー

 緩慢に動く唇が微かに赤く色づいて、唾液がライトを反射しぬらぬらと光った。物欲しそうに強請る体液まみれの唇から目が離せなくなる。吸い寄せられるように顔を近づけていき、柔らかそうな肉に食いつく直前で動きを止めて恋人の頭を優しく撫でた。

「おっとその手には食わないぞ、小悪魔め。油断も隙もないな」

 弟の勇壮な輪郭を撫でて顎を擽ってやる。長い睫毛が大きく震え、口がはくはくと苦しそうに、あるいは酷く気持ちよさそうに開閉した。

「っ……

 声にならない悲鳴。汗と涙が飛び、狭穴から温水がわき出してしまう。途端我慢の限界を迎えたらしいジェイソンが、大きく息を吸って断末魔の悲鳴を上げた。

「はっ ぁああぁああぁあぁ〜

 ビチャビチャと、また大きな水音が響く。ビクビクと痙攣する弟の体を壁に押さえつけたディックが、山脈のような尻肉の間から吐き出された温水を覗き込む。色はついていないようなので、腸内洗浄はこれで完了だ。脱力した恋人の体を引き寄せると、体を正面にむき直させる。手すりに下がった薄いハンドタオルを手に取り、ジェイソンの足を乱暴に持ち上げた。大腿に付着した水汚れを拭いてやると、それだけで男が妖艶に体をくねらせる。彼の中心は充血しきって天井を向いており、頭頂がくぱりくぱりと口を開け、たまらなそうに先走りを吐き出していた。恐ろしいほど色っぽい薄氷がディックを見上げてくる。汗が足を伝う様がひどくいやらしい。我知らず喉を鳴らしたディックは、弟の痴態を見下ろして口元にニヤリと笑みを浮かべた。

「腸内洗浄で勃つってすごいな」

 つられるようにジェイソンも勇烈に微笑み、嘲笑うように息を吐く。

「お前だってもうおっ勃ててんじゃねぇか」

 ヴィジランテがからかうようにディックを見つめ、節くれ立った指が服のボタンに手を掛けた。気だるげな様子で立ち上がり、下半身を剥き出しにしたまま、もどかしい速度でボタンをひとつひとつ外していく。徐々に露わになる肌は汗ばんで赤らみ、誘うように照明の光を反射していた。腹筋の陰影が布の隙間から覗き、肩からワインレッドがずり落ちてくる。それを受け止めたジェイソンの腕が、緩慢な動きで布を体から引き離していく。まずは肩が露わになり、腕の関節まで布がずり落ちた。両手で布を胸元に押しつけながら、弟が踊るようにターンしてディックに背中を向ける。すらりと伸びた背筋すら淫奔な香りを放ち、赤い布が白い肌を滑り落ちていく様は、もはやこの世のものとは思えぬ甘やかで艶麗な色彩美。
 多淫なストリップを見せつけられたディックの体が熱くなる。

「すごいな、しばらくオカズに困らなそうだ」

「服脱いでんの見てるだけで興奮しちまうのかよ?」

「お前が興奮するような脱ぎ方してるんだろ」

 赤い布が軽やかな音を立てて床に落ちた。鍛えられた足がくるりとターンして、兄に向き直る。彫刻のように美しい筋肉のついた裸体だ。しなやかで雄々しく、芸術品のような形をしているのに、汗ばんで上気した肌は淫らと言うほかない。
 腹の奥に籠もる熱を感じながら舐めるように弟の体を観賞していたディックの動きが、ある一点でピタリと止まる。
 心臓が暴れ始め、興奮のせいか頭痛と耳鳴りまでし始めていた。ここまでするか、と呆れ半分嘆息を零す。
 恋人の、鍛えられた胸筋の頂きに、絆創膏が張られていた。いつもは小さく佇んでいる赤い実が隠れているだけで、全身の血が沸騰したような感覚に襲われてしまう。
 兄の反応に気を良くしたらしいジェイソンが、胸を下から掬い上げるように持ち上げた。力の入っていない筋肉がふにゃりと変形し、弟の口から湿った吐息が漏れる。両の人差し指が絆創膏をカリカリと引っ掻いていた。

「んっ あっ とれない とれないぃ でぃっきー

 指が絆創膏に触れるたびに充血した頂がテープを押し上げ、形がハッキリとしてくる。ぷくりと膨らみ、窮屈そうにしている突起が存在を主張していた。もう少しで粘着面が剥がれてしまいそうだ。
 ディックの足がひとりでに動いて、フラフラと恋人の元へ吸い寄せられていく。ジェイソンの手は胸筋を揉みしだくような動きへ変わり、不用意に近づいてきた獲物の前に体を突き出した。

「とって でぃっきー

 これに手を付ければ、もう止められない。少しでも動けば理性のタガが外れてしまうだろう。躊躇したディックの目の前で、ジェイソンの指が絆創膏をひっかいた。

「ひんっ ぁっ ふっ、ぅ

 随喜まみれの声がする。恋人の体が眼前でしなやかに蠢き、立ち上がった男性器が切なげに涙を零した。そうなれば当然、兄のほうも腹の熱が溜まり、脳裏でブチブチと理性の焼き切れる音が響くというものだ。もどかしそうに絆創膏をひっかく弟の、健気に粘着テープを押し上げる若い実に手を伸ばし、触れる直前に一度大きく深呼吸をした。
 剥がすだけならセーフだ。その先に行かず耐えきればいい。これだけ発情しきっているのだから、あともう少し我慢すれば、弟のほうが先に落ちる。
 何度も言い聞かせながら、絆創膏を軽く引っ掻いてみた。
 恋人の体が派手に揺れ、

「ひんっ

 と平素からは想像できない甘ったるい声を響かせる。仰け反った体がしなって、薄氷が天井に向けられた。焦点は合っておらず、唾液に濡れた唇が嬉しそうに淫奔な半月を描く。ディックの手が絆創膏を摘まむと、ジェイソンの口から嬉しそうな悲鳴が漏れた。

「ぁっ でぃ、っきー もっと ゆっくりぃ

 瞬間、男の脳裏で火花が散り、耳鳴りがする。視界が赤く染まり、心臓が痛みを訴えた。なけなしの理性が全て弾け飛んだのだ。全身が熱を吹き上げ、なにも考えられなくなる。激情のまま粘着テープを乱暴に引き剥がすと、恋人が叫んだ。

「ひぁっ

 赤らんだ肌の上に、愛らしい小粒が立ち上がっている。絆創膏を床に投げ捨てたディックの脳はすでになにも考えられなくなっており、ただ目の前で揺れる美味そうな乳頭を衝動的に摘まみ上げる。こねくり回して引っ掻いては、コリコリとした感触を楽しみ、もう一方の頂を口に含んで吸い上げた。ジェイソンは体を妖しくくねらせながら、ディックの頭を優しく撫でる。
 そうして、楽しげで勝ち誇りながらも、快楽に蕩けたバリトンボイスが響いた

「はい、お前の負けー

 穏やかな嘲笑が振りかけられる。子供をからかうような優しさと、絡みつくような媚びの混ざった猫なで声だ。

「やっぱ堪え性ねぇじゃねぇか……夢中でしゃぶりやがって、赤ん坊と大差ねぇな?」

 ディックの黒髪を、弟の手が撫で続ける。屈辱的な快感が男の背中を駆け抜けていき、下腹部に溜まった熱がドクドクと脈打って痛みすら訴え始めた。やわらかな胸筋に顔を埋めたまま、甘えるように頬を擦りつけて恋人の顔を見上げる。頭がぼんやりしてなにも考えられない。とにかく溜まった熱をどうにかしたかった。もう負けでいい。負けてしまってかまわないから、目の前にいる恋人の全てを貪り尽くしてしまいたい。

「いれたい、ジェイ、頼む、ヤらせて……いれたい、ジェイに、いれたい」

 うわごとのように繰り返し、反り立った男根を弟の足に擦りつける。懇願された男は優しく微笑んだまま、またディックの髪に指を通してくれた。

「これじゃあ、赤ん坊なのか盛りのついた犬なのかわかんねぇなぁ?」

 穏やかな声に似合わぬ辛辣な言葉。ディックの肌が随喜に震え、衝動のまま弟の腰を掴んだ。そのまま壁に恋人の背中を押しつけ、なだれ込むようにズルズルと座り込む。呼吸がどんどん荒くなっていくのが自分でわかった。ヴィジランテの足を掴んで乱暴に押し拡げると、ジェイソンが

「こら」

 と嬌笑混じりに兄の腕を掴む。

「しょうがねぇ駄犬だな。こいう時はゴムつけるんだぜ?」

 彼が手を伸ばしたのは、脱ぎ捨てられた赤い部屋着だ。座り込んだままの状態で服を弄り、胸ポケットを探り当てると、そこからコンドームの袋を引き抜いた。
 口で袋を破く様がひどく扇情的で、ディックがまた興奮で眩暈を起こしている間に、ジェイソンが体をよじらせ、恋人の陰茎に手をかける。見慣れた両の手が鎌首に薄膜を被せ、指の腹で丁寧に巻き下ろしていった。手慣れた作業は数秒で終わり、いままで男根に触れていたジェイソンの手が、今度はバスタブの傍に置かれたローションのボトルを掴む。足を大きく開くと、立ち上がった芯柱の下に腸肛が見えた。先程洗ったばかりの秘部に、男が手荒くローションを振りかける。

「んっ ん っ ぁ

 嬌声を響かせつつ、引き絞った布を押し拡げるように自らの後孔へ水溶液を擦りつけると、やがてぱっくりと開いた赤い洞が物欲しげに蠢き始めた。

「ほら、もういいでちゅよー

 淫靡な猫なで声は挑発的だ。弾かれた様に獲物へ襲いかかったディックは、恋人の腰を掴んで引き倒し、足の間に体を割り入れる。すでに痛い程充血した屹立を蕩けきった暗渠へ押し込んだ。熱いゼリーに体を埋めたような感覚があって、それだけで達してしまいそうだ。
 兄に押し入られたジェイソンの喉からも、すぐに息を引き取ってしまいそうなうめき声が飛び出す。

「んぅうぅ……ッ

 ローションまみれの隧道が誘うように蠢動した。つられて腰を打ちつけようとしたディックは、直前で恋人に腰を掴まれ、結局もどかしい快感だけを手に入れ思わず歯噛みしてしまう。悔しげな兄の様子を、偉丈夫が楽しげに見上げていた。

「おい駄犬、さっきから我慢できねぇにもほどがあるぜ。ちょっと躾けてやるからそのまま腰動かすんじゃねぇよ

 弟の体が僅かに蠢き、ディックの背筋をまた焦れったい官能が撫で上げる。美丈夫が苦悶に顔を歪めた。

「おい、冗談だろ……もう限界だよ……お前が、そんな、煽ってばっかりいるから、悪いんだぞ……」

 呻くような抗議にすら、ジェイソンが耳を貸す様子はなかった。

「ゲームに負けたんだろ? 大人しく言う通りにしろよ。ベイビーはおっぱいしゃぶってりゃいいんだよ

 ヴィジランテの指が黒髪の間に差し込まれ、グイと体を引き寄せられる。恋人の胸元に顔を押しつけられたディックは、言われた通り鼻先で充血した紅真珠にかぶりついた。グミのような弾力と、わずかな塩気が舌先に伝わる。音を立てて吸い付き、甘噛みしては舌で押し潰してやると、頭上から艶声が聞こえてくる。

「ぁあぁっ でぃっきー あっあっ

 舐られた胸の頭頂から、ジェイソンの全身に向けて甘ったるい痺れが走った。体全体がむずむずと快感に溺れ、下半身に熱が集まっていく。必死になって乳頭をしゃぶる兄がひどく愛おしいと思った。冗談半分に赤ん坊と揶揄したが、なんだか本当に可愛らしく思えてくるから不思議だ。密着した体同士が熱を共有し、頭にまで痺れが回る。可愛い恋人をドロドロに甘やかして、相手の望むことをなんでもしてやりたい気持ちに駆られたが、同時にわざといたぶってやりたい気もするし、思い切りいたぶられたい気もする。恋人の舌先が肌を嬲るたび、ぐちゃぐちゃに混ざり合った相反する欲望と肉体的な悦楽が脳天を突き抜け、思考が混沌の中へと落ちていく。ぐるぐると視界が回り、体を廻る痺れ毒がやがて巨大な熱量になって彼の全身を貫いた。

「あ ンっ だめ きもちいっ あっ んぁあぁっ イクッ ひぁぁあっ

 ジェイソンの腰がわずかに浮き上がり、筋肉が強ばる。美丈夫の屹立にゆるやかな刺激がもたらされるも、絶頂に至るほどのものではなかった。男の腰は依然恋人の手によって押さえつけられていて自分からは動けない。膠着状態に陥った彼を尻目に、密着した腹の下で弟の肉根が大きく痙攣した。温かい体液の感触がふたりの肌を混ぜ合わせる。素直に羨ましいと思った。胸への刺激だけで達してしまった恋人が、我を忘れた表情のまま、僅かに体を揺すってディックに刺激を送ってくる。

「は…… あぁ……

 甘ったるい吐息と共に、ジェイソンの体が艶めかしく蠢く。ディックもつられて動こうとすると、やはり腰を押さえつけられてしまった。

「まてよディッキー、まだだぜ」

 色に狂ったような目で偉丈夫が笑う。逞しい体とは裏腹に、娼婦のような表情だ。

「待てくらいできるようにならねぇとな?」

 兄の下で、ジェイソンがゆっくりと体をくねらせる。余韻を楽しむような動きだ。一度達した弟にはこのくらいが丁度良いのだろうが、昂ぶったままのディックはもどかしさに気が狂いそうだった。懊悩する兄を見て、ヴィジランテがこの上なく嬉しそうに目を細める。

「あっ んっ…… ふふっ あぁ……

 弟の淫溝が美丈夫の屹立を包み込んで纏わり付いてきた。ディックの背筋から脳天まで微弱な刺激が走り抜けていく。仰け反った喉から息を吐き出した。熱は溜まる一方で、吐き出すギリギリのもどかしさが脳裏を埋め尽くしている。どうにかなってしまいそうだ。
 ジェイソンのほうは蕩けきった笑みで兄を見つめ、いたぶるようにじらすように、あるいは味わうように腰をゆっくり上下させている。膨張しきった質量が内壁を擦り、眠りに落ちる寸前のような浮遊感と、排泄した瞬間のような開放感が全身を満たしていた。

「気持ちい…… はぁ 待て、ディッキー ステイ

 ステイ、ともう一度口の中で転がして、鬱屈とした恋人の頬を優しく撫でてやる。汗の浮く首筋へしがみつき、呻く唇へ吸い付いた。歯列をなぞって口を開けるよう促せば、兄は存外素直に受け入れてくれる。分厚い舌に自分のものを搦めて唾液を混ぜ合わせ、上あごをなぞりながら唇の感触を存分に楽しんだ。

「んっ ふぅ…… はっ…… ぁ、あ……

 美丈夫の口に直接自分の喘ぎ声を流し込むのは、目の前に火花が散るくらいの快感だ。そろりと腰を上下させれば、ジェイソンを抱きしめる兄の腕に力が籠もる。狭穴に埋め込まれた楔がビクリと痙攣したので、さすがにもう許してやったほうがいいだろう。美しいスカイブルーが、色に似合わぬ激しい情欲を宿してギラギラと光っていた。律儀に動かぬ健気な恋人の、鍛えられた腰に足を絡める。しがみつくような体勢になったジェイソンは、もう一度ディックの唇に強く吸い付いた。舌も唇も味わうように甘噛みしてから解放してやる。兄の整った口元が自分の唾液で濡れているのを見たら、また軽く気を遣ってしまいそうになった。美丈夫の艶やかな黒髪に指を通し、整った頬の輪郭を愛撫してやる。
 心臓が高鳴っていた。全身が期待に疼いて仕方がない。いつもはリードしてくれる兄が自分の言いなりという状況ももちろん楽しいのだが、ジェイソンは結局目の前の獣に虐げられたくて仕方がないのだ。
 だから早く、早く早く。
 ヴィジランテの口から飛び出したのは、歌うような軽やかな声。

OKよし

 途端、今まで動かなかったディックがジェイソンの内腑を刺し貫いた。肌のぶつかり合う音がして、衝動が偉丈夫から呼吸を奪う。

「ぁっ……!!」

 押し出されるようにして口から飛び出した空気が声帯を震わせ、呻くような声が出た。歓喜に肌が粟立つ。今まで優勢だったのが嘘のように、内側からすべて蹂躙され支配されていく感覚。自分が、狂った様に腰を振る獣の所有物なのだと実感する瞬間がジェイソンはたまらなく好きだった。首筋に歯を立てられ、鋭い痛みが走る。それすら心地よく感じてしまうのだから、おそらくジェイソンの脳味噌はもう使い物にならない。

「あっ あぁああっ だめっ りちゃーどっ ふぁっ ひぅっ イクっ イッ ひっ 〜〜〜〜っっっっ

 声にならない悲鳴をあげて、ヴィジランテの体が壊れた機械のように痙攣し始めた。腸壁が愛する男の全てを絞り尽くそうと蠕動し、ジェイソンの全身に電流が走る。脳天から魂が抜けていき、体が指先から溶け出してしまうような感覚に陥った。血流の集中した牡肉が練乳のような体液を吐き出す。開放感が男の全身を包み込み、体から力が抜けていく。
 しかし、今まで散々焦らされたディックは、恋人が絶頂を迎えたからといって責めを緩めるような理性など残っていなかった。
 脱力した弟の体を貪るように腰を叩きつけ、抱え込まれたジェイソンの足がみっともなく揺れる。肉同士のぶつかり合う乾いた音がバスルームに響き渡った。既に達して体がキャパシティを越える快楽をぶつけられて、脳味噌がグチャグチャに溶けていく。心臓が脈打ち、全身がビリビリと痺れてしまった。なにも考えられない。呼吸すら上手く出来ないような悦楽の荒波に、体も心も翻弄される。どうしていいかわからない。死んでしまう。
 気がつけば、わけもわからず大声で叫んでいた。

「ひぁあああっ ゆるっ ゆるしてっ まっ まって だめっ しぬっ しぬからっ こわれっ こわれるっ りちゃーどっ だめっ ゆるしてっ ごめん ごめっ あっ しぬっ しぬっ あっ あっ はっ ひんっ まっ まって イッてるっ イッてるからっ ゆるしっ ゆるしてっ イキすぎっ イキすぎるからっ あっ あぁっ あぁあああっ

 ディックはなにも答えない。逃がさないように恋人の肩を押さえつけ、一心不乱に穿ち続けるだけだ。今まで微弱な刺激しか与えられなかった屹立が、突くたび絶頂の痙攣を起こす肉壺に締め付けられ、息の止まりそうな歓喜が襲ってくる。体が収縮して強ばり、無意識に天井を仰いで仰け反った。大きく開いた口から知らず喘ぎ声が漏れてしまう。

「あっ ジェイ ジェイソンっ ぅっ ぁ、あ はっ う、ぅ うっ

 波に攫われて翻弄されているような、前後不覚の快感。引き裂かれるような、押し潰されるような随喜に目が回り、目を開けていられない。瞼の裏で火花が散り、脳が白く焼け付いてしまった。血が沸騰している。これ以上続けたら狂うかもしれないと思った。いっそ狂ってしまいたい。他のことをなにも考えず、ずっと恋人を貪って死にたい。思考が纏まらないまま腰を動かすと、恋人の足がディックの腰に絡みついてきた。引き寄せられるように内奥へ導かれ、蠢く腸壁の行き止まりを感じる。
 ジェイソンが鳴いた。

「ひぁっ

 ディックも腰から脳へ突きつける火柱を感じ取り、呻く。

「うぅうっ

 ドクリ、と肉杭が大きく痙攣した。薄い膜の中に白濁液がぶちまけられる。全身が脈打ったまま、真っ白な頭で射精の感覚を追ったディックは、肩で息をする弟をひどく愛しい気持ちで眺めていた。この男を犯すようになってから性交のすべてが恐ろしいほどの快感に彩られている。相性がいいのか、名器というやつなのか、ただ単に愛しているから感情が高ぶってそう思っているだけなのかはわからない。理由はなんにしろ、これほどの快感はジェイソン相手でなければ味わえないだろう。終わった端からまた欲しいと思ってしまう。
 蕩けきったアイスブルーがわずかに光を取り戻し、ねっとりとディックを見つめた。それだけで体が熱くなったので、暴走してしまう前に役目を終えた性具を引き抜く。
 ジェイソンが柔らかく微笑んだ。

「なあ、ディッキー

 擦れた甘い声。快楽の涙に濡れた瞳は朝日を浴びる冬の湖だ。充血した唇がどちらのものともしれない唾液でぬらぬらと光っている。淫奔な悪魔もかくやという濃艶な笑顔を浮かべた恋人が、ゴムを被った兄の男根を指先で撫でた。ディックの腰と大腿がビクリと痙攣し、ジェイソンがすり寄るように体を擦りつけてくる。まだ汗と興奮でどちらの体も熱く、吸い付くような感覚がした。
 弟の唇がディックの肩口に触れ、首筋に沿って舌が張ってくる。

「お前、実はまだクスリ抜けてねぇだろ?」

 媚びるような低い猫なで声。鍛えられた腕が絡みついてくる。随喜に粟立ったディックの肌を味わうように、弟が恋人の耳朶を甘噛みした。

「フェアじゃねぇから、もう一回戦いこうじゃねぇか。お前が負けたら、一週間俺の言いなりな

「えっ、おい」

 ディックの声は無視され、弟は汗とローションにまみれた足を開き、大きく開脚して見せる。その姿だけでもう体の熱がぶり返してしまった美丈夫が、喉の奥で苦しそうに呻いた。
 弟が床に転がるローションボトルを掴んで、指先に水溶液をたっぷりと乗せる。人差し指と中指が照明を反射し淫猥に光った。今までディックの雄茎を飲み込んでいた淫花は、赤い内壁を覗かせてヒクヒクと戦慄いている。物欲しそうな穴に、ジェイソンが自分の指を割り入れていった。

「あっ あぁああ んぁあ りちゃーどぉ

 ホットチョコレートのような、苦みと甘みの混ざった声がディックの脳を溶かしていく。目の前で艶めかしく動く恋人の痴態で、ペニスがまたゆるりと立ち上がった。

「ひんっ あっ りちゃーど りちゃーどぉ

 耳に纏わり付く嬌声がディックの理性を壊していく。開脚から体勢を変えたジェイソンが、今度は背中越しに後孔へ指を入れていった。四つん這いの状態になったヴィジランテが、みっともなく喘ぎながら兄を見上げる。

「りちゃーど ごむ ごむとって あたらしいの つけてやるから おねがい おねがい りちゃーど

 蕩けた声も、無様な様相も、レッドフードとしての威厳や迫力はもはやなく、快感に翻弄された獣が一匹いるだけだ。
 正確には二匹か、と思いつつ、白濁を包んだ被膜を取り去ったディックが、ゴムの口を縛って床に投げ捨てる。
 同時に、濡れた暗渠を自分で慰めていたジェイソンが、剥き出しになった恋人の屹立に吸い付いた。

「あ、おいっ ジェイっ……

 兄の制止も無視し、鈴口から残っているものを吸い取るようにジュルジュルと音を立てる。ディックが顎骨を天に向けて喉を震わせた。

「あっ あぁあぁああぁあ〜ッ

 全身の感覚が芯柱に集まっていき、体の中身がすべて吸い出されてしまうような錯覚に陥る。凄まじい官能の波がディックを襲い、声を抑えることができない。恋人の痴態に影響を受けてか、ジェイソンの指は激しさを増し、アナルからローションが飛び散っていた。連動するように兄の屹立を舐める舌も激しく動いて亀頭をいじめ抜く。性懲りも無く射精してしまう直前で、弟の口がペニスから離れた。唾液と先走りの混ざった液体が偉丈夫の唇を濡らしている。扇情的な笑みがディックの後頭部を思い切り殴りつけてきた。顔を突き出しうっすらと口をあけた弟が、艶めかしく赤い舌を出して見せる。

「りちゃーど ごむ あたらしいの とれよ 口で あける からぁ

「お前、ノるとほんとトコトン娼婦みたいなことするよな」

「ん すきだろ そういうの

「たまんないね

 既に美丈夫の陰茎は反り返って膨張していた。動くたび間抜けに揺れる屹立を、弟が物欲しそうに見つめている。まさに夢魔だ。頭がクラクラして、すぐにでも食いついてしまいたくなるが、実行してしまえば一週間ジェイソンの言いなりである。
 洗面台の下にある棚からコンドームのストックを取り出したディックは、ひとつ切り取ってジェイソンの口元に持っていった。弟が袋に白い歯を立てて、首を横にゆるりと振り抜く。破けた袋から兄が薄い膜を取り出してやり、舌を突き出したジェイソンに咥えさせた。弟が恋人の肉鉾めがけて身を屈めると、器用にペニスを口でくわえ、唇で皮膜を被せていく。根元まで被せ終えると顔をあげ、兄の唇を貪るように食んだ。お互いに随分息が荒い。ジェイソンの舌が、言葉を口内に押し込んできた。

「いつでも来ていいんだぜ?」

 甘ったるい声だ。ホットチョコレートのようにドロリと絡みついてくる。ディックは、言葉通り押し倒してしまいたい衝動をなんとか堪えた。ここでゲームに負ければ一週間言いなり。それどころか、おそらく今後一生性交の際主導権を取り戻せなくなるだろう。なんとしてでも耐えなければならない。
 ジェイソンは動かない恋人に痺れを切らしたらしく、また背中を壁につけ、大きく足を開いて自らの肛華を慰め始めた。ジェイソンの表情はすっかり発情しきり、艶めかしく体をくねらせてはディックを誘うが、兄のほうは必死に握り拳をつくって誘惑に耐えている。
 弟の嬌声がひどく苦しそうだ。

「あっあっ りちゃ、りちゃーど りちゃーどぉ

 出せる限りの媚びた声を出しても、ディックは動きそうにない。夏の空を思わせる真っ青な目がジェイソンを睨み付けていた。淫欲に滾る双眸が弟を射貫き、視線だけで犯されてしまいそうだ。殺されるかもとすら考えてしまう強い視線。兄の喉が上下し、物欲しそうに唾を飲み込まれる。その度ジェイソンの体を言いようのない強い喜びが貫いていった。
 あられもない痴態を見られている。観察されている。視姦されている。みっともなく興奮仕切った陰茎を揺らして、体をくねらせながら後孔を慰める淫乱女のような姿を、物欲しそうに睨み付けられている。
 羞恥と快感でどうにかなってしまいそうだった。

「あぁあっ みるな りちゃーど みるなぁ そんな 目で みる、なぁ あぁあ んふぁあ みてぇ そんな 必死に あっ みて 俺の こと みて リチャード おれが イク とこ あっ んぅ ひっ ふ、ぅ みてぇ みててぇ りちゃーどぉ

 ディックの呼吸が荒くなっていく。拳に力を込めたのがわかった。眦が殺気にも似た色欲を宿している。ギラついた視線がジェイソンの肌を焼き、脳味噌を犯していった。視線だけで達してしまいそうなほど気持ちが良い。ジェイソンの手が荒々しく動き、肌が粟立って浮遊感が全身を包み込む。ディックの喉が音を立てて上下すると同時に、弟の手がぷくりと膨らんだ前立腺を擦り、腰が踊った。

「あ ぁああぁあああっ

 鍛えられた総身が狂おしく跳ね上がり、硬い肉茎が大きく揺れる。しかし精液が飛び出すことはなく、はくはくと鈴口が苦しげな開閉をするだけだ。ギラついた眸子を見開いたディックが、汗ばんだ恋人の肩を掴む。

「イッたな? ジェイソン」

 低い、はちみつのような声。愛おしい音を頼りに、焦点の合わない目で偉丈夫が恋人を見上げた。真夏の青空がふたつの窓から覗いている。整った唇が加虐的な半月を描いていた。獲物を前にした肉食獣の笑み。今から食われるのだと思うと背筋が淫らな期待に粟立つ。

「イッたなジェイソン。お前の負けだ。散々イッたくせに、自分の指でこんなに早く空イキか? どっちが堪え性ないんだかわからないな、淫乱め」

「ん ぁ……

「蔑まされて感じるのか? ドMの鏡だな

 彫刻のように美しい男が、ジェイソンの腕を掴んでうつ伏せにさせた。床に押さえつけられ、腰を掴まれて尻を持ち上げられる。情けない体勢のまま、濡れそぼった後孔に熱い塊が触れた。期待で胸の高鳴る男の背中を、兄の手が軽やかに撫でていく。くすぐったさと心地よさで、触れられた部分からじんわりと温かくなっていった。

「ん……

 ジェイソンが息を吐き出して足の力を抜いた途端、肩に歯を立てられて随喜まみれの痛みが走る。

「いれるぞ ジェイソン

 可否を伝える間もなく、ローションまみれになった淫花をディックの海綿体が貫いた。
 ヴィジランテが泣くような叫び声をあげる。

「はぁあぁあああぁっ

 鋭い悲鳴のようなよがり声だ。足が苦しそうにもがくも、上からディックが押さえつけているせいであまり動けず、快感も逃せずジェイソンが凜々しい顔を苦しげに歪ませた。頬を床に擦りつけた状態で後ろから恋人の欲望を叩きつけられていると思うと、官能的な屈辱が享楽を倍増させていき、耐えきれなくなった体に力が入る。
 頭上からは加虐的な猫なで声が降ってきた。

「ジェイ、可愛いよ 最高 エロい 可愛い ジェイ ジェイソン 可愛い 愛してる 愛してる 可愛い 可愛い エロい

 熱い塊が奥の奥まで入り込んできて、火花の散るような肉悦がジェイソンを襲う。喉の奥から甘く切なげなすすり泣きが零れてきて、筋肉のついた総身が悩ましげにもがいた。

「んっ はっ ひぅっ ひゃ りちゃ りちゃーど おくっ おくすごい きてるっ きてるぅっ り りちゃ りちゃーど りちゃーどぉっ

 肌と肌がぶつかり合い、汗が散る。淫靡なうわごとがディックの鼓膜を刺激した。弟が鍛えられた背中を反らせ、悦びと快感に悶え狂う。ヒクヒクとさざなみのようにわななく筋肉がディックの硬い漲りを締め付けた。真白に輝く硬い肉の丘が、兄の大腿を撫で上げるように擦りつけられ、ヴィジランテが汗と唾液と涙をまき散らしながら声を張り上げてむせび泣く。

「アァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ

 悲痛で艶やかな嬌声とともにジェイソンの体が強ばり、助けを求めるように壁へ爪をたてた。幾度か掻きむしる動作をすると、やがて糸の切れた人形の様に脱力してしまう。

「ァ…… ぁ ひ ん……

 弟の喉が奏でる音は擦れていて、情欲まみれの淫らな声色は疲れ切っているように聞こえるのだが、生憎ディックは彼を休ませる気がなかった。汗にまみれた恋人の右足を掴み、愛おしい男の体を反転させると、掴んだ足を肩に担ぐ。そうしてまた弟の内臓を抉るため腰をたたき付けた。脱力していたジェイソンの総身が淫らに揺さぶられ、喉の奥で擦れた悲鳴が弾ける。

「ひんっ ひゃっ やめっ りちゃ りちゃーどっ だっ、だめっ しぬっ しんじゃっ あっ ふっ ぃっ ひっ あっ しぬっ しんじゃっ おくっ そんなっ ごりごりっ されっ たらっ あっあっあっあっ アァアアアアアアアアアッ

 また、弟の体が激しく痙攣した。揺れる陰茎から精液が出ることはなく、アイスブルーの瞳がグルリと回転して上を向いてしまう。だらしなく開いた口の端から唾液があふれ出し、おそらくほとんど意識がないのだろう。そんなジェイソンの腕を掴んで仰向けにさせたディックは、汗にまみれ上気した恋人の肌に生唾を飲み込み、すでに散々嬲り尽くした胸の頭頂に舌を伸ばした。

「ひぁあああああああああああああっ ちくびすきぃいぃぃいっ りちゃーどもっとぉおおお

 ジュルジュルと音を立てて吸い付いた後、舌先で勃起した小粒を押し潰し、引っ掻いて感触を楽しむ。軽く歯をてて弟の口から

「はぁああぁんっ

 という、無様で可愛らしい鳴き声を引き出してやった後、今度は舌ではなく指で両の膨らみを摘まみ上げてやった。

「やっ ひぁああッ りちゃーどぉ だめっ すき それっ それぇ すきぃっ

 嬉しそうに奇声をあげて総身を妖しくくねらせる弟は、おそらく自分がなにを言っているのか理解していないのだろう。芯柱を締め付けられる感覚でディックの目が回る。自分の下で可愛らしく喘ぐ弟が愛おしくて、滅茶苦茶にいたぶってやりたい衝動に駆られた。

「女の子みたいだな 乳首感じて掘られてそんなにイキまくるんだから 最高に可愛いよジェイ 最高にエロい この淫乱 可愛い 可愛いよジェイ 可愛い 可愛い

「はッ そんなっ そんなことっ 言うなぁっ アっ ン ふぅぅうううぅッ

 官能の悲鳴とともに、隧道が崩落するかのような肉波を起こす。強く締め付けられたディックの芯柱から脳天まで電流が走り抜け、突然太まった亀頭が熱い飛沫を吐き出し、薄膜の中に精液が溜まっていった。頭がぼんやりとして目が回るような快感。数秒余韻に浸った美丈夫は、まだ脈打つ海綿体をぬめる蟻地獄から引き抜き、汚れたコンドームを取り外す。ゴムの口を縛って床に投げると、虚ろな表情のまま余韻に溺れる恋人の腰を掴んだ。弟を床に押さえつけ、唾液にまみれた唇を舐めてやる。

「ジェイ ジェイソン

 話しかけると、焦点の合わない薄氷がうっすらとディックを見つめてくる。恍惚の表情を浮かべた偉丈夫を上から見下ろし、自然と口の端がつり上がった。

「悪いけど……まだ全然足りないなぁ

 弟も兄につられるように微笑み、甘えるように自分から口づけをせがんでくる。お互いの唾液を混ぜ合わせてジェイソンの口内へ流し込むと、太い喉がゴクリと音を立てた。
 ディックがコンドームの備蓄に手を伸ばすと、ヴィジランテが腕を掴んで制止する。

「はっ…… りちゃーど なぁ…… 俺、なか、あらって、もらって…… きれい、だから

 弟の指が、美丈夫の腕に絡みついてきた。濡れた唇がゆっくりと動き、艶めかしい音を紡ぐ。

「なかに…… だして

 この夢魔の誘いを断れる人間がこの世にいるだろうか。
 ディックはせめて笑みを崩さずにいるのが精一杯で、絡みついてくる恋人の手に自分の指を絡めて首を傾げる。

「腹壊すぞ

「ん いい いいから 壊して いっぱい 壊して

 とうとう鍛えられた足までがディックの腰に絡みついてきた。誘うように体を擦りつけられれば、今直ぐ恋人を犯し尽くしたい衝動と、この痴態をいつまでも眺めていたい願望とがない交ぜになって錯綜して暴れ回る。
 美丈夫の頬から一粒、汗が零れてジェイソンの胸先に落ちた。

「じゃあ、おねだりしてみろよ。可愛いリトルウイング

 ヴィジランテが眩しげにディックを見つめる。口元を微かにほころばせ、腕に絡みついていた手を今度は兄の首筋に回してきた。

「でぃっきー でぃっきーばーど おれの でぃっきーばーど ちょうだい なかに せーえきちょうだい おねがい でぃっきー おれの でぃっきーばーど

 汗ばんだジェイソンの腰が美丈夫を誘うように揺らめき、屹立を刺激してくる。耐えきれなくなったディックは、卑猥な懇願を披露する弟の口を乱暴に塞ぎ、あやすように頭を撫でた。

「よくできました 良い子だね

「ん ごほうび ちょうだい

 乞われるがまま、むきだしの上反りが再びジェイソンの中へと潜り込んでくる。ローションにまみれてすっかり濡れてしまった菊筒が男根をスルスルと飲み込んでいった。偉丈夫が顎をあげ、白い喉を剥き出しにする。

「ひぅああぁ……

 愛欲にまみれた小さい唸り声。すでに何度も崩壊を迎えた彼の体は、恋人のペニスを受け入れただけで再びガクガクと激しく震え、鍛えられた足がピンと伸びきってしまった。締め付けが強くなる。無視して衝動のまま暗渠を掘削し続けると、床に押しつけられたジェイソンが発狂したように首を横に振り、弟の腕がディックの背中に爪を立ててきた。

「うぅぅぅぅぅううぅッッッッ だめだめだめだめっ また またぁっ っまたイクッ イキすぎるぅうぅっ イグぅぅぅああ゛ぁ゛あぁあ゛あぁ゛あぁあッ

 狂おしいばかりの愉悦がジェイソンの中を暴れ回り、絶頂が高潮のごとく襲いかかってくる。身を守る術もなく一突きごとにオルガスムスに晒された体が何度も大きく弾んだ。どれだけ暴れてよがり狂っても、責め立てるリズムは止まらない。喉から血を吐かんばかりに泣き叫ぶ弟の頬を、美丈夫の舌がベロリと舐め上げた。そのまま唇を首筋へと滑らせて肩に吸い付くと、夢魔の足先が艶やかなアーチを描く。

「はぁあああああああああああぁあっ アァ゛ァアァア゛アアアァア゛ア〜〜ッ

 魂すら吐き出すような、断末魔のような絶叫が弾けた。背中に回されたヴィジランテの腕に力が入り、鋭い痛みが走る。それさえ色欲を煽る材料になってしまうのだから呆れたものだ。小刻みに痙攣して締め付けてくる腸壁に促されるまま再び精を吐き出すと、ガクガクと身悶えていた偉丈夫の体が崩れ落ちて動かなくなった。余韻を楽しむように屹立を内壁に擦りつけ、ゆるやかな動きで腸肛を犯す。

「可愛いよ、リトルウイング……

 自分でも驚くほど甘ったるい声で囁くと、汗ばんだ弟の頬を撫でてやる。まだ朦朧としている弟の体中に、わざと大きなリップ音を立てながらキスをした。

「僕のリトルウイング……可愛い 可愛いよ……

 はちみつのようにドロリと絡みつく、喉が焼けるほど甘い声。肩や、胸や、腹に落とされる口づけの感覚がジェイソンの朦朧とした脳をまた犯していった。声も、口づけも、あまりにも心地よく愛おしい。彼は疲れ切った腕を無理矢理動かし、兄の黒髪に手を差し込んで抱きしめた。

「そんなこと言うの、お前くらいだぜ……」

 頭を撫でてやると、今まで自分を食い散らかしていた獣が嬉しそうに目を細めるのが可愛いと思う。ひどく愛おしい。腹を空かせた肉食獣のように荒々しく、ジェイソンを快感の渦に突き落としてイキ殺す寸前まで追い詰めるくせに、波が引けばドロドロに甘やかしてくれるのだ。窒息しそうなほど強く抱きしめて、優しく口付けて、ジェイソンをイキ殺したあとは優しさで窒息死させる。
 今だって、弟の唇に吸い付いてはちみつの声を流し込み、溺死させる気なのだから。

「嫌か?」

 囁くように問われ、ジェイソンが思わず笑った。

「嬉しい。お前だから」

 しばらくその場で余韻にひたるようにキスをし続けていたふたりだったが、やがて美丈夫が恋人の体を抱き上げ、浴槽まで連れて行く。ふたりで頭からシャワーをかぶり、戯れるように泡で体を擦り合った。
 微弱な快感は疲弊した体に心地よく染み渡り、抱きしめ合った体がお互いの熱を移しあって溶け合う。
 ディックの青い目が、ジェイソンを優しげに見つめていた。

「お互い一勝一敗だし、今度決着付けないか?」

 言いながら、彼は恋人の首筋に歯を立てる。すでに体中に鬱血痕と歯形を散らされたジェイソンは、それでも刺激に反応して小さな嬌声を漏らした。

「ん いいぜ……

 激しい性交の余韻がひどく心地よい。見つめ合って再び唇を合わせると、多幸感に浸りながらどちらともなく微笑んだ。ジェイソンがディックの首に縋り付く。

「いつでも相手してやるよ

 そうして降り注ぐ温水の中、幾度目かも知れないキスをしたのだった。
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美しくなんて死ねると思うな