写真

 次席の俺は主席が欠席した場合新入生代表挨拶をしなければならず、式開始三十分以上も前の登校となった。校門では数人の生徒が保護者と記念撮影をしている。貼り出されたクラス発表を確認して職員室へ向かうと、主席は既に登校しているらしく用済みを言い渡された。もう少し寝れたな、これ。「律儀に早く来たんだな。今年は真面目な奴が多そうだ」担任と名乗る教師の言葉に、他にも早く来た生徒が居ると知る。物好きだね。
 席は自由だと聞いて考えながら教室へ向かう。残念ながら不真面目な俺は寝心地の良い窓際後方狙いだ。新入生三二十人、八クラス。席は6×7ってとこか。提出物回収は面倒だし前から三、四……止まらない成長期を考え後ろから二番目にしよう。先に来た奴はさぞかし真面目なんだろうし、教卓の目の前にでも座ってそうだ。
 教室に着くと狙っていた席に先客が寝ていた。俺と同じ考えかよ。ならこいつの前だと足を向けた時、ビクリと動いたそいつの脚に机が動き、引かれていた前の席の椅子に当たる。小さいのに中々の脚力。寝相の悪い奴の前はパスだ。隣の席に鞄を下ろし、跳ね起きた相手をちらりと見る。血色の悪い顔に隈がよく目立つ……こいつ大丈夫か。

「すみませ「いいよ、驚いて無い」

 こっちを見て謝り、教室を見渡し、ぼーっとまたこっちを見上げる相手。被せてしまう返答に困惑や不快を表さないのは珍しい、ただ寝惚けているだけだろうか。少し興味が湧く。

「おはよ。あのさ、写真撮って欲「良いよ。スマホ? カメラ? 貸し、」
携帯ガラケーだけど。一緒に、だよ?」
「…………は?」

 教室で記念撮影とは変な奴だと思って。返す言葉にはっきり被せられるのも、その内容も予想外だった。

「一緒に、写真撮って欲しい」
「……なんで」
「身内に制服姿? 入学式? の写真見せる」
「なんで」
「新しいオトモダチ、早く出来たって事にした方が安心するかなって?」
「なんで」

 逆に被せられた事が面白く無くて、困ってしまえと「なんで」しか返さない俺に相手はスラスラ答える。頭の回転は悪く無いようだ。が、何故俺と、という意味で訊いた三度目には黙ってこっちをじっと見る。いや、こっちってか俺のでこ。てかほくろ。

「優しいし、それに如何にもまさしく物凄い優しそうなほく「なに?」
「ほk「なんて?」
「ッオーラも。優しそうなオーラもあるから」
「オーラがあんの?」
「オーラがあんの」

 この短い間に俺の何処に優しさを感じたのか解らないが、続けて言った理由はオーラで突き通す事にしたらしい。小さい上に座っているこいつと、立ったままのそろそろ190cmに届きそうな俺。一歩近付き更に見下せば、下を向いて「オーラ。オーラだから……」と拗ねたように呟く相手に気を良くした。

「目ぇ逸らしたお前の負けだけど。良いよ、撮ってあげる」



 ∇ ∇ ∇



 んにゃっ、
 気配と歩く音に目を覚ますと、教室に大男が居た。驚かせたかと謝る言葉に、食い気味どころか被せてまで即許してくれる。物凄い優しい人だ。主席はまこちゃんだから時計を見る限り次席か。これだけ席が空いているのに私の横を選ぶ彼は初対面にも動じないのだろう。丁度良いと祖父母に送る写真を頼んだら、またしても言い切る前に了承してくれた、優しい。だが解って無さそうなので、一緒に撮って欲しいと改めて言うとぽかんとした。あ、仏なほくろ。頭が良い人でもこんな顔するのか、大男に言うのもなんだがちょっと可愛い。ほくろも相俟って、優しく癒されるオーラが出ている気がする。
 なんて思ったのも束の間、なんでを淡々と返す様子に癒しという印象は消えた。この人少し意地悪だ。ただ結局撮ってくれるらしいので、二つ目に追加した印象「優しい人」は間違い無い。彼の優しそうなほくろに誓って。

「んー……」
「どんだけ不器用なんだよ」

 教卓に携帯を固定する。が、上手くいかず見兼ねた仏さまが上手い事置いてくれた。ほんと優しい人だ。けど「てかセルフタイマーも無しにどう撮るつもりだったんだ」「……忘れてた」「頭悪いのか」そんな彼はやはりすこし意地悪だと思う。大男、優しい、すこし意地悪……この印象はもう変わら無いだろう、たぶん。若干いらっとしたので指で輪を作りおでこに掲げる。その後、全身も撮ってくれと頼み「入学お疲れ」の前で仁王立ちしたり、仏さまを教室のドアに嵌めて(高さがぴったりサイズだった)撮ったりと一通り撮影会は終了した。
 「撮影代ね」気付くと仏さまは私の席に座っていた。撮影会は上々だったし優しい人だ、それくらい良いやとその隣に腰を下ろす。席の交換。あれこれ仲良しじゃない? 写真送ろ、そういえば名前すら訊いて無いや。写真を撮ってくれていた仏さまが携帯を返してくれる。

「ついでにアドレス入れといた。新手の逆ナン? 上手いね、種田結希ちゃん」

 ニッと悪戯に笑って、返事も待たずアイマスクをして寝た仏さまに、なんとなく負けたような面白く無い気になる。取り敢えず、ぎゃくなんってなんなん?
 この日、私の少ないアドレス帳に「瀬戸セト健太郎ケンタロウ」が加わった。

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