貫通

 ガラケーでは上手く探せなくて、まこちゃんにお店と病院の検索を頼む。というか食べながら携帯を触っていたら、行儀が悪いと叱りつけた彼がぶちぶち文句を垂れながら探してくれている。

「まだー?」
「こっちはちゃんとした所探してやってんだ黙って待ってろ、アイスピックでその耳ぐっちゃぐちゃにすんぞ」
「耳たぶぐっちゃぐちゃにしたい訳じゃないんだけど」
「ふはっ、テメェの動機なら似たよーなもんだろーが」

 絶対全然違う。肩を竦めて皆を見るが、まこちゃんの発言に恐れ戦くザキちゃん以外はゆるーく首を縦に振った。いやだから、絶対全然違うよ。

「思っていたんだが、原は彼女や他の女子にもピアスを勧めるのか?」
「ないない。七割くらいは断るの前提だったし? ピアス開けろなんて彼氏でも中々言わないっしょ」
「三割は本気だったんだ」
「まーねん。つーかそもそもいつもは適当にアクセ送って終わりだっての」
「これがチャラ男ってやつ?」
「だな」
「えっ!? じゃあ原って、その、あ゛ー「山崎声デカ過ぎ煩い、てかなにその反応小学生かよ……って言いたい所だけどどうなの実際」
「そんなんじゃないって。まーユーキチャンの事は気に入ってるし? 実際ド……その辺の疑惑的に興味有るかどうか気になったし。ユーキチャンも意味解ってないんだから、ねー?」
「ねー……ってなにが?」
「ピアス勧めた意味?」
「邪魔にならない、紛失し難い、痛くない。でしょ?」
「そーそー。ねー?」

 ぽんぽんと頭を撫でられる。私も原ちゃんの事気に入ってるよ、良い関係を築けていると思う。ザキちゃんは何故か顔を赤らめていたが、今は神妙な面持ちで「お前悪い男に掴まんなよ」と説得してくる。いつそんな話になったんだろう。「私護身術習ってる、何か遭った時は護身術の出番」冗談っぽくカンフーな構えで掌をコイコイと動かし、同じく神妙な面持ちで返すと、まこちゃんと健ちゃんに溜息をつかれた。酷いな。確かに今のはアホみたいだったけど、まこちゃんはまだしも健ちゃん相手ならどうとでもなると思う。まぁそんな状況無いけど。






 まこちゃんが予約要らずで土曜の午後でも開いていて、アフターケアもばっちりな評判の良い病院を見付けてくれた。電話を一本入れファミレスを出る。「よく在ったな、んな病院」「現実にはねーよこんなん」急なメタ発言やめて。結局ご飯代は私以外は後々返すと言う事で、まこちゃんがさらりと一括で払ってくれた。スマート。
 病院に着いて簡単なカウンセリングを行い、ファーストピアスを選ぶ。どうしようか……事の発端は原ちゃんだ、彼に選んで貰おうと待合室に居る皆のもとへ行く。医師はよくある事だと、ゆっくり選んで良いと言ってくれた。

「原ちゃんどれにする?」
「……なんでオレ?」
「言い出しっぺの法則。あ、お金出してって意味じゃないよ」
「ユーキチャン……最ッ高」
「そりゃぁ勧めたのは原ちゃんだけど、流石にこの額は頼めない」
「そっちじゃないんだけどねん。気になんのないの? 誕生石とかあんじゃん。ガチでオレ選ぶよん? んで全力で自慢するけど良いの?」
「自慢? ない、誕生石も興味ない」

 だって三月に生まれた事に違和感あるし、とは言わずファーストピアスのカタログを見せる。「んー……じゃーねー」私の髪を耳にかけ、こちらを見て少し悩む。

「「コレ」」
「はい?」

 康くんが同時に指を差した。

「ちょ! 古橋!」
「康くんも選ぶ?」
「俺も何もしてないしな。気になる」
「別に良いのに」
「気になるんだ。どちらか選べば良いだろう?」

 笑う原ちゃんはピンクゴールドのプレーンなハート型、首を傾ける康くんはシルバーにオニキスが嵌ったラウンド型のピアスをそれぞれ指した。どちらか、と言われても選べない。うーん。言い出しっぺの法則で原ちゃんの方を選ぼうか、でも康くんが選んでくれるのも嬉しい。悩みに悩んで、あぁと思いついた。

「じゃぁ二個開ける」
「……マジ?」
「お前興味あるだけなんだから一個開けりゃ充分だろ」
「でも選べない」

 まこちゃんがまだなにか言っているが、無視して若干はしゃぎつつ受付で相談する。しかし初めてのピアスとなるとアレルギーの誘発等トラブルがあっては困るので、先ずは一つだけと却下されてしまった。意気消沈して皆の所へ戻る。「どっちか譲る気ない?」「「ない」」ほんとどうしようか。

「面白そうじゃん、お前らどれ選んだの?」
「「コレ」」
「じゃあ俺コレね」
「なんですと」
「俺も何もしてないし?」

 まさかの健ちゃんまで言い出した。指すのは二人と違う物──アメジストの付いたシルバーの三日月型。発言通り完全に面白がっているのだろう。まこちゃんが呆れて溜息をつく。今日で彼の幸せはどれだけ飛んで行っただろうか。

「もう良い、ザキちゃん選んで」
「え!? はぁ!!?」
「ここ病院、煩いよ」
「ワリィ、えーあー……コレ?」
「…………ザキちゃん空気読もうよ」
「はぁ? なんでだよ、女子って赤とかピンクとか好きだし無難だろ」
「多数決。三つの中から選んでってつもりだったの」
「あっ」

 そうだ、ザキちゃんはバカだった。重要な事を忘れていた。彼が選んだのは三人とはまたしても違う、ゴールドの五本立爪のルビーのピアス。どんどん選択肢が増えている。四つ。これなんだっけ、四面楚歌? 違うか。

「もう適当に決める。どーれーにーしよーかな、天の神サマの、」
「それはないっしょー」
「ちゃんと選べ」
「じゃなきゃ面白くないじゃん」
「多数決つってもなぁ……この三つはピンと来ねぇし「山崎も大概だね」
「ザキは空気読めてたからそれで良いよん」
「だな」
「あー……じゃぁもう全部開ける、はぁい全部開けるー四つ開けるーそうするー」
「ブッハ! 完全に面倒臭くなってんじゃん!」
「クッ! それで? 四つ全部開けるとしてどれからにすんの」
「今日開けるのは一つなんだろう?」
「なんなの皆」

 面倒になって投げやりに出した答えは結構良い案だと思ったが、順番がと言われて放棄する。最後の頼みの綱とばかりにまこちゃんを見上げる。この状況に呆れ返っている彼なら、ちゃんと空気を読んで多数決に持ち込んでくれる筈だと思った……のだが、

「お前コレにしろ」

 指されるのはまたしても別のピアスだった。

「ザキちゃんとの話聞いてた?」
「これでも空気読んでやってんだぜ? 一応ウチのチームカラーだしこいつらの間取ってんだろ」
「まこちゃんチームカラーとか考える人だったんだ……明日はアイスピックの雨が降るね」
「ぶん殴るぞ」

 いやもうアイアンクロー決められてるんだけど。
 だってまこちゃんはそう言う事に興味が無いどころか嫌悪していると思っていた。チームカラーは言わば、一緒に青春やってる仲間の印の色とも言える。彼はそれを踏みにじりたい質なのだから。似合わなさ過ぎてさぶいぼが立った。
 だが確かに間を取っていると言える、気がする。理に適ってる、かも。

「それに……」
「?」
「エメラルドは、五月の、誕生石だ」

 もう一度トントンと指で叩かれる先は、シルバーにエメラルドが嵌ったラウンド型のピアス。
 霧崎男バスのチームカラーは緑色。緑は八月の誕生石・ペリベットもあるが、それより色の濃いエメラルドの方が近い色だ。近い色だけど、きっと本質はそこじゃない。だって五月は──……

「これにする!」
「あぁ……それにしとけ」

 ──五月は、私の、始まりの月。
 まこちゃんとしょーいち先輩が、倒れている私を助けてくれた日が5/31。それはつまり私の記憶が死に、新たに歩み始めた日である。誰の計らいだったか、事情を知る中学時代から交流のある四人は、あえて三月をスルーしてその日を祝ってくれる。私達五人の間でだけ、私の誕生日は5/31、という呈だ。
 一年に一度のぶっきらぼうな祝福に留まらず、予想外な場面でこうやって示された事が嬉しくて堪らない。緩みきった顔で受付に走った。



 ∇ ∇ ∇



「えー結局花宮が持ってくワケ?」
「上手い事言って収めたな」
「まぁ間取ってるっちゃ取ってっか?」
「……五月になんかあんの? 何かの記念日なら誕生石は関係無いでしょ」
「「「それ思った」」」
「さぁ? 好きだって言ってたぜ?」
「好きって五月が? 意味解んねぇ」
「他に理由有りそうだけど?」
「ユーキチャン超笑顔だったよねん」
「つーか康次郎、話ややこしくしてんじゃねーよ」
「気になったんだから仕方無いだろ」
「お前絶対『プレゼントを渡していない事』が気になったんじゃないでしょ」
「それな、一緒に指指した時めちゃくちゃウケたわ」
「すまない意味が解らない。便乗した瀬戸に言われたくないんだが」
「だって面白いじゃん。あの様子じゃ、二つから選ぶのも三つから選ぶのも変わんないでしょ」
「……俺は結局空気読めたっつー事で良いのか?」
「読めてたよん。一番読んでそうで読まなかったの花宮だろ。実は自分が選んだのにしたかっただけだったり、」
「違ぇよ。最終的に選んだのは結希自身だろーが」
「それにしても結局種田は幾つ開ける気なんだ?」
「いやチームカラーだから間取ってるっつって決めたし一つだろ?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「オイ花宮まで黙られると不安になんだけど! お前種田の母親だろ! しっかりしろよ!!!」
「煩ぇな……一哉マジでやってくれやがってお前ふざけんなよ……」
「ユーキチャンってやっぱドMな「言わないでよ」
「知るかよ!」
「花宮もちゃんと否定しようよ」
「ピアッサーで開けてみたいんだが。と言うか施術中見学出来無いのか?」
「古橋もどんだけなのマジで」
「だって面白そうだろ」
「あ、」



 ∇ ∇ ∇



 では開けますねー、はいお願いします、緊張しないでねー、大丈夫です、そー? はい終わり、え、痛くないでしょー、えぇ……全然、全然って痛みに強いねー。で終わった。一瞬だ、殆ど痛くなかった。そりゃぁ針で指を突くよりは痛かったけど、注射より軽いと思う。
 ケアの仕方と起き易いトラブルの説明、入浴時等での注意を受け、消毒ジェルと軟膏を処方されて終了。受付でお金を払って皆の所へ戻る。

「あ、」
「お待たせ」

 見せてと言われて、髪を耳に掛け横を向く。康くんが触ろうとしてまこちゃんに制止されていた。助かる。一日二日は安静にと言われていたのだ。私も触らないよう気をつけないと。
 病院を出て駅の方へ歩く。なんだかんだでもう夕方だ。ファミレスでだらだらして病院探し、更にファーストピアス選びで悩んだので、外は緩やかに夜の気配を漂わせている。

「どーよユーキチャン、初体験の感想は?」
「注射より痛くなくて拍子抜け」
「早かったな、市販品のピアッサーで開けるのとは何か違うのか?」
「ニードルって太い注射針みたいなのでトスッと、ちゃんちゃん」
「それ絶対痛ぇだろ」
「んー……まぁ今は少し、ずくずくするかな」

 ちゃんと痛い。これは悪く無いな、私は痛みを感じている、普通に。そう思いながら無意識に触りそうになった右手を、まこちゃんにはたき落とされる。

「お前触るなって言われたんだろーが」
「そうだった」
「それで結局幾つ開ける気なんだ?」
「おいだからもう開けただろ」
「別に、拍子抜けだったしなぁ……」
「四つ開けるっつったじゃん」
「それは皆が選んでくれたのから一つ選べないから」
「でも花宮が選んだやつにしただろ? 折角オレらも選んだのにさー?」
「そうだな」
「俺は、いや、あー」
「酷いわ種田」
「……お前らなぁ」
「あれはまこちゃんが選んだっていうか、そもそもの……まぁ結果的にまこちゃんが選んだになるのか? なるのかな」
「でしょ?」
「んー……ごめん?」
「そう言えばユーキチャン、軟骨開けると痛いって聞くよん」
「一哉煽んなっつーの」
「軟骨?」
「結希も乗ってんじゃねーよ」

 ココとか、と原ちゃんが耳の上の方を指す。何故もっと早く言ってくれないのか。耳たぶが拍子抜けで不完全燃焼だった事で、また興味と疑問がずもももと頭をもたげた。「注射より?」「さー? 俺は開けた事無いし」だめ、気になる。

「もう決定で良いよ」
「なにが「お前が。もう決定で良いよ、完全にクロでしょこれ」
「種田、また開けるなら「だからって古橋が自重しないのは違うから」
「よく解んないけど、取り敢えずはトラブル起きないかどうかの時間置くよ」
「え、お前また開けんのかよ!?」
「取り敢えずはって言った。まだまた開けるかどうかは解んない」
「お前な……」
「既に視野に入れてる時点でノリノリじゃん!」

 だって気になるんだもん。とは言え、今度はさっき程ノリノリって訳じゃないよ……たぶん。

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