連休開けのお昼休み。私は原ちゃんと屋上に向かっている。
原ちゃんとドリンクの話をした翌日から、彼はお昼休み、私の教室へ特攻してくるようになった。一緒に食べていたまこちゃん、たまに居るべーちゃんには一応断りを入れ、それからは原ちゃんと食べていた。けどそろそろ私は二人ともお昼を過ごしたい。まこちゃんの猫かぶりの件はあるが、原ちゃんは話が解る人なので大丈夫、たぶん。
階段を上る。因に後ろには面白そうだとついてきた健ちゃん。悪戯好き原ちゃんが「絶対面白いから」と言ったので仲良く手を繋いで屋上の扉を開け、決められたセリフを言う。
「「オレ/私達、結婚します」」
まこちゃんが綺麗な笑顔を引きつらせ、べーちゃんが泣き崩れ、健ちゃんがあくびをした。
「知ってると思うけど八組バスケ部の原ちゃん。つまり原ちゃんは話の解る人なんだよ」
「原一哉クンでーす。つまりユーキチャンとは相思相愛の仲みたいな?」
「おめでと。なんの説明にもなってないけど、取り敢えず花宮も田辺も飯食べれば?」
健ちゃんから投げやりな祝福を受ける。まこちゃんは未だに何も喋らないし、べーちゃんに至っては原ちゃんに散々文句を言った挙げ句「クソチャラい原にするくらいならせめて瀬戸にして!」とよく解らない事を言って縋ってきた。
「だから原ちゃんは話の解「その説明じゃ解んないってば」
「まこちゃんの格好良さが解る人なんだよ」
「ぁあ゛?」
「お花中身出てんよ」
「練習試合解っちったワケ。で、あんな上手く潰せるなんて格好良いカモっつったらユーキチャン盛り上がっちゃって」
「ね」
「ねー」
「確かに上手かったな」
ほら話が解る人でしょ。
まこちゃんは目を細めて原ちゃんを見てから、ゆっくり笑った。薄ら寒い優男モードじゃない、悪いわるい笑みで。それを見た原ちゃんも少し驚いたあと楽しそうに笑った。
原ちゃんの言葉に賛同する健ちゃんは気付いていたのか、やっぱり鋭い。引いてない様子に彼らしいなんて思いつつも安心した。健ちゃんの事は気に入ってるし、まこちゃんも認めている。ラフプレーは褒められたものじゃない。もし彼が引いて離れて行ってしまったら寂しいと思った。そこまで考えてから、健ちゃんがそういうのに引く人ならそもそもまこちゃんがバスケ部に勧誘していないと気付いた。安心する様子に気付いたのか、健ちゃんがこちらを見て薄く笑う。逆光が神々しい。健ちゃんまじ仏さま。
「良いね花宮、やっぱ面白いわ。今度やり方教えてよ。NBAの試合で見て面白いと思って昔試してみた事あんだけどさ、普通にファール貰ったんだよねん」
「ふはっ、とんだクズだな。ここ最近結希使って俺の反応見てただけある」
「お花ブーメラン突き刺さってる」
素で話すまこちゃんを見て、原ちゃんがまた驚いて声を上げて笑う。
「そうだよ、私当て馬にされてて面倒だった。これからはどんどんまこちゃんに直接アタックして怒られて」
「ブフッ!」
「キメェ事言ってんじゃねーぞ」
「どこで覚えたその言葉達! ユーキ、誰が誰の誰に対する当て馬?」
「前にべーちゃん何読んでるのって訊いたら801本ってちらっと見せてくれた、書いてたじゃん。『原ちゃん先輩! アンタ、まこちゃんの気を引きてぇからって俺を当て馬にすんなよ! 正々堂々まこちゃんにアタックしやがれ!』」
「「ブフッ!!!」」
「…………クソが」
「種田って頭は悪くないのにやっぱズレてるよね」
私の回答に原ちゃんとべーちゃんが吹き出す。でも原ちゃんは私単体だと普通でも、部活中だと妙にひっついて来たりまこちゃんに特攻していたのだ。そう説明するが誰も聞いちゃいなかった。
落ち着いた原ちゃんがホモじゃないと言いながら座ったまま私と距離を詰める。手には一口サイズのロールキャベツ。
「ほい、あーん……だからオレはユーキチャンと仲良くなりたいんだっつったじゃん?」
「もう仲良しって言ってたじゃん、違うの?」
「ユーキチャンマジスゲー露骨。そうゆーとこ結構好きだわ、解り易くて」
お昼ご飯を共にするようになって、毎回こうして一度は食べ物を与えられる。最初は行儀が悪いかと思ったが拒んでも食べるまでしつこいし、なにより原ちゃんのくれる食べ物は、お弁当にしろお菓子にしろ美味しいのだ。でもいつも口を開けても中々くれない、差し出してくるのはそっちなのに。
視界の端でべーちゃんが激写しているのが見えた。
「あー……ぁ、あ!」
「そうやってずっと口開けたまんま物欲しそうにするとこは結構どころか、最高に好き」
「お前らキメェ事やってんじゃねーよ!」
「こいつらいつも教室でやってたよ」
「はあ!!?」
「んぐ……んまい。なんでいっつも中々くれないの?」
「だって加虐心くすぐらんない?」
「加虐心? まこちゃんも怒ってないで貰えば良いよ、原ちゃんのん美味しいから」
「ユーキチャン後半もう一回言って」
「原ちゃんのん、」
「黙れ!!!」
まこちゃんがぶち切れているのを見る限り、やはり行儀が悪いのかもしれない。でも原ちゃんのくれる食べ物はどれも、ほんと美味しいのだ。背に腹は変えられ無い……とは違う気もするが、そういう事。勿論今日のロールキャベツも美味しかった、ごちそうさま。