「あれ? 二人仲良くずっと一緒に居るんじゃなかったの? 何処行ってたの、赤ずきんチャン」
うわぁあの席着きたくない。
しょーいち先輩と別れてカフェへ戻ると、まこちゃんがキラキラの猫被り笑顔で入り口に居る私へ大きく声を掛けた。財布は諦めよう。くるりと外を向くと、健ちゃんが疲れた声で言った。
「さっき見捨ててゴメンって。別行動したらクラスの女子に殺されんでしょ?」
「良いよ、今そこでしぬより」
「結希は酷いなぁ、それとも俺が相席してるのが嫌なのかなぁ?」
うわぁ最悪だよあの人。
どうやら相当ストレスが溜まっているらしい。「お母さん可哀想」「狼男振られたか!」「花宮君にあんな態度って調子乗ってない?」「てかお母さんって何……馴れ馴れしい」と声が上がる。ほんと最悪。まこちゃん自分の影響力解ってよ……ざまあみろと言いたげな笑みは、解ってるからこそか。彼の服装も昨日の劇のまま。お店は大繁盛で、廊下には入店待ちの客までいる。絶対花宮クン目当てだ。どんだけモテんの、勘弁して欲しい。溜息を吐いて席へ行く。
「モッテモテイケメンの路美男クンと相席したら、樹里恵チャンや他の女の子達に殺されちゃうかなって怖かったんだよ。恋は手段を選ばないってやつ?」
「あはは、赤ずきんチャンは口が上手いなぁ。でもそんな酷い女性居る訳無いよ、ね、皆さん?」
ギャラリーに向かって微笑みまこちゃんが訊く。がくがく首を縦に振る女子を見ても大して心配は尽き無い。女性の嫉妬は怖いのだ。もう一度大きく溜息を吐いてサンドイッチを食べる。私が席に着くと共に到着したそれ、先の物は彼らが食べたのだろう。しょーいち先輩が来ていたと言うと、声が丸聞こえだったと返され少し恥ずかしくなる。羞恥心を紛らわすべく無言でもぐもぐサンドイッチに専念していると、健ちゃんが声を潜めて部室の鍵を貸して欲しいとまこちゃんに頼んだ。ついでに疲れたならお前もサボればと。
「絶対駄目だ」
「なんでだよ」
「俺もだが、お前ら二人も結構目立ってんぞ」
「は?」
まこちゃん曰く、甘ったるい狼駆け落ち劇はそこそこ生徒の印象に残っており更に午前中仲睦まじく学祭を回る姿は目についた、らしい。一緒に写真を撮ろうと寄って来た女子から言われたそうだ。「種田さんだっけ? 花宮君の娘さん。狼姿で瀬戸君といるの見たよ、二人とも一緒に写真撮ってくれるかなぁ?」と。何故まこちゃんに訊くのか、あぁお母さんだからか。何故一緒に写真撮りたいのか、あぁ学祭テンションか。
「人目に付かず入れるとは思えねーし、疚しい気が無くても男二人と女一人で個室に長時間こもってりゃ噂立つだろ」
「じゃぁ二人でサボ「お前どうすんの」
「どっかで一人で寝る」
「やめろ、隣駅やら他校の人間も来てんだぞ。問題起こすな」
隣駅にガラの悪さで有名な高校があるのだが、霧崎の学祭に何のアピールか態々制服でやって来ては度々問題を起こすらしい。出禁にしようよ。そもそも一人で行動してたら女子に殺され兼ねない。諦めムードに話がまとまったところで、まこちゃんはテーブルにお金を置いて席を立った。
「じゃあ俺はいつまでも狼二人の邪魔をするのも悪いからこの辺で。またね?」
ほんとこの人最悪だよ。
お店を出て暇潰しにミス&ミスターコンテストでも見るかと、野外ステージが見える隅のベンチに座る。かなり盛り上がるイベントらしい、人は多く皆こぞってステージ近くに集まっている。
まずは女子、ミスター部門から始まる。大体が本気のイケメンパラダイスだった。女バス、インハイ予選で負傷した部員──夏に主将になった先輩はめちゃくちゃイケメンだった。中には背の高いマッチョな女子生徒もいる。あの人絶対まこちゃんより筋肉あるよ。少し羨ましい、私は体が柔らかいからかそこまで筋肉が付かない。
「どしたら筋肉付くかな」
「筋トレしかないんじゃない? あとは高たんぱく低脂肪な食事だっけか」
「プロテイン飲んで筋トレもちゃんとしてるけど、腹筋ぎりぎり割れるかどうかってとこ「待ってプロテインまで飲んでんの? ぎりぎり割れるかどうかなら充分でしょ」
「うっすら筋入るだけって微妙じゃん」
「……お前何目指してんの」
「魅惑のシックスパック、」
「……」
「まで割るつもりは無いけど」
「……ぎりぎり割れるかどうかなら充分でしょ」
「何故念を押すのか」
まぁプレイスタイル的にごりごりパワータイプじゃないから、現状維持でも良いけどさ。
男子、ミス部門はウケ狙いが半分くらい混じっていた。ゴツい水泳部がスク水を着ている。彼が態とらしくもじもじすると観客が爆笑した。「なんであれで盛り上がれるかな、視界の暴力だろ」確かになんだか見ていられない。あれだ……そう、あれが変態だ。
「来年は二年だから私達の代「種田が出れば良いじゃん、完璧だろ」
「それ女装じゃないよ。誰かな」
「ネタ枠で山崎に一票、何気にノリノリな原にも一票」
確かにザキちゃんは祭り上げられそうな気がするし、原ちゃんはノリノリな気もする。だがこのコンテスト、ネタ枠より単純にイケメン・美人が優勝し易いそうだ。そして優勝したら部費が増える……なら本気で狙いに行かないと。
「原ちゃんの前髪の下ってどうかな」
「どうって……整ってんじゃない? まぁ女受け良さそうだよね」
「見た事あるの?」
「寧ろ無いの?」
「無いから聞いて「あぁだね、ゴメン」
「いや」
意外と鉄壁じゃないのかな。
「女受け良さそうかぁ……イケメン?」
「気になる? 原の顔」
「んー……イケメンなら女装は合わないかもって。やっぱりまこちゃんかな」
「花宮の方が女受け良いじゃん、さっきも凄かったし。モッテモテイケメンの路美男クンだろ?」
「それは周りが言うから。まこちゃんはイケメンより美人さんだよ、たぶん」
格好良いのはバスケをしている時であって、普段は美人さんだと思う。皆解ってない。言い方は悪いが逞しさは感じない、優男、紳士と言う言葉が似合うタイプだろう。色白でほっそいしね。勿論口を閉じるか猫を被っていれば、だけど。あぁでも周りのイメージは優しい王子様が大半だから、解ってない事は無いのか。
「小綺麗な顔してるとは思うけど……花宮が美人……解んねぇわ」
「中一の頃は可愛かったよ、今思えば。背もこれ位で……あ、今の無し、嘘」
「え、それ位だったの?」
「違う、嘘、昔から170cm越えてておっきくて美人だった!」
「今の花宮に言って良い?」
「二人ともしぬ!」
「…………てか美人は良いの」
「解んない、怒るかな?」
「……」
「ま、まぁどの道さまにならなくても人気あるから投票される「けどいくら部費のためでも絶対女装とかしないでしょ」
「あー……じゃぁやっぱりノリノリそうな原ちゃんかな」
なんて。学祭なんてさして興味は無かったのに、今年の学祭も終わらないうちから早くも来年の事を考える。それは結構楽しかった。
あぁ天使先輩? 羞恥心で半泣きなナースさんは中々に可愛かったよ。
なんだか煩い。うーんと伸びをして、さっきまで凭れていた隣の暖かい物にぐりぐり顔を寄せる。するともっと煩くなった。少し寒い。ごく近くでカシャッと音がして、私の名前を呼ぶ声が聞こえる。「一哉ぁもう行こうよぉ」そして女性の声も。一哉? あぁ、この声は、
「原、ちゃ?」
「正解ー♪ はーいユーキチャンおっきしてー」
「ぅー…ゃだ……」
「外だから風邪引いちゃうよん」
外? なんで外?
もう一度伸びをして目を擦って顔を上げると、少し人が集まっていてこちらを見ている。驚いて頭が一瞬で冴えた。クラスの女子が全員居て、揃ってサムズアップしている。そういえば健ちゃんと野外ステージを見ていたんだっけ。そのうち寝てしまったらしい、隣を見ると健ちゃんも爆睡していた。
原ちゃんの恋人だろうか、女性がもう一度彼の名前を呼んで腕を引いた。だが原ちゃんは私の横に座って「これからこの二人と回るわ」と、私に一緒に写真を撮ろうとスマホで自撮りを試みている。うん? それで良いのかな。
「呼んでるよ」
「良いのいーの、元々せがまれて一緒に回ってただけだし?」
「……恋人じゃないの?」
「まーそうっちゃそーだねん」
「じゃぁ一緒に居ないとだめじゃないの? あの人待ってくれてるよ」
「ん?」
原ちゃんが前髪の下でぱちぱち何度か瞬きしたのを感じる。
「……カノジョとは一緒に居なきゃダメなワケ?」
「さぁ。一般的にはそうじゃないの?」
私はお付き合いをした事が無いからよく解んないけど、一般的には。
補足すると原ちゃんは考え込む。そしてニヤァと笑った。なんだっけ……そう、アリスに出て来るチェシャ猫みたい。髪の色も相俟ってぴたりと嵌まる。これはあまりよろしくない事を考えてる時の笑い方だと気付いたのはいつだったか。周囲の人達は原ちゃんと女性を交互に見る。彼は彼女に振り向くと言った。
「じゃー別れよっか?」
「なっ、」
「だってオレ二人と回りたいしー? いい加減面倒くさくなっちった」
「えっ一哉本気なの!?」
「マジマジ、もう限界? カノジョとは一緒に居なきゃダメなんだろ? もう一緒に居たくないんだよねん」
「ちょっと待ってよそんなの、そ、その子が良いの!? 今日はもう一緒に回らなくても良いから別れるなんて、」
「そろそろウザいんですけど──……」
──ねー、ユーキチャン?
と笑われても困る。これは平和的破局ではないだろう。困惑して女性を見ると、彼女は涙目でこちらを睨んでいた。え、なんで? 私が一緒に居ないとだめって言ったから? 納得していないようだから話合えばと原ちゃんに提案するが、彼は一切彼女を相手にしない。私と原ちゃんが話す度、彼女の顔が歪む、涙が流れそうだ、酷く怖い顔で私を睨む。あぁ、もう……私も面倒になってきた。
そして原ちゃんが決定的な言葉をぶつける。
「それにオレ、元から別に好きじゃなかったし? ユーキチャンの方が断然良いわ」
パチンと割れた風船ガムを合図に、彼女は涙の粒を残して走り去った。
「原最低だね」
「えー事実だし仕方無いっしょ」
「あれハメd……前の写真の三年だろ? 種田逆恨みされてそうだけど」
「なんですと」
原ちゃんは随分面倒な物事を運んで来たようだ。気が付けば起きていたらしい健ちゃんの言葉に頭痛がする気がした。眉間に皺を寄せて膝を抱えると健ちゃんに頭を撫でられる。「やっぱり原君はチャラ過ぎてダメね、瀬戸君じゃないと」窓口女子三人組が原ちゃんに蔑む視線を送りながらこちらへ来る。
「種田さん、原君のせいで、なんかあったら相談してね」
「原くんのせいで、困った事になりそうだしね。じゃんじゃん言って」
「恋愛での女の恨みは怖いからね。特に今回は、原君のせいで」
「お、おぅ」
「えー酷くない?」
「これは100%仕方無いでしょ」
「「「流石瀬戸君!」」」
窓口女子三人組の中で原ちゃんの印象が下がり、健ちゃんの印象が更に上がった。「原君関係無しにしても、いつでも連絡してね!」ついでにと三人とアドレスを交換する。名前はまだはっきり覚えていないのでそれぞれフルネームの後ろに「窓口委員長」「窓口衣装係」「窓口文芸部」と付け加える。そっとそれを見た健ちゃんが笑いを堪えていた。
「石野さん、切原さん、紙谷さん」
「「「うん」」」
「名前がじゃんけんになってるね」
「「「今更!?」」」
ごめん、名前うろ覚えだからさ。
早速三人からの初メールが届いた。寝ている健ちゃんと私である。なにこれ、盗撮だよ。
原ちゃんに写真を撮ろうと言われて三人で撮る。そういえば窓口女子三人組とは撮っていないと、小さな撮影会が行われる。その後は女子全員で。気が付くとクラスの男子も半分くらい集まって来て、原ちゃんに(全員では無いが)クラスで写真を撮ってもらった。何故か他の知らない人達はその様子を撮っていた。学祭テンションか。
「そういえばどしたの?」
「丁度通りがかったら二人仲良く寝てんだもん。一緒に写メ撮りたかったし? それにもうすぐ投票締め切りだよん」
「たったそれだけのために君は面倒事を運んだの……」
「原最低だね」
「そこは不可抗力っつーか流れっつーか? 別れたかったし丁度良かったわ」
「半分利用したで「全面的にでしょ」
「てへ☆」
なんなんだよもう。そうじゃなくてもまこちゃんと居た時、女子に刺すような視線を寄越されていたのに。厄介な事にならないと良いけど……。
「にしてもユーキチャンが『恋人は一緒に居ないとだめ』なんて言うと思わなかったわ」「確かに意外だったな」「一般的に、って言った」それはただのイメージだと説明する。小説や映画なんかのフィクション、べーちゃんに聞いた誰かの話によるもの。私は恋なんて知らない、たぶん。
「ならユーキチャン自身はそうは思わないっつー事?」
「さぁ。恋人が居た事無いからよく解んない」
「もし居たらどうなの」
「相手が想像出来な「例えば花宮とか今吉……さんとか」
「なんでその二人……花宮さんモテるんだから迂闊に言わないで」
じとりと健ちゃんを見ていると、そのままそこに居たクラスの女子達が騒ぎだした。「今吉さんってお昼会ってた人? どういう関係!?」「よく見てたね。中学の先輩」「夏休みの眼鏡?」「夏休みの眼鏡」どうやら納得したようだ。「で、どうなの種田ちゃん」何故か彼女達は固唾を飲んで見守っている。
「今吉さんも『お母さん』なんでしょ。なら一番距離が近いし可能性としてさ」
「なるほど」
「あれ? 『お母さん』って花宮と田辺だけじゃないんだ?」
「うん。うー……ぁー……」
「可能性ならオレも入れて良いよん?」
「んー…………やっぱり全然想像出来無いけど」
「けど?」
「面倒そう、オツキアイって」
「冷めてんね」
「冷める? でもほら、毎日必ず一緒に帰ったり、他の人と仲良くすると怒られたり禁止するんでしょ? さっきみたく。デートに誘われて先約があって断ると詰め寄られたりさ、謎だよね」
「クッ! まぁそういう女も居るね」
「別れたら前の仲良しに戻れそうにないし、かと思えば浮気して破局。一人で居たいって言っても色々疑われるなんて面倒だよ、友達で良い」
「でも友達じゃ出来ないコトとかあんじゃん? 遊んだり以外で」
「ちゅーとか?」
その答えに原ちゃんと健ちゃん、そしてクラスの男子が噴き出した。なんでだ。女子には褒められる。なんでだ。
「『ちゅー』って! キス、キスね! ユーキチャンいくつだよウケる!」
「それだと魚の鱚とごっちゃに「なんない。なんなのその状況……」
「ブハッ! ほらほら、ちゅー以外にも色々あんじゃん、友達じゃ出来ないコト。スキンシップが色々さ、どーすんの?」
「原攻めるね」
「色々? ……あぁセックスは18歳から、というか結婚してからすべきじゃないかな。だからないよ」
「「「「「ブフッ!!!」」」」」
そして全員が噴き出す。言葉が直接的過ぎただろうか、いや間違って無いだろう。顔を赤くした男子がこちらへ来た。「良い、種田はそのままで良いと思うぜ。ただその……もうちょっと言い方無いのかお前」他に言い方って言ってもな。
「子作り?」
「「「「「ブフー!!!」」」」」
「ユーキチャンマジで言ってんの? 子作りって!」
「まじで言ってんの」
そんなに笑わなくても良いと思う。
「それ意外にもあんじゃん。てか子作りって、他にもあんじゃん子作り!」
「……人間は受胎告知なんて出来無いよ。キャベツ畑からもやって来ないし、コウノトリも運んで来ない。私ちゃんと知ってるもん。畑で何してるのって話だし、コウノトリ絶滅危惧種だし」
「ッ! 今の『他にも』はガキ作る方法に掛かってたわけじゃないでしょ」
「ヤバい名言だわ! き、キャベツ畑で、青か……ブハッ!」
「……もう良いよ。流石に恥ずかしいんだけど」
別に性交は子供を作るちゃんとした行為なんだけど、そりゃぁ少しくらい羞恥心はある訳で。しかもめちゃくちゃ笑われている。明らかに原ちゃんはバカにしている。膝を抱え皆を睨む。「え、今更顔赤くすんのかよ!」男子突っ込まなくて良いよ。というか真っ昼間に外でなんて会話してるんだろう、恥ずかしい。「もうすぐ投票締め切りなんでしょ」未だ笑う健ちゃんの手を引いて、逃げるように投票箱を目指す。「ちょ! オレは!?」爆笑しながら原ちゃんが急いで着いて来た。
「てか種田でも羞恥心とかあったんだね、そーゆー会話で」
「べつに……でもほら局部のその下半身的な話だからねというか昼に外でする話じゃないよ夜に家ですれば良い話って訳でも無いと思うけど!」
「局部!!!」
「直接的な言葉使いたく無かったの、もう良いから!」
あぁもう、顔が熱い。
「そう言えば手ぇ繋いだりは良いワケ?」笑いの治まった原ちゃんに訊かれ首を傾げる。
「? 仲良しなら普通だよ」
「へぇー……?」
「え、普通じゃないの?」
「それ今吉さんに言われたの」
「いや? なんでしょーいち先輩?」
「だってお前どうも飼い馴らされてるみたいだし」
「飼い馴らされてる?」
「ショーイチセンパイってサイバー警、ブフッ! サイバー警察の人だっけ?」
「クッ! そうそれ」
「なにユーキチャン、お母さんって保護者じゃなくて飼い主だったの? まぁ花宮はそっちのがしっくり来るけど」
「飼い主?」
「田辺はさて置き、今吉さんも……てか今吉さんに対する種田が完全にさ」
「ペット状態?」
「うん」
「やだ妬いちゃーう」
「ペット?」
何がなんだかさっぱり解らない。しょーいち先輩とまこちゃんはお母さんじゃなくて飼い主で先輩に対して私はペット状態で飼い馴らされてる? ってなに? あ、
「私豆柴じゃない、狼。お お か み」
「そこ繋がるんだ?」
「ブハッ! 豆シバ! なにそれピッタリじゃん! ユーキチャンお手ー」
「それ古橋もやったってか古橋が豆柴っつったんだけどね。まぁ言い得て妙だわ、豆柴種田」
「狼だってば…………で?」
「でって?」
「手ぇ繋ぐの……仲良しなら普通、じゃないの? だめ? 違う?」
なんだか不安になってきた。中学時代の親しい相手は四人しかいない。べーちゃんは手を繋いだりしない、まこちゃんはそもそも人との接触を嫌う。そんな二人だって呆れた目はしても、変だ、違う、やめろとは言わなかった。だが少ない統計じゃ解らない。もしかして酷く常識外れなのだろうか。
私が失った記憶はエピソード記憶、所謂思い出だ。だから『誰と手を繋いだか』は覚えていないが、『手を繋ぐ行為』は覚えている。初対面と手を繋ぐのは些か抵抗があるが、仲が良ければ何も変な事じゃない……筈なんだけど。
「こ、れは引っ張っただけで、えと「良いんじゃない? べつに」
不安になって必死で言い訳を考えながら手を離そうとすると、健ちゃんに遮られた。
「……ほんと?」
「仲良いなら普通なんでしょ?」
「と、思うけど」
「なら良いんじゃない?」
良いのかな……いっか。少なくとも健ちゃんは良いと言っているのだし。
「ユーキチャン、瀬戸に調きょ、ゲフンゲフン……飼い馴らされてるよん?」
「うん?」
「俺はペットの考え尊重しただけだぜ」
「尊重と言いつつペット呼び……つーワケではい、ユーキチャンお手ー。ワンワン?」
「狼は高貴だから従わない」
「でも仲良しは手ぇ繋ぐんだろ?」
そう笑って原ちゃんは私の逆の手を取った。仲良しなら手を繋ぐのは普通、がいつのまにか、仲良しは手を繋ぐもの、になっている。まぁ良いか。
「これ前から見たら種田捕らえられた宇宙人みたいになってんじゃね? てか女児誘拐的な」
「ヤベーオレ幼女誘拐とか初めてした」
「女児はまだしも幼女では無い……というか初めてじゃない方がやばいよ」
「原ならありそうで笑えねぇわ」
「酷くない? ユーキチャン聞いた?」
「それより原ちゃん、それでぎゅって握られると指砕けそうでやなんだけど」
「ガン無視されて原チャンのハートが先に砕けそうなんですけど」
「サラッと恋人繋ぎって流石チャラ男」
「恋人繋ぎって言うの? 拷問繋ぎのが良いよ。精神的にも手汗かいてないか気になって苦手なんだよね、これ」
「拷問繋ぎ!!!」
「なんてか流石種田」
……それを、その手を、恋人繋ぎとやらを、彼の元カノさんが見ている事なんて知らなくて。私は暢気に二人とふざけながら投票所へ向かった。
学祭終了後、開票。一年の舞台の結果は1位一組、2位八組、そして3位は私達二組だった。昨日の学食で弄り倒された事と今日一日が報われた気がする。ミス&ミスターコンテストは男バス3位、そして女バス、主将は納得の1位である。各部門の3位以上が数人ずつステージに上がる。健ちゃんと私も呼ばれたけど、無視して遠くからそれを見ていた。「森に帰っちったってカンジ?」狼男と赤ずきんの居ないステージを指差し原ちゃんがケラケラ笑った。
結果発表だけの簡単な後夜祭は、まだ少し明るい空に市販の打ち上げ花火を上げながら幕を閉じた。