虹彩

 家に帰って何より先に足を冷やす。少し赤くなっているが踏まれたくらいじゃ骨に異常は無いだろう、痛みも違和感も無い。沈黙を貫いていた原ちゃんはぷらぷら振る足を見て謝って来た。「ユーキチャン相手にそこまでするつもりは無かったんだけど……」もごもご言ってガムを割っては膨らませを繰り返す。私を心配してくれているのだろうか、それが嬉しくて笑って大丈夫だと答える。

「少しは発散出来た?」
「……逆に苛ついたんですけどー」
「思いっきり挑発したしね。ごめん」

 ご飯を作っている間にお風呂入ってこいと、タオルとつなぎパジャマの場所を説明する。「もう冷やさないの?」「氷が溶けるまでは冷やす」するとそれまでは待ってると言った。変なの。

「まーちょっとはスッキリしたかも……ユーキチャンで着せ替えして、甘いもん食べて、ゲーセンではしゃいで。ひっさしぶりに結構本気で体動かして、ラフプレーして」
「なら良かった。最後はあまり良い方法じゃないけどね」

 薄く笑う原ちゃんは確かにそんな顔をしている気がする。思い切り身体を動かせば気分も晴れる。それに喧嘩や暴力は、肉体をぶつけるのは変な高揚感がある……こういう事言うと格闘家に怒られるかな。私は喧嘩の経験は無いが、護身術は習っている。手合わせするとアドレナリンが出ると言えば良いのだろうか、普通にスポーツをするのとは別の爽快感があるのだ。スリルがある。ラフプレーも同じようなカテゴリーに入るだろう。
 あれ? 痛いのが好きなのは変態、なら逆、痛めつけるのが好きなのも変態なのかな……まぁ良いや。
 氷が溶けきったので原ちゃんをお風呂に追いやる。ざっとご飯を作って食べ、私もお風呂に入った。

「ユーキチャン髪乾かさないの?」
「いつも自然乾燥」
「じゃーやったげるよん」
「んー……お願いします」

 胡座の上に座って温風が当てられる。ドライヤーは嫌いだが人にしてもらうのは好きだ。「ユーキチャン地毛? うっすいけど」「え、禿げてる?」「色ね、色の話」「地毛」そんな事を言いながら乾かされて。原ちゃんの手付きは優しく柔らかくて髪を梳く指が気持ち良い、とても上手だ。サブカルヘアでお洒落さんだから美容師さんみたい。
 私が通う床屋のお兄さんも丁度似たような、なんだかよく解らないけどなんかお洒落そうな髪型をしている。「そういう髪型の人は美容室で働いてるもんじゃないの?」「サロンより床屋の気分ってやつ」一度訊いたらそう言われた。口数の少ないお兄さんはとても楽なので是非ともずっとその気分で居て欲しい。

「原ちゃんは地毛?」
「どっちだと思う?」

 原ちゃんならなんとなく染めてそうな気もする。でも地毛なら鉄壁前髪の奥、眉毛も睫毛も浅紫なのか。後ろを見ようと横を向くがずいと前を向かされてしまった。無理矢理首を反らして見る。

(だったら綺麗かも)
「なにー見つめちゃって」
「あー……は、鼻毛で判断しようと覗いてる」
「はぁ? なにソレ!」
「 う そ 」

 笑う原ちゃんの目は細められてるだろうか。その瞳も浅紫かな、他の色でも綺麗かもしれない。どの道少し奇抜だが優しい色なので何色でも似合うだろう。
 その後はゲームの攻略を手伝ってもらう事にした……が、二人掛かりでも詰まってばかりで全然進まない。お互い飽きてしまってぽいとコントローラーを投げる。コンテニューのタイムアウト、スタート画面になり操作されないゲームはデモムービーを流す。

「ユーキチャンってさ、ほんと何も訊かないよねん」
「何もって?」
「…………オレが家帰りたく無い理由、とか?」
「原ちゃんが言いたいなら聞くよ。でも言いたく無い事は……訊きたく無い」

 だって私が根掘り葉掘り訊かれるのが嫌いだから。好奇心に目を輝かせ「君が心配なんだ」なんて薄っぺらく取り繕って、ずかずかこちらの内情を踏み荒らす人間は嫌いだ。原ちゃんも好奇心は強いが、彼は下手に誤魔化さないのであまり気にならない。それに確信は突かない、触れて来ない。そしてこれは憶測だが、私が言葉を濁すと話題を緩やかに変えてくれる。世渡り上手だろうなと思う。
 ごろんと後ろに倒れ込んだ原ちゃん。テレビとゲームを切って音楽を掛ける。「コーヒー要る?」「要らなーい」丁寧にゆっくりコーヒーを入れる。

「ユーキチャンさ……母親に、その…………ぁー……やっぱいい……」

 自棄に悩みながら言われた言葉は途切れた。珍しい、そんな質問も言い方も。カフェオレにするつもりのコーヒーを、ブラックのまま一口だけ飲む。濃いめに淹れたそれはとても苦い。

「軽蔑されるかも知れないけど。生きてて欲しいと思った事は、残念ながら無い、かな……それは父にも言える」

 記憶喪失の私にとって両親の死とは、知らない人間が知らない間に死んでいたに過ぎない。ニュースで伝えられる日常の惨事と変わらない、痛ましいと思っても泣き崩れるような哀しみには襲われない、逆に虚しくなる程の他人事。母の顔を思い出して大切な記憶だったと気付いたが、それは写真すら見た事が無かったからだろう、改めて母の死を憂いはしなかった。記憶を失う前から気持ちの整理が済んでいたとしても、父に対しても同様だ。やはり私は記憶と共に感情の大半を捨てたのかもしれない。
 それにもし生きていても、両親と言う他人に対してどんな顔と距離感で接すれば良いのか解らない。そう思えば生きてて欲しいと……思う事が出来無かった。

「死んで良かったとも思わないけどね」
「そっ……か」
「そう、もう昔話、ただの事実だけ」
「寂しいとか思わないの?」
「今は無いかな。まこちゃんとしょーいち先輩、べーちゃんも、原ちゃん達も居るし」

 ほんと、親離れ出来るかなぁ……今の所する気は無いが、べったりな自分に少し心配になって苦笑する。
 手持ち無沙汰でやめたゲームを再開し、後回しにしていた面倒なサブイベントをこなす。淡々としたルーチンなそれは、完全クリアを目指す以外では必要無いもの。頭を使わないし楽しくも無いし操作も難しい事は要求されない。

「花宮に田辺、あと今吉サン? って人も、『お母さん』枠だっけ」
「うん」
「オレも…………母親と別の『お母さん』が居んの」
「お揃いだね」
「はは……どーだろ、オレはあの人を……好きだとかは思えない」
「そう」

 家に帰りたくないのは再婚して上手くいって無いのか。原ちゃんはそれ以上何も言わなかった。彼の、元々の母親も亡くなったのだろうか。それならどんなに必死になっても手に入らないだろう。
 そろそろ寝ようと歯を磨く。原ちゃんはまこちゃんが泊まる時に使う部屋で良いかと考えていると、一緒に寝たいと誘われた。「セミダブルだからちょっと窮屈だけど良いの?」「……ユーキチャン言ってる意味解ってんの?」んん? 結局和室に布団を並べる事になった。元旦も思ったけどちゃんと時々布団干してて良かった。田辺家はお泊まり禁止だし、しょーいち先輩が卒業してから先輩とまこちゃんが同時に泊まりに来た事は無い。必要無いが一応しておいた二組の布団のメンテが役に立った。






「ユーキチャン寝たー?」

 布団に入り少しして原ちゃんが声を掛けてきた。私は寝る時丸くなる派、暗くてよく見えないが彼は上を向いているようだ。声の感じからしても、こちらを向かずに天井へ話している。「寝てない」「えー早く寝てよ。ねー寝た?」「まだ」「……寝た?」なんなんだ、寝て欲しいのか寝て欲しく無いのか。謎。

「寝たよ」
「ふふ、そっか、良かったー」

 投げやりに答えれば、明らかに嘘なのに安堵する原ちゃん。どうしたんだろうか、考えいると彼は話し始めた。

「オレ兄貴と弟が居んの」
「……」
「ふふ、兄貴の名前が政哉で、弟が博哉。三人とも『哉』が付いてんの」

 寝ている呈で返事を返さなければ、彼は笑ってそのまま話を続けた。この対応は正解だったようだ。
 原ちゃんの父親の名前には『哉』が付いているのだろうか。でも、一哉って、

「でも次男で『一哉』ってなんか変だろ? オレは親父の連れ子で本当は長男、名前はたまたま」
「……」
「兄弟仲は良い方だと思う、同性だからか打ち解けるのも早かった。兄貴は少し上だから色々教えてくれるし頼りになるセンパイ、弟は一つしか変わんないからダチって感じ?」

 凄い偶然。私が荒木監督に再会したのと、お神籤で皆凶だったの、どれが一番確率が低いんだろう。

「親父は数年前に今の母親と再婚。オレは親父にスゲー似ててこの髪の色も一緒。まー連れ子として丁度良かったよねん。少し変だけど名前はたまたま全員同じ字が付いててオレは親父似、家族やるにはそんなに違和感無いっしょ?」

 原ちゃんは地毛か、睫毛見たいな。

「今の母親はフツーに良い人かな? でもお互い中々馴染めなくてさ。オレはあの人を『親』として見れなくて、センパイとダチの母親で親父のカノジョ? って感覚。つっても関係は最悪ってワケじゃないし、あの人も受け入れようとしてくれた。でも最初に顔合わせしてから、全然目ぇ合わせてくんねーの」

 あれ? てっきり原ちゃんは目を合わせるのが苦手だと思っていたけど。

「んで、オレにとったらあの人も母親だけど、母さん──オレを生んだ人も当然母親なワケよ。だから離婚しても親父が再婚しても時々会ってた。母さんは会いたがってくれてたし、親父もあの人もそれはそれって事で反対しなかったし。でもある日母さんとオレが会ってるのをあの人見ちったワケ。あの人は相手が生みの親ってすぐ解ったみたい。オレは成長期が早くてニョキニョキ背が伸びて益々親父にそっくりになって……当然それがオレだって解ってるけど、正直面白くないよねん。愛する親父のそっくりさんが昔の女と笑いあってんだから」
「……」
「ピリピリしたあの人は親父と喧嘩して、少し遅くに帰ってきたオレはバッタリ居合わせた。んで掴み掛かられたの。どうもあの人と母さんは過去に一悶着あったみたいでさ、そんな相手と再婚すんなよって思うけどそんな事知らなかったんだろーねん。でね……兄弟三人、たまたま名前に同じ字が付いてたけど、目の色まで同じとはいかなかった。兄貴と弟の目は母親あの人譲り。オレは親父にスゲー似てて髪の色も一緒。でも……」
「……」
「オレも目の色は、母親母さん譲りだ」

 けど。目を見られるのが苦手、か。

「だからオレだけ今の両親どっちとも目の色違うワケ。まー隔世遺伝とか? そう考えりゃ珍しくも不思議でもなんでも無いんだけどさ」
「……」
「母さんと同じ目が気に食わないんだって。結構な大喧嘩で我を忘れてたのかも知んない。帰って、リビングで怒鳴り声がしてて、悩みながら横通ったら突然掴み掛かってくんだよ? 『その目が!』って。あの人がオレと目ぇ合わせらんないのは母さんを思い出すから。で、思い出すも何も、オレは正真正銘、母さんの子供だったってワケ」
「……」
「すぐ我に返って、親父と一緒になって謝ってきたけど衝撃的だった。二度目に目ぇ合わしたのがブチ切れなんだもん。それからはオレも目ぇ合わせないように必死、あの人もよそよそしくなっちって、兄弟もその空気に当てられて家の雰囲気ギスギス。更にオレは視線恐怖症っつーの? 人と、特に女と目ぇ合わせたら思い出しちゃうの、あの人がスゲー剣幕で怒鳴って掴み掛かって来る様子。で、色々考えて試行錯誤した結果前髪伸ばしたんだ。したらオレもあの人も少しマシになって、家の雰囲気も元通り、円満家族とまでは行かないけど充分マシ。めでたしめでたし──……」
「……」
「──とは行かなかったんだよねん」

 そう、だろう。じゃなきゃ最近荒れる理由が無い。
 原ちゃんは目を見られるのも、目を合わせるのも苦手なのか。まぁどちらも同じようなものだけど。一体いつの話なんだろう。今も彼の目は、分厚い前髪に隠されたままだ。

「一昨年の春からかなー……オレが中三、受験に向けて動き始めた頃からあの人は執拗にオレと弟を比べ始めた。テストの点数、課題評価、通知表。オレの方が殆ど上なんだけど粗探ししてケチ付けんの。別に中坊にもなって親に褒められたいとか思わないけどさー、結果良くても何やっても粗探しされて。弟には小テスト一つ、オレより一点でも良かったらこれ見よがしに褒めてオレはケチ付けられる。親父は仕事忙しいし、兄貴は既に大学生で家出てるから晩飯は三人で弟の賞賛会。丁度その頃母さんも再婚して、もうあんまり会って無かったのがほぼ無くなっちった」

 原ちゃんは家で独りなのかな。私と同じで、私とは違う、独りのカタチ。彼が欲しいのはなんだろう。褒められる事? 優しい母親? 産みの親? 暖かい家庭? きっとどれも正解でどれも不正解なんだろうなと思う。

「先月弟が霧崎ウチの入試落ちたの。滑り止めは受かったんだけど、霧崎ウチは元々厳しかったみたい。弟は霧崎受験に乗り気じゃなくてあの人の勧め。多分、つーか絶対オレが霧崎来たからだと思うんだけど。んであの人またキレちゃったワケ、なんであの女の子供が行けてあの子が行けないのーって。勝手だよねん」
「……」
「勝手に一悶着あった女の元旦那と再婚して、勝手にオレと親父を重ねて嫉妬して、勝手にオレと母さんを重ねて恨んで、勝手にオレと弟を母さんと自分に重ねて。ついでにオレが女の子と遊んでんの見て、忙しい親父が本当は不倫でもしてるんじゃないかって勝手に不安になって」
「……」
「会いたいっつってた母さんも勝手に再婚して、勝手にもう会えないってさ」
「……」
「ほーんと、勝手過ぎ──……」

 ──オレは知んないっての。

 苦しみの色に染まった掠れた呟きを最後に、原ちゃんは沈黙した。
 理不尽だと思う、とても……──そう、親はいつも勝手だ。勝手でとても理不尽な生き物。勝手に怒って勝手に強制して、その癖勝手、に……、

「────ッ」

 なん、で。
 何故勝手だと感じる、何故親がそういうモノだと思った? きもちわるい。母は幼い頃に亡くなっている、ならこれは父の事だろうか。現実味が無い。感覚が乖離する。虚無感に襲われる。
 喉がカラカラだった。何も言わずに立ち上がって台所へ行く。震える手でグラスを持って水を入れれば、それが冷たいと感じた。大丈夫、感覚は繋がってる。ついてきていた原ちゃんが手を出したので彼にも水を出した。

「あー……変な話してゴメン……寝てるかなーって、思って? えっと」
「ね、てたよ……ごめん」

 これは原ちゃんのせいじゃないよ。
 シンクに凭れて目を閉じ、不快感をやり過ごす。喉の小骨が気持ち悪い。思い出せないなら、下手に思い出すな。

「ユーキチャン顔真っ青」
「少し、嫌な夢を見た……そう、あれは夢」

 もう一杯水を注いで飲み干し、心配そうな原ちゃんを制して洗面所へ行く。鏡を見れば確かにいつもより白い顔が映っていた。荒木監督の時以上の不調、嫌な記憶なのかもしれない。思い出すな。忘れた事なら、たぶん、忘れたい事。思い出すな。死にそうな顔の少女から目を背け、お湯で顔を洗い台所へ戻る。
 ホットミルクを作って台所しか明かりの点いていない少し暗い中、二人でダイニングテーブルに腰をかけて静かにそれを飲む。だいぶ楽になってきた。

「大丈夫?」
「少し、嫌な夢を見た。貧血かもね」
「そう?」
「……そう言えばね、私、母の顔覚えてないの。父が捨てたみたい。母の遺品は部屋から何からそのまま残してるのに、写真だけは一枚も無いんだ、遺影さえも」

 もっと正確に言えば、母の顔 も 覚えていないのだけど。

「父は勝手に気持ちの整理をして、勝手に納得して、勝手に母の写真を捨て、勝手に事故で死んだ。彼が肌身離さず持っていた唯一の家族写真を、血で汚して見えなくして。親は勝手だ」

 親は勝手だ、そして全て忘れた私も勝手。原ちゃんは静かに聞いている。

「最近古い知人に会って母の顔を思い出した、思い出せたの。私も……私は、目の色が母親譲りなんだ。髪の色も」
「……」
「でもしょーいち先輩は黒、まこちゃんは灰汁色の目で、二人とも黒い髪してる。私のお母さんの癖にね」
「はは、なにそれ?」
「よく解んない……ははは」

 何が言いたいかよく解んなくなって来た。力無く笑う声が漏れたが、顔は笑えていた気がしない。
 テーブルの上、カップを持つ原ちゃんの手を取り何気無く脈を計る。彼は成すが侭にしてくれている。

「ユーキチャン手ぇスゲー冷たい、つーか震えてる? 寒い?」
「寒くないよ、冷たくてごめん。少ししたら離すから。少し、少しだけ我慢して欲しい。ごめん……ごめんなさい」
「……良いよ、オレはヘーキ」

 トクトク規則的に刻む音と肌の温もり。大丈夫、ちゃんと感じる、感覚は繋がってる。原ちゃんがここに居て、私もここに居る。大丈夫、だいじょうぶ。
 手を離して私は訊く。「ねぇ、」声はまだ力無く、少し掠れてしまった。

「原ちゃんはその髪地毛?」
「…………どっちだと思う?」
「どっちでも綺麗だと思う。もし地毛だったら睫毛が綺麗だと思うよ、とても」
「なに、口説いてんの?」
「? さっき髪乾かして貰ってる時思ってたの」
「鼻毛見てた時?」
「それは嘘だよ。あの時原ちゃん笑ったでしょ」
「だって鼻毛で判断するって、はは!」
「目は細めてるのかなって思ってた」
「そりゃ笑ってるからねん」
「その瞳は何色かなって。でも髪が優しい色してるから、きっとどんな色でも似合うなって思ってた」

 すると原ちゃんは笑いを止めて、こちらをじっと見た。分厚い前髪で隠されているから、たぶん、だけど。

「見たい?」
「原ちゃんが見せたいのなら」
「…………何色だと思う?」
「そうだね──……」

 少し、彼が緊張している様子が伝わってくる。

「──綺麗な色」

 ふふ、と笑って答えれば原ちゃんの口がゆるゆると弧を描く。いつものようなニヤァと、嫌な予感を植え付ける不吉な嘲りでは無く、微笑むとかそういう、優しく穏やかな雰囲気だ。

「じゃーとっておきの時に見せないとねん?」
「そうだね、とっておきの時に」
「それまでヒミツ」
「…………私もね、秘密がある」
「へぇ?」
「きっと、いつか言う」
「とっておきの時に?」
「必要な時に……言う、言えると思う」

 きっと原ちゃん達には言えるよ。

「なら聞くの楽しみにしてるわ。勿論、ユーキチャンが言いたいならねん」

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