贈悪

 朝一番、教室で窓口女子三人組を中心にクラスの女子に囲まれた。なんだろう、何かしたかな。

「はいこれ種田さん!」
「?」
「「「「「ハッピーバレンタイン!」」」」」

 声を揃えて差し出されたお菓子の数々。可愛らしくラッピングされたそれと告げられた言葉に納得がいった。

「あぁ、そんな時期だったね」
「「「「「は?」」」」」

 低い疑問の声まで見事に揃っているなと感心していると「嘘でしょ!?」と叫ばれた。チョコレートは用意していないのかと食って掛かる勢いで詰め寄られ、ぶんぶん首を縦に振る。恋愛とかよく解んない。そういう意味で(と言うのがよく解んないんだけど)好きな人は居ないし、そもそも今日がバレンタインデーだと忘れていた。すると皆は頭を抱えてから「まぁ種田さんだしね」「種田ちゃんはそれで良いよ」と励ましだか呆れだか投げやりな事を言った。
 お礼を告げて受け取り、お返しはホワイトデーでも良いか、手作りでも良いかと確認すると勿論と返って来て安堵した。十一人分購入となると結構な金額になる、手作りなら味は落ちるがそこまで値段は張らないだろう。携帯のスケジュールに忘れずお返しを作るよう登録した。

「見て健ちゃんいっぱい貰った、種田モテ期到来」
「良かったね。花宮くらいには作ってくると思ったんだけど、義理チョコ」
「忘れてたってば「覚えてたら作ったの」
「ないよ」
「へぇ……意外だな」

 そうかな。
 健ちゃんも私と同じようにクラスの女子全員から貰っていた。「いつもお世話になってるからね!」と渡されている様子に、バレンタインってそんなお歳暮的な意味合いだったっけと疑問が浮かぶ。謎。今日は土曜なので半日で授業は終わりお昼ご飯を食べるのは部活前だ。きっと沢山の女子に捕まるまこちゃんは、お昼休みに間に合うだろうか。チョコの量は花宮原瀬戸の順で多いかな、なんて予想を立てる。
 授業が終わり教室にべーちゃんが駆け込んで来た。勿論渡されるのはチョコ、これは毎年だ。「ホワイトデー忘れんなよ! また催促するけど!」叫びながら部活へ走る彼女を見送り、途中女子に掴まった健ちゃんを置いて部活に向かう。が、何故か私まで知らない女子数人からチョコを渡された。バスケ好きも居たがほぼ人違いだろう、「もえてます」ってなんなんだ。謎が一杯バレンタイン。






「まこちゃんのトップが揺るいだ事もだけどそれがザキちゃんとか衝撃的」
「種田日に日に俺への扱い酷くなってねぇか」
「ザキは友達多いからねん。チロルとかで数だけならぶっちぎり……友チョコと義理チョコだけで本命無いっしょ?」
「ぅ、ウルセーよ!」
「否定出来無いのか、不憫だな」

 まこちゃんがお昼ご飯に間に合わなかったため、チョコの仕分けは部活後に更衣スペースでする事になった。その際原ちゃんが幾つ貰ったか見せ合おうと言い出して、なんだかんだといつものメンバーが揃っている。「種田ん家泊まって耐性出来たわ」前は頑なに入らなかったらしいザキちゃんも、謎の発言と共に今は更衣スペースの中だ。それにしても、

「皆モテるね。去年のアホな噂、恋愛ネタが妙に多かった訳だ」
「意外か?」
「……康くんは優しいけど酷いからね」
「その辺り順位に出てんじゃん、古橋最下位」
「なんだかムカつくから言っておくが、俺は本命は断って「誠実ぶってるね、古橋」
「なんで?」
「ぶってるとはなんだ。気持ちに応える気が無いのに貰うのは単純に悪いだろ」
「お、おぉ……格好良い……! 八方美人な薄ら寒い花宮クンとは大違い」
「煩ぇ。断る労力のが怠ぃだろ」
「えービミョーじゃん、気持ちすら受け取らないって酷くない?」
「応えて手を出した後で手酷く振るお前に言われたくは無い」
「だな。刺されろチャラ男」
「ザキ僻み?」
「ウルセー禿げろ」

 1位山崎、2位花宮、3位原、4位瀬戸種田、6位古橋と皆それなりに貰っている。3位までは全学年万遍無く。健ちゃん康くんが貰った多くは上級生かららしい。上級生なら二人の普段の様子──健ちゃんの寝汚さも、康くんの表情の変化の乏しさも知らないだろう。べーちゃん情報によると康くんは同学年の一部に表情が変わらず不気味だと言われてるらしい。つまり顔しか見てないのか、康くんは無表情な所が良いのに……あれ、つまり私も顔か。

「ユーキチャンも結構貰ってんじゃん」
「クラスの女子全員と知らない人数人から「なんで女子が知らない人から貰うの、相手男?」
「ワォ、逆チョコ? モテモテじゃん」
「女子だよ。バスケ好きと間違い」
「間違い?」
「『もえてます』とかなんとか、謎。一瞬レズビアンかとも思ったけど、初対面じゃ渡さないと思うし」
「誰と間違われてんだ? お前程小せぇ奴中々居ねぇだろ」
「瀬戸関係か」

 いやザキちゃんも酷いからね。仕返しか。
 康くんの言葉に健ちゃんを見る。「取り敢えずレズでは無いと思うよ」なんとも言えない顔で健ちゃんは言った。

「それより何をしているんだ?」
「焼却炉行き、そのまま食べる用、材料用に仕分け」
「焼却炉!?」
「ヤマ声でけーよ。手作りなんざ何入れられてるか解ったもんじゃねーだろ、持って帰んのも面倒臭ぇ」
「解る、手作りはキモチ悪くて捨てる派だわ。オレも学校で捨てよー」
「市販品も丁寧に見ていたようだが」
「開いてたら危ないから」

 これでも私がファンクラブ(仮)にまこちゃんの好物を伝えたため、いつもより手作りの品は少ない。しっかり情報は回っているようだ。まこちゃん好物がバレンタインに関連していて良かったね、他人事で考えていると「ふはっ、お前の入れ知恵か」と嗤われた。何故解った。彼は気付いているだろうか、自分の苦手なサトリに少しずつ近づいていると。

「てかお前クラスの女子に貰ったのも焼却炉行きに入れたよね」
「あんまり話した事無い人のは警戒すべき」
「女子が女子に贈ったものなら大丈夫でしょ」

 そうはいかない。どこに花宮ファン過激派が潜んでいるのか解らないのだ。
 初めてのバレンタイン、手作りは食べるなと念推しされて、そんなに危険かとぐちゃぐちゃお箸でつつき回したチョコレートは幼虫が入っていた。それから手作りは絶対に食べていない。次の年は溶かして何が入っているかチェックして遊んだが、面倒なので今は即捨てている。「皆もおまじないに毛髪や爪が入ってないと良いね」一通り説明すると全員が無言で仕分けし始めた。窓口女子三人組に貰ったものは手作りだが彼女達は大丈夫だろう、少し悩んで鞄に入れる。

「ん? これ豪華、美味しい予感」
「誰に貰ったの?」
「廊下で会った知らない人?」
「やめとけ」

 ラッピングは完璧、開けば市販品のようにビニールが掛かっていて開いた形跡も無い。しっかりとした作りの箱はマッチ箱の様な構造で表面には箔押しの金文字。それを見せて言ったがまこちゃんに止められた。大丈夫だろうとスライドして開けば金箔のかかったキラキラ輝くチョコレート。しかも、

「これ絶対ベリー系! やばい!」
「うっわスゲー高そう」

 赤とピンクの二色が三つずつ、計六個。艶やかな表面はプロのテンパリング技術の賜物だろう。はしゃぐ私の横、まこちゃんは投げた外箱を見ていた。「こんな名前聞いた事ねーぞ」チョコ通か。

「マイナーなショコラティエなんじゃないの?」
「ググるからちょっと待て」

 暫く待つが中々検索に上がって来ないようだ。皆どれだけ心配性なのか、神経質過ぎると呆れている。だよね、これは流石に大丈夫だよ。赤を一つ摘み口に入れる。ふわり、カカオと甘酸っぱいフルーティな香りが口に広がった。

「おま、なに食ってんだバァカ!」
「! めちゃくちゃんまい、ラズベリーだった。口溶け良いのに濃厚」
「マジ? ユーキチャン一個頂戴」
「良いよ、こっちは……、ッ?」

 飲み込もうとして違和感を覚える。何か固くて薄い物が入っている、ナッツ等では無いような。舌先に出そうと転がすが奥で引っかかった。さっと箱を原ちゃんの手から遠ざけてまこちゃんへ押し付ける。無言で隅に置いた小さなゴミ箱に向かい、皆に背を向けてティッシュを取り出しそこに吐き出すが舌の違和感は消えない。失敗したと思うのとまこちゃんの舌打ちが鳴るのは同時だった。「異物混入か?」「マジでこのクオリティで!?」感心と心配をBGMに、喉の奥、指を口に突っ込んで違和感を探すが届かない。軽く嘔吐いただけだった。舌打ちを我慢して手を拭き、口を隠して振り返る。

「何が入ってやがった?」

 嘲笑を浮かべるまこちゃんにバツが悪くなり顔を顰める。ローテーブルのメモを寄せペンを取る。先程口に突っ込んだのは右手だったので左手で不格好な言葉を綴る。

《とれな ぃ  舌 ひっかか つた》
「チッ、刃物系か? 誰かピンセット持って、るわけねーか」
「流石にまずくない? 保健室は……完全下校時刻過ぎてるから無理か」
「花宮ファン怖過ぎっしょ」
「大丈夫かよ! は、箸で取るとか!」
「ヤマ煩ぇ。ちょっと見せろ」

 まこちゃんが口を開くよう言う。絶対嫌だ、汚い。吐き出したと言っても、きっと溶けたチョコが残っている。緩く首を横に振るが見せろともう一度強く言われた。「チョコしか食ってねーんだからんな気にしてんじゃねーよ、面倒くせぇ」顎を掴まれ、仕方無く蛍光灯を見上げるように口を開く。

「いまいちよく見えねーな……ライト」
「任せろ「古橋ノリノリ過ぎ」

 も、最悪、ほんと失敗した。
 まこちゃんだけならまだしも、即答した康くんにスマホのライトで口の中を照らし出される。心配してくれているのかもしれないがほんと恥ずかしい。「ユーキチャン顔真っ赤、恥ずかしい? ね?」決まってる。原ちゃん煩い、黙って。

「あー……あれ、か? 結構奥だな……これ届くか?」
「カッターの折れ刃か」

 あぁ納得、薄くて固い刺さる物ね。
 誰が一番指が細いか談義になって慌ててまこちゃんをタップする。おい汚いんだぞ、なんでそんな頑張ってくれるの。絶対無理だと言うザキちゃんほんと有難う、対して原ちゃんと康くんは志願している。原ちゃんは明らかに嫌がらせだろう、ほんとやめて。まこちゃんの掌に『かえる』と書くが、徒歩十分弱とは言え危ないと却下。ならばと『かがみ』と書くが誰も持っていないらしい。嘘だ、まこちゃん持ってるじゃん。原ちゃんも絶対持ってるよ、たぶん。「ふはっ、お前が忠告無視したんだろーが。ぁあ?」今ゲススイッチ入れる時じゃないです。だがこうなったら聞かないだろう。せめてまこちゃんが一番マシだと、彼の胸元をつつく。「まぁ花宮が適任だよね、指的にも」健ちゃんが言うとスマホを掲げた康くんが少し眉を寄せた。なんなんだ。お前はそんな、大丈夫だ俺が取ってやるぜ! なキャラじゃないぞ。

「思いっきり舌出せ、嘔吐くなよ」
「……ぇー…………ぁ、」

 ゆっくり指が入って来る。もうやだ。見えなくなるのを危惧してだろう、舌を押さえ付けるように進む指。嘔吐くなと言われても生理現象、横隔膜と喉がひくりと動く。必死に耐えるが涙が滲む。まこちゃんは当然口の中を見ているが、康くんはじっと私の目を見ているようで視線が合った。ライトさんちゃんと仕事して、いや口の中見て欲しい訳じゃないけど。目線を外したが何処を見れば良いか解らず、うろうろと下へ彷徨わせる。

「ぅあ゙……ぇ゛…………」
「嘔吐くな、舌が動く」
「……ぁ、ぅ…………」

 まだ? まだ取れない?
 声を上げたくはなかったのに、最悪だ。ぐっと目を細めて色々我慢する。涙が溢れるのを頬で、涎が伝うのを顎で感じた。せめて顎だけでも拭おうと、目の前の握っていた服から手を離そうとすれば、即座に動くなと制止がかかる。さいあく、も、やだ。貰い物のチョコなんてもう一生食べない。

「大丈夫か。血かチョコか解らないが、唾液と混ざって口内ぐちゃぐちゃだぞ」
「やっ……!」
「康次郎やめろ、結希も喋んなバカ」
「ちょ! 見たい!」
「これ中々アウトな絵面だよね」

 ライトさん大丈夫だからちゃんと仕事して。そして原ちゃん動かないで、笑ってないで帰って。ほんとにこっち来るな、なんなのアホなのかな。あと健ちゃん汚いのは解ってるんだから言わないでよ。何も言わず存在感を消し去っているザキちゃんほんとありがと。
 一際奥に突っ込まれた指が探るように動く。嘔吐くのを必死で堪えていると、刃を掴んだのか指が舌から離れた。「絶対飲み込むな、口ん中溜めてろ」「フリか?」「やだ花宮なんかそれエr、」「一哉帰れ。他に何入ってるか解んねーからだ」だよね原ちゃん帰ってと思いつつ、腐った食材等で作られているかもしれないなと考える。大失敗だ……今日の夜はトイレに立て篭るかもしれない。
 抜かれゆく指をぼーっと眺める。終わった、死ぬかと思った。羞恥心で。指が出て行ってすぐに口を閉じて口元を拭う。片眉を器用に上げて刃を観察するまこちゃんの指が涎と赤で汚れていて更に恥ずかしくなる。いや悠長に見てんなよ。刃を引っ掴んで奪い、新しく出したティッシュで彼の指を拭く。「ユーキチャンそこはお掃除フェ、」「一哉さっさと帰れ」お掃除してる、今拭いてるよ。何処見てんの。何処も見るな。帰って。
 さっさとチョコを吐き出して口を濯ぎたい、顔も洗いたい。更衣スペースのドアへ向かうが、途中康くんに肩を掴んで止められた。声が出せないので、なんなんだ早く離せ、と見上げる。

「ここ、まだ付いてるぞ」

 唇の下を拭い、ほらとその指を見せられる。もうこれ以上集まらないと思っていた血液が、ぶわりと顔に集まった。穴が在ったら入りたい、いや、穴掘って埋まりたい気分だ。やっぱり康くんは優しいけど酷い。今は羞恥心で一杯なのだ、察して欲しい。天然さんなの? 泣きそう、というか半分泣いてる。解ったから離せと全力で目で訴え肩の手をタップすると、彼は何故かほんの少し口角を上げて離した。
 パーティションの向こう、部屋の入り口付近には小さな洗面台が着いている。うぇーと口の中身を出すと、横から備品の紙コップを渡された。

「うわぁスゲードロドロじゃん。なんでホワイトチョコで作んないかな、」
「一哉早く帰れよ」
「ありがと……原ちゃん早く帰って」
「酷ぇ!」

 チョコの種類なんてどうでも良い。ケラケラ笑うのを無視して紙コップを受け取り、何度も口を濯ぐ。顔を洗ってタオルで拭く。洗面台の鏡にべーっと舌を出して、口の中は切れたかと見るがよく解らなかっ……ん、鏡? はっとした時、パーテーション扉付近にいる鏡の中のまこちゃんと目が合った。

「か、鏡あんじゃん、アホなの!?」
「アホはお前だ、バァカ!」

 半泣きで振り返ると憎たらしい笑みで舌を出された。隣では原ちゃんが爆笑、あと健ちゃんと、康くんらしき堪えた笑い声が聞こえる。「どうせ指が短くて自分じゃ取れなかっただろ」健ちゃんは言うが、絶対取れたし意地でも自分で取った。なんなの、酷いよ。座り込みそうになるのを堪えて、まこちゃんの腕を引き洗面台で手を洗わせる。ゲススイッチ継続中らしいニヤニヤこちらを見る彼の白い手を、掃除用具のタワシで痛い程洗ってやろうと取り出す。「へぇ、お前刃ぁ取ってやった相手にんな事すんのか? 忠告無視して食ったバカは誰だったっけなぁ」「私です大変有難うございました」それを言われたら何も出来無い。

「右手広げろ」
「? あ……」
「握り締めやがって切れてんじゃねーか、どこまでバカなんだよ」

 まこちゃんから奪った混入物の刃、そのまま握り締めてたんだった。普通のカッターの刃より鋭利な形をしたそれ。貸せと言われて軽く洗って渡すと、残ったチョコの箱に仕舞った。証拠物品? あれで個人が特定出来るのだろうか。
 更衣スペースに戻ると健ちゃんはニヤニヤ、康くんに至っては「取れて良かったな、有難う」って……有難うってなんなんだ。ザキちゃんは何故か顔が少し赤いが口の中と掌は大丈夫かと心配してくれた。そんな彼は救急キット片手に控えめに手招きする。「く、口はどーにもなんねぇけど……取り敢えず手ぇだせよ」本当の優しさを知った気がする。ザキちゃんだけ下手な発言も笑い声も無かったし。

「ザキちゃんだけが救いだよ、もう君しか居ない」
「ぅ、あ、ぁあ?」
「まこちゃんはゲススイッチ入っちゃうし「あれは入るだろう」原ちゃんは帰んないアホだし「扱い酷くない?」康くんは変な方向に優しさ飛ばしちゃう天然さん? だ「そう思ってる種田もだいぶアホで天然だよ」し、健ちゃんは人畜無害そうで地味に眉毛まゆゲススイッチに感化され「お前今なんつった」てるし。ザキちゃんだけが頼りだよ、こいつらもうだめ、どう仕様も無い」
「お、おぅ……大丈夫か、スゲーキャラ崩壊してるぞ」
「そもそもまこちゃんがアホ程モテるから悪いよね、あんな猫被りの薄ら寒いさぶいぼマックスな似非優男笑顔に騙されるアホ女共もアホなんだけど。アホか、全員アホだ」
「お前花宮関係でマジで相当苦労してんだな……さっきスゲー喜んでたけどよ、苺とかのチョコ好きなのか?」
「うんまぁ」
「っしゃ、終わり。じゃあ帰り買ってやんよ!」

 消毒してイソジンを塗られ最後に大きな絆創膏、貼られた掌を仕上げとばかりにベチンと叩かれる。私の頭をワシワシと撫で回しながらニシシと笑うザキちゃんが眩しい。

「ざ……ザキちゃん男前流石1位!」
「わ、ちょ! おまッ!!!」

 思わずザキちゃんのお腹にタックルしてぎゅっとすると、ギャァギャァと暴れたのですぐ離れる。そうだ君は恥ずかしがり屋だった、ごめん。顔が可哀想なくらい赤い、ごめん。
 「ザキキモイわー」「あれ、原ちゃんまだ居たの?」「えっ」軽口を言いながら、そろそろ良いだろうと帰り支度をする。霧崎に焼却炉は無かったので、不穏な手作りチョコ達はコンテナに放り込むだけとなった。部室でだらだらしていたのは捨てる現場を誰かに見られる訳にはいかないから。即燃やせないのは不安だが、黒いビニール袋に包んで部室のゴミに混ぜているので大丈夫だろう。

「まぁ残念ながら私は帰り道、駅もコンビニも行く前にさよならだけどね」
「あっ」
「山崎って紛れもないバカだよね」
「つーかザキ、バレンタインにチョコ買う勇気あったワケ?」
「うぐっ」
「にしても、種田は本当にバレンタインだと忘れていたんだな。作ってくるタイプだとは思って無かったが」
「恋する乙女なら覚えてたかもね」

 似合わないと笑われるが、私自身そう思うので頷く。
 今日の部活は主に先輩達が面倒だった。何も用意していないと言っているのに酷くしつこかった。今度作って来て欲しいと縋られて本当に面倒だった。
 コンテナにゴミ袋を投げ込んだまこちゃんが紙袋の片方を私に寄越す。今年はカカオ100%チョコな手前板チョコが多く使い易そうだ。「え、それどうすんの?」「錬金術する」好物とは言え流石にこの量をそのまま食べるのは味気無いし必要無いらしいので、ガトーショコラやブラウニー等のお菓子に形を替える役目は私だ。このうち半分程は大量の砂糖を混ぜて私の胃に収まり、四分の一はそこそこの砂糖を混ぜて花宮母の胃に収まるだろう。
 最後にまこちゃんからリンツのホワイトチョコをポイッと投げられる。うへへと笑ってお礼を言い、早速開けてその白い粒を口に放る。うまうま。自分の好みとは真逆な白くて甘いチョコを、まこちゃんはドン引きして見ている。

「えっ、それ花宮からユーキチャンへのチョコ? ……マジ?」
「花宮も可愛い所があるんだな」
「なんか怖ぇな……」
「お前ら煩ぇよ。中学ん時からこうだ、ナベが結希にもイベント楽しませろってウゼーんだよ……あとは洋菓子作る駄賃みてーなもんだ」
「まぁ材料費は別でくれ、」
「黙れ」
「で、ホワイトデーは種田が返すの? だから例え覚えてても作んないのか」
「へー……っつーかしっかりユーキチャンの好み押さえてんじゃん、ツンデレマコチャン?」
「まこちゃんも可愛い所がある、ッ! 痛いだろ花宮」
「おいコラ待ちやがれ一哉! テメェも一発ぶん殴らせろ!」
「無理!」

 ギャーと始まった鬼ごっこを見て笑いながらバイバイと手を振る。鬼役のまこちゃんがほんと鬼のような顔をしていて心底怖い。
 ベリー系のチョコも良いが、私の一番好きな物は、カカオマスもココアパウダーも入っていない砂糖と粉乳の塊の甘ったるいホワイトチョコだ。中でもお気に入りのリンツ、その辺のスーパーでは売っていないこれを態々用意してくれるまこちゃんツンデレさん。
 散々なバレンタインデーだった土曜。週明けの月曜、小さな傷口達が口内炎になって鬱陶しかったが、まこちゃん以外のメンバーにチョコ菓子を渡されて驚かされ、嬉しさのあまりそんなのは吹き飛ぶ事になる。

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