ちょっとこれは困った事になった。
「ですから私は関係者です。中に、」
「そんな見え透いた嘘通用すると思ってるの? 君見たとこ小中学生じゃないか。どうせ黄瀬君のファンでしょ? 居るんだよね、無理矢理会おうとするマナーのなってないファンの子……いい加減しつこいよ」
しっしっと手を振る警備員。構わず踏み出した足は、両手を広げ通せんぼする彼に邪魔される。ナイスディフェンス、ほんっと邪魔。
今日はべーちゃんにチケットを渡したバスケイベント当日、会場近くの関係者準備場所のビルに来ている。挨拶しながら入ろうとした私を警備員は慌てて止め、それからこの長い押し問答が始まった。どうやら『キセ君』とやらの熱狂的なファンだと思われているらしい。パキラ達に何度も電話を入れるが、ビルの立地が悪いのか電波が届かない。唯一通じるサチマはずっと呼び出し音……これはいつも通り。代わりに三人を呼んでと言っているのに、少しばかり背が低いだけで確認も取らず決めつける警備員に苛々する。溜息を吐いてその場を離れた。
くるりと回ってビルの背面へ。柵が人一人分だけ空いている、と言う事は絶対裏口がある。柵に入りビルと物置小屋の間を抜けると、簡素なドアがあった。ビンゴ。植木に囲まれたそこは喫煙所にしているらしい。案の定鍵は掛かっていたので、灰皿の向かい、壊れそうなベンチへ腰を降ろす。パキラがヘビースモーカーだからここなら会えるだろう。
《門前払いされてる。今は裏口に、》
「──ても抜けられない仕事って言ったじゃないっスか〜! かなり前から決まってて、はい? いや前の練習試合オレだって悔しかったんで練習には出た、いッ!?」
三人へメールを打っていると誰か出て来た。救世主登場の予感に顔を上げる。目が合いビクリと動きを止めた男は、小谷を金色に塗った感じの……つまり出演者のモデルさんか。紛う事無き関係者だ、またビンゴ。モデルはほんの一瞬眉を寄せ、電話に意識を戻した。未成年なのに煙草吸ってると思われたかな。にしても喋り方や雰囲気まで小谷っぽい、金色小谷。
「──いえ、お疲れさまっス! 頑張ってきま、切れた!? ハァ……」
通話を終えた様子に携帯に戻していた頭を上げる。手を貸して下さいな。
「すみません。私本日のイベントで、」
「あの〜出待ち? てか入ろうとしてたっスか……? 応援してくれるのは嬉しいんスけど、ここ今日一日関係者以外立ち入り禁止なんスよ。警備の方に見つかる前に出た方が良いっスよ? 今なら内緒にしておくんで」
掛けた声は忠告で遮られた。苦笑、心配を混ぜた言葉、人懐っこい雰囲気。「ね?」コテンと首を傾げる仕草は、小谷に似た整った顔立ちがやると様になった。だが黄色い瞳は軽蔑の色を強く浮かべていて。黄色は元気で明るい色、そして……薄く軽さを感じる色でもある。軽薄。まこちゃんの演技力には到底敵わない。モデルなのにお仕事大丈夫なの? 俳優じゃないから大丈夫か。
「いえ、私は本日のイベントの、」
「cao!! マジでウゼェなあいつ。面倒クセェ糞ビッチが」
「サチマ紳士面剥がれてんぜ。ぐいぐい媚売ってんな、あのアングラアイドル。でもお前清楚系好きだもんなぁ」
「俺はただヤマトナデシコ以外日本人女性って認めねぇだ、け……ってトビ? こんな所で何をしているんです、未成年の喫煙はいけませんよ?」
「おートビおはようさん。お前タバコ吸ってたのかよ、学校にバレんなよ」
「おはよ。煙草は吸ってない。サチマ電話出てよ」
「ん? OMG...」
「ちょ、めっちゃ着信通知来た! このビル圏外だったんだっけか」
なんだか今日は遮られてばかりだ。
開いたドアから出て来たのはパキラとサチマ、本物の救世主登場である。金色小谷は私と二人が話すのを見て目を白黒させている。彼に軽く挨拶した二人は煙草に火を着けた。パキラが擦ったマッチの赤燐の香りが漂い、サチマが乱暴にジッポを閉めた音が響く。地下ドルに狙われて苛々しているらしい。
「悪ぃトビ、今メール届いた……あ? なんだよ門前払いって」
「入口の警備員が無能で、関係者だ君達呼んでって言っても聞く耳持たなくて」
「うん。だからなんで門前払い?」
「キセ君? って方のファンの小中学生と間違われ続けた。ほんと困る」
「うっは、今お前の目の前に居んのが黄瀬君な! 写真見せたじゃねーか、ほんっと覚え悪ぃな!」
目の、前。この金色小谷が『キセ君』?
そう言えばべーちゃんが『キセリョ』と発していたし、学生に人気なモデルだった。つまり先程のあれは本人にもファンと思われた、と。自意識過剰……まぁ熱狂的なファンが居るなら、出待ちや侵入者と間違われても仕方無いか。考えながら見上げた『キセ君』はぽかんとしていた。「え、オ、オレの事知らなかったんスか!?」うーん、やっぱり自意識過剰かも。
「申し訳ございません。雑誌は興味が無く、拝見しませんので……」
「え〜一応街頭ポスターとかCMとかの仕事もした事あるのに〜っ!」
「トビはその辺一切興味ねぇからな! 悪いね黄瀬君、まーこいつは特殊だから気にしなくて良いよ。お前名前覚えてる芸能人居ねぇもんな」
「アイドルのみ、みるみる? と巨乳な堀北なんとかちゃんと、堀……マコちゃんは覚えたよ、知り合いの影響で」
みやみやと青いのに熱く語られたし、なんてったって マ コ ちゃんだからね。「みゆみゆ堀北マイ堀内マコな、覚えれてねぇじゃん!」少しくらい見逃して欲しい。にしても、共演者はちゃんと調べておけば良かった。かなり無礼だろう。「なんか今ので察したっス」重ねて謝るとぱたぱた手を振り許してくれた。うーん、小谷。
「大変失礼致しました。改めまして……本日パキラ達と共にパフォーマンスをさせて頂きます、トビ、と申します。どうぞ宜しくお願い致します」
「あ、はい! て、え……出演者!?」
そんなに驚かなくても。
「トビは童顔でみみっちいですからね、驚くのも無理はないでしょう」
「黄瀬君、こいつこれでも君と同じ高校生だぜ? まー歳も近いんだし仲良くしたらどうかな。モデルだキセリョだっつー目で見ない、外面で釣られない同世代の女子とか貴重だろーし」
「高校……生!?」
今までで一番驚くキセ君。これは喧嘩売られているって事で良いだろうか。
「絶対中がk……あ、いや違うっス! こっちこそさっきはスミマセン。同じく今日出演する黄瀬涼太っス、宜しくお願いします!」
いらっと来たのを察した黄瀬さんが、慌てて否定して手を出す。「敬語じゃなくて大丈夫っスよ!」握手に応じながら仕事相手に良いのかと悩んでいると、パキラにわしわしと頭を撫でられる。「んな堅ぇとお互い疲れんだろ」確かにそう……なのか? パキラは私達に仲良くして欲しいようだが、黄瀬さんの目から軽蔑は抜けたものの、警戒は一切緩められていない。芸能界は裏社会で怖い所というべーちゃんの話を思い出す。苦労してるのかな、知んないけど。
「トビー! ゴメン、その可能性全然浮かばなかった! 玄関のスタッフはシメて責任者に報告したから安心してー」
外から店長が来た。私の到着が遅い事に心配した彼女は、外へ出て連絡しようとして、届いた着信通知とメールに驚いたそうだ。シメたって何もそこまでしなくても。「店長も芸人に絡まれて苛ついてたからな」遠い目をするパキラが二本目だった煙草の火を消す。それを合図に五人でビルへ入った。
関係者が全員揃ったところで、全体でタイムテーブルの確認と顔合わせ。その後立ち位置等の確認のため会場野外ステージへ行くと、既に居た女の子数人から黄瀬さんへ声援が送られた……これは自意識過剰になるか。司会の一人、地下ドルにも男性二人が団扇を振っていた。客席を見る限り規模はそこまで大きくないようだが、やはりとんでもない催しに参加しようとしている気がする。う、うーん……。
「きゃぁ! こんな感じの子ならキッズ用モデルも持ってくれば良かったぁ!」
「こら失礼でしょう、そもそもキッズ向けに新作無いじゃない……ごめんなさいね。お化粧出来ないのが残念だわ、本当にマスク被っちゃうの?」
「は、はい」
「肌つるつる! 真っ白だからしっかり日焼け止め塗ろうねぇ。外出時はちゃんと塗らなきゃよ、夏より五月の方が紫外線多いんだから!」
「髪どうしましょうか? 緩く巻いて纏めるのも良いけど、空気感崩したくないわね……ちょっとtenさん、マスク貸して下さらない?」
控え室に入ると、スタイリストさん二人にもみくちゃにされた。丁寧な口調の方は男性だ……きっと礼央ねぇタイプなんだろう。「細いけど綺麗に筋肉が付いてるわね、流石アスリートって肉体美。手足長いし雰囲気持ってるし、モデルとか興味無いかしら?」ずいっと顔を寄せられ言われた。モデルは長身の人がやる筈だろう。困って彼女(?)を見上げるが、お世辞か本気か解らない顔で微笑んでいる。「その子人見知りだからあんまり詰め寄らないでやってよー」DJ.tenこと店長が爆笑しながらお面を寄越した。目元から鼻先辺りまで隠れる形の、クリーム色のネズミだ……トビネズミ?
スタイリスト二人は忙しなく口と手を動かし、悩む口調と裏腹にするする衣装を決めて行く。淡いピンクのゲームウェアに、紺系の上品な植物柄のゲームパンツ、薄手の白いメンズパーカーを着る事になった。バスケウェアにこんなおしゃんてぃなのあったのか。靴下一つ取ってもスタイリストが選ぶので驚いた。店長は私とは逆に上が柄物、下が無地、ジップ付きパーカーを羽織っている。胸の格差が凄い。
新作アパレルのテーマは自然。そこで右半身──肩から手首、腿から足首に繊細な蔦のペイントを施される。凄くこしょばい。お面が動物だからよく合いそうだ、だから三人が呼ばれたのかな。
イベントが始まった。店長は既にステージでDJをしている。イベント名を告げる声に、初っぱなのサチマが出て行く。私は二番、腰くらいの高さの適当な場所に片足を置き、バレエのように柔軟をする。試合ではないが間違えたらマズいのでそこそこ集中しなくては。まぁどうにでもなれ。「頑張って下さい!」声を掛けてくれた黄瀬さんに頭を下げて、深く細く長く息を吐き、捌けるサチマの背中を見ながらステージへ上がる。最前列、驚くべーちゃんと目が合った。スタッフとは言ったが、出演者とは言わなかったっけ。お面をして髪型も違うのに、すぐ私と気付いた彼女に笑みが溢れる。一分程のパフォーマンスを終えパキラと交代した。
三人分のパフォーマンスが終わり、司会の地下ドルと若手芸人二人の三人が、改めてイベントの開始を告げた。四人でその横に列ぶ。
「オープニングアクトを勤めた『trilingual』の皆さんです! バスケットボールを自在に操り──……」
『trilingual』はパキラ、サチマ、店長のグループ名だ。店長はインターナショナルスクール出身マジバで働く外大生の洋風(?)女子、サチマは中国人。パキラが『和洋中』と提案したがダサ過ぎると『trilingual』に決まったらしい。因にお面はパキラが牛、サチマがパンダ、店長がライオンだ。
「フリースタイルフットボールは知ってるけど、どう違うの? ボールがバスケットボールってだけ?」
「競技の特性上、技も随分違いますよ。サッカーは手で持っちゃ反則ですからね!」
「ハンドだもんね。ならフリースタイルバスケはフリースタイルフットボールに手を使う技を取り入れた感じ?」
「寧ろ手技中心です。バスケはボールを蹴るのが反則、御法度なんで」
「脚で挟んだり、ボールを跳ね上げる事はありますけどね。こうっ……やって」
「きゃ〜! スゴ〜イ! バスケットボールって重いんじゃ──……」
足首に乗せたボールを跳ね上げ手に乗せるサチマに、きゃっきゃする地下ドルをぼーっと眺める……可愛いけどべーちゃんにも桃色の女神様にも敵わないな。
バスケは人気でメジャーな競技だが、フリースタイルとなると途端にマイナーだ。解り易く説明する三人の横、私は喋らなくて良いので壁の花と化す。
「『trilingual』はパフォーマーのパキラさんサチマさん、DJのtenさんの三人でイベントやネットの動画投稿を中心に活動されているそうです……が! そっちの子は新メンバー!?」
「ッ!?」
「ウチの秘蔵っ子、弟子のトビでーす。今日が初お披露目ー」
「小さな体でアクロバティックに技を決める姿は凄かったね! お面の素顔は学生さん? 中学生かな?」
「その辺りはノーコメントで! トビはかなり身軽なんで、飛んだり跳ねたり大型のトリックが持ち味です」
質問はすぐさまパキラが答えてくれた。簡単な台本に私の話は無かったし、触れられないと思っていたのに。アドリブ怖い。サチマに背中を撫でられる、何も話さなくて良いと言う事だろう。
「うんうん、技と体のギャップは見応えあった! フリースタイルはずっとやってるの?」
「トビが本格的に始めたのは最近なんです。飲み込みが早く、教えれば教えるだけ吸収・上達するので楽しくて。ついつい手を掛けて可愛がってます」
「愛弟子って訳だ。最近始めたのにあれだけのパフォーマンスとは凄い、今後が楽しみだね!」
「いやぁ打ち合わせでお面の下見たけどね、これが中々……素敵なレディに育ちそうな予感、そっちの意味でも今後が楽しみだね。アイドルの地位ヤバいんじゃないの?」
「酷〜い! でも本当、 色 々 と ちっちゃくてすっごく可愛い、こんな妹欲しい〜! 小さくて可愛い〜!」
サチマに頭を撫でられる私に、隣に寄って来た地下ドルが抱きつく。色々と、と言って私のマナイタを値踏みする彼女の笑みは目がギラついていて怖い。小さいって二回も言われた……あれか、サチマ狙ってるから嫉妬か。可愛がってるって絶対護身術の話だから、容赦無いから。肉体的な意味だからね。
あと芸人よ、非常に残念ながらもう成長期は終わっているんだ。褒めてくれているのか、貶しているのか。
「tenさんと言い『trilingual』の女子は可愛いから男性陣が羨ましいわ。俺もバスケしてたし、エナメルボール買って始めればモテモテか……?」
「お前はまず顔を隠すお面を買え! えーではもう一度、今度は三人でパフォーマンスを行ってもらいます──……」
一度捌けて全員パーカーを脱ぐ。先に登場したノースリーブ姿の店長に、男性客から感嘆の声が上がった。地下ドルは私に嫉妬するよりグラマーな店長を警戒すべき、ファン取られるぞ。
曲が掛かりステージへサチマが走り込む。バク転して手を上げ、飛んで来たボールをキャッチ。私は飛び込み前転でステージへ上がりボールを奪いにかかる。私を茶化すように、次に登場したパキラとサチマの間でボールが飛び交う。ある程度遊ばれてやっと奪えた。その間に二人も両脇からボールを取り、三人でタイミングを合わせてトリックを繰り出したり、ボールを交換したり、態とミスったり。ちょっとしたストーリーを織り交ぜたパフォーマンス。
「──『trilingual』の皆さんでした、有難うございました!」
終わって礼をして捌ける。疲れた……大きなミスは無く安心していると「トビ、途中落としかけただろ?」小声でパキラに幾つか駄目出しされた。まずは褒めてくれても良いじゃん。ステージ裏に出てむーっと伸びをする。
「お疲れさまっス! オレフリースタイル初めて見ました、ちょっとやってみたいんでボール貸して欲しいっス! てかトビさんその小さい手でどうやって、」
「黄瀬ちゃん声大きい静かに! あなたの出番すぐよ、ほら最終チェックするからこっち来なさい!」
黄瀬さんが少々興奮した様子で話し掛けて来た。だが私達は前座で、彼は次に舞台へ上がるイベントのメインだ。スタイリストにステージ脇へ引き摺られて行く背中を、脳内でドナドナを歌い少々呆れながら見送った。
パーカを着て観客席の横、立ち入り禁止スペースからステージを眺める。後はウェア紹介時以外、大した出番は無いのでイベント終了まで観客気分だ。こちらに気付いたべーちゃんに手を振る。
「黄瀬君『やってみたいんでボール貸して』って……好奇心で試したいっつーより、出来るって自信持って言ったよな」
「アームロールなんかはすぐ出来るでしょうし、それででしょう?」
「あんたら台本ちゃんと見なよー。なんか運動神経抜群でバスケですっごい有名らしいし、だからなんじゃない? このイベントに黄瀬君が宛てがわれたのもそれでだし」
「海常はバスケ推薦っつってたから上手いのは解るけど、んな有名なのか?」
「らしいよー。同世代のトビなら知ってんじゃん?」
「んー……」
「無理だろ、トビじゃ見た事あっても絶対に忘れてるぜ」
「トビはAirheadですもんね?」
頭空っぽってサチマ酷いな。まぁ中学前は絶対に忘れているし、それ以降も対人になると忘れがちだ。人間関係は覚えが悪い……そもそも覚えないんだけど。だってどうでも良い人はどうでも良い。
黄瀬さんのモデルとしての活躍や、ウェアの着こなし等ファッションの話がされる。「バスケやってなくてもアリだよね、可愛い〜!」「スポーツMIXなコーデとか、普段も着られるデザインが良いっスね」きらびやかな話題に穿いているゲームパンツを見下ろす。通常より短い丈のそれ、私には「なんかお洒落なランニングパンツ」にしか見えない……うん、すぽーつみっくすせず部活や自主練で着よう。
「──黄瀬君はバスケが特に得意らしいね、中学では全国優勝三連覇に導いたレギュラーの一人だったんだって? ファッション誌だけじゃなく、バスケ専門誌でも取り上げられてるんだって」
「凄〜い! イケメンでモデルしてて、更にバスケの実力もあるんだ!?」
「『天は二物を与えず』じゃなかったのか、天事情どうなってんだおい! 因みにお勉強の方は……?」
「え〜プライベートの事はちょっと。事務所通して下さい!」
「ぶふふ、上手く躱したね!」
ね、天事情どうなってんの?
バスケ専門誌とは月バスだろうか。というか、男子で全中三連覇って……。
「なんでも中学バスケ界では『キセキの世代』と呼ばれる有名選手の一人だったとか。って事で……じゃじゃーん! 『現役学生モデル・キセリョ』じゃなく『キセキの世代・黄瀬涼太選手』として黄瀬君が載っている雑誌をご用意しました!」
「ふむふむ、なんだって──……」
司会の三人が月バスを取り出し、黄瀬さんを褒め称える記事を読み上げる。全中三連覇、『キセキの世代』、帝光中学、SF。ずっと小谷を金色に塗ったように思っていた髪色、そのワードを当て嵌め改めて見る……金より明るく薄い、黄色。
「思い出した、『黄色い模像』」
「なにそれー」
「あの人バスケ凄く上手いの。『キセキの世代』って同世代には天才通り越して化物集団とも呼ばれてる」
「化物……黄瀬君は実際どれくらいの腕前なんですか?」
「あの記事の通り、けど交代もあったし『キセキ』では実力は下かも。中学の部員が一時期好きだったんだけど、他人のテクニックとか見ただけで丸ごとそっくり自分のものに出来るらしい」
「だからフリースタイルもあんな自信満々だったのな。『模像』って人マネ君って事か?」
「そう」
「見ただけで……とんでもない才能ですね。コピーした技術を組み合わせるスタイルですか」
後輩と言い、青いのと女神様と言い、なんだか最近元帝光と関わりが多いな。
黄瀬さんがドリブルやレッグスルーなど簡単なプレーを見せる。端に設置された簡易ゴールにシュートを決めると、黄色い声が上がった。今度は観客から選んだ女の子にシュートを教えている。
「うわー……まー私ら前座だけどさー」
「うっは、俺らの十八番奪うなよ! やっぱ芸能人ってスレてんのかなぁ」
「やはり少し嫌味、いや生意気ですね」
女の子のシュートを見ながら、アームロールから肘でボールを跳ね上げ、手の甲に乗せる黄瀬さん。トリックとも呼ばない簡単なものだが、初めてだろうそれを難なくこなした。ドヤ顔こっちに向けないで。パキラ達の顔立ててよ、面目丸つぶれじゃん。
更にプログラムが進み、昔バスケをやっていたと言う芸人と黄瀬さんの三本勝負の1on1が始まった。が、勝負にならず、あっさり勝った黄瀬さんにまた黄色い声が上がる。ウェアのデザイン性だけでなく機能性も褒めているが、良さが解る程運動してないような。
「ちょっと尺! お前ボロ負けで一瞬過ぎて尺スゲー余っちゃったじゃん! もっかい、もう一回ね!」
「だって黄瀬君凄過ぎんだもん、ちょっとは手加減してよ〜。俺バスケやってたのミニバス! 小学校だよ!?」
「いや〜月バスの紹介で大袈裟に持ち上げられた分のプレーは見せないとと思って! じゃあ次は手加減するっスか?」
「これが勝者の余裕……俺もう無理、やだやだ筋肉千切れる、明日筋肉痛で死にそう!」
座り込んで駄々を捏ねる相方に、頭を抱える司会。「ならまたお客さんに……」客席を見渡した司会がこちらを向いた。「あ、『trilingual』の皆さん来て! ヘルプ!」手招きされて四人で顔を見合わせ、急いでステージへ向かう。
「フリースタイルバスケをしている皆さんならバスケ得意だよね? どなたか是非お願い!」
「イケメンに無惨にやられた俺の仇を取ってくれ! うっ」
座り込んでいた芸人が胸を抑えてガクリと力尽きた。
こうなると当然サチマだろうと彼を見上げる……と、何故かこちらを見下ろしている三人。お面から覗く口は揃って歯を見せ笑っている。「トビファイトー」「いやサチマでしょ」「サチマは暴言吐くしお前が一番上手いだろ」「さっきのアームロールで既に悪態つきそうです」こそこそ言い合う。三人の中では私で決定らしい。なんだこの超展開、勘弁してよ。
(お遊びとは言え、女子の私が『キセキ』と対戦なんて望んでも叶わないし、良い経験になるかも……なんて)
そう思い込もうと、諦めて溜息だか深呼吸だかをよく晴れた空へ吐き出した。