母親

 無事体育委員からOKが下り、借り物競走は2位だったので3点入った。その後のべーちゃんは『犬』を引いてザキちゃんを連れ、怒る彼を足蹴にしながら「暴犬超注意、噛みます」と言いきった。ぎゃんぎゃん吠える彼を目で制して、お手お座り伏せジャンプをさせ合格、見事1位である。これでまた一歩、プリンに近づいただろう。

「結希お前解ってんだろーなぁ……?」

 横を見るとそれはもう綺麗に笑うまこちゃん。まこちゃんって美人だよね……美人なお母さんか。私のお母さんは眉毛が少し特徴的な美人と、巨乳の可愛い子ちゃんと、胡散臭い眼鏡の妖怪である。一人だけ人外。浮かんだ考えにクスクス笑っていると、まこちゃんは手を出そうとしてグッと堪えた。退場門を出て一年の場所に戻る道は上級生のクラステントの後ろ、先程から「イケメンお母さん!」「吐くなよー」と声が飛んでいる。旗取り少女とそのお母さんは微妙に注目されているのだ。そんな中優等生の優男・花宮クンが女子を軽くであっても叩く訳にはいかない。

「今考えるとリタイアしても何もおかしくなかったね」
「まーな。高校生にもなってガキの体育祭、しかも平日開催を見に来る親なんざ少数だろ」
「そうだね」
「そうだね、じゃねーよったく……」
「まこちゃんって結構私に甘い、ちゃんとお母さんやってくれたし……まぁ花宮クンは優しいからね」
「お前それ解っててやってんなら俺よりタチ悪ぃぜ?」
「まさか」

 そんな訳無い。あの時は勝敗もお題の意図も、全ての考えがふっ飛んでいた。競技に関係無く『家族』を探していた。だからきっとまこちゃんが私に甘くなくても彼を呼んだし、祖父母が来ていたとしても彼を呼んだだろう。
 ふっと浮かんだのはべーちゃんの冗談と雛の刷り込み。だがそれらを抜きにしても、確かに友達や先輩と言うより関係性としての近さは『家族』と考えた方がしっくり来るかもしれない……まぁ他にこれ程長く濃く親しい人が居無いから、比較対象が無いんだけど。

「ほんと。ノってくれて嬉しかった、ありがと」
「お前が無理矢理連れ出したんだろ」
「そうだけど。言葉も。正解して嬉しかった、よく解ったね」

 すると何も言わずに荒っぽく頭を撫でられた。
 覚えてるなんて思わなかった。私だって自信が無かったのだ。吐きそう、と思いながら起き上がって、かけられる声にただただ気分の悪さを告げた。

「俺なら解るっつっただろ……」
「でも忘れるよ、普通」

 それは口から出任せのような、そうだったら良いなって希望で。二人に会いに行った時も中々酷い言葉をかけられたし、覚えてないと思っていた。数年前に介抱した人の呟きなんて覚えてないのが普通だ。だがまこちゃんは自分の頭を指差しながら、私にしか見えないように悪い顔で舌を出す。

「ココの出来が違ぇんだよ、バァカ」






 一緒にご飯を食べようと荷物を取ったまこちゃんと二組のクラステントへ戻ると、凄い勢いでクラスの女子に囲まれた。まこちゃんは質問の猛攻を華麗に交わしている。場は彼に任せて健ちゃんをご飯に誘っていると、その様子を見てやっと彼女達は散って行った。一息ついたが、今度は爆笑する原山崎田辺の八組トリオがやって来た。

「花宮ママお疲れー。お母さん、まさかのお母さん!」
「ちょ、原やめ、ママって! いやお花はお母さんなんだけど、流石に笑う!」
「花宮お疲れ……ブフッ!」
「お前らも後で覚えとけよ。特にナベと一哉……競技中も随分と楽しそうだったよなぁ?」

 ダイヤモンドダスト輝くキラキラ美しい笑顔に固まる八組トリオを見て、子供を叱るお母さんって怖いよな、と思っていると流れで私も睨まれた。子供の心中を察するなんて流石お母さん。
 今日は屋上が閉まっているので仕方なく学食へ向かう。「そういえばなんで屋上っていつも人いないんだろ?」「人気そうなのにな」「俺がした」答えるまこちゃんは一体何をしたんだ。入学間もない、健ちゃんを部に勧誘した時には既に誰も居なかった。ほんと何したんだろ、知らぬが仏。

「お前……なにそれ」
「肉うどん「そこじゃなくて。七味入れ過ぎ、蒙古湯麺中本かよ。食堂の七味空にするつもりなの?」
「あぁ美味しいよね、中本」

 唐辛子独特の甘さが癖になる。有名激辛ラーメン店の魅力を語るとドン引きされてしまった。酷いな、美味しいのに。

「俺、二組の女子に何かしたかな……」
「なんで?」
「あんなに女子に敵意向けられた事って初めてで……よく解らないんだよ」
「お花モテ宣言? 自慢? ミサワ?」
「花宮って男の敵? 自慢? やだウザーイ」
「ん……?」
「ッザキが! ザキが言ってるの!」
「言ってねぇよ!」

 学食なので優男モードのまこちゃんが溜め息と共に溢すので、いつかと一昨日の体育の着替えの時の話をする。「花宮さんにじゃなく、花宮さんを連れてった私を怒ってるんだよ、話が違うって。たぶん?」すると健ちゃんが納得した。曰く、借り物競走の間、女子が私とまこちゃんを指差して良いのかと問いつめてきて、何故か慰められ、そしてお母さん発言に安堵し「これからも種田さんと仲良くね」と言われたらしい。謎だ。言われ無くても私は健ちゃんと仲良くする。

「え、二組女子のオレへの扱いおかしくない?」
「二組の女子原への扱い超解ってんじゃん」
「健ちゃんが好かれてるんだよ。二組の女子はでこぼコンビ推「だからそれなんなの」
「クラスで一番大きい健ちゃんとクラスで一番小さい私の事で、二組女子の癒し? 萌え? だって」
「あぁ解る。あれだろ、天空の城にいるロボット兵とキツネリス的な。確かに癒しっつーか……か、可愛いよな」
「「ザキキメェ」」
「ッはぁ!?」
「ヤマ、うちの子をそそのかさないでくれないか?」
「ちょ、花宮ママっブフッ!」
「「ブハッ!!!」」

 悪ノリでお母さんキャラをするまこちゃんに八組トリオが吹き出す。口に手をあて俯いてぷるぷるしている、きっと掌は悲惨だろう。「汚ぇ」まこちゃんが小さく呟く。途端テーブルの下で思いっきり足を蹴られた。皆蹴られたんだろう、そこかしこで詰まるような痛みを堪える声がして、八組トリオが俯いてぷるぷるしている。何故私まで蹴ったのか。

「良かったね健ちゃん、でこぼコンビ可愛いって」
「俺ロボット兵なの?」
「もしかして途中で起こすと腐ってやがったり「しない、しかもそれ微妙に違う作品」
「「「ブハッ!!!」」」

 また吹き出す八組トリオにまこちゃんから見えない蹴りがとんだ。だから何故私まで蹴るのか。

 午後も盛り上がったらしい体育祭だが、出番も興味も無い私は健ちゃんの背もたれをしつつ寝て過ごした。
 勝敗は惜しくも白組の勝利だった。クラス縦割り対抗は僅差で一組、クラス対抗は二年一組である。だが旗取りで私が健闘した事により、担任は自分の教科だけこっそり期末考査対策解説プリントを配ってくれると言う。そんな物よりプリンが欲しくて悲しみに暮れていたが、まこちゃんがこんな甘ったるいもの食えるかと私に恵んでくれた。お母さんありがと。

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