組替

 二年の教室が並ぶクラス棟三階の階段ホールには、大きくクラス発表が貼り出されている。早めに終わった朝練、来たそこは人が多過ぎてよく見えない。

「健ちゃん肩車「しないから。俺とお前が一緒なのは予想通りなんだけど……これ間違ってないか?」
「主席と次席が同じクラス、ねぇ?」
「オレと花宮、ユーキチャンと田辺が一緒な時点で合ってるよん。つーワケでザキ、昼飯奢れ」
「うっわこれマジで? んで俺もまたお前らと同じクラスかよ」
「俺も一緒か。妙な偏りを感じるな」

 また健ちゃんと一緒だと喜んでいると、続々と衝撃的な事実が知らされた。取り敢えず二年二組らしいので教室に移動する。同じ担任だ、楽で助かる。席もまた自由だろうと自然と一年の時と同じ席に座ると、健ちゃんが笑った。

「あれ、窓際じゃなくて良いの?」
「あ……」

 腰を浮かしたが時既に遅し。窓際後ろから二つ目、睡眠学習持ってこいのベストポジションは健ちゃんに奪われてしまった。まぁ良いや、この方が慣れてる。ふふ、と笑って座り直した。まこちゃんは健ちゃんの前に、康くんはその横──私の前に座る。ザキちゃんは健ちゃんの後ろ、原ちゃんは私の後ろだ。

「それで。なんで予想通り?」
「あー……俺とお前が一緒なのはやっぱ偶然かも知んない」

 健ちゃんの予想はこうだ。第一に、彼をすんなり起こせる人間がまこちゃんか私(の持つ携帯の録音最終兵器)しか今のところ存在しない事。第二に、主席と次席が同じクラスになるとは到底思えない事。そうなると自然、でこぼコンビは同じクラスだと。確かにどうしても健ちゃんを起こさなければならない時、どの教員も決まって私に頼んだ。いつだったか、担任にどうやって彼を起こしているのか訊かれた時種明かししたのだ。それを教員同士情報共有したのだろう。しかし予想は外れた。

「つまり主席と次席を一緒にする程健ちゃんは寝坊助だと思われてて、まこちゃんは目覚ましだと思われてる?」
「宜しくな、目覚まし花宮」
「目覚まこちゃん」
「やめてくれよ二人とも……一哉はナベの真似でもしたのか?」
「そういう事よ、いやーまさかお花とも一緒とは思わなかったわ。ザキ昼飯奢れよ!」

 教室に入って来たべーちゃんが私の右横に座る。真似? どういう事だと話を訊くと、彼女は去年の二学期頃から私と同じクラスにするよう教員達にお願い(脅迫)し続けていたらしい。原ちゃんはそれを面白がり少し真似て、開口一番「花宮が言うなら聞いても良いけど?」と言い続けたそうだ。優等生花宮クンを愉しみたいらしい。だからべーちゃんと私が同じクラスなのは必然で、原ちゃんに手を焼いた教員が彼をまこちゃんと同じクラスにするのも必然だと。因にザキちゃんはきっとただの偶然。で、それぞれがそれぞれと同じクラスになるか、お昼ご飯を賭けていたそうだ。実際に彼女達の作戦の通りになったのか、偶然が偶然を呼んでこうなったのかは解らない。
 小さな悲鳴と共に窓口女子三人組が走り寄って来た。「宜しくでこぼコンビ!」「萌えが保証された」「宜しくね」彼女達はべーちゃんの前に固まって座った。べーちゃんと仲良くなったらしい、楽しそうに話している。学祭では劇の件で問いつめると言っていたが、大丈夫だったようだ。

「仲良かったんだね」
「あー……色々あった後、趣味の話で意気投合」
「もしか文芸b……か、紙谷さんと?」
「そうそう、紙谷とは特にね」
「種田ちゃんがついに名前覚えてくれたktkr! 田辺ちゃん未だにでこぼコンビ関係は認めてくれないんだけどそれでも我らは同志! でも認めてくれない……」
「身長差萌えはアタシも超理解出来るけど三次はなぁ……しかもユーキで且つ相手が瀬戸ってのが癪なんだよねぇ」
「……女子ってほんとそういう話好きだよね」

 呆れたような健ちゃんに仲良しはだめなのか訊いていると「瀬戸と種田またセットかよ」「おぉでこぼこフレンズ」「コンビだろ。今年も宜しくな! ってかお前らまたその席か」と元二組の男子が三人入って来て、廊下側の最後尾に固まって座った。宜しくと適当に手を振り返す。「男子まで言い出したのか」深刻な顔のべーちゃんに首を傾げる。仲良しはだめなの? 他にも知らない生徒達が教室に入って来たが、席が解らないのか後方や前方で立ち話している。明らかに自由だよ、察しが悪いな。
 というか、普通これだけ仲の良い面子揃える? 絶対に煩いと思う……いや元八組トリオ以外は静かか。でも離したりするもんじゃないのかな。少なくともザキちゃんや康くん、べーちゃん私コンビを別のクラスに、とか。私としてはこれで大満足だけど。
 霧崎は三年に上がる時クラス替えをしない。三年からは選択授業ばかりになり、クラスはあまり意味をなさないので省いているそうだ。楽しい二年間になりそうだと思う半面、気の知れた友達に囲まれたまこちゃんの猫被りがいつまで持つだろうかと考える。ほぼ全員揃った教室内、早速優男キャラを貫くまこちゃんに原ちゃんが後ろで吹き出した。

「あー席は自由で良いから、さっさと適当に着け」

 案の定自由だった席順に他の生徒達がばらばらと座る。既に席に着いている男バスメンバーを見て担任は唸りながら口を開いた。

「お前らは花宮中心に座って欲しいが……まぁ良いか。花宮、男バスの問題児四人の面倒任せたぞ」
「は? 四人!? え、俺も!?」
「お前は原を制止出来無いどころか、度々引っ張られてんだろ。去年の三年との件もあったしな」
「ちょっとセンセー、ザキをオレのリードみたく言わないでよねん。だからって花宮も別にリードじゃないけどー」

 ザキちゃんの言葉に担任は溜息をつきながら答えた。去年の三年との件はよく解らないが、ザキちゃんも偶然じゃなかったようだ。離してそれぞれで問題を抱えるより、纏めてまこちゃんに面倒見せようって作戦? というか四人ってどの四人? 康くん別に問題児じゃないよなと頭を傾げていると、

「あと一人は種田、お前に決まってんだろ。下手に花宮の目の届かん場所に居て問題起こされたら困る」
「まさか。私は何もしませんよ」
「お前からはな。でも周りはそうは限らん、去年の捻挫忘れたか? そもそも返り討つためになんかやらかすんだから結果同じだろうが。古橋、もし花宮が手を焼いた時は頼むぞ」
「花宮が手を焼いた時点で俺にはどう仕様もありません」
「……そうだな」

 うーん、ごもっとも?
 つまり本当に偶然一緒だったのは康くんだけか……だけか? どうだろう、まこちゃんの補佐として選ばれたのかもしれない。
 その後一年の時と同じく委員決め。「次、図書委員」声を合図に前の康くんと共に手を挙げる。図書委員になったら絶対サボりが最高になる、梅雨も康くんに助けてもらわなくて良い。私は楽で、康くんは授業に出れて、他にやりたい人も居ないから委員はスムーズに決定。皆ハッピー。

「古橋、と……種田は却下。はいもう一人、他誰も居ないのか」
「はい?」
「お前権力私物化する気満々だろうが。自分で図書委員になったら歯止め効かんくなるぞ」
「いえ委員会活動する気満々です、本大好き」
「だとしても既に部活動掛け持ちしてるだろう、女バスの監督にもお前は委員にしないよう言われているから諦めろ。本は勝手に借りて好きなだけ読め」

 なんですと。アンハッピー。
 くたりと机に沈んだ私に、無事図書委員になった康くんが任せろと声を掛けてくれた。というか司書室でサボっていた事も、図書委員に協力して貰っている事も何故かバレている。担任怖い。






 始業式を終えて対面式だが、ユニフォームに着替えるために私は欠席している。対面式後の部活動紹介、女バスはスタメン全員参加なのだ。中学女バス界で地味に有名だった私は広告塔よろしく、試合と同じ格好をしろと言われた。指示通り試合でもないのにアームスリーブを着けた私を見て、主将は満足そうに頷く。
 男バスの方は三年のスタメン一部とまこちゃんが出る。春休み天使先輩に「女子マネ居たら絶対部員増えるから!」と私も出て欲しいと言われたが断った。私を目当てに入る人なんて居ないだろうし、例え居たとしても女子目当ての人なんて使えなさそうだから要らない。そもそも私は注目を浴びたくないから、出来る事なら女バスだって断りたいくらいだったのに。

『次は女子バスケットボール部です』

 放送が掛かりステージに上がる。対面式の続きだからと、部活紹介にも関わらず全校生徒の前だ。嫌だな。五人で列んで主将が普段の練習内容等、活動説明をする。その後ステージ端に台を置いてそこに一人立ち、ポートボールの要領で簡単なプレーを見せる。最初にゴール役をして次の部員と交代。手持ち無沙汰に持ったボールを腕の上を走らせながら、最後尾で自分の順番を待つ。レッグスルーしてジャンプシュート、スクープ、レイアップと先の部員のプレーがしている。何をしようか、見せるんだし派手なの……と考えてもゴールじゃないしフェイダウェイかな。
 そうして私の順番になった時だった。視界の端で何かが忙しなく動くのでちらりとステージ下を見ると、列から頭一つ飛び出た長身の生徒がこちらへぶんぶん手を振っていた。驚いて呆気に取られていると、別の所からべーちゃんと原ちゃんが態とらしい黄色い声で私の名前を呼ぶのが聞こえる。何やってんの二人とも、やめて。主将から背中をつつかれ、我に帰る。

(……そうだ)

 軽くその場でドリブルしながら思いついた。ポートボール、これだけゴールが低いなら、出来る。

「ちょっと下がります、ちゃんとするんでご心配無く」
「え? ちょ、種田?」

 主将に声を掛けて舞台袖まで行く。短く息を吐いて助走。観客から見える位置まで出てから、大きく跳んで空中でレッグスルーし軽くゴール役に投げた。目を丸くしたゴール役の部員はボールを取って、

「なっ……!?!??」

 ……すぐポトンと落としてしまった。締まらないなと思いつつボールを拾い上げる。

「ら、ライダーか……」
「ライダー?」
「レッグスルーダンク……まぁダンクでは無かったが。お前意外にサービス精神旺盛だな」

 まぁね。
 聴こえる馴染みある指笛、そしてべーちゃんが笑う声にふふりと笑う。少しは楽しめただろうか。どよめく体育館の中、驚いている部員と苦笑する主将、五人全員で列んで一礼して捌けた。

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