友達

「健ちゃんってクラスに友達作る予定無いの?」
「……なんなの薮から棒に」

 昨日眠れなかった私は軽い貧血でへばってしまったため、体育は途中から見学となった。男子は野球らしく、スタンドで打者として待っている健ちゃんの横に座る。他の生徒が談笑や応援で盛り上がる中、離れた木陰で一人眠そうにしている健ちゃんは大きさも相俟って目についた。孤立と言うより、独立している、といった印象を受ける。

「話かけられてもすぐ寝るから」
「話かけといて言い淀む方が悪いでしょ」
「ズレてる健ちゃんの方じゃ「言い淀む方が悪いでしょ」

 つまんなそうな、少し拗ねたような言い方。あぁ……相手が悪いのか。それは私の言葉に言い淀んでいた中学時代の人々にも該当するのだろうか。そう思うと昔の気が晴れた気がして、拗ねたような健ちゃんの様子も相俟ってふふりと笑う。機嫌良いねと頭を撫でられて、それも嬉しくて更に笑ってしまう。「花宮関連以外でも笑うんだな」「なにそれ」「初めて見た」そうかな、気付かなかった。
 お前はどうなんだと問われて頭を傾ける。

「クラスに友達作る予定」
「ないことはないよ」

 無い事は無い、のだが。
 クラスで十二人と少ない女子は仲間意識が強いようで、私以外はよく皆で固まっている。一度そのうち数人が話しかけに来たが「種田さん話した事無かったよね!」「そうだね」「いつも寝てるか勉強してるから」「そうだね」「えー……っと」「……宿題して良い?」聞くとそこで完全に会話が途切れたので宿題を再開した。そんな風に休み時間は宿題をするか本を読むか寝て過ごしている。誰も態々話しかけて来ないし、お昼休みは屋上で食べるか、たまに原ちゃんが来る。
 自分からは初対面に何を話しかけるのか解らないし、そもそも必要性をあまり感じない。そう、積極的に友達作りをしてないだけ。なくはない。

「友達できた方が身内が安心するんじゃなかったっけ」
「それはもう健ちゃんと写真撮ったから大丈夫」
「そこはもう俺と友達だから大丈夫とか言ってくんねぇんだ?」
「……あ」

 確かにそう言えばそうかも? 何かしら言葉にしようと口を開いた時、健ちゃんに打席が回って来た。マウンドにまこちゃんが居ると今更気がつく。オールラウンダーなまこちゃんは便利だ。見送り三振かと思いきや、意外にも健ちゃんは真面目にやっている。相手がまこちゃんだからかもしれない。フォアボールや見送りが繰り返されるから、読み合いでもしているのだろう。打ち上がったボールをまこちゃんが一歩も動かずキャッチしてアウト。打たされたのかな。「おつかれ」「読み負けた」「やっぱり」読み合いに対応出来る辺り、彼は野球のセンスもあるらしい。健ちゃんもオールラウンダー。
 そろそろ攻守交代じゃないのか訊けば、まだワンアウト、更に人数の関係上全五チームごちゃ混ぜにローテーションしているらしい。なんだそれ。ならもっと別の競技すれば良いのに。男子の体育教師に呆れていると「それで?」と健ちゃんがニヤリと笑う。

「なにが?」
「そこはもう俺と友達だから大丈夫とか言ってくんねぇんだ?」
「そう言えばそうだね」
「なに?」
「そうだね」
「『そうだね』じゃ解んないんだけど。そこは言ってくんねぇんだ?」
「…………もう……友達、だから大丈「誰と?」
「も、もう健ちゃんと友達だから、大丈夫」
「なに種田、照れてる?」
「て、照れてないよ」

 小さな否定に健ちゃんはクツクツと喉で笑う。
 寝汚い健ちゃんと積極性の無い私、自然とクラスで会話が成り立つのはお互いだけだ。仲良しだとは思ってた。健ちゃんが友達だと思ってくれていたのも嬉しい。嬉しいけど、改めて友達だと言うのは中々恥ずかしいなと思う。「少し顔が赤い」「そんなことないよ」「お前顔色変わらないと思ってた」「なにそれ」思わず顔を膝に埋めるとまた頭を撫でられる。確かに私はいつも血色が悪いけど顔色くらい変わる。

「丁度良かったじゃん」
「……なにが?」
「貧血で頭フラフラすんだろ? 上に血が集まって丁度良か、」
「健ちゃんアホみたいだよ」
「はは、失礼な」






 体育が終わり着替えていると女子に囲まれた。体調は大丈夫か、まだ顔色が悪いと口々に言われて少し混乱してしまう。一斉に話しかけられるのは慣れないし、注目されるのは苦手だ。部活中はマネとして部員に囲まれることはあっても、部員は一斉に話しかけたりしない。男女の差かな。
 なんとか大丈夫と言うと、おろおろしているのが伝わったのか三人残して散った。「種田さんリベンジだよ!」そう笑う彼女は前に話しかけてきた子だ。健ちゃんと何を話していたのかニヤニヤしながら訊かれる。「友情を確かめあってた……かな?」「え、付き合ってなかったの!?」「ないよ」「なら八組の原君とは!?」「ないよ」「良かったー!」おお会話が続いてるすごい。

「なんで良かったの? 原ちゃんが好き?」
「そういうのじゃなくてー。瀬戸君の方が良いなって思ってたんだ!」
「だよね、瀬戸くんの方が良い」
「私も瀬戸君推し」

 推し? 話が聞こえいたのか「てか二組の女子は皆そっち派でしょ!」と廊下側から声が飛んだ。教室を見回すと、二組だろう女子が頷いている。健ちゃんが女子と話しているところは見た事が無いが、どうやら皆に好かれているらしい。友達が好かれているのは純粋に嬉しい。そういえばべーちゃんも、原ちゃんより健ちゃんの方が良いって言ってたっけ。

「健ちゃん寝てばっかだけど良いの?」
「でも種田さんとは話してるでしょ?」
「他にも話しかけてる人いるよ」
「すぐ寝ちゃうじゃん?」
「瀬戸君種田さんが起こすと起きるし」

 それは私が最終兵器──花宮ボイスを使っているからだ。毎回お昼休みに頑張って起こすのがあまりに面倒で、部活中まこちゃんが健ちゃんを起こす声を録音したものを流して起こしている。一度まこちゃんを真似して低い声で起きろと名前を呼んだ時は、飛び起きたと同時に顔面を鷲掴みにされた。驚いたと言うが私の方が驚いた。母親に似過ぎて怖いと言うが私の方が怖かった。いつも鷲掴みにして起きるのかな。瀬戸母の顔面が心配。
 「愛だよ」「愛だね」手を止めて頷きあう彼女達に、まこちゃん愛されてるんだなと思う。一組の女子が出て行くのを見て三人は急いで着替えを再開した。

「瀬戸君と種田ちゃんは萌える」
「でこぼコンビは二組の癒しだよ。身長差萌え最高」
「でこぼコンビ?」
「瀬戸君クラスで一番大きくて種田さん一番小さいでしょ? だからでこぼコンビ!」
「なるほど?」

 着替え終わったよ、誰かの声に男子がぞろぞろ入って来た。「好かれてるね」席に着く健ちゃんに少し誇らしい気持ちで言うと、いつも鋭いのに頭を傾け不思議そうにしている。二組の女子は皆健ちゃん派だそうだと説明すると、

「ちょっと違うよ種田ちゃん、二組女子はでこぼコンビ推しだから」
「「「「「そうだよ!」」」」」

 話を聞いていたらしい女子全員が強く声を揃える。男子が驚き、健ちゃんがまた頭を傾けた。

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