「スポドリやゼリーはここに置いとくから目ぇ覚めたら食えよ」
声が聞こえる。何を言っているか解らないけど、呆れた無愛想な、でもどこか柔らかい声。掌から何かが離れゆく感覚に、目一杯力を込めて握る。これ、はなしたくない。
「ほら、いい加減離せ」
握りしめていた何かは簡単に離れて行った。やだよ、まって。
「はぁ……あークソ……ったく、これで我慢しろ」
少し戸惑っている気配は、本当は優しくて、本当は私を大切に思ってくれていて、だけど不器用だからだ。しってるよ、大丈夫。普段は仕方無いと解ってるから、こうやって時々心配して側に居てくれるだけで私は充分なのだ。だから、おねがい。
(ごめんなさい。いい子にするから、ちゃんとする……だから今だけ、あとちょっとだけ──……)
そんな我が儘、私なんかが言って良い訳無いから言わない。だけどどうしても今は近くに居て欲しくて、言葉の代わりに何故か妙に重い手を必死で持ち上げる。すると、むに、と別の物が顔に押し付けられ強制的にそれを握らされた。額に貼り付く不快な髪が撫でるように剥がされ、冷たく爽やかな物をぺたりと当てられる。驚いて開こうとした瞼は、低い熱で伏せられた。その心地良い温度に、意識も共に伏せていった。
∇ ∇ ∇
「種田さん親戚の子の風邪伝染っちゃったのかなぁ……」
よく結希を気にかけている委員長の呟きに、鞄から昼飯を出そうとしていた手が止まる。
「石野違うって。ユーキが面倒見てた風邪の奴は親戚じゃないってば──……」
──まぁ、伝染されたのは絶対だけど?
訂正する愉しそうなナベの声に舌打ちを堪えて、今度こそ鞄から昼飯を出す。隣の席の康次郎がこっちをガン見してきて心底ウザイ。見てんじゃねーよ、その死んだ目潰すぞ。
俺が欠席している間の面倒な会話の結果だろうか。なんで親戚の『子』で、なんで『面倒見てた』事になってんだよ、ふざけんな。動くのが億劫で結希に連絡はしたが来てくれと言ってはいない、飯やらなんやらも色々言ったが作ってくれとも言っていない。俺は別に何も頼んで無い……唯一運べとかなんとか言った気がしなくもねーが熱で頭バグってただけだウイルスに免疫機能が暴走した結果なだけであって俺じゃない白血球のせいだからノーカンだろ、そう……ノーカンだ。
兎に角、勝手に結希が来てしただけで、面倒を見られた事にされるなんてたまったもんじゃない。寧ろ普段俺が面倒見てやってると言っても良いくらいだ。
「ねぇお花ぁ、」立ち上がろうとするとナベに呼び止められた。にこやかに対応するが、彼女の取って付けた気持ちの悪い猫撫で声に、経験則は嫌な予感を告げる。
「今日屋上行くのやめとけばぁ?」
まだ梅雨入りはしていない筈だが、窓の外は今日も朝から生憎の雨だった。とは言え屋上には小さな温室があるので、ここに居てこの女にとやかく言われる事と比べれば被害はゼロに等しい。「問題ないよ」さっさとこの場を離れるに限る。離れる、だ。決して逃、
「えぇーなんだよ逃げんなよぉ」
「ッ、」
に、げてねーよ腐れクソ女……!!!
「はは、なんだよそれ」
「逃げるのか花宮」
「いやだから な ん だ よ そ れ 。どうしたんだ康次郎まで、ははは」
「田辺ってほんっとイイ性格してんね」
「フフ、アリガトー健チャ「それ種田の真似? 気っ……色悪ぃんだけど」
「溜め過ぎだぞデカ仏。寂しがってる誰かさんのために態々代わりやってやったんだよ」
「はは! 今日こーゆーノリならオレ教室で食おー。っつーワケでザキ、イチゴミルク」
「俺をパシんじゃ「でもお前購買でしょ? 俺ダイドーのブラック、ホットね」
「みぞれ梨」
「アタシ午後ティーレモンで」
「テメェらなぁ!」
「「「「よろしく」」」」
「ッあーもー仕方ねぇな! 花宮はどーすんだよ……あ? おい花宮要らねぇのか? おーい聞こえてっか?」
逃げる? は? この、俺が? これはアレだ、戦略的撤退だっつーの!
「まー落ち着きなよ、おは、」
「落ち着いてるけど? 聞こえてるよヤマ騒がしいなアイスコーヒー」
「お、おぅ……あー、メーカーとか、」
「高々缶コーヒーだブラックならなんでも良い早く買ってきてくれる?」
(……本性ハミ出てんぞ大丈夫か花宮)
「ふーん? なら良いけど。ほら外超大雨じゃん? 温室入るまでにビッショビショになるっしょ。アンタなら余裕でまた風邪引きそうだし」
(殺す)
「田辺が花宮の心配をするなんて気味が悪いな」
「だってお花が風邪引いたらまたユーキ心配しまくっちゃうじゃん……お? それともまた風邪引きたいんですかぁ? ユーキに心配されたいんですかぁ?」
「ははは、さっきから本当にどうしたんだよ。結希が心配で苛々するのは解るけど、俺に当たらないで欲しいな」
「あぁやっぱお花も解る? 『結希が心配で苛々する』気持ち解る? お花も『結希が心配で苛々する』んだぁ、そりゃそうだよねぇ流石お母さん」
(マジでぶっ殺す……いや死ね、勝手に逝け。そーゆー意味じゃねーよ、早く死ね)
(お優しい花宮クンじゃ否定出来ないっしょ? ま、どの道……ねぇ?)
「まーまー花宮、マジメな話雷も鳴ってるし危ないっしょ」
「……そうだな」
「この雨なら食堂も超混んでんだろうねぇ? 良かったねぇお花、今日珍しく弁当でさぁ」
「…………ソウダナ」
マジでウゼェ。
今日に限って弁当がある。“──真、今日ママ遅出だから張り切ってお弁当作っちゃった”あの若作りババア、タイミング悪過ぎるだろーが。オ天道サマとやらもタイミング悪過ぎるだろーが。「花宮君機嫌悪い?」「娘ロスで?」「女王様の片鱗ktkr?」「ちょ、今日教室で食おうぜ、俺らも弁当だし」委員長他五名もタイミング悪過ぎるだろーが。つーかふざけた理由も呼び方もやめろ来てねーよ、外でずぶ濡れになって食ってろ。
そこでふと気付く。一時的でもナベから離れる口実になるし、それに……丁度良いか。
「ヤマ、やっぱり俺も行くよ。一人じゃ大変だ、気付かなくて悪かった」
「お、おぅ……あー、サンキュ?」
(なんで疑問系なんだよ)
「は、花宮サンキュ! 行こうぜ!」
「ブフッ! お花ザキよろしこー!」
「全く、ナベは人使い荒いなぁ……石野さん達は良いの?」
「花宮くんイケメンかよ知ってた」
「花宮君やっぱり優しい……! パシるなんて滅相もない、ザキ君に頼むよ!」
「おい!」
「あはは、冗談だって」
バスケ部やナベ以外からの雑な扱いも板についたヤマを横目に、憎たらしいブス面のナベに苦笑を返す。「女王様の片鱗は気のせいか」「でも私の萌レーダーが微妙に反応して……欲しい」「それ願望じゃん」一応委員長達からのふざけた疑念は晴れたらしい。ナベと言いオタク女の嗅覚は厄介だ、反応すんな。
購買へ行ったヤマを自販機の近くで待ちながら主将のLINEを返し、次に結希へ連絡する。思った通り早い返事は丁度目が覚めた頃だったのか、雨で眠れないのか……それとも。
《飲んだ》
《飲んだ、じゃねーよ。薬だけじゃ胃が荒れんぞ、飯も最低限食え》
《ちゃんとウィダーも飲んだよ。増田のりんごジュースも。おいしかった、ありがと》
(ならまぁ……増田? あぁ母さんに持たされたやつか。味覚あんなら熱少しは落ち着いたのか……?)
「お前もなんだかんだ心配性だよな」
顔を上げると両手一杯に飲み物を抱えたヤマがニカッと笑っていた。能天気な笑顔がウゼェ。「心配性じゃねーよ」別に、これはそんなんじゃ無い。結希は風邪を引くとまず食事から切り捨て、当然治るものも治らず長引き、俺はナベの小言なんかの結希不在による不快に晒され続ける。つまり巡り巡って俺自身の為であり、例え心配性だとしても自分への心配であり結希の心配なんてしていない。別に、違う。
なんて、何となくつらつらと考え納得しているとまたヤマが明るく笑った。「やっぱ今のは種田か」彼の事だからカマを掛けた訳では無いだろうが、結果的にそうなった事実に苛つく。
「ッ別に……誰でも良いだろ」
「熱下がったって?」
「だから、」
「あ? 違ぇのか? 絶対そうだと思ったんだけどよ。まぁ良いわ、早く戻ろうぜ、飯メシ」
「…………なんでそうだと思った」
ヤマは言う程バカではないが勘や察しはからっきしで要領もあまり良くない、バカ正直に正面突破する単純バカなタイプだ……なんだ結局バカか。そんな彼に結希が休んでいるタイミングだからだとしても「今のは」とピンポイントで言い当てられた事は癪だし予想外だった。
「ん? なんでってなんでだよ?」
「いやなんでだよ。訊いてんのはこっちだろ、質問で返すなバァカ」
「うぐっ。えーあー……なんでだ?」
「……」
「待てその目やめろスゲェ傷付く。あーっと……ほら、だってお前機嫌良さそうだったし」
「は?」
「安心してそうっつか軽く笑ってたし? 笑ってはねぇか?」
「……は?」
「兎に角そういう雰囲気だったんだって。だから種田の熱下がったのかと思ったんだけどよ」
安心? 笑ってた? そーゆー雰囲気ってなんだ俺はんな表情晒してねーよ! バカに聞いた俺がバカだった……と思いたいが、過去今吉やナベに言われた言葉が頭を過ぎる。
“花宮そわそわし過ぎ、ア ン タ が 伝染しやがった只の風邪だっての! まーその様子見て安心したけど……アンタさ、あの子一人だしお見舞い行ってやってくんない? もしかしたら『今の』ユーキも…………何でもない忘れて。じゃー花宮改め、お花! 認めてやるから宜しく!”
“はは! なんや自分、本人居らなんだらそーゆー感情も結構出るんやなぁ、いやー良いもん見せてもろたわ。ちゅうわけで結希にもその顔見せに行こか! ええやん、たまにはマイナス以外の本心も素直に伝えんと流石に嫌われるで〜”
「あ、花宮の分買ってねぇからな。コーヒー自分で選べよ」
「チッ! クソが!!!」
「えっ!? んなキレんなよ!?」
休憩に入りベンチへ乱暴に座り込む。苛立ちでプレーが乱れるような事は有り得ないが、それでも軽い筈の練習に矢鱈と疲れを感じた。
全く今日は散々だ。部室の扉を開けた途端既に来ていた部員は短く悲鳴を上げ顔を逸らし、今も三年は(軽く怯えながら)遠巻きにこちらを窺っており、自主的にマネ業を手伝いに来た中々使えるバカ真面目とバカ敬語の一年二人は俺の一挙一動に無言で身体を跳ねる。そうさせている俺の自業自得だと解っているが、どいつもこいつも鬱陶しかった。舌打ちの回数が増えるのも仕方が無いだろう……それで周囲が更に萎縮すると解っていても。
「花宮、顔が怖過ぎるし目が死んでるぞ」
「煩ぇよ口開くな一生黙ってろ」
「本当に機嫌悪いな……解ったよ、今日くらいは努力しよう」
「ガッツリ返事するとか早速出来てねぇじゃねぇか。つか目が死んでる奴が言うと説得力二倍だな」
「んで二倍イラッとくんねー」
「……お前らの発言で俺は四倍イラッと来た「お前元々キレてなかったんだから倍にしようがないだろ」
「なぁ花宮、今日は少し早いけどもう切り上げるか? って主将が」
「何で松本伝手なワケ?」
「同じ二年だからお前行けって。雑ってか酷くね? 俺もビビってんのによ「それ面と向かって言うって松本やっぱ図太いよね」
騒がしい健太郎達にまたしても舌打ちが零れた。
ナベから離れたにも関わらず、まさかのヤマからの指摘で不快感を味合わされた昼休み。《あれ? マジ逃げ?》《お花マジ逃げ?》《あっユーキ居ない教室には戻りたくないかぁそっかぁ》無駄に時間を掛け教室へ戻る足を、腐れクソ女は怒涛のLINE連投で急かした。その後残りの昼休みと五限の休み時間、そしてショートホームルームと、彼女は直接的にも間接的にも(風邪を引いた結希の親戚のガキ関連で)俺に攻撃を続けた。いつもこうだ。俺が風邪を引くと次に結希が風邪を引き、ナベが俺を攻撃する。
(あの女、マジでウゼェ……し、意味解んねぇ)
終始猫撫で声に満面の笑みをたたえたナベは、瞳の奥で怒りの炎を隠す事なく燃やしていた。いつも、こうなのだ。
俺は人が他者を貶めるのは、優越感や爽快感、開放感を味わいたいがためだと考える。よく言う「愚痴を吐いてスッキリする」がその一つだ。自身が不調なら尚の事、他人を自分以上の不調に陥れ嘲笑う──要はストレス解消が目的。脊髄反射的罵声なら話は違うが、ナベの場合延々と続く。なじり、そしり、煽り、まんまと俺を不快にさせる癖に、彼女は沸々と静かに怒りを増幅させるのだ。
「今日田辺えげつなかったな。アイツ絶対敵に回したくねぇわ」
「なんつーか田辺も一応女の子なんだねーって感じ「どの辺がだよ」
「ねちっこさだろう。と言うかあれはアレじゃないか、生理だろ」
「あー……「山崎そこ取り乱さないんだ? そういや姉が居んだっけ」
「セーリかも知んないけどさぁ? ムカつくんなら花宮に絡まなきゃ良いのにさぁ?」
一哉の意見は最もだ。俺にグダグダ言いながら自分を煽るなんて、何の為に俺を攻撃してんだか。
「イライラすんの目に見えてんのに、文句言いたくて態々近づいてさぁ? こう、そーゆー感情に振り回されてるバカな所が、うわぁ如何にも女の子ってカンジで──……」
──引く。ドン引きなんですけど。
近くの引き戸から外へ出た一哉は、先程口に入れたまだ新しいだろうガムと共に言葉を吐き捨てた。「何でお前まで苛ついてんだよ……」「べっつにー。ユーキチャン居なくてつまんないから?」新しいガムが放り込まれた三日月は、いつもと上下逆さまに弧を描いている。
「へぇ、女好きだと思ってたけど実は女嫌いなんだ?」
「いや? 女の子って可愛いし柔らかいし気持ちイイし好きだぜ? ただ感情に振り回されるバカばっかでほんと無様だなーって嗤えるだけ」
「お前が簡単に告白を受け入れる割に、ヤったらすぐ振る理由が解った気がするな」
「こっわ! そんな奴ばっかじゃねぇだろ、八つ当たりじゃねぇか」
「えー? でも自業自得じゃん? ちょっと構ったら勘違いして告って来て、付き合って束縛ウザくて避けたら浮気疑ったり『私の事好きじゃないワケ!?』『付き合ったら変わると思ったのに』みたいな子多くない? あっ、ザキにはワカンナイよねんメンゴメンゴ☆」
「ウルセェよ!」
「……なら付き合わなければ良いだろ」
「そこは告られたオレが決める事じゃん。なのに勝手に期待して勝手に幻滅してヒスって……そりゃ振るっしょ」
「「「「……」」」」
「え、なんで無言「まぁ振るわなって」
「それな。納得した……お前……女運ねぇんだな」
「寧ろ付き合う前からそう言うタイプかは大体解るでしょ。態と?」
「原が女をそうさせてるんじゃないか?」
「さぁ? でも結局振られるよーな事になる方の自業自得じゃん」
これも一つのストレス解消だろう。一哉にとって多くの女は煩わしいもので、それを手酷く振って嗤うのだから。果たして彼が関係を持った女が感情に振り回されているのか、彼に振り回されているのかは解らないしどうでも良いが。
「鬱屈した恋愛観ってか女性観ってやつ? 初恋か家族で苦労でもしたの」「うわー瀬戸ウザいんですけどー」ニヤリと知識欲を満たそうとする健太郎に、一哉は図星なのかキレ悪く返す。
「とにかく今日の田辺は無かったわ……一方的に弄られる花宮はウケたし良いけどねん」
「ウゼェ黙れ殺すぞ」
そして無理矢理に話を切り上げ、ナベの話題へと戻した。
あの状態のナベに言い返したり無視は勿論、それとなく聞き入れても効果は無いのだから仕方ない。マジで意味不明。そんな彼女の怒りを鎮める方法はただ一つ、
(さっさと治せよバカ女)
結希の復帰だ。
普段はロッカーに入れたままのスマホ、今はベンチの一角に鎮座するそれをちらりと見るが、連絡は昼に途切れたままなんの通知も無い。いつもこうだ、これも、いつもの事。どうせ携帯を触る事も起き上がる事も、眠る事すらも出来ず、うだうだぐだぐだぐずぐずバカな事を考えているんだろう。気にする必要は無い。きっと今回だっていつもの、なんて事ないただの風邪だ。
(……ガキじゃねーんだ、マジでヤバけりゃそれこそ連絡して来んだろ)
湧いた何かを飲み込む為、ボトルを咥え強く握る。勢い良く口に広がるドリンクだけはいつもと違い酷く甘かった。だからだろうか、言い様のない何かが胸にまとわり付いた感覚がして更に全身が気怠くなった。なのに気分は落ち着かず小さく浮沈みを繰り返す。不快だ、無性に苛々する。
「……おい、なんだよコレ。飲めたもんじゃねぇ」
「えっ!?」
「あれ? スミマセン渡し間違えました?」
人が苛ついてる時に凡ミスやらかしてんじゃねーよ、やっぱこの一年使えねーかも。
目の前の二人にも、少しでも二人が使える人間だと判断した自分にも、未だ腐れクソ女の話題を引き摺るヤマ達にも、機嫌の悪さを残す刺々しい一哉にも、俺の様子に気付いて更に距離を取ろうとゆっくり後ずさる三年にも、喉に絡みつく甘ったるい余韻にも、胸に纏わりつくウザったいナニカにも、兎に角全てに腹が立った。何でも良いからぶっ壊して、ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。全て潰して取り払えば、膨らみ続けるこの不快も一緒にどうにか出来る気がした。
──そうやって苛立って苛立って苛立ち過ぎて。何故一年がマネ業をしているのか、何故ドリンクの味がいつもと違うのか、何故ナベが鬱陶しかったのか……全ての元凶が何なのかが頭から飛んでいた。
「まさか! ボトル違うのに有り得ないよ」
「他にも居んじゃん、アクエリのボトル」
「アクエリでこの印が花宮先輩だけなんだよ、もう」
「じゃ、分量ミス?」
代わりを寄越す事すらせず、言い合いを始めるバカ一年コンビ。駄目だコイツらじゃ話にならないと、文句を言う為口を開いた。
「おい、結希」
許容を超えた鬱積を、有りっ丈の苛立ちを、思い切りぶつけてやろうと。
「えっ」
「お、マジすか」
「あ゙ぁ? なに………………ッ!」
失言と理解した瞬間、自分への怒りか、後悔か、自嘲か……それとも羞恥か、ぶわりと頭と鳩尾に火が着く。“──短気は損気やで”ニヤニヤ底の見えない腹黒い笑顔が頭を過ぎった。
「花宮今のガチ!? マジなのガチミス!? やば、ちょ、お腹痛い、マジウケるんですけど! ユーキチャンロスで思わず名前呼ぶ花宮! ブファ!!!」
「と言うかこれはアレじゃないか、教師を呼ぼうとして『お母さん』と言ってしまった的な、ブフッ!」
「や、やめろって古橋、種田は娘だろ母親は花宮の方だろーが! これ以上笑かすな!」
「クッ、あはは! ねぇ花宮、今の種田が休みって忘れてたのか解ってたけど口を突いて出たのかどっち!?」
「お前ら笑い過ぎだろ勇者かよ……怖ぇ……」
「ッあ゙ーもーウルセーよ殺すぞ!!! 殺す、お前ら殺す、つーか全員ブチ殺す! 忘れるか死ぬか選べ!!!」
「花宮先輩落ち着いて下さいよ、罵声の語彙『殺す』だけになってます……つか種田ちゃんなら居なくても呼ばれたとか喜びそうだし気にする事無くね?」
「そ、そうですよそんなに照れなくても大丈夫「えっこれ照れてんの?」
「マジ!? 更にウケるんですけど!」
「やっちまった感あるけど……先輩照れてます?」
「見たら解るじゃん耳も赤いし! ……じゃなくて! 花宮先輩! ええと、ほらマネ=種田先輩って意味ですよね、思わず種田先輩呼んだってんじゃなくてマネ呼んだだけみたいな「はは! 俺らでも照れてるかってあんま解んないしマネは種田しか居ないし、お前全然フォローになってねぇよ?」
「寧ろトドメを刺しているな」
「おま、ビビりっぽいのに怖ぇなおい」
「えぇ!?!??」
「ヒィ! 死ぬ、息出来ないんですけど! 笑い過ぎて死ぬ!!!」
「ッ〜〜! なら早く死ね!!!」
全く、今日は、散々だ……!