早速授業が始まった。覚えていない筈の記憶が、初回授業ってもっとゆっくりしてるものじゃないの? と言っている。霧崎の授業は速かった。高校だからなのか霧崎が進学校だからなのかは解らないが、午前中全ての授業で宿題が出た辺りやはり進学校だからだろう。
驚いたのはどの教師も簡単な自己紹介の後「課題とテストさえこなせば文句は言わない」との趣旨をはっきり告げた事だ。「いくらサボっても良い、出席による内申点はほぼ無いからな」担任はもっと露骨だった。とことん実力主義……でも時折授業をサボる私には好都合だ。きっと高校でもそれは変わらない。隣で堂々と寝ている彼にも、どの教師も授業開始すぐに注意してたが全く起きない様子にすぐに諦めていた。
そして諦められない私は、現在とても困っている。
「お昼だよ、ご飯食べれないよ」
お昼休み残り十五分。
窓際最後尾の少年はお節介なのかまたしても必死に彼を起こしていた。だが一向に起きない様子に何故か私に起こしてあげてくれと頼んだのだ。「ほっとけば?」「でも四限凄くお腹鳴ってたから」つまり煩かったようだ。諦めたいが窓際少年はしつこい。そして一緒になって起こしてるがやはり起きない。割りと強く肩を叩くが大きな彼には効かないようだ。最終手段と昨日のように「ねぇってば、」アイマスクを掴む、
「起きた」
と、その手を掴まれた。それは止めてくれないかと言うが、ならさっさと起きて欲しい。彼では無く何故か窓際少年にお礼を言われた。「宿題出た?」「出たよ」「どこ」教えていると窓際少年はやっぱり仲が良いんだね、と笑う。
「二人は中学一緒「違う」
「ッ……えっと前から友達「違う」
「ッな、……あー…………じゃぁ入学式が初対面だった「うん」
「…………アッハイ」
眉を下げて私を見られても困る。なんだろう。
「この人すごく困ってるみたいだけど。えと、「瀬戸な」
「そう瀬戸健太郎。健ちゃんこの人に何か「してない」
「そう。緊張? まぁ健ちゃんおっきいもんね、サイズと態度」
「えっ、あっ、いやっ。そ、そうじゃなくて。大丈夫……」
窓際少年のキレの悪い返答。人見知りなのかと思ったが、それなら寝ている人間を態々起こしたりするだろうか。頭を捻っていると、ご飯を食べながら健ちゃんが笑う。
「種田だっけ」
「うん」
「お前ズレてるって言われない?」
「さぁ? 健ちゃんはズレてると思「うん」
「そう。例えばどこ「色々と」
「具体的に」
「……そうだな。強いて挙げるなら、俺が話しても普通なとことか?」
変な事を言う。健ちゃんと話していて普通だとズレているのか。私達を仲が良い表した窓際少年に、私はズレているかと訊くと、彼は言葉を詰まらせ眉を下げた。「なら君は健ちゃんと話すと普通じゃないの?」質問を重ねると更に眉を下げた挙げ句下を向いてしまった。私達は彼を困らせてばかりだ。
健ちゃんの方が私と話しても普通だと思う。中学時代は皆、私の言葉に落胆したり眉を潜め言葉を詰まらせるばかりだった。それは以前の私や、彼らが持つ記憶喪失のイメージと比較してそうなるのだと思っていた。だが窓際少年の反応からすると、もしかしたらそれとは別に私がズレていて、言葉を詰まらせるような返答をしていたからだったのかもしれない。それなら、そんなズレている私と普通に話す健ちゃんも同じくズレているのかもしれない。
「健ちゃんはズレてるって言わ「あまり言われないかな」
「じゃぁ私もズレてないと思うよ」
「なんで?」
「ズレてるかもしれない私と話しても普通な健ちゃんがズレてないから?」
「種田と話すと普通じゃないの?」
「そうみたい」
「なら俺もズレてるかもしんないね」
「なんで?」
「俺と話しても普通なズレてる種田と話しても普通だから?」
なんだか頭がこんがらがって来た。
「……ズレてるとだめ?」
「いや? 俺は退屈しないよ」
「退屈しないんだ」
「あぁ、退屈しない」
笑う健ちゃん。なら良いや。