嫉妬

 夢を見ていた気がする。優しいような寂しいような嬉しいような……懐かしいような、誰かの夢。

(哀しくて幸せな、変な感じ)

 ぼーっとしていると遠くでごろごろと音が鳴った。雷だ。普段空いたままの雨戸がしっかり閉められており、暖かな常夜灯が控えめに部屋を染め、サイドテーブルに置かれたスポーツドリンクやゼリーを透けさせるビニール袋の白を際立たせている。まこちゃんが来てくれたんだろう。彼は猫を被らずとも、懐に入れた人間には優しくて世話焼きだ。
 嬉しさに溢れた筈の笑いは掠れた息が漏れるに留まった。気分は穏やかで快調なのに、体は中々どうして不調なまま。早く部活に復帰すべくいつもならサボる食事を取り薬を飲む。あ、増田のりんごジュース、やったー! ずずーっと飲み干して、一息ついて、ふと思う。

(あの夢はまこちゃんだったのかな……でも違うような、気もする……まぁ夢なんてそんなもんか)

 うつらうつらして、メールを返して、うつらうつらして、と、夢とうつつを彷徨う。悪天候を告げるのは雷だけだと言うのに、相変わらず風邪を引くと中々寝付けない。なんだか勿体無い気がするのだ。眠っている間に何かを逃してしまうような、見過ごしてしまうような。事象か機会か人物かは解らない、何かを。クリスマス・イヴにサンタに会おうと夜更かしする子供の気持ちだ。興奮と期待と少しの不安を持って、いつか現れるソレを待っている。

(…………寝よう……寝たい)

 だけど、ソレが眠りに落ちなければ現れないと、心の隅で気付いている。






 呼び鈴が鳴った。宅配物の予定は無いし、まこちゃんなら合鍵で勝手に入る……セールスかな。もう一度鳴ったそれを無視して居留守を決め込んだ。

 ピンポーン

 余談だが、玄関の合鍵はお母さんズ、後見人と祖父母でなんと計五本ある。「一本は友人に預けても良いよ、僕からも親御さんに挨拶しよう」郊外に住む後見人は私に祖父母を頼る気が無いと見抜いていた。真っ先に思いついた三人へ相談すると、

 ピンポーン

 ……彼らは性別や距離、家庭事情等を理由に延々議論を続け、自分が待つ(或いは他は適さない)と譲らなかったので、結局全員へ渡、

 ピンポーン……ピンポ、ピン、ピン、ピ、ピピピピピンポーン

「うるさい」

 応じる気無いんだってば。どんだけ連打してるの、アホか。
 そろりと雨戸と窓を開け見下すと、小雨を受けるビニール傘越しに浅紫と樺色が見えた。仕方無くパーカーを羽織って一階を目指している間も彼らは執拗に呼び鈴を鳴らし続ける。受話器を取ると怒鳴り声が聞こえたが、もっと早く穏便に注意して欲しい。

「原ザキコンビうるさい」
『第一声がそれ? お見舞いに来たよん』
『よー種田、大丈夫か?』
「ありがと間に合ってる大丈夫さよならばいばい」
『ちょ待、開けてあけて! アイスあげるから開けて!』
『スゲェやつだぞ! 果物がスゲェ埋まってるスゲェやつ!』
『ユーキチャン待望のパレタスだよん!?』
「……開ける」

 自分でも現金だと思うけど、パレタス、食べたい。
 玄関を開き目当の物を捉えた。瞬間、外から強く扉を引かれ、ドアノブを離す間も無く外へ投げ出される。

「バッカ危ねぇだろ!!!」

 ザキちゃんが受け止めてくれなければ、地面へ派手にダイブを決めていただろう。

「アハ、ゴメンゴメン。ユーキチャンアイス獲ったら全力で閉めるかなって?」
「ザキちゃんありがとうるさい、原ちゃんアイス置いて帰って」
「えぇ……」
「扱い酷くない? っつーワケでただいまー」

 一瞬の出来事でこれだけ疲れさせる原ちゃん凄い、やめて。
 勝手知ったるなんとやら、時折うちへ避難する原ちゃんは我が物顔で家に上がる。ほんとに帰れと思ってないから良いけど……一応、たぶん、きっと。鍵を掛けて扉にもたれる。足元が覚束ない、床がぐにゃぐにゃしてる。ほんと、さっきので酷く疲れた。

「おい? 動けねぇのか?」
「ん。肩、かして」
「肩は無理だろ。おら」

 手を貸されて肩を抱かれ、荒く息を吐きながら寄り掛かるように歩いて居間を目指していると、背中と膝の裏に何かが触れふわりと身体が浮いた。

「ザキの甲斐性無し。ここはやっぱお姫様抱っこっしょ」
「ッおま、おひっ、おっ……せ、せめておんぶだろ」
「男の初心はキモイからやめろって。良いから写真撮ってー」
「……アホか。さっさと運んでやんぞ」

 横抱きにされ、謝る間も無く歩き出した原ちゃんに自室を訊かれて思わず渋る。「まーた意地張ってんのか? 俺ら相手に今更だろ」「なになに、部屋全部虱潰す?」呆れたザキちゃんと意地悪く笑う原ちゃんは、それでも優しさを混ぜた表情で。私は少し迷って階段を指し、扉を指すだけで答えた。

「なにげユーキチャンの部屋入んの初体験じゃん、興奮する」
「…………」
「だから男の初心はキモイんですけど。早く開けろって」
「違ぇ引いてんだよ。種田コイツ部屋入れて良いのか? 絶対危ねぇぞ、色々」
「え、二人っきりが良かった? なにそれキモ、」
「もう突っ込むの怠ぃわ」

 そして扉を開いて、二人は動きを止めた。

「ワォ……スッカラカン」
「なんっもねぇな」

 ソファベッドとサイドテーブル、あとは出窓に置いた小物くらいしか無い自室。率直で最もな感想は、私自身の事を言われたようで。 “──部屋は心の鏡”いつかゴミ屋敷だかのニュースで聞いた言葉、なら空っぽな部屋の主はどうなんだろうと頭に貼り付いた言葉のせいだ。
 「クソ、羨ましいぜ……」予想外な言葉に自然と下がっていた顔を上げる。

「俺の部屋、兄貴と姉貴が捨てらんねぇっつって服から何からお下がりとして寄越すから物多くてよ。んで貰い物って余計捨て辛ぇから……ヤバい、俺の部屋ヤバい」
「ゴミ箱扱いじゃん「やめろ言うな」ユーキチャンはミニマリストってヤツ? 戸建てに一人ならこうなるか」
「…………うん。ありがと」
「どした?」

 そうだ、安心して良いんだ。風邪だってバレた時と言い、皆には何も心配する必要は無いんだから。
 驚く程丁寧にソファベッドに寝かされる。「ゴメンね」「え、」「女の子らしいチョイスじゃないけどこーゆーの持ってんだ、恐竜?」何故か小さく謝った原ちゃんは、誤魔化すようにぬいぐるみを押し付けてきた。渡されるがまま受け取ったけど……おかしいな。

「ザキちゃん投げた?」
「ココに転がってたよん。今見てたっしょ、オレが拾うとこ」
「うん。じゃぁ……動いた?」
「ホラーかよ、熱で頭バグってんな。それ始祖鳥か? こっちはブラキオだな」
「博識じゃん。ザキの癖に」
「後半余計だっつの」

 出窓に立つ青い恐竜──ブラキオサウルスの横にこれも並んでいた筈だ。ぬいぐるみを抱いて寝る趣味は無い訳でも無いが、翌朝床に転がる無残な姿は罪悪感が酷いからほぼしないのに。熱で無意識に? でも出窓近寄ってない……疑問はあるが二人への安心か疲労か、眠気で思考が濁る。

「ヌイグルミとか風の前の塵じゃなかったっけ?」
「諸行無常はキャラクターグッズ……恐竜は結構すき、だし、」
「解るぜロマンあるよな恐竜、化石じゃ解んねぇから着彩は想像とか!」
「テンション上がり過ぎっしょ、ってマジ? 色適当かよ。つーか話の途中だって……好きだし何?」
「くれたから、夏祭りで射的のしょ……」
「射的の商品? 誰か取ってくれたの? もしか花宮!?」
「ん。しょーいち先輩、ブラキオサウルス、で、まこちゃ、アーケオプ……」
「あーけ? 何そのクッソ面白そうな話!」
「アーケオプテリクスな。始祖鳥は俗称だからよ」
「そこはどーでも良いんですけど!?」
「ぅー……原ちゃんうるさい」
「ねーねーそれ中学ん時? 花宮可愛いとこあんじゃん」
「お、学祭の写真じゃねぇか。って、これ花宮……か? あ、卒アルねぇのかよ、中学の卒アル!」

 二人ともほんと煩い、頭痛くなって来た。
 何か忘れてるような気がしながらクローゼットを指して、耳を塞ぐようにタオルケットを被る。アーケオプテリクスを抱き締めると、あの穏やかで、哀しいけど幸せな夢が見られる気がした。



 ∇ ∇ ∇



 タオルケットに潜り込んだユーキチャンの部屋は、この広い家に一人で住んでいる事を加味しても随分簡素だった。思わず溢れた感想に彼女は凍り失敗したと思ったが、ザキが羨ましがって事なきを得る。

(ザキって何気に凄いよねん……)
「なんか言ったか?」
「なにもー」

 コイツは他人の地雷を結構踏むのに、その後の発言(と単純さ具合)で簡単にチャラにする。ザキは良い奴だけど決してイイ子チャンじゃない。裏表が無く良くも悪くもはっきり物を言う反面、心配はしても干渉せず他人行儀。真摯な姿勢だとか相手への配慮ではなく、単に面倒なだけだろう。オレらん中じゃ一番マシとは言え、自分本位でクズな価値観。楽で良い……絶対言ってやんないけど。

「卒アルどこだ?」

 ほら、オレを部屋に入れて良いか訊いた癖に、本人が指したとは言え躊躇いなく女子のクローゼット漁るし。まーオレも後で見るけど。
 さっきザキが見ていた物が気になって出窓に近づく。見慣れた人物との数枚の写真、首の長い恐竜のヌイグルミ、学祭で着けていた瀬戸とオソロの造花、カーテンレールに吊るされたガラスのオーナメントと小動物の足を模したキーホルダー、凶のオミクジ等々……まるで子供の宝物だ。
 オレらバスケ部と田辺──いつものメンツで撮った去年の後夜祭の写真から、寝息を立てるイモムシチャンへ視線を移す。

(オレはユーキチャンらしい部屋で良いと思うよん)

 この殺風景な部屋は彼女自身だ。最低限の実用品に少しの雑貨。実際宝物なんだろう、チリ一つ付いていない雑貨は大切にしていると良く解る。酷く限定的で、排他的。

「オレらほんっと、愛されてんよねん」
「あ?」

 宝物ココに自分も含まれている事に、擽ったいような、暖かいような……それでいてベタついて濁った悦びに似た気持ちが湧いた。今なら花宮がユーキチャンに関してたまに見せる笑みも、所有欲や独占欲も理解出来る。あれは拗らせた恋愛感情なんて可愛いもんじゃない、オレが今感じているモノと同じ──強過ぎる優越感だ。
 だってユーキチャンは知れば知る程人間不信で警戒心が強い。そんな子がオレらみたいなクズに懐いて、受け入れ大事にし、時に害を成す他者へ牙を剥き、嫌われる事に怯えるのだから。何より彼女の側は居心地が良い。

「あーマジ、ピアスん時も思ったけど全力で自慢したい。でも他の奴らなんかに教えてやりたくないってのもあんだよねん」
「お前さっきから何の話してんだ?」
「んー? ユーキチャン最高ってのと、花宮のキモチ解るって話?」
「……だから何の話だよ」

 どちらにしろ、オレらだけが名前を覚えられていると知った時以上の優越感。ドロリとしたそれに浸る。
 にしても、ずっと気になってたんだけどさ、

「この体育祭の、キュートな麻呂眉のボーイッシュな女の子って……もしかしなくても花宮?」
「ブフォッ!」

 今と少しも変わらないユーキチャンを何処か胡散臭いキツネ目の眼鏡(多分イマヨシサン)と挟む麻呂眉チャンは、無愛想に目線を外している。不本意を体現した写り方も、特徴的な眉も、肌や髪に瞳の色も、全て花宮のそれだ。だが目尻のキュッと上がった大きなアーモンドアイにユーキチャンとあまり変わらない身長、赤い鉢巻は最早カチューシャのようで、どう頑張っても女子にしか見えない。余裕で可愛い、完成度(?)高過ぎて逆にウケないレベル。

「確かに花宮の妹だって言われた方が納得だけどよ。きゅ、キュートな、麻呂ま、グフッ!」
「小谷サンと性別逆っしょ。ユーキチャンもわりと中性的だし……性別とは」
「種田も男子で通用しそうだよな、中一くれぇの。髪長くねぇし、胸もねぇし」

 別の写真、ユーキチャンの腕にしがみ付くただのイケメンを見るに、小谷サンはあれで成長して女性らしくなったらしい。因みに静止画なのに煩い田辺は今より胸が小さい……どーでも良いわ。
 写真の登場人物は学祭以外この四人しか居ない。ユーキチャンが最初の頃「親しいのは五人」と言い切ったのは衝撃的でよく覚えている。瀬戸は否定しなかったから残りは彼らだろう。

「ユーキチャン変わんないなー、この笑ってんのか際どい表情も」
「卒アルもそうだぜ。高二だから当然だけど成長期……終わってたんだな……花宮は性別まで越えてんのに」

 ふと、桜舞う一枚が目に留まった。偶然シャッターが下りたのか、斜めにただ賑やかな情景が切り取られている。へっぴり腰で威嚇する小谷サンに呆れつつ諌める田辺、卒業式だろう、胸に白い花を飾ったイマヨシサンが背後から花宮とユーキチャンの頭を撫でている。

「あ、こっちはもうほぼゲスな花宮だけ、ど……」

 手をはらい邪険にしつつも本気で嫌がっていない花宮と、珍しく大きく口を開けて笑い喜んで甘受するユーキチャンの頭を。

「────ッ」

 それは初めて見る表情だった。そしてこれからもきっとオレらには向けられない、どこか甘えた幼い表情。

 グズリ

 イマヨシさんへ向ける二人の顔は、後輩としてのそれだった。

「ゔぇ……」
「どした?」
「キモ……吐きそう」
「は、え? また風邪か? 花宮に伝染うつして種田に伝染ったヤツがまた伝染ったのかよ!?」
「煩いんですけど」

 最悪。腐った果実を踏んだような不快感が渦巻き、その正体に気付いて更なる不快に襲われる。

「ぅゎー……ぁー…………」

 オレの知らない花宮とユーキチャンを知るイマヨシサンに、嫉妬した。オレら以外に親しみの表情を向ける二人が、不服だった。
 自分で自分が気持ち悪い。勝手に嫉妬して不満に思うなんて、まるで母親あの人や元カノ達──女みたいじゃないか。せめて向ける相手がザキ達なら、これ程の嫉妬も気持ち悪さも味合わずに済んだ筈なのに……って、うわ。

「大丈夫か? 吐くなら便所行けよ」

 卒アルを片手に心配してくるザキをジトっと見る。言葉や表情と裏腹に行動は伴わない、介抱なんて勿論しない──イイ子チャンと呼ぶには薄情なザキ。

「な、なんだよ?」
「はぁーーーー……」
「おいコラなんだよ」
「追い討ちかよ、蕁麻疹出そう」
「意味解んねぇっつーの!」

 オレ ら と当然の如くザキ達を含め許容していたと自覚して、寒気がした。
 有り得ない頭の良さを最低な事に使う花宮も、身内贔屓でそれ以外平然と切り捨てるユーキチャンも、薄っぺらな偽善者感が嗤えるザキも、澄ました顔して加虐心に忠実な古橋も、寝てばっかで他人に合わせる為に頭は回さない瀬戸も。どいつもこいつも自分本位自分勝手で歪んで欠けてて。そのクズさが面白くて、その距離感が酷く楽で……気に入っている、今までの人間関係で一番ツルんでいるけど。
 けど、だ。「オレ ら 」「ザキ達 な ら 」と無意識な仲間意識、その場限りの同級生ダチとは違う「オトモダチ」と丁寧に形容するに相応しい感情を持つなんて。なに、それってつまり、

「オレ……どんだけ好きなワケ……」
「は?」

 思わずしゃがんで頭を抱える。コイツらの事好き過ぎっしょ、コレが友情、友を慕う心ってヤツ? 無いない有り得ない、ガラじゃないキャラじゃない。こんな事に頭を抱えている現状さえ小っ恥ずかしい。なにこの青春の一ページ感。

「マジで大丈夫かよ、なんか顔赤くね?」
「あーもー……ザキの顔見たら悪化した」
「そこは好転しろよ」
「『オトモダチの顔見たら元気出たぜ☆』って? なにそれキモい」
「悪ィ適当に言った。ノリでも無理だわ、そんなん言われたらドン引く」
「アハ、全否定。まーでも──……」

 傍目にはオレらの繋がりはバスケなんだろう。同じバスケ部の仲間が切磋琢磨して友情育んでる、みたいな。でもバスケは切っ掛けに過ぎず、きっと実際はクズって点だ。

(──クズで繋がった仲で友情だ青春だってのも……はは、一周回ってウケるかも)

 イイコチャンを嫌悪して、イイコチャンに非難されて然るべき思想や嗜好を嬉々として振るう奴らが、イイコチャンゴッコするなんて。皮肉で滑稽で、我ながら嗤える。
 それに、本当にガラじゃないしキャラじゃないしキモさ半端ないけど。コイツらとツルむのは……正直、楽しかったりする。じゃなきゃ昼休みや放課後に態々集まったり、値の張るアイスまで買ってお見舞いなんて来ない。仕方無く付き合う割りに満更でも無さそうに口角を上げる花宮を始め、楽しんでいるコイツらを見るのも嫌いじゃない。

“──楽しそうだったから。それで良い”

 ユーキチャンの言う通りコレはコレで良いかもしんない。グダグダ小っ恥ずかしい問題に頭を抱える方が恥ずかしいし、何だって楽しんだモン勝ちで、オレはつまんないのが嫌いだ。
 イイコチャンだって相容れない、ともすれば実害のある相手が、自分達と同じ様にオトモダチと楽しく過ごす姿を見れば腹が立つだろう。あーうん。

「うんうん、それめちゃくちゃ良いじゃん。はは!」

 人間万事塞翁が馬。愉しい事に繋がっているかもしれないのだから、恥ずかしいと嘆き苦しむのは早計だ……ちょっと意味違うけどねん。

「お前体調ってより情緒がさ……マジで大丈夫か、こう、頭とか」
「ザキに言われたくないんですけど?」
「じゃあ精神的に? 心、的な?」
「ザキに言われたくないんですけど!」
「……心配して損したわ」

 取り敢えずはこのまま、何も気にせず青春とやらを楽しんでやろう。ユーキチャンの宝物がオレらのモノばっかになるくらい、他人に嫉妬なんてしなくて済むくらい、寧ろされるくらいに。爽やかな青じゃない、クズでゲスで最っ低な、濁った青の春を。

「おい、この花宮見たら絶対元気出るぜ。ほら」
「ブハッ、ヤバ! 中一の学祭? やっぱ女子じゃん、王子様コレよりお姫様の方が似合うっしょ」
「そこは女王様だろ」
「あはは、確かに!」
「ぅー……るさ、い……」

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